第504話 これぞリアル矛盾!

 ドラゴンフレームを倒した後、リル達は達成感に満ちた表情を浮かべて藍大に駆け寄った。


『ご主人、勝ったよ!』


『任務完了』


「勝ったのニャ!」


『倒したよ!』


「よしよし。みんなよくやってくれた」


 ボス部屋でフロアボスを倒せば安全が確保できるので、藍大達は家族サービスの時間に突入した。


 リル達を十分に労った後、藍大はドラゴンフレームの解体を済ませて魔石以外を収納袋にしまった。


「次はリルの番だけどほしいか?」


『ほしい!』


「そっか。それならおあがり」


『いただきます!』


 魔石を飲み込んだ直後、リルの目が輝き始めた。


『リルのアビリティ:<大賢者マーリン>がアビリティ:<知略神祝ブレスオブロキ>に上書きされました』


 (ロキってあのロキ?)


 藍大はリルの上書きされたアビリティの効果が気になってすぐに調べた。


 その結果、リルが凄まじい力を手にしたことを知った。


 <大賢者マーリン>にはテレパシーと探索、鑑定の効果があったが、<知略神祝ブレスオブロキ>は鑑定の効果が強化されていた。


 具体的には四次覚醒した鑑定士と同等の力を手にしていたのだ。


 つまり、通常の鑑定に加えて辞書検索と嘘発見、危機察知が鑑定能力に含まれた。


 元々賢かったリルが更に賢くなったのだから、知略神ロキの祝福というのも頷ける。


『ご主人、僕になんでも聞いてね!』


「愛い奴め。頼りにしてるぞ」


「クゥ~ン♪」


 ドヤ顔のリルをわしゃわしゃ撫でると、リルは嬉しそうに鳴いて甘えた。


 茂がリルの<知略神祝ブレスオブロキ>の効果を知れば、リルに鑑定能力で並ばれたのかと落ち込むかもしれないがそれは仕方のないことだろう。


 パワーアップしたリルは早速何かを見つけて壁際に移動する。


「リル先生、何か見つけた?」


『ご主人、今回は宝箱だよ。壁と同じ色に塗られてるの』


「地味にわかりにくいな。それでもリルは欺けないけど」


『ワフン、僕にかかれば全部お見通しだよ♪』


「頼もしいな。よしよし」


 藍大はリルを撫でてから宝箱を回収した。


 地下4階でやるべきことを全て済ませると、藍大達は地下5階に進んだ。


 階段を下った先にはボス部屋の扉があったので、藍大達はそのままその中に突入した。


 ボス部屋の中は今までと異なってライトアップされたステージのように明るく、その中心には無地の仮面を被った高貴な男性を模した黒いロボットが待機していた。


『貴様等が我がダンジョンを荒らし回る賊か』


「ダンジョンを頂戴しに来た訳だから間違いじゃないか」


『不敬な奴め。一体我を誰だと心得る? 我こそは』


「ファザーフレームLv100だろ? 知ってる」


『貴様は名乗るのすら邪魔するのか!』


 激昂するファザーフレームのステータスは藍大のモンスター図鑑を映した目によって既に明らかにされていた。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:ファザーフレーム

性別:なし Lv:100

-----------------------------------------

HP:3,000/3,000

MP:3,500/3,500

STR:3,000

VIT:2,500

DEX:2,000

AGI:2,000

INT:2,000

LUK:2,000

-----------------------------------------

称号:ダンジョンマスター(神宮)

   到達者

アビリティ:<創魔武器マジックウエポン><武器精通ウエポンマスタリー><格闘術マーシャルアーツ

      <隕石雨メテオレイン><闘気鎧オーラアーマー><体魔変換スタミナイズマジック

      <自動修復オートリペア><全半減ディバインオール

装備:なし

備考:激昂

-----------------------------------------



 ファザーフレームは秘境ダンジョンのマザーフレームと対照的に近接戦闘メインのモンスターだった。


『ふむ。今回は伊邪那岐の姿を完全に真似ることはできなかったようじゃな』


 テレパシーで藍大の耳に届いた伊邪那美の声は安堵したものである。


 マザーフレームの時は自分の姿を真似られて怒っていたが、ファザーフレームが伊邪那岐の姿を真似できなかったことにホッとしたのだろう。


 それはさておき、ファザーフレームは<創魔武器マジックウエポン>で矛を創り出して藍大に刺突を放った。


『ボスはやらせない』


 ドライザーがラストリゾートを盾の形状に変えてファザーフレームと藍大の間に割って入る。


『我の矛に貫けぬ物はない!』


『この盾はあらゆる物を防ぐ』


 (これぞリアル矛盾!)


 藍大は矛盾の由来となった話が現実で再現されてワクワクしていた。


 一般的な冒険者ならSTR3,000のモンスターの刺突を繰り出されたら絶望的だが、VIT3,000オーバーのドライザーが破壊不能な盾で守ってくれる藍大には余裕がある。


 実際、ファザーフレームの矛はドライザーのラストリゾートにぶつかった瞬間に折れた。


『なんだと!?』


『その程度か』


『貴様ぁぁぁ!』


 ドライザーの挑発に乗ってファザーフレームは冷静さを欠いていた。


 創り出した矛による攻撃が通じないことを認められないらしく、何度も矛を創り出しては防がれて折られてしまう。


 ファザーフレームが<闘気鎧オーラアーマー>を使ったとしても、ドライザーも<熾天鎧セラフアーマー>を使うのでファザーフレームに逆転のチャンスはない。


 ドライザーがヘイトを稼いでいる隙に藍大は他の従魔に指示を出す。


「フィアは<魔力吸収マナドレイン>でMPを奪え。ミオは<起爆泡罠バブルトラップ>でファザーフレームの動く範囲を狭めるんだ」


『うん!』


「わかったニャ!」


 フィアがファザーフレームの死角から接近してMPを奪ってすぐに離脱し、それと入れ替わりでミオがギリギリの位置に罠を仕掛ける。


『貴さぐぁっ!?』


 自身のMPを奪ったフィアを攻撃しようとした瞬間、ミオの仕掛けた罠を踏んでファザーフレームは爆発に巻き込まれた。


 その隙をドライザーが見逃す訳もなく、シールドバッシュでファザーフレームを後ろに吹き飛ばす。


「リル、次で決めろ!」


『わかった!』


 リルはファザーフレームの背後に忍び寄ると、<神裂狼爪ラグナロク>で真っ二つにした。


『おめでとうございます。ファザーフレームを倒したことによって伊邪那岐の力が10%回復しました』


『報酬として逢魔藍大の収納リュックに神麦しんむぎの種が贈られました』


 (麦キタァァァ!)


 藍大は伊邪那美のアナウンスに歓喜した。


 シャングリラダンジョンでは小麦に関するモンスターが出て来ないからである。


 米は木曜日にライスラインとライスキュービーを狩れば手に入るが、小麦だけは該当するモンスターが今のところ出現しないのでどうしたものかと悩んでいた。


 それが神麦なる品種の小麦を手に入れたことで解決したため、藍大のテンションは留まることを知らない。


『主君、神宮ダンジョンを掌握したぞ。ファザーフレームが倒れたことで吾輩の力がそっちに届いたのだ』


 ファザーフレームが健在だった時はブラドの力が神宮ダンジョンに届かなかったのだが、ファザーフレームが倒れた今はブラドが干渉できるぐらい神宮ダンジョンの力は弱っていた。


 藍大は神麦で上がったテンションをどうにか抑えてブラドにお礼を言い、戦闘で頑張ってくれたリル達もしっかりと労った。


『藍大よ、伊邪那岐が神域内で限定的に姿を保てるようになったのじゃ! 早く帰ってきてほしいぞよ!』


「了解。やることやったら帰宅する」


『うむ!』


 テレパシーで伝わって来た伊邪那美の声は明るかった。


 僅かとはいえ夫の力が戻って顕現できるようになったのならば、伊邪那美がご機嫌になるのも当然だろう。


 ファザーフレームの魔石だけ残してそれ以外は収納リュックにしまうと、藍大はドライザーの方を向いた。


「これはドライザーのものだ」


『ありがたく頂戴する』


 ドライザーは藍大から魔石を受け取って取り込んだ。


 それによってドライザーのから感じるオーラが一段と増した。


『ドライザーのアビリティ:<魔攻城砲マジックキャノン>がアビリティ:<竜鎮魂砲ドラゴンレクイエム>に上書きされました』


「必殺技感がヤバい」


『ボス、必殺技はお嫌いか?』


「お好きでござる」


『ご主人、僕にも<神裂狼爪ラグナロク>があるよ!』


『フィアも<緋炎嵐クリムゾンストーム>があるもん!』


「ミーだって・・・、しまったニャ! みんなと比べて高火力なアビリティがないニャ!」


 藍大がドライザーの<竜鎮魂砲ドラゴンレクイエム>に興味を持つと、リル達が慌てて自分達のイチ押しアビリティをアピールする。


 ミオについては火力よりも手数で勝負なので高火力のアビリティをアピールできないのは仕方ない。


「よしよし。みんなのアビリティも強力だってちゃんとわかってるからな」


 ドライザーの<竜鎮魂砲ドラゴンレクイエム>だけを贔屓にしている訳ではないと態度で示すため、藍大はリル達が落ち着くまで撫でて回った。


 藍大達が帰宅したのは伊邪那美から早く帰って来いと督促が入ってからだった。

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