【Web版】大家さん、従魔士に覚醒したってよ(書籍タイトル:俺のアパートがダンジョンになったので、最強モンスターを従えて楽々攻略 大家さん、従魔士に覚醒したってよ)
第489話 モフ充力なんて未知の単位を出さないで下さい
第489話 モフ充力なんて未知の単位を出さないで下さい
8月10日の木曜日、午後2時にシャングリラ102号室には来客の予定があった。
『リュカとルナは部屋に隠れて! 天敵が来るから部屋の外に出ちゃ駄目だよ!』
「わかった! ルナ、行くよ!」
「ワフ!」
(リュカとルナがいたら大変なことになるもんな)
リルがリュカとルナを天敵から守ろうとするのを見て藍大は困ったように笑った。
リュカとルナの避難が済んだ直後にインターホンが鳴り、その後入って来たのは真奈とガルフだった。
「リル君、こんにちは! ルナちゃんと会いたいです!」
『こんにちは! お断りだよ!』
「うぅ、ルナちゃん見たかったです」
リルは挨拶を返したうえできっぱりと真奈の頼みを断った。
ルナを恐ろしいモフラーと会わせる訳にはいかないからだ。
しょんぼりする主人を放置してガルフはリルに向かってペコリと頭を下げる。
「アォン」
『ありがとう』
ガルフはリルにルナが無事に生まれたことのお祝いを述べたらしく、リルはそんなガルフにお礼を言った。
藍大はリルの負担を少しでも軽減するべく真奈に座ってもらって今日やって来た用件が何か確認する。
「今日はどういった用件でこちらに来たんですか? まさか、ルナを一目見ようとしただけではないでしょう?」
「ルナちゃんを見たいと思って来たのもそうですが、逢魔さんに相談があって来ました」
「相談ってダンジョン絡みですか?」
「そうと言えばそうですし、そうじゃないと言えばそうじゃありません」
真奈はどう説明したら良いものかと悩んでいる訳ではなく、少し勿体ぶっているようだった。
「町田ダンジョンでトラブルでも起きました?」
「今のところ逢魔さんとブラドさんのおかげで順調です。逢魔さん、クダオの件でDMUが注意喚起を行いましたよね。あれが関係してます」
DMUの注意喚起とは、クダオがアリオクに利用されて”ダンジョンマスター”の地位を乗っ取られて食い殺されたことを受けて人間が”ダンジョンマスター”になるのは止めるようにと冒険者に文書を出したことだ。
上手くダンジョンの運営ができればブラドのように成功者として有名になれるが、今回の一件で人間が”ダンジョンマスター”になる危険性が明らかになった。
それ以前にクダオは”リア充を目指し隊”から強制的に退会させられており、元々あったクランの人間関係にも罅が入っている。
クダオがDPを消費して召喚したモンスターに殺されたと知れば、当面は馬鹿な事を考える冒険者もいなくなるに違いない。
墓を建ててもその下には骨の1本も存在しないなんて虚しいと思い、今のところは誰もクダオに続いて”ダンジョンマスター”になった者はいない。
もっとも、それはあくまで日本国内のみの話なのだが。
「クダオの件で関係ってことはモフラー冒険者に何かあったんですか?」
「はい。私個人の考えですが、モフラー冒険者はクダオの二の舞になる危険性が高いと思ってます」
「自分だけのモフモフを手に入れようと”ダンジョンマスター”になる人が出て来ると考えてるんですね?」
「その通りです。モフラーはモフモフ欲を抑えられない生き物ですので」
『ご主人、モフラーってお馬鹿な人が多いの?』
「業が深い人達は懲りないんだよ。他人の失敗はその人が駄目だったからそうなったのであって、自分なら大丈夫って思う人もいるんだ」
『困っちゃうね~』
「そうだな」
藍大は苦笑しながらリルの頭を撫でた。
リルの疑問は至極当然のものだ。
どうしてモフラーは命を懸けてまでモフモフに拘るのかというテーマはモフラーにとって永遠の問題だろう。
そうでなければモフモフなモンスターをテイム能力なくテイムしようとして失敗した動画なんて掲示板に掲載されない。
現に藍大がリルの頭を撫でているのを見たことにより、真奈もモフモフ欲を刺激されてガルフをモフっている。
いつまでもモフモフしていては話が進まないので、藍大は真奈に先を促す。
「では、調教士になれないモフラーのために何かするというのが今日の相談でしょうか?」
「そうなんです。実は、町田ダンジョンのすぐ近くでモフモフカフェを開くことを検討してます」
「モフモフカフェ? モフラー冒険者のために触れ合えるモフモフを真奈さんがテイムするってことですか?」
「正解です。ガス抜きできる場所があればモフラーはおとなしくなりますから。既に従魔以外の準備は終わってます」
『て、天敵が悪魔的な発想をしてる』
「クゥ~ン・・・」
リルは藍大の膝の上で震え出してガルフは真奈の隣から藍大の隣に移動して頬擦りした。
「ガルフ、頬擦りするなら私にして!」
「ワフ」
ガルフは恐ろしい計画を進めている真奈に近づきたくないらしく、藍大の隣から離れまいと真奈から視線を逸らした。
「よしよし、リルもガルフも怖くないぞ」
「「クゥ~ン♪」」
藍大が撫でてやるとリルとガルフは甘えるように鳴いた。
「ガルフのそんな声は私の全力マッサージの時しか聞けないんですよ? さては逢魔さん、貴方のモフ充力は53万を優に超えてますね?」
「モフ充力なんて未知の単位を出さないで下さい」
「モフ充力を知らないんですか? じゃあモフモフ力ではどうでしょう?」
(なんとなくわかった気がするけど答えたくねえ!)
モフ充力はいまいちピンと来なかったけれど、モフモフ力はモンスターのモフモフ度合いを差しているのだろう。
そのように察しがついた藍大だったが、思いついた通り言ったら
「それは置いとくとして、モフモフカフェを開くにはいくつか問題があるように思います」
「問題ですか?」
「モフラー冒険者に好きなだけモフらせた場合、カフェで働く従魔がすぐにストレスで体調を崩します。真奈さんがマッサージでケアすると仮定しても、真奈さんがいつもカフェに張り付いていられない以上従魔に我慢を強いることになります。並大抵の従魔では耐えられないでしょう」
『やっぱり天敵は悪魔だったんだ! そこで働かされる従魔がかわいそうだよ!』
「クゥ~ン・・・」
リルとガルフは藍大が提示した問題を聞いてとんでもないと震える。
リルは藍大のおかげでモフラーの餌食になっていないからまだマシだが、ガルフは真奈という強烈なモフラーに毎日モフられている。
真奈以外にもたくさんのモフラーにモフられる日常を想像した瞬間、ガルフの顔が真っ青になった。
「やはり逢魔さんはその問題に気づかれましたか。それ以外は順調に準備できてますが、従魔の選定とケアだけはこれという解決策がなくて困ってたんです」
真奈は藍大ならば自分と同じところが問題だと気づくと考えていたらしい。
今日真奈が藍大を訪ねて来たのはこの問題を解決するためだったのだ。
人間の”ダンジョンマスター”がこれ以上現れないようにするためには藍大も真面目に考えるべきと判断して考えた。
調教士になれば”ダンジョンマスター”になりたがる者は減るだろうが、転職の丸薬(調教士)を手っ取り早く増やすには奈美の力が不可欠だ。
創薬で作るのも素材から作るのも奈美にかなりの負担を強いる。
藍大はあれこれ考えてまとめた内容を話し始めた。
「従魔の選定はメンタル強めのモフモフを見つけること、ストレスケアはそもそもストレスを軽減するためにキャラ付けとカフェにルールを設けることで対策してはどうですか?」
「なるほど。撫でられるのが好きな寂しがりのモフモフを見つければ良いんですね。ルールは過度のお触り禁止ってことでしょうけど、キャラ付けとはどういうことでしょう?」
「ツンデレ、甘えん坊、ドジっ子、のんびりやみたいにキャラがあると固定客ができるかもしれませんよね。そうすると、推しのモフモフが体調を崩したら自分達の癒しがいなくなるので過剰なモフモフを抑止できると思ったんです」
「その発想はありませんでした。逢魔さん、貴方がモフ神様でしたか」
「手を合わせて拝まないで下さい。ご利益なんてありませんから」
真奈がありがたやと言いながら拝み始めるものだから、藍大は自分はモフ神ではないと直ちに否定した。
シャングリラには
その神を差し置いて拝まれるのは藍大にとって心穏やかにいられる状況ではないだろう。
とりあえず、真奈は藍大の意見を取り入れて行動に移すことにした。
シャングリラから去る時の真奈の顔には成功のビジョンが見えているようだった。
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