第511話 リルが有識者みたいだ
11月23日の木曜日の午前9時55分に藍大はパソコンでWeb会議アプリを開いた。
その膝の上には小さくなったリルとルナが仲良く座っている。
『逢魔さん、お久し振りです。リルさんの隣に映ってるのはルナちゃんですか?』
「緑谷さん、お久し振りです。そうですよ。リルが私の膝の上に乗っているのを見て自分も乗りたいと甘えられてしまいました。おとなしくしてるのでこのままでも構いませんか?」
『わかりました。それにしても良いなぁ。結衣の従魔は僕に懐いてくれないので羨ましいです』
『無理にモフろうとすると僕達は嫌がるから注意してね』
「ワフ」
リルがジト目で言った後にルナがそうだそうだと頷く。
『薬の臭いには気を付けてたんですが、構い過ぎたのかもしれませんね。以後、注意します』
「試してみて下さい。それよりも、緑谷さんが教授だったんですね。掲示板でのあの口調はキャラ付けですか?」
『キャラ付けです。最初は軽いノリでやってたんですが、予想以上にウケちゃって口調を変えるに変えられなくなっちゃったんですよ』
そんなことを話している内に時計の針が10時を示して遥が口を開いた。
『それでは、定刻となりましたので取材を始めます。皆さん、本日はお忙しい中ご参加いただきありがとうございます。本日の取材は記事にするための資料として録画いたしますのでご承知おき下さい』
『わかりました。顔見知りだけなので自己紹介は不要ですよね?』
「そうですね。遥さん、このまま始めて下さい」
『承知しました。では、私の方で一旦画面を取ります。資料は投影されておりますか?』
「大丈夫です」
『OKだよ』
「問題ありません」
遥が藍大達に事前に用意した資料を画面上に共有した。
そこには今までに定義されたモンスターの分類のまとめが映し出されていた。
亜人型と獣型、鳥型、水棲型、虫型、植物型、無機型、アンデッド型、爬虫類型、竜型の10種類だ。
ダンジョンが見つかってからしばらくして爬虫類型と竜型が追加され、現在の分類は10種類というのが通説になっている。
『ありがとうございます。今日最初の質問はモンスターの分類が10パターンで本当に良いかどうかです。次のページをご覧下さい』
遥が次のページを映し出すと、そこにはパンドラやヒッポグリフ、サファギンの写真が載ったページだった。
『パンドラがいるね』
『そうなんです。今映してるのは従来の枠組みでは定義が不十分なモンスターの一例です。例えば、逢魔さんの従魔であるパンドラさんは無機型と称するにはモフモフしてますよね』
「なるほど。サファギンも釣教士の理人さんがテイムできるのは今の定義だとおかしいです」
『ヒッポグリフは逢魔さんのシャングリラダンジョンで出るんでしたよね。これも鳥型か獣型か判断に悩むってことですか』
『皆さんのご指摘の通りです。先程提示した質問で皆さんにお伺いしたいのは、これから提示するモンスターは1分類で正しいのかということと、1分類ならば新たに分類が必要かどうかという2点です』
遥の質問の意図を聞いて藍大はすぐに口を開いた。
「私はモンスターが2つの分類を併せ持っていてもおかしくないと考えてます。例えば、サファギンは亜人型と水棲型です。釣教士がテイムできたのならば、この定義でないと説明できません」
『ヒッポグリフも獣型と鳥型の2つの分類に属すると思います』
藍大の発言に乗っかるようにして大輝も自論を述べた。
その一方でリルはパンドラについて意見を述べる。
『パンドラは無機型だけで良いと思うよ。パンドラの元々の姿は九尾の白猫だけど、<
『確かにそうですよね。パンドラさんが食事するところを見たことがありません。これは無機型の特徴です。パンドラさんについては私の思い違いだったようなので取り下げます』
(リルが有識者みたいだ)
藍大はリルの立派な姿を見れて嬉しくなり、リルの頭を優しく撫でた。
「ワフ?」
「ルナもか。愛い奴め」
「ワフン♪」
リルを撫でているとルナも撫でてほしいと目で訴えて来るので、藍大はルナの頭も撫でた。
その間に遥が共有する画面を次のページに移した。
切り替わった画面に映っているのはスライムとマグスラグ、ワイバーンだった。
『次はこちらの3体です。現在、分類で揉めております』
「スライムとマグスラグは粘体型と定義しても良いのではないでしょうか。スライムを無機型扱いするのは無理がありますし、マグスラグも虫じゃないと思いますから」
『ご主人の考え方だとシャドウストーカーも粘体型だよね』
「そうだな」
『僕も逢魔さんとリルさんに賛成です。青島さん、ワイバーンの写真がここにあるのは竜型か否かって論争を決着させるためですか?』
『その通りです。これは竜型モンスターに思い入れのある冒険者とそうでない冒険者の言い争いが発端と言われる未解決問題です』
今となっては道場ダンジョンでワイバーンと戦えるが、以前は広い括りで捉えるドラゴンは本当に実在するのか疑問のある存在だった。
それが藍大のシャングリラダンジョンで発見されてテイムされ、ワイバーンの存在も公開されると竜型モンスター論争に火が点いた。
ドラゴンは力の象徴であり、遭遇=死と恐れられていることもあってある程度の実力と装備があれば倒せるようになったワイバーンを竜型モンスターと定義して良いのかと疑問に思う者が現れたのだ。
だがちょっと待ってほしい。
遭遇=死じゃないドラゴンは竜型モンスターにならないというのならば、藍大達が遭遇したドラゴンは全て竜型モンスター扱いにならなくなってしまう。
藍大達の存在が竜型モンスターの定義をあやふやにしてしまっていると言えよう。
しかし、藍大にはちゃんと答えを出す用意があった。
「ワイバーンは分類上竜型モンスターです。ただし、極めて爬虫類型と鳥型寄りですが。これはブラドとユノから今日の取材の前に強く念押しされました」
『ブラドとユノがそう言うなら間違いないね』
『そうですね。当人、いや、当竜が言うんだからそれが正解なのでしょう』
『こんなにあっさりと決まるとは思いませんでしたが、ブラドさん達以上にこの問題の答えを出せる方はいませんね。決着です』
3ページ目の話し合いにより、粘体型という新しい種類が誕生してワイバーンは竜型モンスターに認定された。
『すみません、次のページは事前にお渡しした資料にはなかった毛色の違う質問になります。次のページがこの取材の最後の質問です』
『なんかとんでもないことを質問される気がしますね』
(それな!)
大輝のコメントに藍大は心の中で激しく同意した。
大輝の反応に苦笑しながら遥は次のページを藍大達に共有した。
「食べられるモンスターかそうでないモンスターか考えましょう。遥さん、ゲテキングは週刊ダンジョンの筆頭株主にでもなったんですか?」
藍大がそう言うのも無理もない。
読み上げた文章の下には虫型と爬虫類型、粘体型を代表してハニービーとケイブリザード、スライムの写真が載せられていたからだ。
ゲテキングの意思が反映されているとしか思えないラインナップである。
『実は、ゲテキングさんが編集長に雑食への思いをプレゼンをしたんですよ。編集長は頭が柔軟な方ですから、最後に変化球を混ぜても良いんじゃないかと言ってこの質問が実現しました』
「ゲテキング半端ないですね」
『むむっ、ゲテキングもなかなかやるね』
『一体何が彼をそこまで雑食に駆り立てるんでしょうね』
リルだけが対抗心を燃やしており、それ以外の3人はゲテキングの熱意に苦笑した。
しかしながら、苦笑しているだけではこの取材は終わらない。
それゆえ、藍大はあれこれ考えずに自分の意見を述べることにした。
「私は食べるとしても爬虫類型だけですね。ゼルは元々スライムだったから食べる気が起きませんし、虫型モンスターは私の家族が嫌がりますから」
『僕もご主人と一緒だよ。蛇と鰐は食べたことあるけどそれ以外はないの』
「私も同じですね。蜂蜜は舐めても蜂そのものは食べませんし」
『ですよね。雑食については他人に迷惑をかけない範囲で個人の自由という結論でよろしいでしょうか?』
「「『異議なし』」」
『承知しました。本日の取材はこれで終わりです。ご協力いただきありがとうございました』
最後の最後がぶっ飛んだ質問だったが、藍大とリルはどうにか取材を無事に終えた。
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