第513話 我の、我の、我の話を聞けぇぇぇぇぇ!

 気づけば家族サービスの時間になっていたが、舞達が満足したようだったので藍大はペガサスの魔石をサクラに差し出した。


「サクラ、ペガサスの魔石だ」


「は~い」


 魔石を飲み込んだことでサクラの翼が手入れの良き届いた上質なものへと変わった。


『サクラのアビリティ:<透明千手サウザンドアームズ>がアビリティ:<幾千透腕サウザンズアームズ>に上書きされました』


「使える腕の本数が増えた」


「そうみたいだな。サクラならきっとうまく使いこなせるさ」


「頑張る」


 藍大から期待されているとわかってサクラは両手を体の前でグッと握った。


 その間にリルは探し物をしていたらしく、サクラの時間が終わったと判断して藍大に話しかけた。


『ご主人、宝箱を見つけたよ』


「今回はどこにあるんだ?」


『城壁の外側の窪みに隠されてた』


「私が取って来る」


 サクラはリルに場所を教わってから宝箱を回収して戻って来た。


『むぅ、また見つけられてしまったか・・・』


 ブラドの声がテレパシーで藍大の頭に直接届いた。


「ブラドが宝箱を見つけられて悔しがってるぞ」


『ワフン、ブラドがどこに隠してもお見通しだよ♪』


『ぐぬぬ、次こそ騙し切ってみせるのだ!』


 リルがドヤ顔で言うとブラドは次こそ自分が勝つと意気込んだ。


 それはさておき、宝箱を開ける時間がやって来た。


「サクラ先生、今日は調味料関連の調理器具が欲しいです」


「手に入れて進ぜよう」


 サクラが藍大の欲しい物を引き当ててみせると断言して宝箱を開けた結果、その中にはお馴染みの輝きを放つソルトミルがあった。


『ミスリルソルトミルだよご主人! 粗さを6段階に調整できるって!』


「ソルティネを倒したところだし丁度良いな。サクラ、ありがとう」


「どういたしまして」


 サクラはキリッとした態度で藍大に応じた。


 ミスリルソルトミルを手に入れてホクホク顔の藍大達は探索を再開する。


 しばらく歩いた所で水を纏った翼の生えた木製の天使像が群れで現れた。


 その天使像は牛の角が生えたライオンの仮面を被っていたのだが、その角は何処からどう見ても胡瓜にしか見えなかった。


「『胡瓜だ~!』」


 舞とリルが仮面を見て同じ反応を示した。


「キュリビムLv100。舞とリルの言う通りで仮面の角は胡瓜だってさ」


「胡瓜の塩漬け!」


『ナムルも良いよ!』


 食いしん坊ペアは倒して食べる段階の話をしている。


「主、本体は遠慮なく攻撃して良いの?」


「問題ない」


「わかった」


 サクラはそれを聞いて安心したと言わんばかりに<深淵支配アビスイズマイン>で敵の数だけ深淵のレーザーを放つ。


 キュリビム達はサクラの攻撃を受けてあっさりと撃墜され、藍大の収納リュック行きとなった。


 その後も藍大達の行く手を阻もうとキュリビムが度々現れるのだが、舞達に敵わず素材に変えられて回収されていく。


 地下15階はフロアボスの部屋が存在せず、その代わりに藍大達は長城の終点となる巨大な円柱に辿り着いた。


 フィールド型の階層だった地下15階の終点で藍大達を待ち受けていたのは体が紫色の雲に覆われている龍だった。


「よくぞここまでやって来た。我」


「今日のお昼はメンチカツの食べ比べだ~!」


『ご主人、メンチカツ2種類作って!』


「我こそが」


「シンプルにステーキも良いよね!」


『美味しい塩もあるもんね!』


「我の、我の、我の話を聞けぇぇぇぇぇ!」


 舞とリルが自分の話を聞かずに昼食の話で盛り上がっていたため、フロアボスがブチ切れた。


 その間に藍大は敵のステータスをチェックしていた。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:ピュートーン

性別:雄 Lv:100

-----------------------------------------

HP:3,500/3,500

MP:4,000/4,000

STR:3,500

VIT:3,500

DEX:3,000

AGI:3,500

INT:3,500

LUK:3,500

-----------------------------------------

称号:地下15階フロアボス

   到達者

アビリティ:<火炎吐息フレイムブレス><紫電空間サンダーフィールド><猛毒霧ヴェノムミスト

      <剛力突撃メガトンブリッツ><磁力咆哮マグネロア><紫電鎧サンダーアーマー

      <自動再生オートリジェネ><全半減ディバインオール

装備:なし

備考:激怒

-----------------------------------------



 ピュートーンは激怒した。


 必ずこの食いしん坊達を除かなければならぬと決意した。


 ピュートーンには食事の楽しさがわからぬ。


 ピュートーンは地下15階のフロアボスである。


 訪ねて来た冒険者の前に立ちはだかるようブラドに配置されただけの中間管理職だ。


 けれども自分の口上を邪魔されることに対しては誰よりも敏感であった。


「ピュートーンLv100。火と雷と猛毒を扱うだけじゃなく、回復能力と耐久力もあるぞ」


「むっ、貴様、我の力がわかるようだな。どうだ、我の圧倒的な実力を知って驚いたか!」


「ああ゛ん? 圧倒的な実力だぁ?」


「なんだこの女? 急に雰囲気が変わったぞ」


 ピュートーンは戦闘モードに切り替わった舞を見て警戒した。


 食べ物の話ばかりするただの食いしん坊かと思ったら、急に強者としての風格が備わったので驚いたのだ。


「まあ良い。これでも喰」


「ヒャッハァァァァァッ!」


「ごぐっ!?」


 <火炎吐息フレイムブレス>を放とうとした瞬間、舞が雷光を纏わせたミョルニルを顎に投げつけたせいで口が強制的に締められた。


 それがどのような結果を生むか。


 <火炎吐息フレイムブレス>がピュートーンの体内に逆流したのだ。


 ダメージは入ったものの<自動再生オートリジェネ>があるのですぐにHPは回復するが、今の攻撃だけでピュートーンは舞をこのパーティーで最も危険だと判断した。


『隙あり!』


 リルがピュートーンの死角に回って<風精霊砲シルフキャノン>を放つ。


「甘いわぁぁぁ!」


 ピュートーンは<紫電空間サンダーフィールド>で自分の周囲を紫の雷で覆ってリルの攻撃の威力を軽減させた。


 それに加えて<全半減オールディバイン>もあるおかげでダメージはほとんど入らず、<自動再生オートリジェネ>によって失ったHPを回復する。


「MP切れを待つのは面倒だ。サクラ、全力でやって良いぞ」


「わかった」


 藍大に声をかけられてサクラはニッコリと笑う。


 その様子を見てピュートーンはサクラが何か仕掛けるつもりだと知り、そうはさせまいと<紫電鎧サンダーアーマー>と<剛力突撃メガトンブリッツ>のコンボで突撃した。


「やらせねえ!」


 舞がカバーリングでサクラの前に移動し、ミョルニルを振り上げてピュートーンを上空に弾き飛ばす。


『毒は使わせないよ!』


 リルが<天墜碧風ダウンバースト>で無防備なピュートーンに強力な冷気を叩きつけた。


 <猛毒霧ヴェノムミスト>でピュートーンの肉が食べられなくなることを防ぐため、リルは動きを封じる意味で<天墜碧風ダウンバースト>を発動した。


 それでも、ピュートーンは今までのどのモンスターよりも強くて動けそうだったから、藍大がゲンの力を借りて<強制眼フォースアイ>を使う。


「サクラ、今だ!」


「任せて!」


 サクラは<運命支配フェイトイズマイン>のエネルギーを圧縮したビームを放ち、ピュートーンのHPを0まで削り切った。


 タフなピュートーンもLUK∞のサクラには敵わなかったのである。


「OK! みんなグッジョブ!」


 藍大はピュートーンを倒したことを確認してから舞達を労った。


「藍大、ピュートーンも昼食の料理に出して!」


『メンチカツ食べ比べが良い!』


「メンチカツの食べ比べな。やってみよう」


「『わ~い!』」


 藍大の口からピュートーンも今日の昼食でメンチカツになって出て来ると聞き、舞もリルも大喜びした。


「主、あんまり無理しなくて良いからね?」


「大丈夫だ。どうせ『Let's eat モンスター!』の記念号に載せるレシピも考えなきゃいけないから」


「そっか。私も手伝うからなんでも言ってね」


「助かる」


 サクラにお礼を述べた後、藍大達はピュートーンを解体して回収した。


 魔石だけしまわずに残していると、ゲンが<超級鎧化エクストラアーマーアウト>を解除して藍大の前に現れた。


「主さん」


「わかってるって。魔石が欲しいんだろ」


「感謝」


 ゲンは藍大の手から魔石を与えられて飲み込んだ。


 それによってゲンの体が潤った。


『ゲンのアビリティ:<氷楯反撃イージスカウンター>がアビリティ:<自動氷楯オートイージス>に上書きされました』


「まだ楽をするのか」


「当然」


 嬉しそうに言い残してゲンは再び<超級鎧化エクストラアーマーアウト>を発動した。


 ゲンは<自動氷楯オートイージス>のおかげで自分に攻撃が迫った際、自動制御の氷の楯に守られるようになった。


 自分にも恩恵があるとしても、ゲンが更に怠惰になるので藍大が苦笑するのも仕方のないことである。


 地下15階でやるべきことを終えたため、藍大達はダンジョンを脱出した。


 昼食は本日の探索の成果物を存分に使った豪華なものとなり、食いしん坊ズも伊邪那岐も大満足だったと記しておこう。

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