第503話 食べられないワイバーンはワイバーンじゃないよ!

 翌日の火曜日、藍大は四聖獣を連れて神宮ダンジョン地下4階にやって来た。


 地下3階と違って階段を下った先はモンスターハウスではなかった。


 それでも、藍大達は気を引き締めざるを得なかった。


「壁の網がバチバチいってるぞ」


『間違って触ったら危険だから真ん中を歩こうね』


「そうしよう」


 このフロアの壁をカバーするように網がかかっており、その網には強力な電気が流れてバチバチと鳴っている。


 ドライザーならば触れてもほとんどどダメージはないと思うが、藍大のように生身の者が触れたら大変危険な罠だった。


 壁には触れないように注意を払いつつ、藍大達は通路の真ん中を歩いて進み始めた。


『ご主人、前から敵が来るよ』


「デーモンマトンLv75。能力値的には秘境ダンジョンのオファニムフレームと同等だな」


 リルが注意を促した直後、藍大は素早くモンスター図鑑でデーモンマトンについて調べた。


 デーモンマトンの外見は槍を持ったアークデーモンそっくりな自動人形であり、近接戦闘も遠距離戦闘もこなすオールラウンドなモンスターだった。


「目には目を、ロボにはロボを。ドライザー、出番だ」


『お任せあれ』


 ドライザーはラストリゾートを大太刀の形状に変えて飛び、デーモンマトンと交差する瞬間に槍ごとデーモンマトンを斬った。


「お見事」


『またつまらぬ物を斬ってしまった』


「ドライザー、そのセリフ何処で知った?」


『ゼルに教わった』


 (やっぱりゼルか。いつの間に仕込んだんだか)


 ドライザーの決め台詞を聞いてゼルが吹き込んだのだと予想したが、藍大の予想通りだった。


「ニャア。ミーもああいうのやりたいニャ」


『フィアもやってみたい』


 ミオとフィアがドライザーみたいに倒してから決め台詞を言ってみたいと言い出した。


 2体もそういうお年頃なのかと藍大はその発言を温かい目で見守った。


 少し先まで進んだ所でデーモンマトンが現れると、ミオが<創水武装アクアアームズ>でレイピアを創り出し、<怒涛乱突ガトリングスラスト>をお見舞いする。


「成敗ニャ!」


 遅れてその場に到着したデーモンマトンを見つけた途端、フィアが<緋炎鳥クリムゾンバード>で焼き切る。


『バーニング!』


 (どっちもゼルが仕込んでるだろ)


 藍大はミオとフィアの決め台詞を聞いてその背後にゼルがいると確信した。


 どちらもゼルがネットで見ていた覚えがあったからである。


 デーモンマトンの死に様はゼルによって決められたと思うと憐れだと言えよう。


 戦利品を回収して先に進むと、電気網がなくなって吊り橋エリアに変わった。


 吊り橋以外に向こう側に渡る手段はないが、その吊り橋がどう見てもおんぼろで藍大達が普通に亘ったら落ちそうだった。


「リルは俺が抱っこするから小さくなってほしい。ドライザーは俺を抱えてくれ。フィアはミオを乗せて飛ぶんだ」


『うん!』


『承知した』


『は~い』


 わざわざあやしい罠に自分から嵌まるような藍大達ではない。


 空を飛んで吊り橋エリアを通過すると、デーモンマトンの集団が後ろから慌てて藍大達を追いかける。


 本来は吊り橋に足を取られた冒険者をデーモンマトンの集団が襲う予定だったのだが、藍大の予想外の攻略法にデーモンマトン達はしまったと焦って飛び出した。


「ガンガン狩るニャ!」


 ミオは<螺旋水線スパイラルジェット>でデーモンマトンを次々に撃墜した。


 リルは<仙術ウィザードリィ>で力尽きたデーモンマトンを盛れなく回収して藍大の収納リュックにしまい込む手伝いをする。


 罠に嵌めようとした側が返り討ちに遭う図の完成である。


 吊り橋エリアを突破した藍大達は広間に足を踏み入れた。


 そこには三面六臂の大型自動人形が空中座禅したまま待っていた。


『来たか』


『待ち侘びたぞ』


『さあ、始めようか』


 空中座禅を解いたそれが腕をブンブン振るって斬撃を飛ばす。


「ドライザー、守りは任せた」


『OKボス』


 ドライザーがラストリゾートで斬撃を弾いている間に藍大は敵のステータスを確認した。


「アシュラフレームLv85。斬撃を飛ばしたりするけど近接戦闘メインだ」


「少しは骨のある奴だと良いニャ」


『フィアも戦うよ!』


「よし、ミオとフィアに早速働いてもらおう。ミオ、奴を<霧満邪路ミストタンジョン>で閉じ込めてくれ」


「はいニャ!」


 ミオが<霧満邪路ミストタンジョン>を発動したことにより、アシュラフレームが霧の迷路に閉じ込められた。


 アシュラフレームはこのままでは不味いと判断して全力で脱出を目指す。


「フィア、迷路全体に<緋炎嵐クリムゾンストーム>だ。燃やし尽くす勢いで良いぞ」


『うん!』


 フィアは藍大の指示通りに<緋炎嵐クリムゾンストーム>を放って霧の迷路を緋炎の嵐で包み込む。


 加減を誤ったサウナの中に閉じ込められたアシュラフレームは徐々に体が自分の意思とは無関係にヒートアップするのを感じた。


 自分の体が自分のものではないようになれば移動すらもままならない。


 アシュラフレームは自ら炎の中に突っ込んでドロドロに熔けてしまった。


『暑いのは嫌だ』


 リルは<天墜碧風ダウンバースト>で周囲一帯を冷やし、アシュラフレームだった金属を波打つ不思議なオブジェとして冷え固めた。


 幸運なことに魔石が剥き出しになっており、その回収の手間が省けた。


「ミオ、この魔石が欲しいか?」


「欲しいニャ」


「よしよし。おあがり」


「ありがとニャ」


 藍大から魔石を貰って飲み込むと、ミオの毛並みが綺麗に整った。


『ミオのアビリティ:<聖半球ホーリードーム>がアビリティ:<聖宮殿ホーリーパレス>に上書きされました』


「宮殿とは洒落てるな」


「そうニャ! ミーは守る時もエレガントなのニャ!」


 ミオが得意気に胸を張るので藍大は優しくその頭を撫でてあげた。


 藍大達が戦利品の回収を済ませて先に進むと、デーモンマトンではないワイバーン型のロボットが接近して来た。


「ワイバーンフレームLv75。遠距離戦闘が得意らしい」


『食べられないワイバーンはワイバーンじゃないよ!』


 リルは<蒼雷審判ジャッジメント>でワイバーンフレームを瞬殺した。


「リル、機嫌を直してくれ。昼に美味しい物作ってあげるから」


『やったね!』


 ワイバーンフレームを見てご機嫌斜めだったリルだが、藍大に美味しい物を作ると言われたことですぐに機嫌が良くなった。


 切り替えができるという点で優秀なのだから、単純なリルを扱いやすいと言ってはいけない。


 その後もワイバーンフレームと何回か戦い、藍大達はボス部屋に辿り着いた。


 ボス部屋は闘技場になっており、その中心には地龍を模したロボットが待機していた。


『外敵捕捉。迎撃開始』


 機械音声が聞こえた直後、そのロボットの口から<紫雷光線サンダーレーザー>が発射された。


「やらせないニャ!」


 ミオが先程会得した<聖宮殿ホーリーパレス>を発動し、雷を帯びた光線が藍大達に届くことはなかった。


 藍大はミオが守ってくれている間に敵についてモンスター図鑑で調べた。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:ドラゴンフレーム

性別:なし Lv:90

-----------------------------------------

HP:2,500/2,500

MP:2,800/3,000

STR:2,100

VIT:2,500

DEX:2,500

AGI:1,000

INT:2,500

LUK:2,300

-----------------------------------------

称号:地下4階フロアボス

アビリティ:<紫雷光線サンダーレーザー><火炎吐息フレイムブレス><氷結吐息フリーズブレス

      <黒剛砲弾アダマントシェル><衝撃咆哮インパクトロア><剛力突撃メガトンブリッツ

      <闘気鎧オーラアーマー><全半減ディバインオール

装備:なし

備考:迎撃態勢

-----------------------------------------



 (何この固定砲台、殺る気満々かよ)


 基本的には魔法系アビリティや咆哮がメインだが、接近されたら<剛力突撃メガトンブリッツ>も使える。


 能力値がもっと高ければシャングリラダンジョンにも通用するだろう。


「撃たれっ放しは主義じゃない。ミオは護衛でリル達は反撃だ」


『『『「了解(ニャ)!」』』』


 ミオが<聖宮殿ホーリーパレス>を解除した瞬間、リルがドラゴンフレームの背後に回って<風精霊砲シルフキャノン>を放つ。


『標的変更。標的・・・』


 ドラゴンフレームはリルの素早い動きを捉えられず、リルに照準を合わせようと集中しているせいで隙だらけになった。


『燃えちゃえ!』


『受けてみろ!』


 フィアの<緋炎吐息クリムゾンブレス>とドライザーの<魔攻城砲マジックキャノン>がドラゴンフレームのHPを削る。


 ドラゴンフレームはリル探しを断念してフィアとドライザーへの反撃に切り替える。


「撃たせるか! リル、首を落とせ!」


『首置いてけ~!』


 リルの<神裂狼爪ラグナロク>がドラゴンフレームの首を切断し、ドラゴンフレームは沈黙した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る