第510話 ワフン、僕はインテリなフェンリルになるよ

 翌朝、遥が102号室を訪ねて来た。


 一緒に連れて来た永遠は優月達と一緒に遊んでおり、遥は藍大と舞、サクラ、リルとテーブルに着いている。


「優月君達が永遠の遊び相手になってくれて助かりました。ありがとうございます」


「いえいえ。永遠ちゃんは優月達にとって妹みたいなものですから。それで、今日は週刊ダンジョンの話でしたっけ?」


「はい。来週と再来週の週刊ダンジョンでモンスター学特集を企画してるんですが、逢魔さんに取材させていただけないかと思いまして」


「『Let's eat モンスター!』の取材じゃないんだ~」


『残念だね』


 舞とリルは「Let's eat モンスター!」の取材だと思っていたらしく、違う記事だと聞いてしょんぼりした。


「すみません。最近は逢魔さんに続こうと多くの冒険者の方がレシピを売り込みに来るので、半年先ぐらいまで何を扱うか決まってるんです。ただ、12月発売の200号記念の時に『Let's eat モンスター!』で逢魔さんの記事を割り込ませたいのでご協力いただけませんか?」


「やろうよ藍大!」


『やろうよご主人!』


「主のすごさを見せつけるべき」


 舞達が乗り気なので藍大は断れないだろうと観念した。


「わかりました。その時は取材を受けましょう」


「本当ですか!? ありがとうございます!」


 遥は記念号で掲載する「Let's eat モンスター!」に藍大の記事を載せられるとわかって大喜びした。


 モンスター学特集の取材そっちのけで「Let's eat モンスター!」の話をするあたり、遥としては「Let's eat モンスター!」の方が重要なんだろう。


「取材の日程が決まったら教えて下さい。ところで、今日の本題は『Let's eat モンスター!』じゃないんですよね?」


「そうでした。うっかり『Let's eat モンスター!』の話で盛り上がってましたね。モンスター学の特集記事の相談が今日のメインです」


 遥は今日時間を取ってもらった目的を思い出し、藍大達に企画の説明を始めた。


 モンスター学特集は前編と後編の2回に分けて掲載するが、取材自体は1回で済ませる。


 藍大と掲示板では有名な教授の対談形式で取材を行い、モンスターの分類の再定義をしようというのが目的だった。


「遥さんは教授と面識があるんですか?」


「ありますよ。彼は逢魔さんもご存じの方です」


「もしかして、教授って”グリーンバレー”の緑谷大輝さんですか?」


「正解です」


「やっぱりそうでしたか」


 藍大は教授の正体についてなんとなく察していたため、この機会に遥と答え合わせをして突き止めた。


 大輝が教授であると気づいたのは掲示板を巡回していてとある書き込みを見つけたからだ。


 その書き込みはまだ大輝しか知り得ない情報だったので、藍大は大輝が教授だろうと考えていた。


 補足をするならば、俺理論こと”ブラックリバー”の黒川重治と教授が知り合いらしきやり取りをしていたのを見て、いつぞやのトップクランのWeb会議のやり取りと重なって見えたのだ。


「緑谷さんが教授だったんだ~」


『ご主人、僕も負けてられないよ! 僕も取材でモンスター学のお話する!』


「リル、落ち着こうな。遥さん、リルって取材に参加しても平気ですか?」


 先日<知略神祝ブレスオブロキ>を会得したリルが大輝に対抗して取材に参加したいと言い出した。


 自分は探して戦って食べるだけじゃなく、鑑定や辞書検索もできるというアピールである。


 藍大がリルの参加について遥に訊いてみると、遥は少し考えてから首を縦に振った。


「大丈夫です。むしろ、そっちの方が面白いかもしれません。逢魔さんだけでなく、リルさんのファンも少なくありませんからウケると思います」


『ワフン、僕はインテリなフェンリルになるよ』


「よしよし、愛い奴め」


「クゥ~ン♪」


 胸を張ったリルが愛らしくて藍大はリルの頭を優しく撫でた。


 その直後にリビングに仲良しトリオが駆け込んで来た。


「ちょっと待つのよっ」


『(。+・`ω・´)シャキィーン☆』


「2人共待つです!」


 ゴルゴンとゼルは物申したいと言わんばかりに登場し、メロは暴走する2人を追いかけて来たようだ。


「どうしたんだ?」


「アタシも取材を受けたいのよっ」


『( ー`дー´)キリッ』


「はぁ、マスターの迷惑になるから部屋に戻るです」


 ゴルゴンとゼルは欲望に忠実であり、メロは取材が気にならないと言えば嘘になるが2人よりも自制心が強いので早く部屋に戻ろうと2人の手を引く。


 藍大はゴルゴンとゼルを落ち着かせるために手を打った。


「3人には今度”楽園の守り人”のホームページで特集記事を書かせてあげるから落ち着いてくれ」


「それなら我慢するわっ」


『(*-ω-)*´ω`)*-ω-)*´ω`)ウンウン♪』


「私もです? ありがとうなのです!」


「よしよし。今は仕事の話をしてるから部屋に戻っててくれ」


「戻るのよっ」


『=͟͟͞͞( ๑`・ω・´)』


「お騒がせしたです」


 ゴルゴンとゼルは元気に部屋に戻って行き、メロはぺこりと頭を下げてからその後を追った。


「脱線しちゃってすみません」


「いえいえ。ゴルゴンさんとゼルさんは相変わらず元気ですし、メロさんは2人に振り回されてますね。でも、3人共一児の母なんですよね」


「そうは見えないかもしれないでしょうけど、ゴルゴン達は良い母親ですよ」


「その点は疑ってませんよ。日向ちゃんと大地君、零ちゃんはスクスク育ってますし、永遠と一緒に遊んでくれますから感謝してます」


 ゴルゴン達が子供達と一緒に永遠とも遊んでくれるので、遥は明るく元気な3人に感謝している。


 話に乱入して来たことだって不快に思っておらず、今日も3人は元気だと微笑ましい気持ちなのだ。


「脱線してしまいましたから話を整理しましょう。俺とリルが大輝さんと対談形式で取材を受ければ良いんですよね?」


「その通りです。取材は明後日の23日の午前10時からでも構いませんか? 開催形式はオンライン会議です」


「問題ないです。リルも良いか?」


『うん! 大丈夫!』


「事前準備として何か必要ですか?」


 まさか何も準備せずにぶっつけ本番という訳にもいかないだろうと思って藍大は訊ねる。


「モンスターの分類の再定義ですが、それは逢魔さんのモンスター図鑑の内容と現在の分類をすり合わせることで行います。私が会社で集めた資料を用意したものを確認してもらえますか? 資料は今メールで送りますので」


 遥がそう言った直後に藍大のスマホが鳴り、遥から資料の添付されたメールが届いた。


「届きました。後程確認しておきます」


「よろしくお願いします」


 遥は話すべきこと全てを話し終えたので永遠を引き取って帰って行った。


「さて、昼まで時間があるし資料に目を通すか。リルも見る?」


『見るよ。僕も取材を受けるからね』


 得意気なリルをわしゃわしゃと撫でた後、藍大はリルを抱えたまま一緒に遥から貰った資料を読んだ。


 リルが気になったことを藍大が解説し、藍大が把握していない事実はリルの<知略神祝ブレスオブロキ>の辞書検索で調べて資料の読み込みが終わった。


 藍大が顔を上げると伊邪那美が目の前で待機していた。


 藍大達の作業を邪魔しないように終わるのを待っていたのだろう。


「伊邪那美様、どうしたんだ?」


「うむ。今度『Let's eat モンスター!』の取材を受けるというのは事実かのう?」


「事実だ」


「それは良かったのじゃ。妾はあの読み物が好きなのじゃよ。伊邪那岐にも薦めたら面白いと毎週欠かさず読んでおるぞ」


 『Let's eat モンスター!』が日本の誇る2柱の神に注目されていると聞いたら遥も大喜びだろう。


「そうだったんだ。『Let's eat モンスター!』の中に何か作ってほしい料理でもあったのか?」


「ないこともないのじゃが今回は別件じゃ。200号記念の記事は伊邪那岐の力を一気に取り戻すチャンスだと思ってそれを伝えに来たのじゃ」


「200号記念で何か作ってほしい料理があるってこと?」


「正解じゃ。妾はフルコースを所望するぞよ。それも今できる最高ランクのフルコースじゃ」


「フルコースか。わかった。メニューは考えておくよ」


「頼んだのじゃ」


 伊邪那美が地下神域に戻るのと入れ替わりに舞がやって来て、とても良い笑みを浮かべていた。


「最高のフルコースが楽しみだね!」


『絶対に美味しいと思う!』


「任せろ。俺の本気を見せてやる」


 この場に従魔士なのに料理で本気を出すのかとツッコむ者はいないけれど、これが逢魔家のデフォルトである。

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