第496話 レベルダウンってそんなのあり?

 朝食から伊邪那美復活を祝った食事で盛り上がった後、藍大は茂に連絡してから淡路島にやって来た。


 藍大に同行するのは舞とサクラ、リル、ゲンである。


 淡路島にやって来たのはここに伊弉諾神宮があるからだ。


 伊邪那美にとっての秘境ダンジョンのように伊邪那岐にまつわるダンジョンがあるのではないかと考え、藍大が伊邪那美にダンジョンがないか探してもらった。


 完全復活した伊邪那美にとって日本は自分の庭のようなものだから、伊邪那岐に関するダンジョンが淡路島の伊弉諾神宮近辺にあることを突き止めた。


 しかし、正確な位置までは流石の伊邪那美にもわからないということで藍大達はひとまず伊弉諾神宮までやって来た。


 夫婦のふるさととも呼ばれる淡路島において、特にご利益のありそうな伊弉諾神宮をついでに参拝するためである。


 ところが、誠に残念なことに伊弉諾神宮は3年前の大地震で倒壊してしまって現在再建中だった。


「再建中なのは仕方ない。リル、この周辺に未発見のダンジョンはありそう?」


『安心してよご主人。もう見つけたから』


「マジかよ。早速案内してくれ」


『任せて~』


 リルの案内で藍大達は敷地内にある放生の神池にやって来た。


「リル、もしかしてダンジョンはこの池の中にある?」


『そうだよ』


「よし、わかった。ここから先は俺とゲンに任せてくれ」


 藍大はそう言ってゲンの力を借り、<液体支配リキッドイズマイン>で池を真っ二つに割った。


 池の底には岩の階段があって地下へと続いていた。


『あったねご主人!』


「リルにかかれば見つからないものなんてないな」


「クゥ~ン♪」


 藍大に撫でてもらってリルはとてもご機嫌である。


 早速、藍大達は池の底にある階段を下って神宮ダンジョンへと侵入した。


 神宮ダンジョンは迷宮と呼ぶに相応しい内装で水没もしていなかったが、入ってすぐに舞とサクラが首を傾げた。


「「あれ?」」


「2人共どうしたんだ?」


「体が鉛みたいに重~い」


「力が抜けてく感じだよ」


『怠い』


「ゲンも? どゆこと?」


『僕は平気だよ』


 リルはいつも通りでも舞とサクラ、ゲンのコンディションが急に悪化したため、藍大はモンスター図鑑でサクラ達従魔のステータスを順番に確認した。


 (レベルダウンってそんなのあり?)


 モンスター図鑑によればサクラとゲンはどちらもLv1になっており、備考欄にはレベルダウンの文字が表示されていた。


 その一方、リルはピンピンしていてステータスに何も異常は見つからなかった。


「サクラとゲンがLv1になってる。リル、舞を鑑定してくれ」


『もうやったよ。サクラとゲンと同じでLv1になってる』


「怠~い」


「レベルダウンがこんなに辛いなんて・・・」


『動きたくない』


 (ゲンはいつも通りな気がする)


 そんなことを考えたものの、主力メンバーの大半がLv1になるのは明らかに異常事態だ。


 どうしたものかと藍大が考えていると、伊邪那美がテレパシーで藍大に話しかけた。


『誠に恐ろしいことに神宮ダンジョンは神聖な称号を持たぬ者の力を削ぐようじゃ』


「マジで?」


『マジなのじゃ。そこで力を発揮できるのは妾の神子である藍大と四聖獣のリル達だけなのじゃ』


「それならいったん戻る。ドライザー達を集めといてくれないか?」


『わかったのじゃ』


 藍大は伊邪那美との会話を終えた後、リルに頼んでシャングリラに戻った。


 そして、舞とサクラ、ゲンに留守番を頼んで四聖獣を引き連れて再度ダンジョンに移動した。


『みんな、今日はゲンがいないから細心の注意を払ってご主人を守るよ』


『勿論だ』


「了解ニャ」


『フィア頑張る!』


 四聖獣筆頭のリルが真面目な表情で告げれば、ドライザー達も真剣に頷いた。


 リルが先頭でミオとフィアが藍大を挟み、ドライザーが藍大の背後を守る鉄壁の布陣でダンジョン探索を再開した。


『ご主人、前方に敵が現れたよ』


 リルが示した方角には貫頭衣を着て手斧を持った茶色いゴブリンのようなモンスターの群れがいた。


「クワセロ!」


「ハラヘッタ!」


「ニク!」


 片言とはいえ雑魚モブモンスターのくせに意味のある言葉を喋るので、藍大はどんなモンスターだろうかとモンスター図鑑で調べた。


 (ガキリンLv10。餓鬼+ゴブリンってところか)


 藍大が調べた結果、前方にいるのはガキリンLv10の群れだった。


 四聖獣がいなかったら早々にLv10のガキリンの群れに囲まれると考えると、このダンジョンはかなり難易度が高いと言えよう。


『食べるのは僕だよ!』


 リルは<風精霊砲シルフキャノン>でガキリンの群れを瞬殺した。


 Lv100のリルがガキリン如きに後れを取るはずないだろう。


「リル、お疲れ様」


『ワフン、これぐらい余裕だよ♪』


「よしよし、愛い奴め」


「次はミーが戦うニャ!」


『フィアも戦いたい!』


「わかった。順番だぞ」


「はいニャ!」


『うん!』


 ミオとフィアは素直に言うことを聞いたので、藍大は2体についてもリルと同じように頭を撫でてあげた。


 それから先はガキリンが何度か待ち伏せや突撃をしてきたけれど、リル達が順番に蹴散らすので探索は順調だ。


 ガキリンだけしか出て来ないのかと思いきや、別の種類も雑魚モブモンスターもちゃんといるらしい。


 そいつは亀の甲羅を背負っており、頭には皿を乗せたゴブリンの外見である。


「カッパリンLv10。頭の皿が弱点だ」


『It's my turn』


 ドライザーはネイティブのような発音でカッパリンの群れに向かって突撃し、ドラコバヨネットでガンガンカッパリンを斬り捨てていく。


 ドライザーのSTRで攻撃すればカッパリンが甲羅に籠ろうとも大した意味はない。


 あっという間にカッパリンの群れを鎮圧してしまった。


「ドライザー、見事な働きだったぞ」


『ありがたき幸せ』


 ドライザーは藍大に褒められて恭しくお辞儀した。


 その先の通路ではガキリンの代わりにカッパリンがちょくちょく出現するようになった。


 もっとも、Lv10程度のモンスターが変わったところで藍大達を止められないなら誤差みたいなものだが。


 サクサク探索していく藍大達が広間に出ると、一つ目マッチョなゴブリンが金棒を担いで待ち構えていた。


「モノリンLv15。”掃除屋”で目が乾燥に弱いってさ」


『フィアがやる!』


「任せた」


『えいっ』


 フィアは<緋炎吐息クリムゾンブレス>でモノリンを黒焦げにした。


 モノリンは金棒でフィアのブレスを防ごうとしたが、そんなのお構いなしに燃やされて力尽きた。


『パパ~、勝ったよ~』


「楽勝だったな。よしよし」


『エヘヘ~』


 フィアが肩に止まっておねだりするように見上げるので、藍大はその期待に応えるように頭を撫でた。


 モノリンの死体を回収した後、リルは壁際に近づいてから後ろに大きくジャンプした。


 何をしているのかと藍大が訪ねようとした時、つい先程までリルがいた場所の壁が倒れて隠し部屋への通路が出現した。


『ワッフン。僕に罠は通じないよ』


「流石はリルだ」


 リルを労ってから藍大達は通路を進んで行った。


 通路の先には広間があり、白い毛皮に覆われた猿のようなゴブリンが待ち構えていた。


「隠し部屋と見せかけてボス部屋だったか?」


『そうかもね』


「サトリンLv20。1階のフロアボスだからボス部屋確定だ。相手の思考を読むから気を付けろ」


「ミーに任せるのニャ」


 ミオはそれだけ言うと<幻影歩行ファントムステップ>でサトリンとの距離を一気に狭めた。


 サトリンはミオが<幻影歩行ファントムステップ>を使ったせいで見失ってしまい、そのせいでミオが次に何をしようとするか見抜けずに慌てる。


 ミオは容赦なく至近距離からサトリンに<螺旋水線スパイラルジェット>を放ち、一撃で戦闘を終わらせた。


「思考を読むなら読まれないぐらい速く動けば良いのニャ」


『僕もその考えに賛成だよ。後の先を取らせないように先の先で倒せば良いよね』


「お仲間なのニャ~」


 ミオはリルが自分に共感してくれたので嬉しそうに笑った。


「ミオ、よくやってくれた」


「やってやったニャ」


 藍大に褒められてミオは得意気である。


 ミオがサトリンを倒したことによって下の階へと続く階段が現れ、いつの間にか部屋の隅に宝箱も現れていた。


「今日は宝箱何個手に入るかな?」


『いっぱいあったら嬉しいね』


「そうだな」


 リルが無邪気に言うと藍大は微笑みながらその通りだと頷いた。


 サトリンの死体と宝箱の回収を済ませると、藍大達は休憩を挟まずに地下1階へと進んだ。

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