第477話 せやで! パンドラはウチの自慢の従魔や!

 N1ダンジョン2階に進んだ麗奈達はインプとレッサーデーモンの混成集団と遭遇していた。


 わらわらと集まった敵に対してアスタが自信に満ちた笑みを浮かべながら口を開いた。


「刮目せよ!」


 アスタがバックラットスプレッドを披露しながらそう言った瞬間、全ての敵はアスタから目が離せなくなった。


 これは<絶対注目アテンションプリーズ>の効果である。


 オーガクレリックの魔石を取り込んだことにより、アスタの<挑発体位タウントポーズ>が<絶対注目アテンションプリーズ>へと上書きされたのだ。


 これならばポーズを決めて無視されることはあるまい。


 アスタは多摩センターダンジョンでケリュネディアーにポーズを無視されて以来、二度と無視されないようになりたいと密かに成長の方向性を決めていたようだ。


 その場にいる全てのインプとレッサーデーモン達がアスタに惹きつけられている間、麗奈と未亜はサクサクと敵を倒していく。


 美鈴も手ぶらでは帰れないと自分の位置から近い所にいたインプを槍で突き刺している。


 戦闘自体は3分程度で終わったので戦利品の回収の方が時間を費やした。


 パンドラはアスタが嬉しそうにしていたから声をかけた。


「アスタ、満足した?」


「勿論だ。オーディエンスがいるのは素晴らしい」


「良かったね」


 アスタは自分の望む成長ができてご満悦の様子だ。


 戦利品回収が終わった後、麗奈達は1階と同じくシャッター街の内装である2階を進む。


 それからほとんど時間を置かずに鎧を身に着けたインプと普通にデーモンの混成集団が現れた。


「It's Show Time!」


「無駄に発音良いわね」


 アスタが調子に乗ってサイドチェストを披露しながら<絶対注目アテンションプリーズ>を発動する。


「バリバリッ」


「キレテルッ」


「デカイ!」


「モンスターが掛け声を知っとるやと!?」


 予想外の事態に未亜が戦慄した。


 いや、これは未亜じゃなくても驚かずにはいられないだろう。


 誰もダンジョンのモンスターがボディービルの掛け声を知っているとは思わないはずだ。


「ぼさっとしない」


「すまん。もう大丈夫やで」


 パンドラに注意された未亜は魔力矢を分裂させて攻撃を始める。


「すごいですね。飛び回るインプナイト達を仕留めますか・・・」


 未亜の攻撃がインプナイト達を次々に倒していくのを見て美鈴の顔が引き攣った。


 インプナイトは素早い上に鎧を装備しているため、T島国では一撃で倒せない冒険者も少なくない。


 それをサクサク撃ち抜いていく未亜の技量に美鈴は畏怖の念を抱いたようだ。


「ぶっ飛びなさい!」


 麗奈は他のデーモンを巻き込むように手前のでデーモンを殴り飛ばして倒している。


 T島国からすればインプナイトもデーモンも集団で現れれば厄介なのだが、麗奈達はなんでもないように倒してしまう。


 殲滅しては戦利品回収を済ませてを繰り返していると、麗奈達はアークデーモンが仁王立ちして待機する広間へと辿り着いた。


「待ち侘びてぐぁぁぁぁぁ!?」


 アークデーモンが偉そうに何か喋り始めようとした時にはパンドラが<負呪破裂ネガティブバースト>を放っており、それがアークデーモンに命中していた。


 そのせいでアークデーモンは口上を邪魔された挙句痛みに苦しんだのだ。


 しかも、アークデーモンにとっては不幸なことに追加効果の状態異常が毒だったことでHPが尽きてしまった。


 実に不憫な”掃除屋”と言えよう。


 道場ダンジョンではサクラにボス部屋の外から倒されてしまい、今回はパンドラに喋っている間に倒された。


 アークデーモンという種族が”楽園の守り人”と相性の悪い組み合わせなのだろう。


 アークデーモンの死体を回収する際、その魔石は倒したパンドラが取り込んだ。


「やっとだ」


「どうしたのパンドラ?」


 ポツリと呟いたパンドラに麗奈は訊ねた。


「僕もリルみたいに鑑定効果のあるアビリティを会得したんだ」


「おめでとう。なんてアビリティなの?」


「<学者スカラー>だよ。知識量が増えれば増える程鑑定でわかる範囲が広がるみたい」


「効果が成長するアビリティなんて面白いわね。今のパンドラなら藍大がいなくても自分のステータスを調べられるんじゃない?」


「やってみる」


 麗奈に言われてパンドラは<学者スカラー>で自分のステータスを確認してみた。



-----------------------------------------

名前:パンドラ 種族:ニャインテイル

性別:なし Lv:100

-----------------------------------------

HP:3,000/3,000

MP:2,400/3,000

STR:2,600

VIT:2,700

DEX:3,100

AGI:2,700

INT:2,600

LUK:2,900

-----------------------------------------

称号:藍大の従魔

   セバスチャン

   英雄

二つ名:派遣されし九尾の悪魔

アビリティ:<負呪破裂ネガティブバースト><悪夢牢獄ナイトメアジェイル><保管庫ストレージ

      <形状変化シェイプシフト><停止ストップ><魔力要塞マジックフォートレス

      <学者スカラー><敵意押付ヘイトフォース> 

装備:なし

備考:期待

-----------------------------------------



 パンドラは自分のステータスについて麗奈に伝えた。


「一家に一台欲しいわね」


「僕は家電製品じゃない」


「せやで! パンドラはウチの自慢の従魔や!」


「違うから」


「そうね。あくまで私達は藍大からパンドラを借りてるだけよ」


「そうやったなぁ。いつもお世話してもろてるからつい間違えてもうたわ」


「え? パンドラさんにお世話してもらってるんですか?」


 麗奈と未亜、パンドラの会話を聞いて美鈴はスルーできずに訊ねた。


 未亜が他人の従魔であるパンドラにお世話されていると聞けばツッコむのは当然だろう。


「情けないことに僕が色々面倒見てる。主に家事の指導とか」


「未亜さん、恥ずかしくないんですか?」


「せやかて黄さん、パンドラはウチよりも家事が上手なんや! 上級者に教わって学ぶことがそないおかしなことか!?」


「家事上級者ってパンドラさんは猫型ですよね? どうやって家事をするんですか?」


「こうやってだよ」


 首を傾げる美鈴の疑問に答えるべく、パンドラは<形状変化シェイプシフト>で執事の姿に変身した。


「すごいですね。イケメン執事です」


「せやろ? これがパンドラのセバスチャンモードやねん」


「なんで未亜が得意気なのさ?」


 やれやれとパンドラは首を振った。


 その後、麗奈達はアークデーモンのいた広間から先に進み、インプナイトとデーモンの混成集団と数回の戦闘を経て僅かに下の部分が空いたシャッターの前に到着した。


 周囲に他の道はなく、今のN1ダンジョンのボス部屋は僅かに開いたシャッターが扉の役割を担っていると証明された。


「アスタの出番だよ」


「任せろ!」


 パンドラに声をかけられたアスタは嬉々としてシャッターを持ち上げた。


 ボス部屋の中には高そうな椅子にふんぞり返る悪魔の姿があった。


 服は高位貴族が着るようなものであり、椅子の側面には大剣が立てかけられている。


「デーモンデュークLv70。雑魚だね」


「我を雑魚というのはそこの執事風情か!」


 デーモンデュークは雑魚呼ばわりされたことに怒り、パンドラに向かって<暗黒砲弾ダークネスシェル>を放つ。


「無駄だよ」


 パンドラは<魔力要塞マジックフォートレス>を発動してデーモンデュークの攻撃を跳ね返した直後に追撃まで行う。


 自分の攻撃を利用されるだけでなく追撃までされたため、デーモンデュークは立てかけていた大剣を握って立ち上がり、その攻撃から自分の身を守った。


「アスタ」


「Oh, Yes!」


 アスタがフロントダブルバイセップスと共に<絶対注目アテンションプリーズ>を発動する。


「ぐっ、キレてる! キレてるぞ!」


 デーモンデュークは<絶対注目アテンションプリーズ>のせいでアスタのポージングから目を離すことができず、抵抗も空しく掛け声まで口にした。


 その隙にデーモンデュークの死角から麗奈が近づく。


「喰らえ!」


「なっ!?」


 アスタに夢中で麗奈への対応が遅れてしまい、デーモンデュークは至近距離から麗奈の気功波を受けて吹き飛ばされた。


「ウチがいるのも忘れたらあかんで!」


 未亜が一点集中の魔力矢で眉間を貫けばデーモンデュークは力なく地面に倒れた。


「Lv70のデーモンデュークがこうもあっさり倒されるなんて・・・」


 美鈴は自分が何もできずにいたことよりも麗奈達の強さを目の当たりにして呆然とした。


 そんな美鈴にパンドラが一言告げる。


「だから言ったでしょ? あれは雑魚だって」


「あっ、はい」


 美鈴はこのペースなら今日中にN1ダンジョンを踏破できてしまうのではないかと思った。

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