第466話 良い質問ですねぇ

 突如始まった質問タイムが終わってからブラドは参加者全員に問いかける。


「諸君の管理するダンジョンの構造について発表してくれる者はおるか?」


「俺が発表します!」


「うむ。死王よ、吾輩の指導した成果を披露するが良い。ただし、宝箱の位置は言わなくて良いぞ。もしもここにいるメンバーが攻略したら損をしてしまうのでな」


「うっす!」


 ブラドの問いかけに真っ先にマルオが反応して川崎大師ダンジョンについて説明し始めた。


 1階~3階は朝の森で植物型と鳥型、爬虫類型モンスターを配置している。


 4階~6階は昼の地底湖で水棲型、昆虫型、無機型モンスターが出現する。


 7階~9階は夜の闘技場で亜人型と獣型モンスターが現れる。


 1階~9階の通路は内装と宝箱の位置以外全て同じマップにしているが、これだけでもマップが違うと錯覚してしまうような工夫をしている。


 10階はポーラの部屋なので”迷宮の狩り人”のメンバーか”楽園の守り人”のメンバーのみ入れる。


 マルオの話を聞いて白雪が手を挙げた。


「マルオさん、ご説明いただきありがとうございました。質問してもよろしいですか?」


「どうぞ」


「マルオさんはトラップとかギミックって仕掛けてないんですか?」


「良い質問ですねぇ」


「主様、ボケてないで答えるべき」


 ローラのツッコミを受けてマルオはボケている場合じゃないと回答した。


「そうだった。ダンジョンとしてのトラップとギミックはありませんが、モンスターがトラップになるようにしてます」


「モンスターがトラップですか?」


「はい。例えば、1階層にはフラワーリザードって雑魚モブモンスターがいるんですけど、それは普段花に擬態して摘み取ろうとした瞬間に襲います」


「なるほど。内装に相応しいモンスターを配置することで罠の代わりにしてるんですね」


「そういうことです」


「ありがとうございました」


 白雪の質問以外に真奈とゲテキングが自分の好みそうなモフモフや虫型モンスターはいないかと訊くが、それ以外に質問は出なかったのでマルオの発表は終了した。


「死王、発表お疲れ様なのだ。あと2人ぐらい発表してほしいのだが、誰か発表してくれぬか?」


「「私が発表します」」


 真奈とゲテキングの反応が被った。


「イロモノ枠は片方だけで良いのだ。じゃんけんでどちらが発表するか決めてほしいぞ」


「「最初はグー、じゃんけんポン!」」


 (イロモノであることは否定しないのか)


 藍大が心の中でツッコんだけれど、真奈もゲテキングも決して否定せず速やかにじゃんけんした。


 じゃんけんの勝者はゲテキングだったため、ゲテキングが次に八ヶ岳ダンジョンについて発表することになった。


「それでは、次は私が”雑食道”らしい八ヶ岳ダンジョンについて発表します」


 ゲテキングによれば、八ヶ岳ダンジョンの内装は1~4階は樹海で5~7階が山、8階が”ダンジョンマスター”アンリの部屋だ。


 配置されているモンスターは全体を通して虫型と爬虫類型、鳥型モンスターだけである。


「ゲテキングさん、質問良いですか?」


「持木さん、いくらでもどうぞ」


 質問のために泰造が挙手すると、ゲテキングが優しい笑みを浮かべて好きなだけ質問して構わないと述べた。


「モンスターの種類を虫型と爬虫類型、鳥型モンスターに限定したのはどうしてですか?」


「おわかりになりませんか?」


 ゲテキングの笑みが優しいものから不敵なものに変わり、泰造はハッとした表情になった。


「ま、まさか・・・」


「そうです。全ては雑食のためです。獣型モンスターと鳥型モンスターのどちらを配置するか悩みましたが、雑食的に鳥型の方がハードルは低いと思って入門者用に配置してます」


 (雑食の沼に引き摺り込もうとするスタンス、これがゲテキングか)


 藍大は声にこそ出さないが戦慄していた。


 その隣でサクラ真剣な表情になって藍大に話しかけた。


「主、絶対に雑食に興味を持たないでね。特に虫。私との約束」


「わかってる。俺がサクラ達の嫌がる食材で料理を作ったことあった?」


「ない。これからもずっとそうしてね」


「勿論だ」


『ご主人の料理の話を聞いたらお腹空いて来た』


「あと30分ぐらいで昼休憩だからそれまで我慢だ」


「クゥ~ン・・・」


 リルはあと30分と聞いてしょんぼりした。


 そんなリルを藍大が励ますようにその頭を撫でる。


「良いなぁ。ガルフ、カモン」


「ワフ・・・」


 藍大とリルのやり取りを見てやれやれとガルフがが溜息をついて真奈にモフられに行く。


 なんだかんだでガルフは真奈にモフられ慣れているようだ。


 真奈がガルフをモフっている間に白雪が挙手する。


「ゲテキングさん、私からも質問して良いですか?」


「勿論ですとも」


「ありがとうございます。ゲテキングさんは雑食好きな冒険者の集客のために何かしてるんですか?」


「ダンジョン近くにあるDMUのショップで軽い雑食を置いてもらってます。具体的にはホーネットベビーの串揚げやキノボリザードのフライドリザードみたいなホットスナックですね」


「す、すごいですね。そんなことまでしてるなんて」


「少数派が多数派になるためには地道な布教あるのみです」


 ゲテキングがキリッとした表情で良い感じに言っているがこれはあくまで雑食の話である。


 このまま放置していると雑食に関する演説を始めそうなので、ブラドはそこで止めに入った。


「ゲテキング、発表お疲れ様なのだ。ラスト1人に発表してほしいのだが、意欲的に質問する女優鳥教士に発表を頼んでも良いか?」


「わかりました。私から発表しますので、先輩方に改善点を指摘していただければと思います」


 ブラドに指名された白雪は下北沢ダンジョンについて発表し始めた。


 下北沢ダンジョンは”ホワイトスノウ”の本拠地に近く、今までに発表された他のダンジョンとは違って地下に広がるダンジョンである。


 地下1階は草原で獣型と鳥型モンスターを配置している。


 地下2階は森で植物型と虫型モンスターが潜んでいる。


 地下3階は海岸で水棲型と爬虫類型モンスターが姿を見せる。


 地下4階は坑道で無機型モンスターだけ配置している。


 地下5階は屋敷で亜人型モンスターだけが出現するようになっている。


 地下6階は山道で無機型と鳥型モンスターが出て来る。


 地下7階が白雪のテイムした”ダンジョンマスター”の部屋である。


 ちなみに、”ダンジョンマスター”はルフでルーと名付けられている。


 マップもバラバラで縛りの要素が何もなかったため、白雪の発表を聞き終えたブラドはむぅと唸った。


「何か不味かったでしょうか?」


「見事に階層とモンスターがバラバラであるな」


「バラエティーが豊かな方があらゆるダンジョンのモンスターとの戦闘に活かせると思ってこのようにしました」


「誠に残念ながら、発表内容の下北沢ダンジョンでは縛りがないせいでほとんどDP獲得量に補正がないのである。これではDPを毎日3万ポイントしか稼げないのも納得なのだ」


「それじゃこのダンジョンを活かして縛りを設けるのは無理なんですか?」


 白雪が縋るように訊ねるのに対してブラドは困った表情を見せていた。


「かなり厳しいのである。集客を頑張って質よりも量でどうにかするしかないのだ。幸いなことに集められた冒険者が飽きにくく設計されてるので、これはもう下手にいじらず集客で頑張るのである。中でできるだけMPを消費してもらうのも忘れてはならぬぞ」


「わかりました。逢魔さん、パーティーの皆さんを連れて探索しに来ていただけないでしょうか?」


「早まってはいけないのだ!」


「え?」


「下北沢ダンジョンの稼ぎでは主君達がダンジョンに行けばしゃぶり尽くされて終わるぞ」


「しゃぶり尽くされるんですか?」


 いまいちピンと来ていない白雪は首を傾げる。


「そうなのだ。配置したモンスターは1体も残らず全滅させられるし、宝箱もあっさりと見つかってしまう。DPが貯まっていれば主君達がいなくなった後に誰かがダンジョンに来てもダンジョンの修繕やモンスターのリポップが間に合うのだが、DPが心許ないとショボいダンジョンにしか修復できなくて目も当てられなくなる」


「・・・すみません。やっぱり今の発言はなかったことにして下さい」


「安心して下さい。知り合いのダンジョンを荒らしたりしませんから」


 藍大の発言を受けて白雪はホッとした。


 その後、ブラドがダンジョンの縛りについていくつか具体例を挙げ、参加者達のダンジョン運営相談が行われた。


 昼休みに入る頃には参加者達がとても満足した表情になっていたので、ブラドの特別講義は成功したと言えよう。

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