第508話 静まれ私の右手
午後になって”ブルースカイ”の青空理人と”グリーンバレー”の小森結衣が藍大を訪ねて来た。
「逢魔さん、お久し振りです。本日はよろしくお願いします」
「お願いします」
理人は釣教士に転職したことで水棲型モンスターのテイムが可能になり、二つ名が青の剣士からアクアリウムに変わった。
転職してすぐに水棲型モンスターを次々にテイムしたことにより、歩く水族館と呼んでも過言ではなくなったことから定着した二つ名だ。
その一方、コスモフの二つ名で知られる結衣は今日もポ〇モントレーナーみたいな服装をしている。
2人がシャングリラにやって来たのは今の自分の実力を藍大に見てもらい、適切なアドバイスを貰って成長の機会にするためだ。
「こちらこそよろしくお願いします。テイムと育成は順調ですか?」
「戦力アップのためにテイムはガンガンやってますが、育成となると一部の従魔しかできてないですね」
「私のモフモフは3体です。満遍なくモフモフを強化して余裕が出たら新しいモフモフをテイムします」
「そうですか。では、とりあえず中庭で2人の従魔を見せて下さい」
「わかりました」
「はい」
藍大達は中庭に移動し、そこにルナを寝かしつけて部屋から出て来たリルも合流した。
「まずは理人さんからですかね?」
「そうですね。私の一番強い従魔をお見せしましょう。【
理人が呼び出したモンスターは精悍な顔つきのサファギンナイトのように見えた。
ただし、それはただのサファギンナイトではない。
質の良いトライデントと盾、スケイルメイルを装備しているからという訳ではなく、存在自体がサファギンナイトよりも上に感じられるのだ。
藍大がその正体をモンスター図鑑で調べてみると、ナイトはサファギンロイヤルガードだった。
レベルも60に達しており、普段のダンジョン探索でも十分役に立つ実力と言えた。
「ナイトはサファギンナイトを進化させたんですか?」
「その通りです。サファギン系は亜人型かと思ったんですが、私でもテイムできる水棲型だと知って攻守を兼ね備えたサファギンナイトをテイムしたんです」
「良い判断だと思います。ナイト以外にはどんなモンスターをテイムされました?」
「よく力を借りるのはケルピーのケリオスとスナイプタートルのコーラです」
「コーラ? 甲羅から名付けたんですか?」
「それもありますが、コーラ好きな奴なんです」
コーラ好きだからコーラとは安直な気がしないでもないが、他人の従魔の名付けにケチをつけるのは良くないので藍大はその名前を受け入れた。
「従魔の好みはそれぞれですもんね」
『僕はご主人の作ったご飯ならなんでも好きだよ』
「よしよし、愛い奴め」
「クゥ~ン♪」
会話に混ざったリルが嬉しいことを言ってくれるものだから、藍大はリルをわしゃわしゃと撫でた。
そんなリルの姿を見て隠れモフラーだった結衣が右手を出そうとして左手で必死に抑えている。
「静まれ私の右手」
(中二病患者発見)
結衣が気を悪くすると思って声には出さなかったが、藍大にとって結衣の発言は中二病のそれであった。
「理人さんの従魔についてはわかりました。次は小森さんの従魔を見せて下さい」
「わかりました。【
結衣が藍大に言われてポチ達従魔を召喚した。
ポチはフォレストウルフからハンターウルフに進化しており、タマもハイドキャットからアサシンキャットに進化していた。
ポチとタマの進化は”グリーンバレー”のホームページに掲載されていたが、マロンはまだ掲載されていなかった新顔だ。
「小森さん、マロンは最近テイムしたんですか?」
「そうなんです。こちらに来る前にテイムしたばかりなんですよ」
藍大はマロンをモンスター図鑑で調べてみた。
-----------------------------------------
名前:マロン 種族:プリースリス
性別:雌 Lv:30
-----------------------------------------
HP:240/240
MP:300/300
STR:240
VIT:270
DEX:300
AGI:300
INT:300
LUK:240
-----------------------------------------
称号:結衣の従魔
掃除屋殺し
アビリティ:<
<
装備:なし
備考:期待
-----------------------------------------
(マロンが物欲しそうに俺を見てるけどなんで?)
マロンが自分の目を見ておねだりするような視線を向けてくるため、藍大は何を求められているのかと首を傾げた。
その答えをリルが藍大に教えた。
『マロンの目は食べ物を欲しがる目だよ。自分にも何かくれないかって期待してるんだよ』
「あぁ、すみません。マロンはポチとタマよりも食べることが好きで、”楽園の守り人”のホームページで更新される逢魔さんの料理をいつも張り付くように見てるんです」
「チュ!」
そうなんですと言わんばかりにマロンは頷く。
「・・・ちょっと待ってて下さい」
藍大は102号室に行って手に皿を持ってすぐに戻って来た。
その皿の上に乗っているのはアップルパイだ。
収納袋にストックしておいたのを皿に乗せて持って来たのだが、マロンは大興奮である。
「チュ~!?」
食べて良いのかと訊ねているのだと察し、藍大はアップルパイを一切れマロンに与えた。
「おあがり」
「チュ~♡」
マロンが美味しそうにアップルパイを食べれば、リルとポチ、タマがその後ろに並んで待っている。
「リル達の分もあるぞ。お食べ」
『ありがとご主人!』
「アォン!」
「ニャ!」
「マロン達がすみません」
「構いませんよ」
申し訳なさそうに謝る結衣に対し、ペロッとアップルパイを食べ終えたマロン達が藍大に感謝の気持ちを伝えるべく頬擦りした。
『ご主人のアップルパイさんは美味しいでしょ?』
「チュ!」
「ワフ!」
「ニャ~!」
リルが得意気に言うとマロン達は美味しいと力強く頷いた。
「ナイトにもアップルパイをどうぞ」
「ありがとうございます。ナイト、折角だからご馳走になりなさい」
ナイトは無口なのか頷いて藍大の差し出した皿からアップルパイを手に取って食べた。
食べた瞬間、ナイトの口元が緩んだことからナイトは不機嫌じゃないとわかって藍大はホッとした。
ナイトは食べた後にペコリと頭を下げてから理人の隣まで戻っていった。
どうやらナイトは人見知りだったようだ。
「理人さんと小森さんの従魔達は転職してから日が浅いとは思えないぐらいに育ってますね。経験を積んで戦力を増やせばいずれは”大災厄”とも戦えると思います」
「そう言ってもらえると嬉しいですね」
「ありがとうございます」
藍大は自分の意見を言ったついでに理人に気になっていた質問をぶつけてみた。
「理人さんの釣教士は従魔同士の融合ってできるんですか?」
「できますよ。釣教士の二次覚醒が水棲型モンスターの融合でしたから。ただ、丁度良いモンスターが見つからなくてまだ融合できてないんです」
「なるほど。それなら、この後捕まえに行きますか?」
「良いんですか?」
「”ブルースカイ”にもダンジョンの間引きの統治を協力してもらってますからね」
こういう時でもなければ力を貸す機会はなかなかないので、藍大は理人に対して首を縦に振った。
「はい、私も行きたいです! 私も新しいモフモフが欲しいです!」
「わかりました。小森さんも一緒に行きましょうか」
『この人も天敵になるのかな?』
「大丈夫ですよリルさん! 私、真奈さんみたいな度し難いモフラーじゃないですから! だから距離を開けないで下さい!」
リルが警戒するように藍大の後ろに隠れてしまうと、結衣は自分が真奈とは違うんだと主張した。
『ポチとタマ、マロンはどう思う?』
「ワフ」
「ニャア」
「チュウ」
『みんな日を追うごとにモフモフする時間が長くなってる気がするって言ってるよ。天敵予備軍だね』
「そんなぁ・・・」
結衣は膝から崩れ落ちた。
あわよくばリルを撫でさせてほしいと頼むつもりだったけれど、そのチャンスが失われてしまったからだ。
藍大は落ち込む結衣を放置してブラドを呼びに行き、その後理人達を連れて道場ダンジョンに移動した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます