第491話 困った時の逢魔さんですね
8月12日の土曜日、真奈は朝から”ホワイトスノウ”のクランハウス兼事務所を訪問していた。
その目的は鳥教士の白雪に会うためだった。
真奈が応接室で待っていると、白雪が小走りで応接室にやって来た。
「真奈さん、お待たせしてしまってすみません」
「いえいえ。こちらこそ忙しいのに時間を貰ってしまってすみません」
どちらもオラオラしたタイプではないので白雪も真奈もお互いに頭を下げた。
謝り合戦をして時間を無駄にするのは勿体ないので、真奈は話がしやすくなるようにアイスブレイクに入った。
「とりつかれた女、見ましたよ。鳥教士の設定を活かした良い作品でした」
「見て頂いてたんですね。ありがとうございます。そう言ってもらえると嬉しいです」
とりつかれた女とは冒険者の女性が主人公の復讐をテーマにした映画だ。
主人公が所属するパーティーでダンジョンを探索している時に”掃除屋”に遭遇してしまい、パーティーメンバーが一番若い彼女だけでも逃がそうと応戦する。
しかし、パーティーメンバーの力は”掃除屋”には全然及ばずあっさりやられ、逃がしてもらえた彼女は転んだ拍子に隠し部屋に入る。
彼女は隠し部屋で宝箱を発見してそこから転職の丸薬(鳥教士)を手に入れ、”掃除屋”がいないのを確認してからダンジョンを脱出する。
鳥教士に転職した主人公はパーティーメンバーを殺した”掃除屋”への復讐を果たすべく、取り憑かれたように来る日も来る日もダンジョンに挑む。
従魔と共に”掃除屋”を倒した主人公はパーティーメンバーの墓で復讐完了の報告をした後、行方をくらまして終わりを迎える。
主人公を演じたのは白雪であり、白雪の従魔もこの映画に出演している。
戦闘シーンが迫力満点でとりつかれた女は現在注目度NO.1の映画となった。
「戦闘シーンって全部じゃないですけど実際にモンスターと戦ってましたよね?」
「監督がリアリティを追求した結果、最初の私以外全滅するシーン以外は本物のモンスターと戦いました」
「監督も白雪さんの従魔はともかく敵となるモンスターに指示は出せないでしょうから撮影は大変だったんじゃないですか?」
「そこはもうひたすら戦って戦闘シーンを撮り溜めて、良い感じに繋いだそうですよ」
「なるほど。戦う
「そういうことです」
白雪の説明を聞いて真奈が感心し、白雪も真奈が口から出まかせではなく本当に自分の出演作品を見てもらえたのだと嬉しく思った。
「もっと映画の話をしていたいところですが、白雪さんもお忙しいと思うので本題に入らせてもらいます。白雪さん、鳥教士の力を貸してもらえませんか?」
「私の
「はい。実は、”レッドスター”は町田ダンジョンの近くでモフモフカフェを開こうとしてます。そこに白雪さんにテイムしてもらったモンスターをレンタルしていただきたいです」
「そんなことを計画されてるんですね。どうしてモフモフカフェを開こうと考えたんですか?」
白雪の質問は協力するにあたって至極当然のものだ。
なんでモフモフカフェを開こうとするのか訊かなければ手伝うか否かの判断ができないだろう。
「白雪さんはクダオの一件をどう思いますか?」
「クダオ? あぁ、”ダンジョンマスター”になった2代目ジェラーリのことですね。あれは虚しい事件でした」
いつかやると思っていましたと言わないだけの分別が白雪にはあった。
突き詰めてしまえば、クダオがアリオクに利用されて食い殺されたのもクダオの自業自得である。
人間が”ダンジョンマスター”になった場合、その地位がある限りクダオはダンジョンの外に出ることができない。
ブラドやポーラ、ルシウスのように分体を創り出せないので外のことは自分だけでは全くわからないのだ。
かと言って”リア充を目指し隊”を強制退会させられた状態ではダンジョンの外にすぐに連絡できる者もおらず、クダオは助けを呼ぶこともできずにアリオクに食い殺された。
クダオが”ダンジョンマスター”になって手に入れられたのはスクーグスローと黒部ダンジョンでの一時の天下だけであり、死んでしまえば何も残らないものだった。
現在の黒部ダンジョンは”魔王様の助っ人”の管理課にあり、”リア充を目指し隊”にも何も残っていない。
これを虚しいと言わず何を虚しいと表現するのだという事件だと言えよう。
「私はモフラー冒険者の誰かが第二第三のクダオになってしまうことを恐れてます。同志がそうならないようにするためには、モフモフと安全に触れ合える癒しの空間が必要なんです」
「それでモフモフカフェなんですね?」
「その通りです。ガス抜きすればモフラー冒険者がクダオの二の舞になることはないと考えました。この件は逢魔さんにも相談しており、後は鳥型従魔をレンタルできれば準備もほぼ完了です」
「鳥型従魔ですか? 真奈さんがテイムできないのはわかりますが、モフモフしてる鳥型モンスターっていましたっけ?」
白雪は鳥型モンスターについて隙間時間に勉強しているが、何がモフモフに該当するのかまでピンと来ていないから首を傾げた。
「コッコベビーとフワトリッチ、モフロウがいるじゃないですか」
「不勉強ですみません。その辺りのモンスターはまだ見たことがなかったです」
「謝ることじゃないですよ。私こそ知ってて当然みたいな言い方になってしまって失礼しました」
「私が今テイムしてるのは3体だけなんです。今は次に何をテイムするか悩んでる所でして」
「ヨナとルーは知ってますが、あと1体はどのモンスターをテイムされたんですか?」
テイマー系冒険者の強化合宿ではヨナとルーの話を聞いていたけれど、3体目の鳥型モンスターをテイムした話はなかった。
それゆえ、真奈は白雪がどんなモンスターを新たにテイムしたのか気になって訊ねた。
「ダマエッグのドリーです。逢魔さんにVITの高い鳥型モンスターについて相談したら、ダマエッグとダマトリスの存在を教えてもらいました。ダマエッグから育てようと思って5日前にテイムしたんですよ」
「困った時の逢魔さんですね」
「恥ずかしながらそうなんです。私みたいに素人に毛が生えたようなテイマー系冒険者が悩むより、逢魔さんに訊ねた方が悩んでた時間を有効に使えますから」
白雪だって最初から藍大に丸投げするつもりはないけれど、ざっと調べても自分が求める鳥型モンスターを見つけられなかったので藍大に訊ねた。
クランメンバーにテイムするのに丁度良いモンスターの情報は集めてもらっていたが、VITの高い鳥型モンスターはなかなか存在しなかった。
だからこそ、多くのモンスターを知る藍大にアドバイスを貰った訳だ。
「逢魔さんはテイマー系冒険者絡みの話題の時、しっかり相談に乗ってくれますからね」
「ありがたい限りです。ゴルゴンさんが私の映画に興味津々だったそうなので、お礼としてサイン入りでとりつかれた女のサイン入りグッズを差し上げました」
「宣伝とお礼を兼ねるなんてやるじゃないですか」
真奈と白雪が微笑み合う。
白雪は脱線してしまった話の軌道を修正した。
「恐縮です。レンタル従魔の件ですが、私も協力しましょう。モフモフカフェが上手くいくようでしたら、”ホワイトスノウ”でも鳥型モンスターを組み込んだ事業を始める際の参考にさせていただきますが構いませんよね?」
「勿論です。レンタル料についてはテイムしたモンスターを見て要相談ということでよろしいですか?」
「わかりました。この後まだ時間がありますから下北沢ダンジョンでテイムしましょう。真奈さんも一緒に行きませんか?」
「是非同行させていただきます。モフモフカフェのオーナーとして、働いてもらう従魔は真っ先にチェックしておきたいですから」
真奈は白雪からモフモフカフェ開業の協力を取り付けた後、そのまま下北沢ダンジョンに向かった。
真奈の厳正なる審査により、白雪がテイムしたコッコベビー3体をレンタルすることが決まった。
カフェ専属の獣型のモンスターは既に真奈がテイムしていたため、モフモフカフェを開業するための準備が整った。
全てのピースが揃ったことにより、14日の月曜日から開業できる段取りがつくと真奈は藍大に連絡を入れた。
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