第479話 大胸筋が歩いとる!
デモンローズの魔石はパンドラが飲み込んだ。
この魔石によってパンドラの<
<
上手く使えばアスタのヘイト稼ぎを手助けできるだけでなく、敵が集団ならば同士討ちを誘導することもできるだろう。
魔石を摘出したデモンローズの死体を回収する際、パンドラはデモンローズの根を地面から引っこ抜く過程で土とは色の違う何かを見つけた。
執事の姿から元の姿に戻り、尻尾をスコップにして色の違う何かの正体を探るべく掘り出した。
「運が良い」
「パンドラ、また宝箱見つけたんか?」
「うん。今日は稼げる日みたい」
「この不人気ダンジョンに宝箱が2つもあったんですね」
未亜の疑問にパンドラが頷くと、美鈴が信じられないものを見た表情でコメントした。
「T島国人が探すの下手なだけかもしれない」
「否定できませんね」
パンドラの言い分に対して美鈴は苦笑しながら頷いた。
麗奈達は宝箱を回収してから通路を進む。
その途中で槍を模した蜻蛉の群れが麗奈達を阻んだ。
「スピアドラゴンフライLv74。この階のモンスターの中では素早い部類」
「ほう。ウチが殲滅したるわ!」
素早い敵と聞いて未亜がピクッと反応する。
止まっている的よりも動いている的を当てる方が難しいから、未亜にとってパンドラの鑑定結果は自分を燃えさせるには十分だったらしい。
未亜は魔力矢を分裂させてスピアドラゴンフライを次々に撃ち落としてドヤ顔を披露した。
「ウチにかかればちょろいで」
「スピアドラゴンフライにも命中させますか。とんでもない腕前ですね」
「せやろ?」
「これじゃ私の出番が本当にほとんどありません。私にも数体残してほしいものです」
「前向きに検討することを善処するわ」
「それは考えてもらえないパターンですね、わかります」
未亜の言い分を聞いて美鈴は大きく溜息をついた。
スピアドラゴンフライの死体をサクサクと回収し、麗奈達は先へと進んだ。
ボス部屋のシャッターと思しきシャッターが視界に入るのと同時に自転車大のダンゴムシが3体おり、それらがシャッターを守るように待機していた。
「バリロールLv75。何かあると背中に棘を生やす巨大ダンゴムシだよ」
「転がって轢くとか危険な奴ね」
「アスタ、お願いするよ」
「承知した」
パンドラが述べた鑑定結果に麗奈が反応するのと同じタイミングで、バリロールは背中から棘を生やした状態で転がり出した。
パンドラがアスタに声をかけると、アスタは<
バリロールのVITではアスタのSTRに敵わず、HPもあっさり尽きてしまったようだ。
「今更だけどこの階にサクラが来たら大変なことになりそう」
「3階が消し飛ぶんじゃないかしら?」
「ウチもそー思う」
サクラの虫嫌いは”楽園の守り人”内でも有名だから、パンドラの呟きに麗奈と未亜が賛同した。
パンドラはバリロールの死体を回収してから再びアスタに話しかけた。
「アスタ、今度はシャッターの方をお願いできる?」
「OK!」
アスタはケルブアックスを壁に立てかけてシャッターを全力で押し上げた。
シャッターの向こうのボス部屋には何もいなかった。
「なんでボスがいないのかしら?」
「上にも何もおらんで」
「階段が出現してない以上、フロアボスはまだ生きてるはず。アスタの出番じゃない?」
「筋肉に任せろ!」
ボス部屋なのにボスが見当たらないため、アスタが<
敢えて背中を向けることで油断しているように思わせ、フロアボスが早く姿を見せるように挑発しているのだ。
その直後、ボス部屋全体が大きく揺れ始めた。
「地震かしら?」
「ダンジョンの中でか?」
「違う。フロアボスは地中にいたんだ。来るよ」
パンドラが注意喚起して5秒と経たない内に掘削音を鳴り響かせながらドリルの先端が姿を現した。
「ドリル? 無機型モンスターがフロアボスなの?」
「無機型とちゃうで! 見えて来た! 角がドリルの甲虫や!」
未亜がそう言った時には黒光りする体と角代わりの銀色のドリルが特徴的な甲虫の姿があった。
パンドラはすぐにフロアボスの正体を確かめようと鑑定した。
-----------------------------------------
名前:なし 種族:ドリルビートル
性別:雄 Lv:80
-----------------------------------------
HP:1,500/1,500
MP:2,000/2,000
STR:1,700
VIT:1,400
DEX:1,000
AGI:1,200
INT:1,400
LUK:1,000
-----------------------------------------
称号:3階フロアボス
アビリティ:<
<
<
装備:なし
備考:興奮
-----------------------------------------
「敵はドリルビートルLv80。土属性と突撃、音のアビリティを使うよ」
パンドラが鑑定結果を伝えた直後にドリルビートルは<
「きゃっ!?」
「やれやれ。しょうがないな」
麗奈と未亜、アスタは地面が揺れても立っていられたが、美鈴はその領域まで体幹が鍛えられておらず転んでしまった。
これでは真っ先に的になってしまうと判断してパンドラは<
「えっ、あの!?」
「邪魔だからおとなしくしてて」
「・・・はい」
はっきり邪魔だと言われてしまえば美鈴もおとなしくするしかない。
自分が原因で倒せる敵を倒せないなんてことになれば、N1ダンジョンの踏破が遠のいてしまう。
それだけは避けなければならないから美鈴はパンドラの言う通りにした。
「僕はこの人の面倒を見てるから、ドリルビートルの対処は任せるね」
「了解!」
「任しとき!」
「問題ない!」
パンドラから戦闘を任されて麗奈達はすぐに行動に移った。
「まず一発や!」
未亜はデバフ効果のある魔力矢を放ってドリルビートルの動きを鈍らせた。
ドリルビートルは体が重くなったように感じたが、それを気にすることなくアスタを狙って<
「ムッ
アスタは<
アスタの斬撃はドリルビートルの放った岩の砲弾を真っ二つにしても完全に勢いがなくなった訳ではなく、ドリルビートルに向かっていく。
しかし、ドリルビートルもやられる訳にはいかないから<
ドリルビートルはアスタしか眼中になく、そのせいで死角から接近する麗奈に気づけなかった。
「せいっ!」
能力値が低下している状態で至近距離から麗奈の気功波を喰らい、ドリルビートルは吹き飛ばされたままピクリとも動かなくなった。
「もう降りても良さそうだね」
「ご迷惑をおかけしました」
ボス部屋の奥に次の階へと繋がる階段が現れたのを確認してからパンドラは着陸した。
すっかりお荷物になっていた美鈴は申し訳ない気持ちを言葉にするが、結果的に美鈴というハンデがあってもドリルビートルの相手は問題なかっただろう。
着陸したパンドラは元の姿に戻ってドリルビートルの回収作業を進め、摘出した魔石はアスタに渡した。
魔石を飲み込んだアスタは恍惚の表情で胸筋をピクピクさせた。
「素晴らしい。筋肉が喜んでる」
「大胸筋が歩いとる!」
「・・・お披露目が始まりましたね」
「やれやれ。ああいうのは家でやれって言ってるのに」
美鈴は苦笑しているがパンドラはジト目のまま未亜とアスタに接近して一撃ずつ叩いて即席お披露目会を強制終了させた。
アスタのアビリティはドリルビートルの魔石によって<
アスタの脳筋化が進む結果となったけれど、アスタのSTRを活かすことを考えればこれが最適解である。
麗奈達は戦利品回収とアスタの強化を終えたので、少し休憩してから次の階層へと進んだ。
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