第505話 巫女の一族じゃ家出がブームなの?

 帰宅した藍大達はそのまま地下神域へと移動した。


 既に神域には他の家族が全員揃っており、その中心には伊邪那美と伊邪那岐らしき神がいた。


 しかし、藍大にとって神2柱は全くの別人に見えた。


「なんで父さんの姿なんだよ。つーか、こっちも若いし」


 伊邪那美が若かりし頃の母親ならば、伊邪那岐も若かりし頃の父親の姿だったので藍大の顔が引き攣った。


「やあ、君が藍大か。すまないね、智仁ともひとの姿を借りてるよ。伊邪那美が涼子の姿を借りてる以上、他の男が母親と一緒に居るのは嫌かと思ってね」


「お気遣いどうも」


 智仁とは藍大の父親の名前だ。


 父親の見た目の伊邪那岐が父親の名前を口にする違和感に苦笑するも、伊邪那岐が自分のことを気遣ってその姿になってくれていると知って藍大はお礼を言った。


「いやいや、僕こそお礼を言わなくちゃならない。今度ばかりは本当に完全消滅するかと思ったけど、藍大のおかげで助かったからね。ありがとう」


「どういたしまして。でも、全盛期の10%しか回復してないんだろ?」


「限りなく0に近い状況から10%も回復できたんだ。伊邪那美を助けてくれたように、僕のことも藍大達が助けてくれると信じてるよ」


「伊邪那美様の時もそうだったけど気長に待っててほしい。俺達の場合、変に気負って行動するより伸び伸びやった方が近道だったりするから」


 藍大達は伊邪那美のお願いをちょくちょく聞いてはいたものの、伊邪那美の復活を目標として日々それだけを考えて行動するということはなかった。


 伊邪那美も藍大達に自分の復活を最優先にしてほしいと頼まず、ある程度自由に動いてもらったことで予想よりも早く復活できたので藍大の言葉に頷いている。


「そうらしいね。本当なら僕の復活に協力してくれる君に僕の神子の称号を授けたいけれど、それができるレベルで力が戻ってないんだ。許してほしい」


「別に伊邪那岐様の力目当てで復活させるんじゃないんで気にしないで下さい」


「そう言ってくれると助かるよ。それにしても、君は智仁に似てるね」


「ちょっと待った。伊邪那岐様は父さんを知ってるの?」


「知ってるよ。智仁が涼子と伊弉諾神宮に来た時、智仁が僕のいる世界に精神だけ迷い込んだことがあってね。そこで話をして意気投合したんだ」


「マジか。父さん何やってんだよ」


「お義父様ってば神様とも仲良くなれちゃうんだね。藍大もだけど」


「その通り。主も負けてない。影響力ならむしろ勝ってる」


『僕はご主人が一番だよ』


「そんなマスターを支える私達もすごいのよっ」


『(´-∀-)=3ドヤッ』


「ゴルゴンとゼルはちょっと黙っとくです」


「ハハッ、君達は本当に仲が良いね」


 藍大達のやり取りを見て伊邪那岐は楽しそうに笑う。


 仲の良い家族を見て自然と笑ってしまったらしい。


「ぼくたちなかよし!」


「なかよし!」


「「「あい!」」」


「キュル!」


「ワフ!」


 優月達は伊邪那岐の言葉に反応して胸を張った。


「そうだな。我が家はみんな仲良しだもんな」


「食べたいおかずが残り少なくても喧嘩しないもんね~」


『ご飯のリクエスト権も順番だよ』


「テレビも交代でみてるんだからねっ」


「お風呂の順番で揉めたこともないです」


 舞達の発言に子供かとツッコんではいけない。


 家族の不仲なんて最初はつまらないことが原因だったりするのだから。


「ところで、父さんと伊邪那岐様はどんな話で盛り上がったの?」


「嫁談義だね。お互いに自分の奥さんの自慢話をしたんだ」


「もう、照れるのじゃ」


 恥じらう伊邪那美だが、その姿は涼子のものなので藍大から見れば若い両親が惚気ているようにしか見えなかった。


「自慢話だけでそこまで盛り上がるのか」


「僕も人と喋るのは久し振りだったから楽しくなっちゃってね。そうそう、その時に涼子が伊邪那美の巫女の家系、それも一族随一の実力と聞いて驚いたものだよ」


「流石に父さんが伊邪那岐様の巫女の家系だったとかないよな?」


「良い勘してるね。その時調べてみたら、直系じゃないけど傍系だったよ。だからこそ、藍大にいずれ僕の神子の称号を与えるって言ったんだよ。流石に巫女の血筋じゃないのに神子にはできないからさ」


「なん・・・だと・・・」


 藍大は涼子どころか智仁まで神に仕える家系だったと知って驚きを隠せなかった。


 それは今まで黙っていた楠葉と花梨の巫女2人もである。


「何か持ってると思ったが、逢魔の若造は伊邪那岐様を祀る家系だったさね」


「涼子おばさんが智仁おじさんに惹かれたのは運命だったんだ」


「ちなみに、傍系って父さんが巫女の家系を飛び出した訳じゃないよな?」


「智仁じゃなくてその母親、藍大にとっての祖母が家を飛び出したんだ」


「巫女の一族じゃ家出がブームなの?」


 藍大がそう訊きたくなるのも仕方のないことだろう。


「流行ってる訳ないさね。偶然涼子と藍大の祖母が家出しただけさ」


「私はちょっと家出を考えたことあるよ。子供の時に外の世界を見たいって思って」


「そうなのかい!?」


 花梨の突然のカミングアウトに楠葉が驚いた。


 楠葉は花梨がそんなことを考えていたなんて全然知らなかったようだ。


 これ以上話すと楠葉がショックの連続で倒れてしまうと思い、伊邪那岐は困ったように笑みを浮かべながら話題を変える。


「まあまあ。家出話はここまでにしようじゃないか。藍大、君は料理が得意なんだよね?」


「藍大の料理は世界一!」


『僕達の元気の源だよ!』


「吾輩、主君の料理が毎日楽しみである」


「ミーのイチ押しニャ!」


『フィアも!』


「私も!」


「わ、妾も・・・」


 (伊邪那美様がちゃっかり食いしん坊ズに混じってるんだが)


 伊邪那美が恥ずかしそうにボソッというのが聞こえたため、藍大は心の中でやんわりとツッコんだ。


 神が餌付けされて良いのかと思うかもしれないが、力を取り戻す役に立ったので伊邪那美が食いしん坊ズに混じっているのは当然の流れと言えよう。


「伊邪那美もお気に入りなら期待できるね。僕の分もお供えを作ってくれる?」


「伊邪那岐様だけ除け者になんてしないよ。食べるならみんなだ」


「そうか! それは楽しみだ! 早速今日の昼から頼むよ!」


「わかった。あっ、そうだ。サクラ先生、今日もお願いします」


「任されました」


 藍大は料理の話をしたことで宝箱を手に入れたのを思い出し、収納袋からサクラに宝箱を渡した。


 サクラは自分の番があって良かったとホッとした様子で宝箱を開ける。


 その中にあったのはお馴染みの光沢を放つ笊だった。


『ご主人、ミスリル笊だよ』


「これで笊蕎麦とか笊うどんにしたらそれだけで豪華な感じするわ」


「うどんと言えば藍大よ、神麦の種を手に入れたのであろう?」


 伊邪那美はうどんから小麦粉、そして神麦の種と連想して藍大に話を振った。


 先程は恥ずかしがっていたが、伊邪那美は紛れもなく食いしん坊ズの一員である。


「そうだった。メロ、神麦を任せても良いか?」


「はいなのです! 私が美味しい神麦を収穫するです!」


 神麦の種と伊邪那美が口にした途端、目を輝かせたメロが自分に世話を任せてほしいという視線を向けた。


 藍大はそれを察して収納リュックから神麦の種を取り出してメロに託した。


 神麦の種を受け取ったメロが絶対に美味しい神麦を育ててみせると気合を入れた。


「藍大のパン祭りが開催されるかも」


『ナンを作って本格的なカレー祭りも良いよね』


「待て待て。パスタだって良いではないか」


「トロリサーモンのムニエルが食べたいニャ」


『フィア、パンケーキ食べたい』


「原点に戻ってうどんでしょ」


「妾はスイーツが食べたいのじゃ」


「食いしん坊ズの食欲が止まらねえな!」


 そうツッコミを入れる藍大の表情は楽しそうだ。


 作る側としても小麦粉を使ったメニューをあれこれ試してみたいのだろう。


「パパ、おなかすいた~」


「すいたの~」


「「「あい」」」


「キュル~」


「ワフ~」


「よしよし。今から作るから待っててくれ」


 (茂に伊邪那岐様の力が少し戻ったことを報告するのは後で良いか)


 茂への報告よりもお腹を空かせた子供達をどうにかする方が藍大の中の優先度は高い。


 それゆえ、藍大は地下神域から1階に戻って昼食を作り始めた。


 同時刻、DMU本部の仕事部屋で茂がブルッと震えたのは偶然ではないのだろう。

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