第42章 大家さん、新たな神と邂逅する

第495話 一緒にご飯を食べる家族のお願いだもん!

 時は少し流れて10月1日の日曜日の未明、藍大はリルと共に真っ白な空間にいた。


「あれ? うちのベッドで寝てたはず。ここってもしかして・・・」


『ご主人と2年前に来た場所だね』


 日付が変わる前、リルは久し振りに藍大のベッドに潜り込んで寝ていたらしい。


「やっぱりそうか。というかリル、リュカとルナと一緒に寝なくて良かったのか?」


『一緒だよ? 今日はご主人と一緒に寝たくてリュカとルナも一緒にベッドにお邪魔したの』


「起きたらモフモフ祭りになってそうだな」


『駄目だった?』


「駄目な訳あるか。愛い奴め」


「クゥ~ン♪」


 藍大はリルを愛らしく思ってその頭を優しく撫でた。


 そこに伊邪那美が姿を現した。


「ふむ。ここで藍大とリルに会うのは2年ぶりじゃな」


「今日はどうしたんだよ伊邪那美様? 服も巫女服じゃなくて立派な服を着てるじゃん。起きてからじゃ駄目だったのか?」


「藍大達が起きてからでも良かったんじゃが、めでたいことと頼み事があったから早く知らせたくてここに其方達を呼び出してしまったのじゃ」


「めでたいことって遂に完全復活した?」


「その通りじゃ! 妾は完全復活したパーフェクト伊邪那美なのじゃ!」


『おめでとうございます。伊邪那美が完全復活しました』


『伊邪那美を信仰する者全ての能力値に補正がかかります』


「『おめでとう!』」


「うむ! 其方達の今までの頑張りに深く感謝するのじゃ!」


 自分の耳に伊邪那美が完全復活したことを告げる声が届いたため、藍大はリルと一緒にお祝いした。


 伊邪那美は藍大とリルに祝われて嬉しそうに笑みを浮かべている。


「これで伊邪那美様を復活させる依頼は終了か」


「そうじゃな。とは言っても藍大達に指示を出したことなんてほとんどなかったけどのう」


「確かに。あっ、そうだ。伊邪那美様は復活してもシャングリラから出て行くとかないよな?」


「出て行く訳なかろう! シャングリラの神域は住み心地が良いし藍大の食事は美味しいのじゃぞ!? 出て行くなんてとんでもないぞよ!」


『伊邪那美様の気持ちがわかるよ。ご主人の傍って居心地良いもんね』


「そうなのじゃ! 話し相手もいれば食事も美味しいし言うことないぞよ!」


 リルがうんうんと頷いているのを見て伊邪那美も力強く頷いた。


 (リルと伊邪那美様がわかり合ってるじゃん)


 藍大は伊邪那美がリルを撫でるのを眺めつつそんなことを思った。


「今日は伊邪那美様復活を祝ってご馳走作るか」


「ご馳走! 良い響きじゃ!」


『やったね! お祝い最高!』


 伊邪那美もすっかり食いしん坊ズの一員になっているようだ。


「それで、めでたいこと以外に頼み事があるって言ってたな。そっちはどんな内容?」


「そうじゃった。実はのう、妾以外のこの国の神を復活させたいのじゃ」


「どの神を復活させたいんだ?」


「伊邪那岐じゃよ。妾の夫の伊邪那岐じゃ」


「復活させるきっかけでも見つけた?」


「そうなんじゃ。妾が完全復活した際に伊邪那岐の魂の一部が妾の手の中にいつの間にかあったのじゃ。0から神を復活させることは難しくとも0と1は違うのじゃ。妾を復活させてくれた藍大に伊邪那岐を復活させる協力を頼みたいのじゃ」


 今まで全然見当たらなかった夫の復活の可能性を見つけたのならば、伊邪那美が藍大に力を貸してほしいと頼むのも頷ける話だ。


 藍大が何か言うよりも先にリルが口を開いた。


『ご主人、伊邪那美様のお願いを聞いてあげようよ』


「リルはやる気満々だな」


『一緒にご飯を食べる家族のお願いだもん!』


 リルの言い分を聞いて藍大は優しく微笑んだ。


「そうだな。家族は助け合わないとな」


「クゥ~ン♪」


  藍大に撫でられてリルは嬉しそうに鳴いた。


「藍大もリルも感謝するのじゃ! 其方達ならそう言ってくれると信じておったぞ!」


 伊邪那美は藍大とリルが頼み事を引き受けてくれたことが嬉しくて目に涙を浮かべていた。


 自分以外神がいないというのは藍大達がいても伊邪那美に寂しさを感じさせるには十分だった。


 その寂しさを埋められる伊邪那岐を復活させられる確率が上がったならば、伊邪那美が嬉しく思わないはずがない。


 頼み事を引き受けたのは良いとして、藍大は行動方針を決めるために伊邪那美に質問した。


「それで、伊邪那美様にはどうすれば伊邪那岐様が復活できるか心当たりはあるの?」


「ふむ、そうじゃなぁ」


 伊邪那美は唸ると掌を上にして黄色い雲を出現させた。


「それが伊邪那岐様の魂の一部?」


『フワフワしてて美味しそうだね』


 黄色い雲は綿菓子のように見えなくもない。


 そのせいでリルが伊邪那岐の魂に興味を持ってしまった。


「リル、食べてはならぬぞ!?」


『大丈夫だって。食べちゃ駄目だってわかってるから』


「・・・ふぅ。驚かせるのはやめてほしいぞよ」


 伊邪那美は本当に焦ったのか額から一筋の汗が流れ落ちた。


「伊邪那美様、ダンジョンを踏破したり”大災厄”を倒せば復活するのか?」


「それでも回復するであろうが、伊邪那岐の場合は破壊よりも生産の方が復活に近づくはずじゃ」


「生産? 物作りの方がダンジョン探索よりも効率的ってこと?」


「そうじゃな。”楽園の守り人”で例えると藍大の料理やメロの家庭菜園、奈美の調薬は効果があるじゃろう」


「量と質はどちらが重視される?」


「コツコツ作るのも大事じゃが質はもっと大事じゃ。いくら量があってもその質が低過ぎれば伊邪那岐を復活させるのに必要な時間はほとんど縮まらぬ」


「そっちの方が好都合だ」


 量を求められると”楽園の守り人”は生産職のメンバーが少ないからなかなかゴールできない。


 質が重視されるならば、藍大もメロも奈美も作る物は一級品ばかりなので藍大達としてはこちらの方が助かるだろう。


「次の質問だ。伊邪那岐様の復活に貢献できる者の範囲は”楽園の守り人”までか?」


「違うのじゃ。シャングリラの結界と同じように藍大が購入してシャングリラに組み込んだ土地にいる者全ての行動が伊邪那岐の復活に影響するぞよ」


「ということは”楽園の守り人”を除いて”迷宮の狩り人”と”魔王様の助っ人”、立石孤児院、月見商店街に所属する人が影響する訳だ」


「そういうことになるのう。そう考えれば妾の力を取り戻す時よりも協力者はずっと多いのじゃ」


 伊邪那美の力を取り戻す時は、藍大がその場にいた状態でダンジョンを踏破したり”大災厄”を倒す必要があった。


 今回はその縛りが緩くなるのだから、伊邪那美の復活にかかった時間よりも伊邪那岐の復活にかかる時間の方が短いこともあり得る。


「もう一つ質問だ。伊邪那美様が復活しても達成報酬は続く?」


「勿論じゃ。妾は藍大に全部賭けたから藍大の達成報酬アナウンスは今まで通り続くのじゃ」


『伊邪那美様は僕と一緒でご主人のご飯が大好きだから、これからも調理器具がいっぱい手に入るよね?』


「そ、そうじゃな」


 リルに純粋な眼差しで訊ねられてしまえば伊邪那美に否定の選択肢は存在しない。


『やったねご主人!』


「よしよし、本当に愛い奴だ」


「クゥ~ン♪」


 リルは嬉しそうに鳴いて藍大のされるがままとなった。


「起きたらみんなにこの話をするとして、伊邪那美様にとっての秘境ダンジョンみたいなダンジョンが日本のどこかにないか調べてみないとな」


『僕に任せて! 探し物なら僕の出番だよ!』


「そうだな。リルより探し物が上手な奴を見たことがないぞ」


『ワッフン♪』


 リルがドヤ顔を披露すると藍大と伊邪那美がリルを撫でた。


 リルのドヤ顔が愛くるしかったので藍大も伊邪那美も気が付けばリルを撫でていたのだ。


「さて、そろそろ目覚めの時間じゃな。目覚める前に聞いておきたいことはあるかのう?」


「もうそんな時間なんだな。じゃあ、神棚と神鏡について訊きたい。あれはもう必要か?」


「まだ要らぬのじゃ。必要になるのは伊邪那岐が人型になれるぐらい回復してからじゃろう」


「わかった。それなら茂への連絡はある程度事態が進んでからで良いや。茂に頼み事をするのはまだ先のことみたいだし」


「それは茂がかわいそうなのじゃ。舞達に説明したら茂にも説明してあげるのじゃ」


 茂の胃の調子は伊邪那美にすら心配される状態らしい。


 茂は伊邪那美に気遣ってもらえることを喜ぶべきなのか、それとも胃が痛くなる未来の決定に嘆くべきなのか。


 残念なことにこの場に茂はいないので判断がつかない。


 このやり取りを最後に藍大とリルの意識が精神世界から現実世界へと浮上した。

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