第478話 パンドラすごいわぁ。さすパンやで

 パンドラがデーモンデュークの死体を回収し、その魔石はアスタに渡した。


 デーモンデュークの魔石によってアスタの<劣位交換レッサーエクスチェンジ>は<等価交換エクスチェンジ>に上書きされた。


 まだまだ時間に余裕があるため、麗奈達はアスタの強化を終えても撤退せずに3階へと進んだ。


「根っこ?」


「なんや全体的に自然がシャッター街に侵食しとる感じがするなぁ」


 3階もシャッター街であることには変わらなかったが、地面やシャッターが木の根に侵食されていた。


「早速来たみたいだよ」


 パンドラの視線の先にはクワガタと百足を足して2で割ったようなモンスターが群れで存在していた。


「何あれ? 虫かしら?」


「スタッグセンチピードLv71。鋏は武器素材になるってさ」


「”楽園の守り人”じゃ誰も欲しがらなさそうね」


「売るしかないやろな。てか、ゲテキングが食べたがるんとちゃうか? パンドラ、そんなところまでわかるか?」


「知らないよ。僕だってなんでもは知らないし」


 未亜の質問を受けてパンドラは知る訳ないと抗議するようなジト目を未亜に向けた。


「せやったな。とりあえず、近寄らせんように倒しておくで」


 未亜は今まで温存していた矢を使って物理的にスタッグセンチピードを仕留めるつもりらしい。


「私の出番ないわね」


「そーいうこともあるよ」


 未亜が1本の矢で複数の個体を一気に倒していくものだから、それ以外のメンバーの出る幕はなかった。


「ふぅ。終わったで。パンドラ、回収頼むわ」


「わかった」


 無駄のない動作でサクサクとスタッグセンチピードを駆除し、未亜はパンドラに後のことを任せた。


 パンドラがスタッグセンチピードの群れの死体を回収していると、通路の奥から黄緑色の海月の群れがプカプカと宙に浮きながら麗奈達の方にやって来た。


「エレゼリアLv72だね。麻痺と毒の状態異常を扱うから近接戦は控えた方が良いよ」


「だったら今度は私が撃ち落とすわ」


 麗奈が気功波を放ってエレゼリアの群れを撃墜した。


「危険だから回収は僕がやる。死ぬと危険な毒が一部体の表面に漏れ出ることがあるらしいから」


 状態異常のプロであるパンドラが注意すれば、麗奈も未亜も黙って首を立てに振る。


 戦っている段階なら間抜けと言われることはないだろうが、回収するタイミングで気が抜けて毒を受けたら間抜けと言われることだってあるだろう。


 パンドラはエレゼリアについて他国の冒険者が倒した後に毒を受けて病院に搬送されたニュースを見たことがあった。


 だからこそ、うっかり何かミスしそうな麗奈と未亜には手を出させなかったのだ。


 慎重にパンドラが回収作業を終えた後、麗奈達は通路の先へと進む。


「ここに分かれ道なんてなかったはずなんですが」


「黄さん、N1ダンジョンの3階来たことあったんか?」


「はい。ですが、やはり私が来た時とダンジョンの構造が変わってますね。1階もそうでしたけど3階も変わってます」


「ねえ、右に行っても左に行ってもモンスターの群れとぶつかるわ」


「ここはやっぱり罠を使わずモンスター頼みのダンジョンなんやな」


「どっちも倒せば問題ない」


 麗奈が分かれ道のどちらに進んでもモンスターがこの場に向かってきていることを指摘すると、未亜がげんなりした表情で応じた。


 その一方でアスタはどちらも倒してしまえと好戦的なコメントをした。


「右から来るのはメタルマンティスLv73の群れ。左から来るのはメルトスラグLv73の群れ。これは利用しない手がないよね」


「パンドラに秘策があるのかしら?」


「あるよ。僕が指示するまで待機してて」


「わかったわ」


 パンドラに自信満々に言われてしまえば麗奈はそれに従うまでだ。


 パンドラは右の通路から来るメタルマンティスの群れの全ての個体を1体ずつ鑑定することから始めた。


 鑑定すれば見られているとメタルマンティスが気づき、1回あたりに稼ぐヘイトは僅かでも塵も積もれば山となる。


 メタルマンティスの群れがヘイトを稼いだパンドラに向かってスピードを上げた直後、パンドラは左の通路から来る先頭のメルトスラグに<敵意押付ヘイトフォース>で自分のヘイトを押し付けた。


 その結果、メタルマンティスの群れはヘイトに誘導されるようにしてメルトスラグの群れのいる道へと突撃していく。


 モンスター同士の群れがぶつかった場合、群れの誰かが攻撃されれば群れを攻撃した者にヘイトが溜まるからパンドラはメタルマンティスの群れから完全に忘れ去られている。


「なるほど。モンスター同士を戦わせるってことね」


「パンドラすごいわぁ。さすパンやで」


「硬いメタルマンティスもメルトスラグの粘液で熔けます。これなら私達が消耗することなく敵を弱体化できますね」


「その通り。メタルマンティスの群れもやられっ放しじゃ終わらないから、双方が弱ったタイミングで倒せば良いよ」


 パンドラの策略に嵌ったメタルマンティスの群れとメルトスラグの群れはどんどんお互いの戦力を減らしていく。


 10分後にはどちらの群れもボロボロになり、参戦するなら今というタイミングがやって来た。


「麗奈はメタルマンティスを倒すんや。万が一でも装備が壊されたら嫌やろ?」


「そうね。そうさせてもらうわ」


「私もやります!」


 麗奈と美鈴がメタルマンティスを倒し、未亜がメルトスラグを魔力矢で倒した。


「一丁上がり!」


「ふぅ。かなり楽できたで」


「メタルマンティスとメルトスラグをここまで楽に狩れるとは驚きです」


「黄さんの槍ってどんな素材使ってるの? メタルマンティスに弾かれてなかったし結構良い素材なんじゃない?」


「魔鉄とアダマンタイトの合金です。槍にMPを流せば硬度が上がるので硬いモンスターと戦うのに重宝してます」


「そうなんだ」


 麗奈は正直微妙だと思ったがどうにか顔に出さないようにした。


 T島国の冒険者が扱う武器としては美鈴の槍はトップクラスだ。


 しかし、シャングリラダンジョン産のモンスター素材を使った武器を知っている麗奈からすれば微妙に思うのも仕方のないことである。


 アダマンタイトなら合金にしなくても土曜日のシャングリラダンジョンで大量に確保できる。


 他所の国のことを知って改めてシャングリラダンジョンが異質なのだと麗奈は思い知った。


 メタルマンティスとメルトスラグの死体を回収した後、麗奈達はメルトスラグがやって来た通路を選んで進んだ。


 この通路を選んだ理由はメタルマンティスよりもメルトスラグの方が危険だからだ。


 危険なモンスターを倒した先に正しい道があるという予想である。


 そして、その予想は見事に的中した。


 木の根が張り巡らされている広間の中心に巨大な薔薇が咲いていた。


 薔薇の茎には所々に口が現れており、その口から近づいた得物を食べそうな見た目をしている。


 パンドラはその薔薇のモンスターについて<学者スカラー>の効果で鑑定した。



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名前:なし 種族:デモンローズ

性別:雌 Lv:75

-----------------------------------------

HP:1,200/1,200

MP:1,400/1,400

STR:1,500

VIT:1,300

DEX:1,200

AGI:500

INT:1,500

LUK:1,000

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称号:掃除屋

アビリティ:<茨鞭ソーンウィップ><種砲弾シードシェル><根牢獄ルートジェイル

      <魔力吸収マナドレイン><食事成長イートレベリング

      <毒霧ポイズンミスト><全耐性レジストオール

装備:なし

備考:空腹

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「デモンローズLv75。AGIが低いからどの技もよく見れば躱せる」


「わかったわ」


「了解や!」


「ムッキン!」


 アスタはパンドラの鑑定結果を聞くや否や、アブドミナルアンドサイを披露しながら<絶対注目アテンションプリーズ>でデモンローズのヘイトを一身に集めた。


「フッキンイタチョコ!」


「ナイスカット!」


「なんで板チョコを知ってるのかしら?」


「気にしたら負けだよ」


 茎に現れた口から掛け声が聞こえて来るので麗奈が顔を引き攣らせた。


 パンドラはそんなことを気にせず麗奈に応じながら<負呪破裂ネガティブバースト>を放つ。


 この攻撃だけでデモンローズの残りHPは尽きてしまい、ドシンと音を立ててデモンローズの体が倒れた。


 アスタがヘイトを集めてパンドラが攻撃するパターンが見事に決まり、あっけなく3階の”掃除屋”との戦闘は終わってしまった。


 麗奈達を苦戦させるにはN1ダンジョンでは全然足りないらしい。

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