第476話 ワッフン、流石は僕の子供だね♪

 麗奈達がT島国のN1ダンジョンを探索している頃、藍大達はリュカの出産に立ち会っているところだった。


 5月にリュカはリルとの間に子供ができた後、お腹の子供に何かあってはいけないとシャングリラダンジョンに行くこともなくおとなしくしていた。


 サクラとゴルゴンがいれば治療体制は万全なので、出産した後のリュカや生まれた赤ちゃんはどちらも元気である。


「ワフ」


「リル、良かったな。元気な女の子だぞ」


『うん! リュカ、頑張ってくれてありがとう』


「そう言ってくれて嬉しい。リルが喜んでくれて良かったの」


 リルがリュカと笑い合っている横では舞が生まれたばかりの赤ちゃんの可愛さに悶えていた。


「か、可愛い~」


「舞はこの子に触らない方が良いと思う」


「ひ~ど~い~」


「酷くない。そうだよね、主?」


「どうだろう? 舞は今まで力加減のコントロールを身に着けようと日々努力して来た。撫でるだけなら大丈夫かもしれないぞ?」


「さっすが藍大~。私のことよくわかってる~」


 サクラは決して舞に意地悪するために言っているのではない。


 リルとリュカの子供を心配しているだけであり、何かあってからでは遅いと思っているからこそ舞に注意しているのだ。


 その一方、藍大は舞が今日のために真剣に努力していたことを知っているからこそ舞が報われても良いのではないかと考えた。


『ご主人、僕に良い考えがあるよ』


「良い考え? 聞かせてくれ」


『うん。先にご主人が僕達の子供をテイムすれば良いんだよ。そうすれば能力値が強化されて舞が触っても無事な確率が上がると思うんだ』


「なるほど。わかった。いずれにせよテイムするつもりだったし先にテイムしよう。リル、この子の名前は決めてあるか?」


『ルナだよ。僕の進化前と同じクレセントウルフだから』


「良い名前じゃないか。よし、それじゃあ早速テイムするぞ」


 リルの意見を受け入れ、藍大はリルがルナと名付けたクレセントウルフの赤ちゃんに手をかざしてテイムした。


『クレセントウルフのルナのテイムに成功しました』


『ルナのステータスはモンスター図鑑の従魔ページに記載され、変化がある度に更新されていつでもその情報を閲覧できます』


『詳細はルナのページで確認して下さい』


『おめでとうございます。逢魔藍大がネームドモンスターの使役に成功しました』


『初回特典として伊邪那美の力が5%回復しました』


『おめでとうございます。逢魔藍大が親子の従魔の使役に成功しました』


『初回特典としてミスリルレンジが逢魔藍大の収納リュックに贈られました』


 (確かにテイム前からネームドモンスターだったのってルナが初めてだわ)


 藍大がそんなことを考えていると伊邪那美が口を開いた。


「妾の完全復活まであと少しなのじゃ!」


「おめでと~」


「おめでとう」


「反応が軽くて悲しいぞよ」


「そうは言っても今の主役はルナちゃんじゃないかな?」


「私もそう思う」


「むぅ。それはそうじゃな」


 舞とサクラの言い分に納得して伊邪那美はおとなしくなった。


 藍大はリルがルナを待っているので改めてルナを召喚する。


「【召喚サモン:ルナ】」


「ワフ!」


『良かったね、ルナ。これでもう安心だよ』


「クゥン♪」


 ルナはリルが近寄ると甘えるように鳴いた。


 藍大はルナのステータスをまだ確認していないことに気づき、すぐにモンスター図鑑を視界に展開して調べ始めた。



-----------------------------------------

名前:ルナ 種族:クレセントウルフ

性別:雌 Lv:1

-----------------------------------------

HP:40/40

MP:200/200

STR:30

VIT:20

DEX:30

AGI:40

INT:30

LUK:20

-----------------------------------------

称号:藍大の従魔

   風聖獣の子

アビリティ:<声爆弾サウンドボム

装備:なし

備考:幸福

-----------------------------------------



 (”風聖獣の子”ってそんな称号まであったんだ)


 ルナの称号欄を見て藍大は感心した。


 ”風聖獣の子”の効果は風魔法系アビリティを会得しやすくなるというものである。


「リルもリュカもおめでとう。ルナは風魔法系アビリティに適性があるみたいだぞ」


『ワッフン、流石は僕の子供だね♪』


「ルナは天才なんだよ!」


 リルもリュカもすっかりうちの子天才モードに入った。


 そんなリル達が可愛かったので藍大はルナも含めて全員の頭を撫でた。


「藍大だけ狡い! 私も撫でたい!」


「OK。一旦落ち着こう。深呼吸しようか」


「は~い」


 舞は早くルナを撫でたい気持ちを我慢して藍大の言う通りに深呼吸した。


 そのおかげで舞の体からいい塩梅に力が抜けた。


 舞がゆっくりかつ慎重にルナの頭を撫でるとルナはくすぐったそうにした。


「クゥン」


「か、か、か・・・」


「サクラ!」


「任せて!」


 舞が暴走するかもしれないと判断した藍大がサクラに声をかけ、サクラも同じ意見だったので藍大から詳しい指示を受けずとも<透明千手サウザンドアームズ>で舞をルナから引き離して取り押さえた。


「クゥン?」


「ルナは仲良しトリオやブラドよりも肝が据わってるかもしれない」


「それな」


 怯えることなくどうしたんだろうかと首を傾げるルナに対し、サクラと藍大は大したものだと褒めた。


 2人のやりとりを聞いたリルとリュカは再びドヤ顔になるのは言うまでもない。


 その後、仲良しトリオやブラド、優月達子供組、ユノ等が合流してルナに注目が集まっている間に藍大は茂に電話した。


 伊邪那美の声が告げた内容で気になることがあったからである。


「茂、休みのところ悪いな。今は大丈夫か?」


『どうした藍大? T島国に送り込んだメンバーが心配になったか?』


「いや、パンドラがいるからそっちは心配してない」


『パンドラへの信頼が厚い。麗奈さんと未亜さんよりも厚くね?』


「パンドラが暴走することはないからな。安心して任せられる」


『国際会議の時もパンドラは堂々としてたもんな。それで、T島国のメンバーの件以外でどういった話があるんだ?』


「さっきリルとリュカの子供が生まれたんだが、リルが名付けてたらテイム前からネームドモンスターだった」


『・・・』


「茂? おーい、聞こえてるか? もしも~し?」


 茂の反応がないので藍大は茂に呼び掛ける。


 電話越しに物音だけは聞こえるから藍大の話のせいでショックを受けて気絶したという訳ではないだろう。


 30秒ぐらい経ってから茂が応答した。


『すまん。胃薬飲んでた』


「せめて保留ボタン押せよ」


『いきなり胃痛を引き起こす問題をぶち込んで来る方が悪い』


「連絡しないでぶっつけ本番で不味い事態になるのがお好み?」


『んな訳ねーだろ。ちょっとぐらい愚痴らせろ。俺は胃痛と戦ってるんだから』


 藍大が知らせてくれた情報の重要性は理解できたとしても、いきなり衝撃を与えられる自分の身もなってみろと茂は言った。


 今まで従魔でなければネームドモンスターは存在しなかった。


 これは世界共通の認識だった。


 ところが、その認識がリルによって覆されれば茂の胃だって痛くなる。


 ”風聖獣”のリルだからモンスターに名付けができたのか、それとも親だから子供に名付けができたのかは現時点ではわからない。


 少なくとも、”〇聖獣”の称号にモンスターに名付けする権限があるなんて情報は藍大のモンスター図鑑には載っていなかった。


「茂、ルナを見に来ないか? 茂が鑑定すれば新しい事実がわかるかもしれんし。クレセントウルフの赤ちゃんってめっちゃ可愛いぞ」


『行く。千春も連れてくわ。隣でルナちゃん見たいって目を輝かせてるから』


「了解。そうだ、シャングリラに来る時に真奈さんは連れて来るなよ?」


『俺からわざわざ声はかけねえよ。でも、向付後狼さんなら第六感で察知して勝手に来るんじゃないか?』


「勘弁してくれ。とりあえず、来るなら2人だけで来てくれ」


『わかった』


 藍大は電話を切った。


 その時には既にリルが悲し気な表情で藍大を見上げていた。


『ご主人、天敵が来るの?』


「大丈夫だ。連れて来るなって釘を刺しただけだから」


『そっか! ご主人ありがとう!』


「よしよし、愛い奴め」


「クゥ~ン♪」


 自分に甘えて来るリルが可愛くて藍大はリルの顎の下を撫でた。


 結局、リルの心配は現実とはならず1時間後に茂と千春だけがシャングリラに来たのでリルとリュカは心底ホッとしていた。


 同時刻、町田ダンジョンで何かを感じ取ったモフラーがいたらしいがそれはまた別の話である。

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