第520話 やられた! ブラドさんが偽物用意してたんだ!

 翌朝、マルオは従魔達と花梨を連れて多摩センターダンジョンの7階に来ていた。


 テトラを着込み、ローラとポーラが同行すれば戦力的には十分だ。


 ドーラとメジェラは亜空間待機で戦力が足りない時に召喚するつもりである。


「武臣とダンジョンに来るのは初めてだね。来れて嬉しい」


「そうだね。逢魔さんは花梨が同行したいって言うとわかってたんだ」


「むぅ。いつも藍大の掌の上で踊らされてる気がする。私、お姉ちゃんなのに」


「まあまあ。花梨が外に出てもちょっかい掛けられないように逢魔さんは色々手を回してくれたんだから」


 マルオは花梨の言い分を否定せずに受け止めつつ、藍大が花梨のために動いていたことを話す。


 花梨も藍大に不満を言うのは筋違いだとわかっているからこれ以上何も言わなかった。


 マルオが花梨とローラ、ポーラと結婚することを発表したことで花梨について一部だけ情報が開示された。


 そのおかげで花梨について探りを入れようとする者がいなくなり、下手に探りを入れようとすると不幸な目に遭うことから触らぬ神に祟りなしとマスコミ各社は触れないことにした。


 花梨は剣士の職業技能ジョブスキルを会得しており、三次覚醒まで済んでいるからそこそこ戦える。


 今日も一方的にマルオ達の足を引っ張ることはないだろう。


「マスター、馬が来た」


「早速来たか。ジェネラルホース? それともドルイドホース?」


「ムキムキだから多分ジェネラルの方」


 ジェネラルホースは近接戦闘向きということで、ムキムキな外見をした馬が自分達に向かって走って来るからそれはジェネラルホースだろうとローラは判断した。


「武臣、私がやっても良い?」


「良いよ。でも、油断しちゃ駄目だからね」


「はーい」


 返事をした後の花梨はそれまでと違う真剣な雰囲気で剣に手をかける。


「せい!」


 花梨は鞘から剣を抜いて斬撃を飛ばす。


 ジェネラルホースは斬撃が自身の脚を狙ったものだと察して大きく跳躍するが、それこそ花梨の狙い通りである。


「かかった!」


 ジェネラルホースは空を駆けることはできないから、花梨は飛んで身動きが取れないジェネラルホースに再度斬撃を放って首を落とした。


「ドヤァ」


「おお~」


「悪くない」


「お見事」


 ドヤ顔の花梨にマルオ達が拍手した。


 花梨の剣は司達が倒したクエレブレの爪と牙から作られたクエレブソードであり、ジェネラルホースを倒すぐらい余裕でできる武器だ。


 それでも使い手の腕が釣り合っていなければ首をスパッと切断できる訳ないので、花梨は日頃からコツコツとダンジョンに入って剣の腕を磨いていた甲斐があったと言えよう。


 倒したジェネラルホースは先日買った収納袋にしまい、マルオ達は先へと進む。


 しかし、進んですぐに今度はジェネラルホースの群れに遭遇した。


「さっきの個体はただの偵察だったみたい。今度は私がやる」


 ローラはそれだけ言い残して2本のブレイズリーパーを鞘から抜いて飛び出す。


「恨みはないけどさようなら」


 ローラは<赤三日月レッドクレセント>を2連続で放ってジェネラルホースの群れを一掃した。


 ブレイズリーパーはレッドエクスキューショナーをガミジンやそれ以外の強いモンスターの素材で強化した双剣だ。


 それに加えて<剛力斬撃メガトンスラッシュ>が上書きされた<赤三日月レッドクレセント>まで使えばジェネラルホースが群れても太刀打ちできまい。


「ローラすごい」


「まだまだ花梨には負けない」


「ぐぬぬ、もっと強くなってみせるんだから」


 ドヤ顔のローラを見て花梨は剣の扱いではまだ勝てないから悔しそうに言った。


 ジェネラルホースの群れの死体を回収していると、周囲を監視していたポーラが口を開く。


「緑っぽい馬を1体発見。おそらくドルイドホース」


「ポーラの攻撃は届く?」


「届かせる」


 それだけ言ってポーラは射程距離まで移動してから<紫雷光線サンダーレーザー>でドルイドホースを撃ち抜いた。


 ドルイドホースが倒された直後その後方からドルイドホースとジェネラルホースの混成集団がやって来たが、ポーラは<紫雷光線サンダーレーザー>で次々に仕留めていった。


「馬肉たっぷり。今日は馬肉祭り」


「逢魔さんにもお裾分けするか」


「藍大に焼いてもらおうよ」


「それも良いんですけど、綾香にも馬肉を回さないと拗ねます。あいつも調理士なんで」


 ”迷宮の狩り人”の調理士である進藤綾香はクランのメンバーが食材を持って帰ってくることを楽しみにしている。


 綾香は一般的な調理士と同様にクランメンバーの食材を持って来てくれなければただの人だ。


 彼女も週刊ダンジョン200号の「Let's eat モンスター!」を読んでおり、藍大のフルコースに感化されてここ最近は料理を作りまくっている。


 そんな綾香に今日手に入れた肉を渡さなかったら、彼女は渡すまでマルオに付き纏うだろう。


 その後、マルオ達は何度も雑魚モブモンスターに奇襲されるがあっさりと倒していくとアリオンに遭遇する。


「右脚だけ人のものじゃね?」


「食べるなら右脚以外」


「右脚だけDMUに売ればいい」


「食べられない物はDMUに売ればいいって藍大が言ってたよ」


 ちょっと待ってほしい。


 気持ち悪いとかそういった感想は何処へ行ったのだろうか。


 あくまで食べることを中心に考えるあたり、マルオ達も藍大達に毒されていると言える。


 成美がこの場にいないのでツッコミ不在だ。


「ヒヒィィィィィン!」


 アリオンは自分に対するリアクションが違うだろうとキレたようだ。


 その鳴き声にローラは不快感からムッとした表情になる。


「煩い」


「ヒッ!?」


 ローラが<恐怖眼テラーアイ>を強めに発動することでアリオンは泡を吹いて気絶した。


 ローラが加減せずに発動したことにより、恐慌状態を通り越して気絶してしまったのだ。


 気絶したアリオンなんてまな板の上に置かれた食材も同義である。


 ローラにとどめを刺されてあっさりと解体されてしまった。


「ローラ、このモンスターの魔石はどうする?」


「貰う」


「わかった。おあがり」


 ローラはマルオから魔石を与えられてそのまま飲み込む。


 ゴクリと魔石を飲み込んだ結果、ローラの肌がすべすべになった。


「見てよマスター。お肌すべすべ」


「良いなぁ。魔石を飲み込むだけで肌がすべすべになるなんて」


「次は私の番。次は私の番」


 花梨は自分にはできない美容法を見て羨ましそうに言い、ポーラは自分に言い聞かせるようにブツブツと同じことを唱えている。


 ポーラもローラのことが羨ましかったようだ。


 マルオは修羅場になったら抑えられる自信がないので、藍大に教わったハグで誤魔化した。


 落ち着かせる言葉が思いつかない時はハグして落ち着かせろとはマルオにとって至言だった。


 3人が落ち着いてから探索を再開すると、マルオ達はディオメデホースを見つけた。


「デカいなぁ」


「馬肉たくさん食べられるね」


「しばらく食卓から馬肉が消えなさそう」


「魔石置いてけ」


 ポーラは我慢できずに<火炎雨フレイムレイン>でディオメデホースを攻撃した。


 ディオメデホースは体が大きい分、広範囲に向けて放たれる攻撃を避けることが難しいので被弾した。


「ビビィィィィィン!」


 大地を揺らすような声と共にディオメデホースはその場で暴れた。


 それだけで7階で地震が起きてしまう。


「ローラは俺を、ポーラは花梨を抱えて飛んでくれ」


「「了解!」」


 地上にいてはディオメデホースの思うつぼだと判断し、マルオはローラとポーラに指示を出す。


「武臣、ディオメデホースを上から攻撃しよう!」


「だな!」


 花梨の意見にマルオも賛成してマルオ達はディオメデホースの頭上を取る。


「攻撃掃射!」


「任せて」


「待ってて美肌」


 ローラは<血隕石ブラッディーメテオ>、ポーラは<紫雷光線サンダーレーザー>でディオメデホースのHPを削る。


 ディオメデホースはタフでHPとVITの高いモンスターだったが、反撃できずにローラ達の攻撃を受け続けていては流石にHPが尽きてしまった。


「思ったより呆気ない」


「地上で戦ってたら大変だったと思うよ。木々がなぎ倒されて地面もえぐれてるし」


「マスター、あそこにあるのって宝箱?」


「リルさんが言ってた。ボスや掃除屋がいる場所の近くに宝箱があるんだって」


 ディオメデホースが暴れてえぐれた地面から宝箱が現れたため、マルオ達はそれをディオメデホースと一緒にホクホク顔で回収した。


 しかし、宝箱を開けてみると中には何も入っていなかった。


「やられた! ブラドさんが偽物用意してたんだ!」


 宝箱を開けてマルオは悔しそうに叫んだ。


 テストプレイで宝箱を持っていかれては困るとブラドがこれを仕掛けたらしい。


 ダンジョンを脱出した後、シャングリラで結果報告をした時にブラドがしてやったりとニコニコしていた姿があったのは言うまでもない。

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