第486話 俺がキングオブリア充だ
ティータイムの途中で藍大のスマホが鳴った。
「もしもし、どうした茂?」
『今日の成果物が無事に届いたぞ。カプリビーンズの生首が出て来た時はマジで驚いたが』
「すまん。カプリビーンズの豆は料理に使うから送るとなると生首と茎、葉ぐらいなんだ」
『職人班の調理士達が豆はないのかって押し寄せて来た。豆は売ってくれないのか?』
「昼に収穫した半分食べたから外には出ないだろうな」
『どう料理したんだよ?』
「枝豆に近いからレモンバター炒めにした。夕食はガーリックバター醤油炒めに使う予定だ」
『酒のつまみじゃねえか! 美味そうだな畜生!』
茂はメニューを聞いてそれを肴に酒が飲みたいと強く思った。
「みんな気持ち良いぐらい食べるんだわ」
『だろうな。ミラリカントはどう料理した?』
「そっちは唐揚げ丼だ」
『よし、わかった。帰ったらこの話を千春にする』
「止めとけ。そろそろ生まれそうなんだろ? 千春さんが無理してシャングリラに来たらどうするんだ?」
『ぐぬぬ。元気な子供が生まれて千春が完全復活したら覚えとけよ』
「どんな脅しだよ。体調に少しでも違和感があったらシャングリラに来い。よっぽどのことじゃなきゃどうにかなる」
『そうさせてもらう』
サクラやゴルゴン、メロ、ゼル、フィアと藍大の従魔には回復系アビリティを保持する者が多い。
それを理解しているからこそ茂も素直に頼んだ訳だ。
「それで、今日はどんな用事だ? まさか、カプリビーンズの生首の話だけしようと思って電話したんじゃないだろ?」
『おう。話は2点ある。収納袋の件から話そうか』
「あー、あれか。どうなった?」
海底ダンジョンでブラックバレルミミックの素材が手に入ったことにより、DMUはオリジナルの収納袋と何も変わらない収納袋を作成することに成功した。
その後、”大災厄”の胃袋とブラックバレルミミックの素材で他にも収納袋を作る計画が職人班に持ち掛けられたのだ。
『ブラックバレルミミックを討伐したらDMUが通常より高く買い取るって宣伝したおかげで、職人班は収納袋を新たに5つ作成できたぞ』
シトリーの他に日本のDMUはダンタリオンとラウム、ガミジン、バエル、レラジェの胃袋を保有している。
以上のラインナップにウェパルの名前がない理由だが、ウェパルの素材は奈美が薬品に余すことなく使ったのでDMUは使えていないからだ。
とりあえず、DMUは新たに5つの収納袋を完成させて職人班が作成した収納袋は合計6つになった。
「良かったじゃん。それは販売したのか?」
『1つはDMUの分として、残る5つは三原色クランと白黒クランに売却することが決まった』
「妥当な判断だ。その5つのクランに渡して置けば今まで泣く泣く持ち帰るのを断念した素材を持って帰って来るから生産性がぐーんと上がるだろ」
『その通り。さて、1つ目の話はここまでとして2つ目の話をするんだが・・・』
「T島国以外にも秘密裏に日本を頼る国が現れたか? それとも外国の”大災厄”関連の話か?」
茂がどう話すべきか悩んでいる様子だったので、藍大は今思いつく厄介事を口にしてみた。
『いや、どっちも今日は違うぞ。今日話したいのは黒部ダンジョンのことなんだ』
「黒部ダンジョン? クダオが”ダンジョンマスター”になったあそこか」
『それそれ。そのダンジョンが今問題になってるんだ』
「と言うと?」
『今日探索した多くの冒険者から黒部ダンジョンの難易度が急に上がったって連絡が入った』
「”リア充を目指し隊”が黒部ダンジョンを探索する日だったのか?」
『どうもそうらしい』
茂の報告を聞いて藍大の眉間に皺が寄る。
”ダンジョンマスター”以外にダンジョンの改造をできる者は存在しない。
それはつまり、クダオが”リア充を目指し隊”を潰すために黒部ダンジョンの難易度を上げたことを意味する。
「そりゃ穏やかじゃないけどクダオはどうするつもりなんだ? 意図的に”リア充を目指し隊”のメンバーを始末する気なのか?」
『その可能性は否定できない。人間が”ダンジョンマスター”の地位を継いだ場合、外に出られないし人の理から外れるからいかなる法もクダオを守らないんだ』
「黒部ダンジョンに様子を見に行けと?」
『ああ。もしもクダオが日本に危害を及ぼす存在になってた場合、その討伐も考慮してほしい』
「それは吉田本部長からの依頼か? それとも板垣総理?」
藍大はどちらが依頼して来たのかと茂に訊ねた。
こんなことを茂が思いついて自分に頼むとは思えないからだ。
『吉田さんだ。板垣総理はそもそも黒部ダンジョンのことを正確に把握してない。吉田さんは藍大が以前気づいた魅了による”災厄”のダンジョン脱出の可能性を気にしてる。最悪の場合、クダオは”災厄”の手中にあるかもしれないって考えてるようだ』
「なるほどな。言われてみれば確かにそうだ。クダオは魅了への耐性が低そうだからコロッと騙されて利用されてるとかあり得る」
『俺としてはできればクダオを討伐することにならないことを願ってるが、万が一の時にも余裕で対応できるのが藍大達だけだから頼むしかなかった』
”ダンジョンマスター”となった人間が法によって守られる存在ではなくなったとしても、茂も幼馴染の藍大に人殺しなんて頼みたくないだろう。
藍大は黒部ダンジョンについて気になることがあって訊ねた。
「黒部ダンジョンってリア充だけ難易度高いとかあり得る? もしくはリア充と”リア充を目指し隊”だけ難易度高いとか」
『ちょっと待っててくれ。今までの黒部ダンジョンに関する報告書を見てみる』
茂は藍大が気にした観点で報告書を見ていなかったため、負傷者についてまとめられた部分にすぐに目を通した。
『・・・マジか。藍大の言う通りだったわ。重傷者はいずれもリア充と思しき男女混合パーティーか”リア充を目指し隊”のメンバーだけだ』
「これが今の黒部ダンジョンの縛りなのかもしれない」
『キングオブリア充の藍大が行ったら黒部ダンジョンがどうなるかわかったもんじゃないな』
「キングオブリア充ってなんだよ」
『言葉通りの意味だ。まさか藍大は自分がリア充じゃないとでも?』
茂に言われて藍大は自分の今の状況について考えてみた。
愛する家族に囲まれている現状を思い浮かべてなるほどと頷いた。
「俺がキングオブリア充だ」
『自分で言っといてあれだけどマジかこいつ』
「ここで変に謙遜するのは嫌味だろ」
『確かにそうだな。でも、マジで藍大が黒部ダンジョンに行ったら不味いかもしれん。こうなると別の人に偵察を頼んだ方が良いか?』
「誰に頼むんだ? 異性のパートナーがいなくて強い冒険者ってなると神田さんとか真奈さんか?」
『神田さんにお願いできないか?』
「偵察だけで良いんだよな? もしもの場合は撤退しても構わないって認識で良いか?」
『勿論だ』
茂は藍大の立てた仮設を立証することを優先するため、無理せず負傷しそうなら撤退するという条件に賛成した。
「わかった。これから神田さんに連絡してみる」
『頼む』
藍大は茂との電話を終えた。
藍大の両隣にいた舞とサクラは会話の全容を把握している訳ではないが、黒部ダンジョンが異常事態であることは察して声をかけた。
「黒部ダンジョンの探索を睦美さんに任せるの?」
「睦美は強いから大丈夫だと思うけど、私達が行かなくて良いの?」
「いきなり俺達が行ったとして、先に黒部ダンジョンに入ってる冒険者達が巻き込まれないとも限らないからな。まずは仮説を証明する必要がある。仮説が証明された後、茂に黒部ダンジョンの立ち入り制限をしてもらえば俺達が探索しても問題ないだろ?」
「なるほどね~」
「納得した」
藍大の説明を受けて舞とサクラは睦美に偵察を任せることを受け入れた。
早速、藍大が睦美に電話すると睦美はワンコールで電話に出た。
『魔王様、なんなりとお命じ下さい』
「神田さん、エスパーですか?」
『魔王様が私のことを頼りたい思念をキャッチしました』
(そんな思念飛ばした覚えはないんだが)
藍大は苦笑しつつ睦美に依頼事項を説明した。
ついでに収納袋を貸し出すから戦利品もできるだけ持ち帰るように頼んだ。
全てを聞き終えた睦美は快諾した。
『お任せ下さい! 明日偵察に行きます!』
「よろしくお願いします」
こうして睦美が明日黒部ダンジョンを偵察することが決まった。
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