第488話 お前達の血は何味だ!?
睦美達は4階のフロアボスであるアベンジャーを倒して5階にやって来た。
アベンジャーとはタキシムが進化したモンスターであり、MPが尽きない限り何度でも復活する。
睦美達が先程倒したアベンジャーはかなりしぶとく、5回も復活したところから相当タフな個体だったと言えよう。
2階~4階も1階と同様に空を飛んで進んだことで移動時間は歩いて探索するよりもずっと短縮できた。
1階はなかなか実入りのない階だったが、2階~4階も似たり寄ったりだった。
クダオはよっぽど冒険者に良い思いをさせたくないのだろう。
事前情報によれば5階が最上階なので、何事もなければ目の前の扉の奥で話し合いをするだけで済むが、話し合いだけで解決するとは限らない。
睦美はサモナーズホーンを手に握り、ルシウスが扉を開けた奥で戦わなければならなくなった時にいつでもサリバンを召喚できるように準備ばっちりだ。
いざ最上階のボス部屋に入ってみると、生活感のない部屋中にギザ歯で露出度の高い雌の悪魔型のモンスターだけが待機していた。
「クダオがいない? それにスクーグスローもどこへ?」
「あいつ等なら私がとっくに食っちまった。男の心に宿る嫉妬や復讐心は甘美だったぞ」
「お前は何者だ?」
「新たな”ダンジョンマスター”のアリオクさ。よろしくな!」
アリオクが睦美達に手をかざした瞬間、掌がぱっくりと割れてギザ歯の口が現れた。
掌の口から木の根が吐き出されて睦美を拘束しようと勢いに乗って飛び出す。
『無駄』
ルシウスが睦美の前に立ってオファムトスピアで迫り来る木の根を斬り伏せた。
その間に睦美はサモナーズホーンを吹き終えていた。
「【
睦美が呼び出したことでサリバンが室内に出現する。
「硬そうだ。私には関係ないけどな」
その瞬間、ここに至るまでに睦美達がこのダンジョンで倒したはずのモンスターの武器が掌の口から次々にサリバンへと射出される。
「サリバン、薙ぎ払え!」
サリバンは睦美の指示に従って<
睦美は戦うだけでなく情報収集も行う。
「なんでクダオを殺したのかしら? それにスクーグスローもどうして殺した?」
「私がダンジョンを支配するのに邪魔だったから利用した。生かしといても価値がなくなったら食べて終わりにした」
「なるほど。テイマー系冒険者じゃない者がモンスターを従えようとするとそんな弊害まであるのね」
「おしゃべりはここまでだ。お前達も私の糧となれ!」
アリオクが手を上に掲げると隕石が睦美達の頭上から墜落し始めた。
「サリバン、対応しなさい! ルシウス、援護頼むわよ!」
『承知』
サリバンが<
「お前達の血は何味だ!?」
『金属』
「ルシウス、そんなの真面目に答えなくて良いのよ!」
ルシウスはシールドバッシュしながらアリオクの質問に回答する。
アリオクにオファムトシールドがぶつかってアリオクが麻痺状態になった。
それをチャンスだと睦美は<
体が痺れて動きの鈍ったアリオクにラッシュが悉く命中し、睦美の最後の一撃で部屋の壁際まで吹き飛ばされる。
「まだまだ終わらないわよ!」
<
欲張って<
その判断は正しくてアリオクは睦美の攻撃をまともに喰らった。
しかし、アリオクの鎖骨の辺りにその攻撃が集まって吸収されたらしく、アリオクはピンピンしていた。
鎖骨の辺りには両手の掌に現れたギザ歯の口が出現し、そこからアリオクは睦美の攻撃を吸収したのだ。
そして、麻痺状態から復帰したアリオクは吸収した攻撃を睦美にそのまま返した。
「甘いわ!」
睦美は<
「面白い!」
アリオクは右手の口で吸収した攻撃を左手の口から吐き出して睦美に返す。
このやり取りは繰り返されて当たれば大ダメージのエネルギー弾のラリーが続く。
だがちょっと待ってほしい。
今この場にいるのは睦美とアリオクだけではない。
ルシウスとサリバンもいるのだ。
ルシウスとサリバンがそれぞれ<
アリオクは睦美とルシウス、サリバンの攻撃全てを吸収することはできず、1つの攻撃に命中した直後に続けて残り2つの攻撃にも命中した。
体がボロボロになったアリオクに対し、ルシウスがダメ押しのシールドバッシュを喰らって地面に倒れた。
倒れたアリオクはピクリとも動かなくなり、ルシウスがとどめを刺したことがわかった。
「ルシウスもサリバンもお疲れ様。私に気を取られてたアリオクのペースを崩してくれて感謝するわ」
『掌握』
「黒部ダンジョンを掌握したの?」
『左様』
睦美がルシウスとサリバンを労っていると、ルシウスが黒部ダンジョンを掌握したと告げて来た。
本当に掌握できたのかルシウスのステータスを確かめてみたところ、ルシウスの言う通りで狛江ダンジョンだけでなく黒部ダンジョンを掌握することに成功していた。
「ブラドさんみたいに複数のダンジョンを管理できるなんてやるじゃない」
『当然』
ルシウスに表情はないけれど、どことなく得意気な雰囲気が滲み出ていた。
アリオクの死体を撮影してから回収し、睦美は黒部ダンジョンでやるべきことをすべて終えたのでルシウスとサリバンを送還して黒部ダンジョンを脱出した。
また、今回の探索について報告するべくシャングリラまで飛んで帰った。
シャングリラに到着すると、ヴァーチェとキュリーのアビリティを解除して送還して102号室に向かった。
「魔王様、ご依頼いただいた件について報告しに参りました」
「どうでしたか?」
「結論から申し上げますと、クダオもスクーグスローも既にこの世にはおりませんでした。アリオクというモンスターがクダオから”ダンジョンマスター”の地位を殺して奪ったそうです。ルシウスがアリオクにとどめを刺したため、現在の黒部ダンジョンの”ダンジョンマスター”はルシウスです」
「これがテイマー系冒険者と人間の”ダンジョンマスター”の決定的な違いのようですね」
「おっしゃる通りです。アリオクはクダオを利用するだけ利用して要らなくなったら食べたと言っておりました。討伐して来たのですが、アリオクの死体を確認なさいますか? 写真に収めております」
「見せて下さい」
「わかりました。・・・こちらです」
睦美はアリオクの全体を撮った写真を藍大に見せた。
「こいつがクダオを食べて黒部ダンジョンを乗っ取ってたんですね」
「そうみたいです。両手の掌の口と鎖骨の口から魔法系アビリティを吸収したり吐き出したりしました」
「厄介なモンスターだったんですね。まさか偵察でここまでやってくれるとは思ってませんでしたよ。ありがとうございました」
「いえいえ。魔王様のお役に立てたのならそれに勝る喜びはありません。収納袋をお返しいたします」
「そう言ってもらえると嬉しいです。お貸しした収納袋の中の戦利品の売却代金は”魔王様の助っ人”の口座に振り込むよう茂に伝えておきます」
睦美の献身的な発言に心の中で少し引いた藍大だったが、それを顔に出さないように振舞った。
その後、睦美を見送ってから藍大は茂に連絡した。
「もしもし? 茂、今大丈夫か?」
『問題ない。何かあったか?』
「さっき神田さんが黒部ダムを制圧して来た。クダオとスクーグスローはアリオクってモンスターに利用されて殺されてたらしいぞ」
『マジかよ。やっぱり人間に”ダンジョンマスター”は無理だってことか』
「そのようだな。似たような事件が起きないようにDMUから注意喚起した方が良いんじゃね?」
『そうする。アリオクの死体はあるのか?』
注意喚起する際にリアリティを出す必要があるので、アリオクの死体があった方が助かると思って茂は訊ねた。
「あるぞ。この後そっちに送るわ。もしかしたらアリオクの胃袋で収納袋を作れるかもしれないぜ」
『よろしく頼む。了解。職人班にも連絡しとくわ。もしも収納袋ができたら神田さんに特別価格で売るようにも言っとく』
「そうしてくれると助かる」
藍大は電話を切ってすぐにDMU運輸経由で睦美が手に入れた戦利品をDMUに送った。
クダオが”ダンジョンマスター”の立場を乗っ取られて殺されたという事実は今日の夕方のニュースで持ち切りとなった。
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