第44章 大家さん、再び国際会議に参加する
第519話 ブラドも苦労が絶えないなぁ
年が明けて2029年の1月3日の水曜日、ブラドが藍大に相談を持ち掛けた。
「主君、多摩センターダンジョンの増築について相談したいのである」
「多摩センターダンジョン? 7階を追加するのか?」
「うむ。6階のケリュネディアーを倒せる冒険者も増えて来たし、正月も明けたら冒険者も活動を始めるであろう? それに合わせて7階をお披露目したいのだ」
「なるほど」
「『話は聞かせてもらったよ』」
そのタイミングで舞とリルが話に加わった。
「最近思うのだが、騎士の奥方もリルもタイミングを狙って待ってたであろう? そうなんだろう?」
「偶然だよね、リル君」
『そうだよね、舞』
リルの耳がブラドの相談を拾ってすぐにやって来たので、タイミングを狙った訳ではなく偶然である。
「主達酷い。私を除け者にするなんて」
「除け者になんてしてないぞ。ブラドに相談を持ち掛けられたら舞とリルが今来ただけだから」
「私も参加する。良いよね?」
「う、うむ。吾輩は決して桜色の奥方をハブろうとしてないぞ。そこだけは信じてほしいのだ」
ブラドはサクラから放たれたプレッシャーに怯えて頷いた。
絶対にNOと言えない空気なのだから頷くしかないだろう。
「それで、ブラドは7階をどんな階層にしたいとか考えてるのか?」
「縛りの都合上、6階と同じく森を舞台にしたいぞ」
「森ね。了解。出現するモンスターに縛りは必要か?」
「できれば
前提条件を聞いてすぐに舞が挙手した。
「はい」
「騎士の奥方よ、なんであるか?」
「出て来るモンスターは馬が良いと思うの」
「馬であるか?」
「うん。鹿肉も良いけど馬肉も良いでしょ? それに、6階の”掃除屋”がヒッポセルフだったし関連性もあるよ」
「ふむ。悪くないのである。馬のモンスターでボスになれそうな奴に心当たりがあるのだ」
ブラドはフロアボスを任せられそうなモンスターを思いついたのか舞の意見に賛成した。
「ボスにどんなモンスターを据えようと考えてる?」
「ディオメデホースである。人肉と血を好む巨大な馬なのだ。強く踏み込んで歩くせいで近付くと地面が揺れるぞ」
「『美味しい?』」
「勿論なのだ」
「『採用』」
舞とリルは相変わらず美味しければそれで良いという考え方らしい。
「俺も異論はない」
「私も」
「それならボスは決まりなのだ。残るは
ブラドがフロアボスを決めると藍大が閃いた案を口にする。
「”掃除屋”はアリオンでどうだろう?
アリオンとは右脚が人間の脚で左足が馬の脚という馬のモンスターだ。
アンバランスな見た目でやや不気味なのだが、近距離攻撃に加えて状態異常攻撃も使うアタッカー兼デバッファーの立ち位置である。
ディオメデホース同様アリオンも一般的な冒険者では歯が立たないのは間違いない。
「変わり種ではあるが面白いと思うのだ」
「私は主の意見に賛成」
「私も~」
「僕も」
”掃除屋”もアリオンにあっさりと決まった。
「順調であるな。この調子で
「ノーブルホースじゃ駄目なの?」
「桜色の奥方よ、吾輩はシャングリラダンジョンに出したモンスターは外に決して出さないと決めておるのだ」
「それも縛り?」
「そうなのだ。類似するモンスターなら構わぬのだが、同種のモンスターは縛りに都合上止めてほしいぞ」
「ふーん。わかった」
「すまぬのだ。だが、主君のフルコースが『Let's eat モンスター!』で掲載されてからシャングリラダンジョンのモンスターを食べたいという要望が目安箱にドシドシ送られてるのも事実。ここが頭の捻りどころなのである」
目安箱とは”楽園の守り人”のホームページにあるブラドが管理するダンジョンへの要望を入力するページのことだ。
あからさまに自分を依怙贔屓してほしいという要望はブロックしているが、ダンジョンの改善点を挑んでいる冒険者から聞ける手段としてブラドが重宝している。
「藍大のフルコースを食べられるのはクランのメンバーと一部の友達だけだもんね。食べたいって声が出るのはしょうがないよ」
『ご主人の作ったご飯が評価されるのは誇らしいね』
「主の料理が世界一」
「吾輩も主君の料理が食べられることに感謝しておるのだ。だから、食べられない者達の声が真剣なのもよくわかるから改善してあげたいのだ」
三次覚醒を迎えたことにより、トップクラスの冒険者じゃなくとも強いモンスターを倒せるようになって来た。
ある程度の強さを手に入れると、冒険者達の稼ぎも良くなるので稼いだ金で装備の質や食事の質を上げるようになる。
最初は命あっての物種だからと装備の質を上げるのだが、装備の更新はそんなに頻繁に行われない。
結果として冒険者達は美食を求めるようになった。
それを加速させたのが週刊ダンジョン200号記念の「Let's eat モンスター!」だった訳だ。
シャングリラダンジョンのモンスターまでとは言わずとも、それに準ずる美味しいモンスターの出現を求める声が増えたのである。
「ブラド、ノーブルホースに近い種類のモンスターはどんなものがいる?」
「ジェネラルホースとドルイドホースである。ノーブルホースと同等の強さで食べられるぞ」
ジェネラルホースはSTRとVITが高めのモンスターであり、突撃と蹴り、踏み潰しを得意とする。
ドルイドホースは<
「7階に設置するのはその2種類で良いんじゃね?」
「「『異議なし』」」
「うむ。これで決まりであるな」
「あっ」
「どうしたのだ主君?」
7階に配置するモンスターが決まったタイミングで藍大が声を出せば気になるのが当然だ。
ブラドが訊ねると藍大が苦笑した。
「今更ながら鹿と馬が連続すると馬鹿にしてると思われるかと思ってな」
「それは今更なのだ。そもそも6階にヒッポセルフがいるのでその指摘は遅いと思うぞ」
「それもそうか」
「うむ。何かあれば目安箱に投書があるはずである。変更の要望があるまでは7階は馬エリアなのだ」
目安箱に変更要請が大量に来ない間は今決めた通りに増築することが決まった。
「さて、今回は誰にテストプレイしてもらう?」
「司達でも十分強かったのだ。明日にでも死王に行かせてみるのはどうであるか?」
「頼んでみるか。もしかしたら花梨も一緒に行きたがるかもしれんけど」
「それならそれで構わぬ」
”迷宮の狩り人”のクランハウスはマルオの結婚により大改造した。
1階をクランの共有スペースにして、2階が晃と麗奈の居住スペース、地下1階がマルオと従魔、花梨の居住スペースとなっている。
麗奈も花梨も夫と一緒に住めるように改築費用をちゃんと払った。
これに伴い、シャングリラも1階を101号室以外全てぶち抜いてリフォームしている。
地下神域があるとはいえ、子供も従魔もいるので1階も広げたのだ。
シャングリラは1階がダンジョン兼事務所と逢魔家で2階は広瀬家と青島家の居住スペースになり、それぞれのメンバーが住む部屋はかなり広くなった。
話は逸れてしまったが、マルオにテスターを依頼したら花梨も剣士として戦えるので同行したいと言い出す可能性がある。
ブラドとしては”楽園の守り人”において一般よりな花梨のデータが取れるならそれで構わないと言うので藍大は早速マルオに電話した。
「マルオ、今大丈夫か?」
『全然OKです。元日のお祭りは楽しかったです。ありがとうございました』
「どういたしまして。1つマルオに頼み事があるんだけど良い?」
『なんでも言って下さい』
「ブラドが多摩センターダンジョンの7階を増築するからテストプレイしないかってさ。どうする?」
『お邪魔します。正月明けでもバリバリ動けるんでやらせて下さい』
「了解。じゃあ、明日行ってみてくれ。感想を聞きたい」
「わかりました。それでは失礼します」
マルオとの電話が終わるとブラドがにっこりと笑った。
「今回は吾輩の天敵がテストプレイに参加しないから穏やかなのだ」
『僕が宝箱の見つけ方を教えといたよ。マルオに頼まれたから』
「なんてことをしてくれるのだ!? おのれ死王め!」
(ブラドも苦労が絶えないなぁ)
リルとブラドのやり取りを見て藍大は苦笑した。
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