第485話 野蛮と野蛮のハーモニーなんて全く心が震えないね

 家族サービスの時間が終わって藍大はラプラスの死体を回収した。


 ラプラスの死体から魔石だけ抜き取ってサクラに訊ねる。


「サクラ、ラプラスの魔石いるだろ?」


「それはルナちゃんにあげて」


『良いの?』


「良いよ。ルナちゃんには蘭がいつもお世話になってるから」


『ありがと~』


 蘭がいつもルナのお世話になっているとは蘭がルナにべったりであることを指している。


 ルナが可愛くて仕方ないらしく、蘭はしょっちゅうリュカとルナと遊んでいるのだ。


 蘭の母親としてルナが喜ぶお礼を考えていたので、サクラはラプラスの魔石の所有権をルナに譲ることを決めた。


 リルもルナの父親としてサクラにお礼を言った。


 そんなサクラとリルのやり取りを見て藍大は頷く。


「よし、わかった。それならこの魔石は帰ったらルナにあげよう」


『ご主人もありがとう。それとね、あっちに宝箱あるよ』


「マジで? 案内してくれ」


『任せて~』


 リルはご機嫌な様子で藍大達を宝箱の在り処まで案内する。


 広間の壁際には鏡の反射を駆使してそこには何もないように錯覚させる仕掛けと宝箱があった。


『ぐぬぬ、これも駄目だったのだ・・・』


「リル、ブラドが悔しがってるぞ」


『ワッフン♪ 僕の勝ちだよ!』


『次は負けないのだ! 絶対に騙してみせるのである!』


 ドヤ顔のリルの発言に対してブラドはメラメラと闘志を燃やした。


「ここから先は私のターン」


「サクラ先生、今回は丸薬とかじゃなくて調理器具でお願いします」


「任されました」


 サクラが慣れた手つきで宝箱を開けてみると、その中にはおなじみの輝きを放つティーポットが入っていた。


『ご主人、ミスリルティーポットだったよ』


「紅茶でティータイムができるじゃん」


「ティータイム? おやつの予感がする!」


『おやつ食べたい!』


「落ち着くんだ。まだ慌てるような時間じゃない。昼も食べてないのにおやつの心配してどうするよ」


 藍大の指摘はもっともである。


 まだ午前中だというのに昼食を通り越しておやつを気にする舞とリルを見れば、藍大が苦笑するのも仕方のないことだろう。


「アップルパイさんかな?」


『バナナクレープさんもありだと思うよ』


「おやつへの気持ちが抑え込めない!?」


 落ち着けと言っても舞とリルがおやつのことを考えてしまうので、藍大はティータイムという響きの効果がここまであるのかと驚いた。


「メロが育ててる茶葉で淹れたらもっと美味しいかも」


「サクラ、お前もか」


 サクラの発言もティータイムという言葉に引っ張られている。


 ティータイムの持つ引力は馬鹿にできないのだ。


「藍大、今日の3時は期待してるね~」


『勿論ランチも期待してるよ!』


「いつも主のご飯が食べられて嬉しい」


「・・・ランチもティータイムも楽しみにしとけよ」


「『やった~!』」


「ありがとう」


 舞達の期待する目には勝てないから、藍大はこうなったら期待に応えてみせようと覚悟を決めた。


 その後、藍大達は広間からボス部屋までの道のりを驚異的な速さで進んだ。


 カプリビーンズやミラリカントが現れようとも舞達が瞬殺するのでほとんど時間をロスすることがない。


 リルの<仙術ウィザードリィ>でボス部屋の扉を開けると、上半身が筋肉質な黒髪の美女で下半身が龍のモンスターが藍大達を見下ろした。


 そのモンスターの胸部と両腕は鱗で覆われており、手はドラゴンの前脚のようになっている割にはしっかりとハルバードを握っている。


 藍大はモンスター図鑑を視界に展開してフロアボスについて調べ始めた。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:デルピュネ

性別:雌 Lv:100

-----------------------------------------

HP:3,000/3,000

MP:4,000/4,000

STR:4,000

VIT:4,000

DEX:3,000

AGI:3,000

INT:3,000

LUK:3,000

-----------------------------------------

称号:地下14階フロアボス

   到達者

   ベルセルクソウル

アビリティ:<深淵吐息アビスブレス><剛力斬撃メガトンスラッシュ><剛力打撃メガトンストライク

      <剛力突撃メガトンブリッツ><深淵鎧アビスアーマー><龍人切替ドラゴンマンチェンジ

      <自動再生オートリジェネ><全半減ディバインオール

装備:レジストハルバード

備考:高揚

-----------------------------------------



 (見た目通りのパワー系だな)


 デルピュネのステータスを見て外見的特徴とのギャップが感じられないことから藍大は安堵した。


 もしも、バリバリ近接戦闘をこなしそうな見た目で後衛向きなステータスだったなら、デルピュネは人を騙すのが上手い策士と言えただろうが現実は見た目通りである。


「そこのウォーハンマーを持った女、アタシと一騎打ちしろ!」


「上等だ!」


 デルピュネは舞とその手に握られるミョルニルに興味津々らしく、舞に一騎打ちを申し込んだ。


 一騎打ちを仕掛けられた舞はと言えば、すっかり戦闘モードに入っていて一騎打ちに乗った。


「乗ってくれたことを感謝する。行くぞぉぉぉぉぉ!」


「効かねえな!」


 デルピュネが<深淵鎧アビスアーマー>を発動してから大きく振りかぶり、<剛力斬撃メガトンスラッシュ>を放つ。


 しかし、舞は雷光を纏わせたミョルニルで深淵を纏った斬撃を打ち返してみせた。


 デルピュネは素早く回避したつもりだったが、完全に躱し切ることができずに傷を負った。


 それでも<自動再生オートリジェネ>を会得してるおかげでデルピュネはあっさり回復した。


「面白い! もっと楽しませてくれ!」


「勝手にはしゃいでんじゃねえぞゴラァ!」


 今度はデルピュネが<深淵鎧アビスアーマー>を発動したまま<剛力突撃メガトンブリッツ>で舞に急降下する。


 舞は光のドームを五重に展開して突撃の威力を削り、最後の1つが割れて勢いが止まったタイミングを見越してデルピュネにフルスイングを喰らわせた。


 デルピュネの体は野球のボールのようにすごい勢いで飛んで行く。


「良い感じに当たったね」


『ホームランだよ』


 サクラとリルはのんびり観戦してコメントしている。


「ぐっ、やるへぶっ!?」


「ストライク!」


 舞に殴られた勢いを後ろに流して反撃に出ようとしたデルピュネだったが、限界突破した舞が雷光を纏わせて投げたミョルニルが顔面に直撃して墜落した。


 それを見てガッツポーズする舞の手元には既にミョルニルが戻って来ている。


 <自動再生オートリジェネ>でもすぐに癒えないダメージを受けたことで、デルピュネはもっと舞とぶつかりたいと素早く立ち上がった。


「「ヒャッハァァァァァ!」」


「野蛮と野蛮のハーモニーなんて全く心が震えないね」


「サクラ、そんな酷いこと言ってやるなって。ほら、舞が勝ったぞ」


 限界突破状態の舞が相手ではデルピュネも敵わないようで、デルピュネは舞のフルスイングで壁に埋め込まれたまま動かなくなった。


「藍大~、勝ったよ~!」


「舞、ナイスファイト!」


 舞が藍大に満面の笑みで駆け寄って来ると、藍大は両手を広げて舞を迎え入れた。


 既に限界突破状態は終了しているため、ゲンの<超級鎧化エクストラアーマー>だけでも藍大は十分に舞の力に対抗できた。


 舞が藍大に幸せそうな笑みを浮かべながら抱き着いているのを見れば、サクラとリルも黙って見ていられるはずもない。


 そのまま家族サービスの時間に突入した。


 家族サービスの時間を堪能した後、藍大達はデルピュネとレジストハルバードの回収を行った。


 リルも魔石はルナへのお土産にするらしく、地下14階でやるべきことを終えた藍大達はシャングリラダンジョンから脱出した。


 帰宅した藍大達はルナを呼んだ。


「ルナ、こっちにおいで」


「クゥン?」


 どうしたのとルナがスタスタやって来たので、藍大は収納リュックからラプラスとデルピュネの魔石を取り出して差し出した。


「これはリルとサクラが倒したモンスターの魔石だぞ。ルナにくれるんだって」


「クゥン♪」


 やったねと嬉しそうに鳴いたルナはパクッと2つの魔石を飲み込んだ。


『ルナのアビリティ:<声爆弾サウンドボム>がアビリティ:<音波刃ソニックエッジ>に上書きされました』


『ルナがアビリティ:<竜巻トルネード>を会得しました』


 (どっちもLv1のモンスターが会得するアビリティじゃないな)


 伊邪那美の声が知らせたアビリティはどちらもLv1ではまず会得できないようなアビリティである。


 今日のお土産はルナにとって十分過ぎるものだったのは間違いない。


「クゥン」


『サクラ、ルナがありがとうだって』


「どういたしまして。こちらこそいつも蘭がありがとね」


「クゥン♪」


 ルナはサクラに頬擦りして感謝の気持ちを伝えた。


 サクラは優しい笑みを浮かべてそんなルナの頭を撫でた。


 そんなほっこりする場面が過ぎると、藍大は昼食作りを始めた。


 今日の昼食の献立はカプリビーンズのレモンバター炒めとミラリカントの唐揚げ丼だ。


「早く食べよう!」


『ご主人、もう着席してるよ!』


「吾輩もいつでもOKなのだ」


 完成した料理の匂いにやられて在宅中の食いしん坊ズが呼ばれなくても食卓で待機していたのは言うまでもない。


 余談だが、ティータイムのお茶菓子は投票でアップルパイになった。


 バナナクレープを食べたがっていたリルも、アップルパイを目の前にすればアップルパイを食べる口になっていたのかモリモリ食べていた。


 真の美味しさの前には争わずに仲良くモリモリ食べるのが食いしん坊ズなのだろう。

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