第492話 リルがちゃんとお父さんしてる

 真奈が白雪の事務所を訪れていた頃、藍大はシャングリラダンジョンの1階に来ていた。


 同行するのはリルとリュカ、ルナ、ゲンの4体だ。


 今日はルナのレベル上げのためにダンジョンにやって来たのである。


 明日で生後1ヶ月になるルナは既に自由に移動もできればアビリティも使えるようになっている。


 それゆえ、藍大はルナに狩りを教えるついでにマディドールの泥を回収するべくシャングリラダンジョンにやって来た。


『ルナ、ダンジョンデビューだからって無茶しなくて良いからね』


「いざとなったら私とリルがいるから安心しなさい」


「ワフ!」


 リルとリュカはルナが余計なプレッシャーを感じさせまいと声をかける。


 今日のリュカはルナの戦闘を万全な状態フォローすることを考慮しているため、戦い慣れている幼女獣人形態だ。


 もっとも、シャングリラダンジョンの1階で出現するモンスターに対して今の藍大達はどう考えても過剰戦力なのだが。


「クゥン?」


 ルナは硬い泥のマネキンがダンジョンの壁に背中を張り付けながらゆっくりと自分達の方に向かって来るのを見つけて首を傾げた。


『あれがマディドールだよ。動きが鈍いからよく狙って攻撃してごらん』


「ワフ!」


 ブゥンという音が聞こえた直後、マディドールの右腕が切断されて地面に落ちた。


 ルナの<音波刃ソニックエッジ>がマディドールの右腕を切断したのだ。


「大した切れ味だ」


「ワフン!」


 藍大が感心した様子でコメントすると、もう一丁とルナが機嫌を良くして追撃を仕掛ける。


 2発目の<音波刃ソニックエッジ>がマディドールの首を刎ね、マディドールは形を保てずドロドロの状態になって崩れ落ちた。


 ルナがマディドールを倒したことにより、伊邪那美の声がルナのレベルアップを藍大の耳に届ける。


『ルナがLv2になりました』


『ルナがLv3になりました』


「ワフン!」


『よくできたね! 流石は僕の子だよ!』


「ルナは天才なのよ!」


「クゥン♪」


 リルとリュカが自分とマディドールの戦闘を見て褒めてくれたため、ルナはとても嬉しそうに鳴いた。


 藍大もルナを褒めてあげたかったのだが、最初は親であるリルとリュカが褒めるべきだと思ってリル達が一通り褒めるのを待ってからルナを抱え上げた。


「ルナ、初戦闘なのにパーフェクトじゃないか。偉いぞ」


「クゥン♪」


 ルナはニパッと笑って藍大に甘えるように頬擦りした。


 両親リルとリュカに褒めてもらうのも嬉しいけれど、従魔として主人藍大に褒めてもらうのもまた同じぐらい嬉しいからである。


 マディドールの泥を回収して先に進むと、今度は3体のマディドールがゆっくり三体四脚しながら藍大達の方に向かって来た。


「クゥン?」


 ルナは藍大達に攻撃して良いのと確かめるように首を傾げた。


「ルナ、先手必勝だよ。次は<竜巻トルネード>を使ってみるんだ」


「ワフ!」


 藍大に優しく指示を出されたルナは力強く頷いて<竜巻トルネード>を発動した。


 通路に竜巻が発生したと思えば、マディドール達が竜巻にやられて肩を組んでいた状態から離れ離れになり、渦巻く風によってダメージを少しずつ蓄積した結果HPが尽きた。


 べちゃりという音が時間差で3回聞こえ、マディドール達は美容に良い泥になり果てた。


『ルナがLv4になりました』


『ルナがLv5になりました』


『ルナがLv6になりました』


『ルナがLv7になりました』


「おぉ、一気にレベルアップしたじゃないか。偉いぞ」


「ワフン♪」


 ルナは藍大に頭を撫でてもらったことで得意気に鳴いて応じた。


『ルナの攻撃の筋が良いね』


「うん、ちゃんと真ん中のマディドールを中心に<竜巻トルネード>を使えてた」


 リルとリュカはルナの攻撃が想定よりも効率的だったため、嬉しそうに評価していた。


 藍大達は通路を進んで行く途中、天井に張り付きながらヤモリのように接近してくる個体や壁際で横向きに倒れて擬態しているつもりの個体と遭遇したが、ルナが冷静に対処して討ち漏らしなく先へと進んだ。


 自分の脚に絡まって転んだ個体を倒すと、再びルナのレベルアップを告げる伊邪那美の声が藍大の耳に届いた。


『ルナがLv10になりました』


『ルナのアビリティ:<音波刃ソニックエッジ>がアビリティ:<三日月刃クレセントエッジ>に上書きされました』


 (<風爪ウインドネイル>からじゃなくても<三日月刃クレセントエッジ>って会得できるのか)


 リルが<三日月刃クレセントエッジ>を会得した時は<風爪ウインドネイル>が上書きされたことを覚えていたため、藍大はまだまだアビリティツリーについてわからないことが多いと感じた。


 ルナが<三日月刃クレセントエッジ>を会得したことを知ってリルがルナを褒める。


『ルナは強い子だね。もう<三日月刃クレセントエッジ>も会得しちゃったんだ』


「ワフン」


「ルナの将来が楽しみだね」


「クゥン♪」


 リュカに頭を撫でられてルナは甘える。


 そんな時、通路の奥から大きくて丸い焦げ茶色の岩がゴロゴロと転がって来た。


「随分と元気なマッシブロックだな」


『ご主人、あの勢いだとルナじゃ止められないからサポートするね』


「そうだな。親子の力でマッシブロックを倒してくれ」


『うん! ルナ、僕があいつの動きを止めたから攻撃して!』


「ワ、ワフ・・・」


 リルが転がって来たマッシブロックを<仙術ウィザードリィ>でピタリと止めたので、お父さんってすごいとルナは固まってしまった。


「ルナ、リルがマッシブロックの攻撃を止めてるの。攻撃しないと駄目よ?」


「ワフ!」


 リュカに優しく指摘されてブンブン首を振って気を引き締め、ルナは先程会得した<三日月刃クレセントエッジ>を放った。


 ルナのSTRではマッシブロックに僅かばかりしかダメージを与えられない。


 それでも、ルナは同じ位置を徹底的に<三日月刃クレセントエッジ>で削り続けてどうにかマッシブロックを倒すことに成功した。


『ルナがLv11になりました』


『ルナがLv12になりました』


『ルナがLv13になりました』


『ルナがLv14になりました』


「ク、クゥン・・・」


『よく頑張ったね! ルナは強い子だ!』


「最後まで諦めずに頑張ったね!」


「クゥン♪」


 リルとリュカがどうにか倒せたと疲れた表情を見せるルナを労うと、ルナはリルとリュカ頑張ったよと甘える。


 (後でマッシブロック戦の動画を舞達に見せてあげよう)


 藍大はリル&ルナペアがマッシブロックと戦っているところをスマホで動画として撮影していた。


 ルナが諦めずに頑張ってマッシブロックを倒した姿を見て感動したため、この感動を舞達と共有したくなったのである。


 動画の撮影を終えて藍大は1人で魔石を割れたマッシブロックの死体から回収し、死体は収納袋にしまった。


 手に持った魔石をルナに近づけてみると、ルナはプイと顔を横に向けた。


 ラプラスとデルピュネの魔石を取り込んで上質な魔石を知ってしまったことにより、マッシブロックの魔石をショボいと思ってしまったのだ。


「上質な魔石を知ったせいでマッシブロックの魔石に見向きもしないか。しまったな・・・」


 藍大がどうしたものかと考えると、ルナが顔を向けた先にいるリルは首を横に振った。


『ルナ、確かにあの2つの魔石は特別だったけどこの魔石も十分特別だよ。だってあんなに頑張って倒したでしょ?』


「・・・ワフ!」


 ルナはリルの言い分を聞いてそうだったと頷いて藍大の手から魔石を飲み込んだ。


『ルナのアビリティ:<竜巻トルネード>がアビリティ:<刃竜巻エッジトルネード>に上書きされました』


 (リルがちゃんとお父さんしてる)


 時に愛らしく時に凛々しいリルが父親として子供に言い聞かせているのを見ると、藍大は感慨深い気持ちになった。


 ルナが強いアビリティを会得したことよりも、藍大はリルの成長に気を取られていた。


 ルナのMPが残り僅かでフロアボスと戦うには心許なかったから、ルナのデビュー戦はここまでにしてダンジョンを脱出した。


 藍大達が102号室に戻って来ると、舞達が温かくルナを出迎えた。


「ルナちゃんお疲れ様~」


「ルナが戦士の顔になった。頑張ったね」


「よくやったのよっ」


「マスターのご飯を食べて昼はゆっくり休むですよ」


『(*屮°∀°*)屮ワッショイワッショーイ!!』


「ワフ!」


 ルナは舞達に出迎えられて頑張ったよと報告するように一鳴きした。


 そのタイミングで藍大のスマホに真奈から電話がかかってきた。


『もしもし、逢魔さん? 今大丈夫ですか?』


「長電話じゃなければ大丈夫ですがどうしましたか?」


『モフモフカフェのオープンが明後日の月曜日に決まりました。つきましてはアドバイスしていただいたお礼に招待させていただきたく連絡しました』


「おめでとうございます。お祝いを持って14日に伺いますね」


『ありがとうございます。詳細はメールでお送りしますのでご確認下さい』


「わかりました。それでは」


 (真奈さんの熱意半端ねえわ)


 相談に来てから1週間と経たずにモフモフカフェをオープンさせる真奈の手腕に藍大はただただ驚かされた。

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