第509話 モフラーはちょっと・・・

 道場ダンジョン10階のボス部屋に移動した後、リルがフロアボスのシーサーペントを<蒼雷審判ジャッジメント>で瞬殺する。


「シーサーペントが一撃ですか」


「これがリルさんの実力なんですね」


『ドヤァ』


 理人と結衣がリルの実力を目の当たりにして戦慄すると、リルはドヤ顔で応じてみせる。


「リル、お掃除ありがとな」


「クゥ~ン♪」


 藍大に褒められながら頭を撫でてもらい、リルは嬉しそうにされるがままとなった。


「今日の夕食はシーサーペント料理であるな」


 その一方、10階のフロアボスをあっさり倒されたブラドは静かに今夜の食事について考えていた。


 フロアボスの再召喚には少なくないDPが必要だが、道場ダンジョンの縛りによってリルの<蒼雷審判ジャッジメント>で獲得したDPはそれを補って余りあるものだから損したことにはならない。


 それゆえ、ブラドは呑気に夕食のことを考えていられたのである。


 倒したシーサーペントはブラドの<解体デモリッション>と<無限収納インベントリ>で速やかに解体された状態でブラドに回収された。


「さて、最初は理人さんからやりましょうか」


「お願いします。コーラと融合できるのがレッサーシーサーペントなんですが、最近手中に収めた新世界ダンジョンじゃDPが足りなくて召喚できないんです」


「わかりました。ブラド、頼んだ」


「うむ」


 ブラドは頷いて先程までシーサーペントがいた場所にレッサーシーサーペントLv50を召喚した。


「理人さん、テイムしちゃって下さい」


「ありがとうございます。遠慮なくやらせていただきます」


 理人は水面から顔を出していたレッサーシーサーペントの頭の上にアングラー図鑑を乗せた。


 レッサーシーサーペントが図鑑の中に吸い込まれたことで、まずは理人のテイムが完了した。


「【召喚サモン:コーラ】【召喚サモン:ブルー】」


 融合前提でテイムしたため、理人はレッサーシーサーペントの名付けを見た目から適当に行っていた。


 コーラとブルーが揃ったため、理人はすぐに融合を開始する。


「【融合フュージョン:コーラ/ブルー】」


 2体が光に包み込まれた後、その中でコーラとブルーの体が重なり、亀がベースで蛇が尻尾というシルエットになった。


 光が収まったことで灰緑色の体に青緑の甲羅の亀、それに黒光りする蛇の尻尾のモンスターが現れた。


「決めました。こいつはソーダです」


 藍大はソーダと名付けられたモンスターについて早速調べてみた。



-----------------------------------------

名前:ソーダ 種族:レッサーアスピドケロン

性別:雄 Lv:50

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HP:800/800

MP:950/950

STR:900

VIT:900

DEX:750

AGI:600

INT:900

LUK:600

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称号:理人の従魔

   融合モンスター

   掃除屋殺し

アビリティ:<螺旋水線スパイラルジェット><水牢ウォータージェイル><自動防御オートガード

      <体圧潰ボディプレス><混乱霧コンフュミスト><麻痺噛パラライズバイト

装備:なし

備考:なし

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 (次の進化でレッサーが外れそうだな)


 ソーダのステータスを見て藍大は確信した。


 ゴルゴンの時はレッサーパイロヒュドラの次の進化先はパイロヒュドラだったので、ソーダも次はアスピドケロンになると考えるのは妥当だろう。


 理人はステータスを確認してからソーダを送還し、藍大に深く頭を下げた。


「逢魔さん、改めてお礼申し上げます。ありがとうございます。これで帰っても瀬奈が小言を口にすることもないでしょう」


「今日は青空さんに納得して送り出してもらったんじゃないんですか?」


「納得してるんですが、瀬奈は私と離れる時間があると帰って来た時に何か口実を見つけて小言を言うんですよ。今回は従魔の育成方針を相談しただけでなく戦力アップしましたから、小言もないはずです」


 (小言じゃなくてそれはツンデレじゃね?)


 瀬奈が理人にはツンツンではなくデレてもいると聞いて藍大はそのような感想を抱いた。


 自分の感想を健太に言えば鼻で笑うかもしれないが、個性豊かな家族に囲まれる藍大には瀬奈が理人に甘えているようにしか思えなかった。


「そうですか。まあ、ソーダがいれば”ブルースカイ”も”大災厄”討伐に一歩近づくでしょうから頑張って下さい」


「わかりました。次はガミジン戦と違って自力で倒すことを目指します」


「次は私の番ですね」


「小森さんには何かリクエストがありますか?」


盾役タンクになってくれるモフモフが良いです。ポチとタマは遊撃がメインですし、マロンは回復役なので盾役タンクが足りてないんですよ」


「言われてみればそうですね。小盾役タンクになるモフモフしたモンスターと言えば、ハニーベアやヒッポセルフですかね」


「ハニーベアは太宰府ダンジョンにもいるんですが、レベルが低くてすぐに倒されてしまいそうでテイムを見合わせました。可能であれば、レベルを抑えたヒッポセルフをテイムさせて下さい」


 結衣は既にハニーベアのテイムを検討していたらしく、実際にテイムする一歩手前まで実行していた。


 しかし、ハニーベアをテイムしてもレベルが低いからすぐに盾役タンクとして導入できずに終わった。


 そんな背景から結衣はヒッポセルフを召喚してほしいと藍大に依頼した。


 ヒッポセルフは多摩センターダンジョンの6階で”掃除屋”に任命されており、藍大の力を借りなくとも出会えるモンスターだ。


 けれども、結衣の率いる従魔達だけでヒッポセルフLv80と戦うのは厳しいから藍大にレベルの低いヒッポセルフを召喚してほしいと頼んだ訳である。


「良いですよ。ブラド、任せるぞ」


「すぐに呼ぶのだ」


 ブラドは頷いて足場のある位置にヒッポセルフLv50を召喚した。


「小森さん、どうぞ」


「ありがとうございます。テイムします」


 結衣はじっとしているヒッポセルフに近づいて頭の上にビースト図鑑を乗せた。


 ヒッポセルフが図鑑の中に吸い込まれたことで結衣のテイムが完了した。


「【召喚サモン:ロト】」


 結衣はテイムした雄のヒッポセルフにロトと名付けたようだ。


「ロト、餌だよ」


「・・・セロン」


 ロトは結衣が鞄から取り出した人参の匂いを嗅いでポリポリと食べ始めた。


「小森さん、ロトってもしかしてキャロットから取りました?」


「正解です。なんとなく人参好きそうだったので」


「鹿が人参食べる動画もありますから違和感はないですね」


「ですよね。ロト、人参美味しい?」


「セロォン」


 ロトは少し間延びした感じで鳴きながら首を縦に振った。


 召喚されて初めて食べた人参を気に入ったらしい。


 藍大はロトが人参を食べ終えたのを見てから口を開いた。


「理人さんと結衣さんに訊いておくべきことがありました。2人は普段従魔を召喚してますか?」


「私は従魔によって変わります。力を借りる頻度が高い従魔は移動を除いて召喚したままですが、そうじゃない従魔は亜空間で待機してもらってます」


「私は従魔の数が少ないので公共交通機関を使って移動する時以外は一緒です」


「そうでしたか。以前、”ホワイトスノウ”の有馬さんにも注意したんですが、従魔は主人と一緒が良いんです。できるだけ傍にいてあげて下さい。従魔の数が多い場合は時間を区切って少しでも触れ合う時間を取るべきです。自分の命を預ける相手と意思の疎通ができないといざって時に困りますから」


『ご主人はご飯を作ってくれるし、ブラッシングも欠かさずやってくれるんだ。こんなに優しいご主人を失いたくないから僕はいつも全力だよ』


「良き主君を持てば吾輩達従魔もそれだけ報いようと張り切るのだ。それを忘れてはならぬぞ」


「肝に銘じます」


「いっぱいモフモフします」


 (小森さん、違う。そうじゃないんだ)


 真剣な顔でズレたことを言う結衣に藍大は苦笑した。


『やっぱり天敵予備軍だったんだ』


「ち、違うんです! リルさん、距離を取らないで下さい!」


『モフラーはちょっと・・・』


 リルは結衣を警戒して藍大の後ろに隠れた。


「モフモフは程々にして下さいね。やり過ぎると従魔がモフラーから逃げます」


 うっかりを装って”ダンジョンマスター”になるチュチュや一つになってモフモフされるのを防ぐガルフという前例があるから、藍大の言葉に結衣はゴクリと唾を飲み込んだ。


「気を付けます」


 最後はリルに天敵予備軍とみなされた結衣のせいで締まらない感じになったが、無事に理人と結衣の相談会は終了した。

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