第501話 おい、表出ろや
藍大達が帰宅してから中庭でバーベキューの準備をしていると、1時間も経たない内に芹江家3人がやって来た。
3人とは先月生まれた
茂も千春も名前の最後にるが付き、生まれた男の子の
衛が大きくなってからヒャッハーなんて言わないでほしいと茂は願うが、舞と近い距離にいればヒャッハー待ったなしの予感しかしない。
藍大の子供達が衛を一目見ようと衛を抱っこする千春に近づくと、千春はニッコリと笑って優月達に話しかける。
「衛と仲良くしてくれたら嬉しいな」
「「うん!」」
「「「あい!」」」
「香奈とも仲良くして下さいね」
「
乳幼児コミュニティに自分の子も入れてほしいと近付くのは奈美と遥だ。
奈美は香奈を抱っこしており、遥も永遠を抱っこしている。
永遠は遥に似た顔の女の子だが、才能面では健太の血を色濃く継いだのか
「優月と蘭はみんなのお兄ちゃんお姉ちゃんだな」
「おにいちゃん!」
「おねえちゃん!」
藍大に頭を撫でられた優月と蘭は得意気に胸を張っている。
「キュル?」
「ワフ?」
「ああ、ごめん。ユノとルナもみんなと仲良くしてあげてくれ」
「キュルン♪」
「ワフン♪」
自分達の名前が呼ばれていないぞとユノとルナが近づけば、藍大は2体の頭を撫でてよろしくと頼んだ。
他のシャングリラの住人達と”迷宮の狩り人”全員、”魔王様の助っ人”から睦美と泰造、アイボもぼちぼち集まって来た。
「逢魔さん、そろそろやりましょう」
「そうですね。人数も多いですから張り切ってやりましょう」
千春に声をかけられた藍大はバーベキューの準備に戻った。
バーベキューで必要な食材は基本的にシャングリラダンジョン産の物だけを使う。
神宮ダンジョンで新しく発見したオーク派生種の肉も悪くないが、シャングリラダンジョンのモンスターの肉には勝てない。
野菜や米も他所のダンジョンではほとんど見つからないからシャングリラダンジョン産の物を使う。
パンと麺だけはシャングリラダンジョン産の小麦がないので千春の厳選して持って来た品を使うことになっている。
「ここにある食材だけで半年分は『Let's eat モンスター!』の記事が書けそう」
「遥、今は仕事のこと考えるのは止めろよな。折角のオフなんだから」
「茂と違って毎日仕事が楽しいから良いの」
「おい、表出ろや」
遥と茂は従姉弟同士で良い争いを始めた。
遥は週刊ダンジョン内の人気コーナー「Let's eat モンスター!」を担当しており、その仕事は趣味と実益を兼ねているから楽しめている。
その一方、茂の場合は藍大のおかげで珍しい素材や装備を見る楽しみもあるが、胃が痛くなる案件に関わることも多いからオフの時は仕事の話をしたくないらしい。
2人の仲裁は健太と未亜に任せて藍大と千春はガンガン肉を焼き始める。
「良い匂いだよ~」
『待ってました!』
「こういうのは堪らんな!」
「食べまくるニャ!」
『お腹空いたの!』
食いしん坊ズは早く肉が食べたいと訴えた。
「よしよし。順番に焼くから手伝ってくれ」
早くバーベキューを始めたいと食いしん坊ズのメンバー達は自主的に手伝いを行った。
サクラと奈美と未亜、子供達は一緒におにぎりを作り始め、茂は健太と遥、司と一緒に子持ちトークを始めた。
麗奈は晃と一緒に喋っており、”迷宮の狩り人”と”魔王様の助っ人”のメンバーはダンジョンの情報交換や雑談をしていた。
食べ物と飲み物がその場にいる全員に行き渡ると、藍大が乾杯の音頭を取る。
「今日はみんな大いに食べて大いに飲みましょう! 乾杯!」
「「「・・・「「乾杯!」」・・・」」」
このタイミングで長いスピーチをしようものなら食いしん坊ズがしょんぼりするので、藍大の挨拶はいつも短い。
もっとも、その後で傘下のクランメンバーが挨拶しに来るから藍大がゆっくりできるのはずっと後だが。
藍大に挨拶を終えたマルオとローラ、ポーラは奈美に呼ばれた。
「マルオ君達、ちょっとこっちに来て下さい」
「こんにちは、奈美さん。昨日はいきなり押しかけてしまってすみませんでした」
「気にしなくて大丈夫ですよ。私も興味深い薬品アイテムをじっくり調べられて楽しかったですから。はい、これどうぞ」
「これってもしかして?」
「そうです。命の賛歌です」
「・・・ゴッドハンドマジパねえっす」
マルオは奈美が差し出した2つの命の賛歌を見て喜ぶよりも先に驚いた。
決して嬉しくない訳ではないけれど、昨日複製を依頼した物が1日で完成していることに戦慄したのである。
覚醒の丸薬Ⅲ型のように命の賛歌を作るまで時間がかからなかった理由だが、作成に必要な素材がシャングリラ産の素材ばかりだったのだ。
作成に使ったのはオニコーンとデルピュネーの血、カプリビーンズの豆、マンドラゴンの葉の4種類だから、奈美が藍大から薬品アイテム作成用に貰った素材で事足りた。
驚いて口をパクパクしているマルオに代わってローラとポーラが奈美に頭を下げた。
「ありがとう。これでマスターと結婚できる」
「ありがとう。これで主の子供を産める」
「どういたしまして。ちゃんとサクラさんと花梨さんに報告して下さいね。あの2人もこの知らせを待ってるでしょうから」
「すぐに話す。マスター、正気に戻って」
「わかった。主、ぼーっとしないで」
「はっ、ごめん。奈美さん、本当にありがとうございました」
「いえいえ。2人を待たせないよう早く行って下さい」
ローラとポーラに引き摺られながらお礼を言うマルオを見て、奈美は苦笑いしながら答えた。
マルオ達はサクラに命の賛歌ができたことを告げ、サクラと共に102号室へと移動した。
本当は藍大も一緒に行きたかったけれど、主催者が席を外すのは良くないから残っているべきとサクラに言われて中庭に残っている。
102号室に入ったサクラ達は花梨に出迎えられた。
「いらっしゃい」
「ナイスタイミング。伊邪那美様が教えてくれたの?」
「そうだよ。迎えに行っておいでって言われたの」
「伊邪那美様はわかってる」
サクラと花梨は伊邪那美の気遣いに感謝した。
ローラとポーラはそれぞれの手に命の賛歌を持って花梨に向き合った。
「私達は吸血鬼を超える」
「私達は家族になる」
「うん。それを飲んだら私達は家族だよ」
花梨の言葉に頷いてローラとポーラは命の賛歌を一気に飲み干した。
その瞬間、2人の体が眩い光に包まれる。
「め、目がぁぁぁ」
間近でローラとポーラを見守っていた花梨は目を抑えて悶えた。
サクラとマルオはこのような変化に慣れていたため、2人が発光することを予想して手で光を直視しないようにしていたから無事だった。
光が収まった後、ローラとポーラは自分達の体に生じた異変に気付いた。
「お腹空いた」
「外から良い匂いがする」
今までのローラ達にとってマルオの血を吸うのは食事としてではなく、パワーアップの意味合いが強かった。
ところが、命の賛歌の効果で食べ物で栄養を摂る体に変わってお腹が空くようになった。
「おぉ! 成功した! 2人がバーベキューに興味を示してる!」
「バーベキュー参加したいなぁ」
マルオが嬉しそうに言う反面、花梨が羨ましそうにしている。
花梨のしょんぼりした顔は見たくないのでマルオは覚悟を決めた。
「花梨さん、ちょっと待ってて下さい! すぐに戻って来ますから!」
それだけ言ってマルオは102号室から飛び出した。
5分後、マルオが急いで戻って来た。
「武臣君、大丈夫?」
「大丈夫! 花梨さんも一緒にバーベキュー行こう! 逢魔さんから許可貰ったから!」
「本当!? やったぁ!」
花梨がバーベキューに参加できると聞いて幸せそうな笑顔を浮かべた。
マルオ達とサクラが中庭に戻ると、バーベキュー参加者達がその登場を待っていた。
マルオとローラ、ポーラは良いとして、”迷宮の狩り人”と”魔王様の助っ人”のメンバーは花梨を知らないから花梨に注目が集まっている。
そこで藍大が紹介する。
「紹介します。従姉の花梨です」
「そして今日、俺は花梨とローラ、ポーラと結婚します!」
「「「・・・「「えっ!?」」・・・」」」
突然の宣言に中庭が騒然とした。
藍大とマルオの話し合いにより、花梨の存在を明らかにするのはマルオが花梨達と結婚する時だと決まっていた。
本当はもう少し後の予定だったが、ローラとポーラが命の賛歌を飲んだことでスケジュールが早まった訳だ。
衝撃のニュースではあったものの、ここにいるメンバーは皆藍大が起こすあれこれで訓練されている。
それゆえ、花梨はあっさりと受け入れられてそのままバーベキューに参加した。
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