第498話 恋愛の恩人、感謝永遠に
帰って来た藍大は舞とサクラに抱き着かれた。
「藍大、ごめんね~」
「主、不甲斐ない私を許して」
「いきなりどうした?」
「一緒に探索できなかったことを謝りたかったの」
「ダンジョンの力に負けるなんて悔しい」
舞とサクラは神宮ダンジョンによる強制レベルダウンで留守番することになったため、藍大達の帰りを待つ間にネガティブになっていたようだ。
藍大はそんな2人を抱き締め返した。
「こればっかりはしょうがないさ。舞とサクラにはいつも頑張ってもらってるんだから気に病まないでくれ。今日の昼はステーキの食べ比べだぞ」
「ステーキ!? やった~!」
ステーキの食べ比べと聞いて舞はすぐに元気になった。
食いしん坊ズは単純である。
その一方、サクラはまだしょんぼりしていたので藍大は収納リュックから宝箱を取り出した。
「サクラ先生、今日も出番です」
宝箱を見た途端、サクラも自分だってまだ役に立てることはあると気を持ち直した。
「任せて。調理器具で良いの?」
「調理器具で頼む。特に他に欲しい物もないし」
「わかった!」
サクラはすっかりやる気になって宝箱を開け、その中から見慣れた光沢の計量カップを取り出した。
『ミスリル計量カップだって』
「サクラもリルもありがとう。大切に使わせてもらうよ」
「うん! 主の料理楽しみにしてるね!」
『僕も!』
藍大はサクラとリルの頭を撫でてから昼食の準備を始めた。
ワラオークとヌオークをブラドの<
ステーキの食べ比べを始めると、食いしん坊ズの表情が楽しさと真面目な感じが半々になった。
「ワラオークは噛み応えがあるね」
『ヌオークはキマイラのお肉に似てる気がする』
「吾輩はワラオークの方が好きなのだ」
「ミーはヌオーク派ニャ」
『フィアもヌオークの方が好き』
「私はワラオーク! 食べてるって感じがする!」
「妾はこの2種類の肉で合挽ハンバーグも食べてみたいのじゃ」
「「「「『『それだ(ニャ)!』』」」」」
順番に舞、リル、ブラド、ミオ、フィア、花梨、伊邪那美のコメントだ。
伊邪那美のコメントに舞達が頷いて藍大に期待を込めた視線を向ける。
「わかった。夜は合挽ハンバーグを作ろう」
藍大が食いしん坊ズのおねだりに弱いのはいつも通りのことである。
食後の休憩の際に藍大は茂に神宮ダンジョンについて連絡した。
「茂、今は時間ある?」
『胃薬も電話に出る前に飲んだから大丈夫だ。新しいダンジョンは見つかったか?』
「見つけた。伊弉諾神宮近くの池の底にあった。しかも、俺とリル達四聖獣以外は強制的にLv1まで下げられることがわかった」
『・・・胃薬追加だ』
「落ち着け。早まるんじゃない」
『なんで胃薬追加しなきゃならねえ案件持って来るんだよ畜生!』
「それは神宮ダンジョンの”ダンマス”に言ってくれ」
茂が叫びたくなる気持ちもわかるが、藍大の言い分ももっともである。
藍大が意図的に茂の胃を痛めつけようとしている訳ではなく、神宮ダンジョンがそういう仕様なのだから仕方のないことだろう。
『なんだよその前代未聞のダンジョン。藍大達じゃなかったら探索してすぐに死んでるだろ』
「水の底にあるダンジョンは殺意高いよな。海底ダンジョンの時もそうだったけど」
『それな。神宮ダンジョンにはどんなモンスターが出たんだ?』
「1階はゴブリン派生種の新型。地下1階はオーク派生種の新型。ついでに地下1階で宝箱に擬態してたミミックも初めて見るタイプだった。後でそっちに送るわ」
『マジか。楽しみに待ってる』
「おう。楽しみにしててくれ」
茂の胃の調子が持ち直したと声のトーンから判断し、藍大は茂との電話を終わらせた。
そのタイミングで102号室のインターホンが鳴った。
『僕が開けて来るね』
リルがドアを開けて戻って来るとその後ろにはマルオとローラ、ポーラがいた。
「逢魔さん、サクラさんの力を借りたいです!」
「私? あぁ、手に持ってる宝箱のこと?」
サクラはローラが抱えている宝箱を見て納得した。
「どゆこと?」
藍大はサクラが何故納得したのかも含めてピンと来ていなかった。
サクラは藍大に経緯を説明し始めた。
「テイマー系冒険者の強化合宿でポーション風呂に入ったでしょ?」
「入ったな」
「その時に女湯ではローラ達が子供を産めるならマルオと結婚したいって言った」
「ふむふむ」
「白雪がそんなアイテムを手に入れたらローラ達に上げるって言ったのを聞いて、私もできる範囲で力を貸そうと思った。だから、こっそりローラとポーラに宝箱を手に入れたら持って来るように言ったの」
「OK。把握した」
「俺もよくわかってないですけど、2人に宝箱をサクラさんに渡せば子供を産めるようになると言われてここに来ました。もしそうなったら花梨さんとも話をする必要がありますので」
マルオはサクラに宝箱を渡せば万事上手くいくと言われてローラ達について来たが、どうしてそうなるかわからなくとも2人を信じてここにいるのだ。
「主、今回は恋する乙女の力になると思って許してほしい」
「そうだな。ローラ達がマルオを好きなことはわかってるし構わないぞ」
「ありがとう」
サクラは藍大にお礼を言ってからローラが持っている宝箱を開けた。
その中には赤い液体の入った丸底フラスコがあった。
『ご主人、鑑定は任せてね』
「頼んだ」
リルがこの時のために待機していたので、藍大はリルに宝箱の中身の鑑定を依頼した。
『命の賛歌。これを飲んだ肉体を持つアンデッド型モンスターと無機型モンスターは人間と同じように睡眠と飲食、生殖が可能になるんだって』
「流石っす! サクラさんマジパねえっす!」
「ありがとう。いくら感謝しても足りない」
「恋愛の恩人、感謝永遠に」
「別に良いの。私も悲恋は好きじゃないから」
(サクラさんかっけえ)
藍大はサクラの言動に胸を打たれた。
ところが、浮かれてばかりもいられないことに気づいた。
「マルオ、この命の賛歌はローラとポーラに使うつもりか?」
「今のところはそのつもりです。まずは花梨さんにその話をしないといけないですし、薬研に命の賛歌を作れるか訊いてみないといけません」
「よし。だったらできることから始めよう。リル、花梨を呼んで来てくれないか」
『は~い』
リルは<
「武臣君、話があるんだって?」
「実は」
「ちょっと待った」
「ローラ?」
「これは私とポーラの願いがきっかけ。頼むなら私とポーラがするべき」
「同じく」
マルオが花梨から武臣君と呼ばれていることに驚いたが、そんなことで話の腰を折る訳にはいかないので藍大はポーカーフェイスを維持する。
ローラとポーラはこの一件についてはマルオからではなく自分達の言葉で花梨にお願いするべきと判断してマルオが話そうとするのを止めた。
その流れから花梨はこれから何を言われるのか察したらしい。
「ローラとポーラも武臣君と結婚できるようになったんだね?」
「そのきっかけが手に入った」
「あともう1個あれば2人とも結婚できる」
「そっか。だったら答えは決まってるよ。ローラもポーラも私と一緒に武臣君と結婚しちゃおう」
「「良いの?」」
花梨があっさり認めるものだから、ローラもポーラも目をパチパチさせた。
「良いんだよ。だって、藍大達みたいに奥さんが何人いても上手くやれてる夫婦はいるじゃん。ローラとポーラはこれまでずっと武臣君を守ってくれてたでしょ? それなのに結婚できるようになっても認めないなんて酷過ぎるよ。私は2人が一緒に武臣君を支えてくれるなら大歓迎だよ」
「花梨、ありがとう!」
「花梨、良い人!」
ローラとポーラは感極まって花梨に抱き着いた。
置いてけぼりになったマルオは所在なさげにしていたので、藍大がその肩をポンポンと叩いた。
こういう展開では男側にできることはないと経験している藍大だからこそ、今のマルオの気持ちがよくわかったのだ。
マルオも藍大が何も言わなくともフィーリングで察してありのままを受け入れた。
藍大の気持ちを敢えて言葉にするのならば、ようこそこちら側へと言ったところである。
ローラとポーラが落ち着いた後、まずは101号室にいる奈美に命の賛歌を見せて複製を依頼した。
奈美のテンションが上がったのを見てマルオが引いたとだけ記しておこう。
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