第500話 Just do it

 地下3階に来た藍大達を待ち受けていたのはモンスターハウスだった。


「ぱっと見た感じレッサーデーモンLv60だけだ」


「やってやるニャ!」


 ミオはすぐに<螺旋水線スパイラルジェット>を連射して倒した。


 急いで倒さないとデーモン系モンスターに強いリルがレッサーデーモンの大群を倒してしまうからだ。


『慌てなくても僕は順番を守るのに』


「そう言ってミーが倒すのに苦戦してたら横から掻っ攫うのニャ」


「まあまあ。リルは手伝おうとしてるだけで手柄を横取りするつもりなんてないんだ」


「わかってるニャ。それでもミーは活躍できなくなるのは嫌なのニャ」


「よしよし、ミオはちゃんと役に立ってるから安心して良いぞ」


「ニャア~」


 藍大に優しく頭を撫でられれば、危機感を抱いていたミオの表情も緩んでされるがままになる。


 戦利品の回収を終えた藍大達はモンスターハウスの先へと進む。


 ところが、通路には罠がびっちり仕掛けられていた。


 床と壁、天井から時間差で棘が飛び出したり引っ込んだりする仕組みのようである。


『ご主人、どうする?』


「罠を壊して進もう。ドライザー、やれるな?」


『問題ない』


 ドライザーは藍大に言われて先行し、<創岩武装ロックアームズ>と<二刀流ツーウェイプレイヤー>を駆使して前方にある罠を全て破壊した。


『ボス、任務完了した』


「グッジョブ。見事だったぞ」


 クールに完了報告を済ませたドライザーは藍大に褒められてどことなく得意気である。


 罠のなくなった通路を堂々と進んで行くと、藍大達の前にデーモンLv65の群れが現れた。


『燃やし尽くすよ~』


 フィアが<緋炎嵐クリムゾンストーム>でデーモン達をあっさりと倒す。


 力尽きたデーモン達の死体を回収していると、通路の奥から後続のデーモンの群れがやって来た。


『面倒だね』


 リルは<風精霊砲シルフキャノン>でデーモンの群れを自分達に近づけさせないように倒した。


 その上、リルの攻撃が通過した地点の壁から矢が発射される。


 リルが面倒と言ったのはデーモンの群れではなく矢が壁から発射される罠のことだったようだ。


 今度こそ後続の敵が現れなかったので、藍大達はいくつものデーモンの死体と落ちた矢を回収した。


『ご主人、その矢の鏃には麻痺毒が塗られてるから気を付けてね』


「了解。リルは優秀だな」


「クゥ~ン♪」


 藍大に褒められてリルはすっかりご機嫌である。


 麻痺毒が塗られた矢を未亜が使うことはないが、DMUに売ればそれを欲する人が買うだろう。


 それを理解して罠を壊さず発動させて回収できるように振舞ったリルは優秀に違いない。


 戦利品回収を済ませた藍大達はダンジョン探索を再開した。


 途中で2回レッサーデーモンとデーモンの混成集団に遭遇したが、ミオとフィアがそれぞれ対処してさっさと倒した。


 釣り天井や壁際に設置された火炎放射器等の罠も力を合わせて対処し、気が付けば広間に到着した。


 広間に待機していたのは剣を8本携えたデーモンだった。


「デーモンハイランダーLv70。”掃除屋”だな」


「武器を持った貴様、倒してその武器を頂戴する」


 デーモンハイランダーは剣を1本抜いてドライザーを指名した。


『Just do it』


 ドライザーはデーモンハイランダーに指をクイクイッと動かして先手は譲ってやると伝えた。


「おのれ、舐めた真似を!」


 デーモンハイランダーは頭に血が上りやすい性格らしく、そこそこ素早い単純な刺突を放った。


『効かぬ』


 ドライザーはドラゴバヨネットで刺突を弾いて受け流し、体を縦に回転させて<黒剛尾鞭アダマントテイル>のカウンターをお見舞いした。


 デーモンハイランダーは地面に強く叩きつけられたまま動かなくなった。


 偉そうな物言いだったがLv70程度ではLv100のドライザーに勝てるはずがなかったのだ。


「圧勝だったな。流石はドライザー」


『ありがたき幸せ』


 藍大に褒められてドライザーは誇らしげに応じた。


 そんな中、リルがデーモンハイランダーの8本の剣をじっと見ていた。


「リル、8本の剣に何かあるのか?」


『この広間に変な穴が8つ開いてたんだけど、それぞれ剣を挿してみると隠し部屋が開くみたいだよ』


「見落としがちなギミックだな。やってみようか」


『うん!』


 藍大達はリルの指示に従って手分けして壁際にある穴に剣を挿し込んだ。


 最後の1本を穴に差し込んだ結果、隠し部屋へと続く通路が開かれた。


 通路に罠が仕掛けられていないことを確認してから隠し部屋に移動すると、そこには祠があった。


「リル、これって武の祠?」


『そうだよ』


「そっか。だったらドライザー、ドラコバヨネットを強化しよう」


『よろしいので?』


「俺のパーティーで武器を持ってるのは舞かドライザーだけだ。舞は既にミョルニルを持ってるんだから、ドライザーの武器を強化した方が良いだろ?」


『感謝する』


 ドライザーは藍大に感謝してから武の祠にドラコバヨネットを奉納した。


 武の祠が神聖な力を感じる光に包み込まれ、光が収まると見た目は黒銀のボディに黄色の宝石が柄に嵌め込まれた剣だけが残った。


 銃剣バヨネットだった物が剣に変わってしまったが、そこから感じられる力は以前とは比べ物にならなかった。


『僕が鑑定してあげるね』


 リルがそう言って剣を鑑定した結果、嬉しそうに尻尾を振り始めた。


『ドライザー専用の変幻自在の武器だって! ラストリゾートって名前だよ!』


「何それすごい」


 リルの説明を聞いて藍大は目を丸くした。


 使用者の意思でどんな武器にも変わるとなれば、<武器精通ウエポンマスタリー>を会得しているドライザーと相性が良いだろう。


 それ以外にも破壊不能の効果があり、使い減りしないことはドライザーにとってポイントが高かった。


 ドライザーはラストリゾートを手に取り、剣の姿から銃、刀、槍、斧、弓、ヌンチャク、トンファーとあれこれ形を変えてから満足そうに頷いた。


『感無量だ。ボスに最大級の感謝を』


 ラストリゾートを剣に戻したドライザーは恭しく藍大に頭を下げた。


「ドライザー、頭を上げてくれ。今後ともよろしく頼むぞ」


『お任せあれ』


 ドライザーの新たな武器を手に入れた後、藍大達は隠し部屋から広間に出てそのまま通路の先へと進む。


 ドライザーがラストリゾートを試したいと言うものだから、時々奇襲してくるレッサーデーモンとデーモンは全てドライザーが倒している。


 毎回の戦闘でラストリゾートの形状を変えており、どんな時にどの形状が良いか確かめているようだ。


 ラストリゾートを試している間にボス部屋に到着した。


 ボス部屋には勲章のたくさん付いた軍服を着る女型の悪魔が待ち構えていた。


「よくぞ高難易度の罠を潜り抜けてここまでやって来た」


『あの程度で高難易度なの?』


「あの程度だと? 貴様は我がフロアが簡単だったと申すのか?」


『簡単だったよ』


「なん・・・だと・・・」


 リルとのやり取りでフロアボスは戦慄していた。


 藍大達が無傷でここまで来たことからリルの発言が虚言ではないとわかったからである。


 フロアボスが驚いている間に藍大はモンスター図鑑で敵のステータスを確認した。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:デーモンマーシャル

性別:雌 Lv:75

-----------------------------------------

HP:1,800/1,800

MP:2,400/2,400

STR:0

VIT:1,500

DEX:1,800

AGI:1,500

INT:1,800

LUK:1,200

-----------------------------------------

称号:地下3階フロアボス

アビリティ:<暗黒雨ダークネスレイン><紫雷光線サンダーレーザー><吹雪ブリザード

      <暗黒砲弾ダークネスシェル><紫雷波サンダーウェーブ

      <恐怖霧テラーミスト><全耐性レジストオール

装備:虚栄の軍服

備考:威圧/恐怖

-----------------------------------------



 (近接戦闘に弱そうだな)


「デーモンマーシャルLv75。魔法系アビリティしか攻撃手段はないぞ」


「貴様、我の強さがわかるのか!?」


『ご主人、やっちゃって良い?』


「勿論だ」


「止せ! 来るんじゃない!」


 デーモンマーシャルはリルに近づかれたくないので<紫雷光線サンダーレーザー>と<紫雷波サンダーウェーブ>を乱発するが、リルのAGIが高過ぎて当たる気配はない。


『バイバイ』


 リルは<転移無封クロノスムーブ>を使わずともデーモンマーシャルに接近で来てしまい、<風精霊砲シルフキャノン>を至近距離から放った。


 倒されたデーモンマーシャルの表情はリルの接近に怯える表情だった。


 残念ながら、デーモンマーシャルの魔石程度では四聖獣の誰も欲しがらなかったので、藍大達は戦利品をさっさと回収して神宮ダンジョンから脱出した。

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