第497話 虚しい勝利だニャ

 地下1階は1階と比べて少し暗く、同じ迷宮の内装なのに与える印象が違った。


「さて、このフロアでは何が出て来るかね?」


『僕の鼻はオークに近い臭いを感じ取ってるよ』


「リルの索敵範囲は相変わらず広いな」


『足音がたくさん聞こえるから群れで動いてるのもわかるよ』


「確かに足音はいくつか聞こえるニャ」


「ミオにもわかるのか」


「わかるニャ。リルには敵わなくても耳は良い方なのニャ」


 そんな話をしている途中でオークに似たモンスターの群れが現れた。


 そのオークは熊要素の強いオークであり、顔以外は熊のようだった。


「オークマLv25。武器は使わず爪による攻撃や突撃がメインだ。食べられるぞ」


『やったね! いっぱい狩るよ!』


 リルは嬉しそうにオークマの群れを<風精霊砲シルフキャノン>で蹴散らした。


「ミー達の出番がなくなったニャ」


『フィア達の分も残してよ~』


『ごめんね。うっかり倒しちゃった』


 ミオとフィアが抗議するのでリルは素直に謝った。


 ドライザーが2体と一緒に抗議しなかったのは自分に指示がなかったからだ。


 指示がない以上、ドライザーは藍大の護衛を優先すべきだと判断したのである。


 リルとミオ、フィアの思考が攻撃寄りなのを考慮すれば、ドライザーが藍大の護衛を優先するのはバランス調整の点で丁度良いだろう。


 オークマの回収を済ませて通路を進んで行くと、藍大達は前方にY字の分かれ道を見つけた。


「リル、どっちに行けば良いか教えてくれ」


『良いよ。左からオークマの大群が来てる。さっきよりも数が多いけどこれぐらいへっちゃら』


「右はどうなんだ? 特に何もいないの?」


『そうだよ。歩かせるだけ歩かせてここまで引き返させるんだと思う』


「陰湿なやり方だな。よし、わかった。左に行こう」


 リルの意見を取り入れて藍大達は左の道を進んだ。


 その結果、リルの予想通り早速オークマの大群が左の通路の奥からやって来た。


「それ以上進んだら危ないニャン」


 ミオはオークマの大群が進む道に<起爆泡罠バブルトラップ>を仕掛けた。


 その直後、先頭のオークマ達が1歩踏み出したことで爆発して連鎖的に爆発が生じた。


 爆発によってオークマの大群はどの個体もHPが尽きて物言わぬ死体になった。


「スカッとしたニャ」


「よしよし、よくやったな」


「ニャ~ン♪」


 ミオは藍大に撫でられて嬉しそうに鳴いて応じた。


『ご主人、前から真っ白な毛に包まれたオークが1体来てる』


「ユキオークLv25。氷魔法系アビリティも使うらしい。こいつも食べられるぞ」


『次はフィアがやる~』


 今度は自分の番だとフィアが宣言して<緋炎吐息クリムゾンブレス>であっさり仕留めた。


「一瞬だったな」


『フフン』


「よくやった」


 フィアもリルやミオのように撫でてくれと目で訴えたため、藍大は優しくフィアの頭を撫でてやった。


 フィアは目を細めて藍大のされるがままである。


 オークマの大群とユキオークの死体を回収して進むと、その2種の混成集団が現れて藍大達の通行を妨げる。


「ドライザー、GO!」


『出動する!』


 ドライザーは気合十分という様子で飛んで行き、<黒剛尻鞭アダマントテイル>でまとめて吹き飛ばした。


 ドライザーのSTRから放たれた<黒剛尻鞭アダマントテイル>はオークマもユキオークも防ぐことができず、倒れた2種類のモンスター達はピクリとも動かなかった。


『制圧完了』


「OK。完璧だ」


 戦利品を回収してから先に進み、雑魚モブモンスターと遭遇しては倒すのを繰り返していくと藍大達は薄暗い広間に辿り着いた。


「イヒヒヒヒ」


「気持ち悪い笑い声なのニャ」


「ワヒャヒャヒャヒャ」


「笑い方が変わった。気持ち悪いって言われて変えたのかも」


「それでも気持ち悪いニャ」


「どこが気持ち悪い!?」


「あっ、怒った」


「怒ったのニャ」


 ミオに気持ち悪いと言われ続けて広間にいるモンスターが怒声を上げた。


 敵がキレたところで藍大はササッとモンスター図鑑で敵の正体を調べた。


「ワラオークLv35。笑い方がダサくてキレるとSTRが上がる”掃除屋”だ」


「俺の笑い方がダサいだとぉぉぉぉぉ!?」


『ご主人、あいつ食べられる?』


「オークだから食べられぞ。オークマとユキオークよりも美味しいらしい」


『そうなの? そこのオーク、頭を冷やした方が良いよ』


 リルは<天墜碧風ダウンバースト>でワラオークを凍えさせた。


 ヒートアップした頭を冷やすには明らかにオーバーキルである。


「ワラオークの冷凍保存一丁上がりだな」


『お昼はワラオークのステーキでお願いね』


「わかった。ところで、凍ったワラオークをどかして何やってるんだ?」


『この下に何か隠されてるの。ちょっと待っててね』


 リルは<仙術ウィザードリィ>で凍ったワラオークを移動させてから<神裂狼爪ラグナロク>で床を攻撃した。


 床を切断するとその中にはリルが言った通り宝箱があった。


 しかし、その宝箱の蓋がパカッと空いて中から体が火鼠の玩具が飛び出した。


『甘いよ』


 リルは奇襲に気づいていたようで動じることなく<蒼雷審判ジャッジメント>で宝箱に化けたモンスターを倒した。


 (ヒネズミミックLv30。こいつも新種か)


 神宮ダンジョンに来てから初見のモンスターばかりだったが、今回も新しいモンスターだったので藍大はまだまだ自分の知らないモンスターがいるものだと感心した。


『宝箱じゃなくて残念』


「まあまあ。神宮ダンジョンは冒険者にとってキツい仕様だからしょうがないさ」


『ここの”ダンジョンマスター”は意地悪だね』


「そうだな。ブラドとは大違いだ」


『だよね。ブラドはこんな嫌がらせしないもん』


 ブラドの株が相対的に上がった。


 戦利品全てを回収してから先に進むと、オークマとユキオークの混成集団と一度だけ遭遇したがすぐに倒した。


 そして、藍大達はボス部屋に到着した。


「準備は良いか?」


『ばっちり!』


『問題ない』


「いつでもOKニャ」


『大丈夫~』


 パーティーメンバーの準備が整ったことを確認して藍大達はボス部屋に突入した。


 ボス部屋の中心には二足歩行で鵺を思い出させる外見のオークが待ち構えていた。


 ところが、そのオークはワラオークとは異なって震えていた。


 何故震えているのかわからなかったため、藍大はとりあえずモンスター図鑑でフロアボスについて調べてみた。



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名前:なし 種族:ヌオーク

性別:雄 Lv:40

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HP:420/420

MP:460/460

STR:460

VIT:400

DEX:300

AGI:400

INT:200

LUK:220

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称号:地下1階フロアボス

アビリティ:<麻痺爪パラライズネイル><怪力突撃パワーブリッツ

      <毒噛ポイズンバイト><雷付与サンダーエンチャント

装備:なし

備考:絶望

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 (戦う前から心折れてね?)


 ヌオークの備考欄を見て藍大がそう思うのも無理もない。


 ヌオークは藍大達が自分の部屋に入って来た途端に四聖獣の強さを察して絶望していた。


 本来このダンジョンに入った者はLv1に弱体化する。


 しかしながら、藍大は”伊邪那美の神子”でリル達は”〇聖獣”の称号を持つのでレベルダウンしなかった。


 これがもうダンジョン側からして想定外なのである。


 Lv1ならば1階で袋叩きにすれば全滅させられるはずだったのに、元々のレベルをキープしたまま地下1階のボス部屋まで藍大達が来てしまった。


 ヌオークは絶対に勝ち目のない戦いを強いられて心が折れてしまったのだ。


「次はミーがやるニャ」


「ブヒィ!?」


「安心するニャ。弱者を弄ぶ真似はしないニャ」


 そう言ってミオは<螺旋水線スパイラルジェット>でヌオークを瞬殺した。


 ヌオークがドサリと音を立てて倒れると、ミオはやれやれと首を左右に振った。


「虚しい勝利だニャ」


「そう言うなって。ヌオークはワラオークと同じぐらい美味しいらしいから、ステーキの食べ比べができるぞ」


「それは元気出るニャ!」


 先程までのアンニュイな雰囲気は何処へ行ったのだろうか。


 ミオはすっかり元気を取り戻した。


『留守番してるみんなもステーキの食べ比べって聞いたら元気になるね!』


『フィアもそう思う!』


「それニャ!」


 食いしん坊ズはすっかりステーキの食べ比べで頭がいっぱいになってしまったらしい。


 探索を切り上げるには少し早い時間だったが、藍大も家で留守番している舞達が落ち込んでいないか心配だったので藍大達はダンジョンを脱出して帰宅した。

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