第465話 ブラド師父、イチオシの縛りはなんですか?

 強化合宿2日目、藍大はサクラとリル、ゲン、ブラドと共にDMU本部の会議室に朝からやって来た。


 昨日は情報共有よりも模擬戦メインの日になったが、今日は午前中にダンジョン運営について知識を深めるため会議室スタートなのだ。


 テイマー系冒険者達は”ダンジョンマスター”をテイムしている者も多いので、自身の戦力を増やすために管理するダンジョンでDPを稼ぐ必要がある。


 今まで個別にどうやってダンジョンでDPを稼ぐか相談されることはあったが、毎回同じような話をするのも面倒だから、藍大達は合宿でまとめてレクチャーして相談に乗るつもりだ。


 だからこそ、その道のプロであるブラドが今日は藍大と一緒に来ていると言っても過言ではない。


 テイマー系冒険者達も分体を創り出せる”ダンジョンマスター”をテイムしている者は、そのモンスターを召喚して着席している。


「定刻となりましたので、強化合宿2日目を始めます。今日は午前中にダンジョン運営の座学を行います。特別講師としてブラドを呼んでますので、まずはブラドの講義を受けましょう。それじゃブラド、よろしく頼む」


「うむ。吾輩がダンジョン経営学特別講師のブラドである。短い時間だがよろしくなのだ」


 ブラドは藍大に紹介されてから研修講師のように話し始めた。


 そんなブラドの姿を舞が見れば、抱き着きたくてうずうずするに違いないが舞はこの場にいない。


 その代わりに真奈がブラドをモフりたそうに見ている。


 ブラドは危険な視線を感じても気づかないふりをして話を進める。


「最初に確認するぞ。諸君、”ダンジョンマスター”とDPについて知ってることを順番に発表するのだ」


「俺からっすね。DPはダンジョン内で冒険者やモンスターが死ぬと手に入ります」


「マルオ君の方法以外で言えば、DPはダンジョン内でMPが消費されることでも手に入ります」


「”ダンジョンマスター”はDPでダンジョンの内装をカスタマイズできますよね」


「”ダンジョンマスター”はDPで好きな種族のモンスターを召喚できます。モフモフ召喚し放題です」


「”ダンジョンマスター”はDPでダンジョン内にアイテムを仕込めるはずです。雑食レシピにはお目にかかれてないですが」


「ダンジョン内で独自ルールを設けて運営をするとDP獲得量に補正がかかるんじゃなかったでしたっけ?」


「”ダンジョンマスター”はダンジョン内では飲まず食わずでも生き続けられるんでしたよね」


「ふむ。よろしい。一部余計な発言が含まれてたが概ね正解である」


 余計な発言とは真奈のモフモフとゲテキングの雑食レシピのことだ。


 言った当人達は微塵も余計なことを言ったつもりがないから、今まで挙げられた中に余計な内容なんてあっただろうかと首を傾げている。


 業の深い人達はひとまず置いておこう。


「今日の本題はいかにしてDPを稼ぐかということなのだ。そのために重要なのは女優鳥教士が口にした条件だぞ」


「これ大事」


 川崎大師ダンジョンの改築相談後、稼げるDPが倍以上に増えたのでポーラはうんうんと頷いた。


「諸君に再び質問なのだ。1日当たりのDP獲得量はどれぐらいなのか教えてほしいぞ」


「川崎大師ダンジョンは1日当たり約10万ポイントです」


「狛江ダンジョンは1日当たり大体8万ポイントです」


「稲田堤ダンジョンは1日で平均7万ポイントぐらいですね」


「町田ダンジョンはざっくり1日当たり15万ポイントです」


「八ヶ岳ダンジョンは毎日5万ポイントぐらいです」


「恥ずかしながら、下北沢ダンジョンは3万ポイントしか稼げてないです」


 藍大&ブラドペアを除いて1日当たりの稼ぎがトップなのは真奈&チュチュペアの町田ダンジョンだった。


 最下位は鳥教士に転職したばかりの白雪である。


 白雪のテイムした”ダンジョンマスター”はまだ分体を創り出せないので、今日この場にいない。


「諸君の稼ぎは大体わかったのだ。では、吾輩が管理するいくつかのダンジョンの稼ぎを発表しよう。最も稼いでるのはシャングリラダンジョンだぞ。毎日100万ポイント程度稼いでおる」


「100万!?」


「シャングリラダンジョンだけで!?」


「ゴールは遠いですね・・・」


「ブラドさん半端ないです」


「それだけあればモフモフいっぱい召喚できる」


「100万あれば色んな雑食を味わえる」


 (真奈さんとゲテキングだけ欲望に忠実過ぎる)


 藍大がそう思うのも無理もない。


 他のメンバーが自分達の運営するダンジョンとシャングリラダンジョンを比べているのに対し、その2人だけ100万ポイント毎日稼げれば何ができるか考えているのだから。


「ちなみに、道場ダンジョンが毎日50万ポイントで多摩センターダンジョンが毎日30万ポイントである」


「ワイバーンフロアよりも上の階が増えた今、道場ダンジョンだけでシャングリラダンジョンの半分も稼ぐんですね」


「主様、できることからコツコツ始める」


「だなぁ」


 マルオはポーラに言われてしみじみと頷いた。


 他のメンバーも似たような状況だ。


 いち早く立ち直ったのは真奈であり、挙手してからブラドに訊ねた。


「ブラドさん、横浜の客船ダンジョンはどれぐらい稼げますか?」


「あそこは毎日5万ぐらいだぞ。吾輩がほとんど手を付けてないからな」


「それは”レッドスター”に配慮してのことでしょうか?」


「当然である。”レッドスター”のお膝元のダンジョンがガラリと変わったら困るのは向付後狼さん達だろう? だから仕方なくほとんど放置してるのだ」


「ご配慮いただきありがとうございます。兄に代わってお礼申し上げます」


 真奈は真剣な表情でブラドに頭を下げた。


 ブラドがその気になれば客船ダンジョンをもっとDPを稼げるダンジョンにできる。


 そうしないのは”レッドスター”の本拠地が大きな変化に飲み込まれないようにするためだ。


 冒険者にとって利益が出過ぎず、かといって全く儲けられない状態も避けるとなるとブラドは迂闊に手を出せない。


 自分のクランでもないのに配慮してもらっていたという事実を知り、真奈は”レッドスター”のサブマスターとして頭を下げた訳だ。


 その頃にはそれ以外のメンバーも立ち直れていた。


 白雪が手を挙げた。


「ブラドさん、質問です」


「なんであるか?」


「シャングリラダンジョンはどうやって100万ポイントも稼げるようにしたんですか?」


「やはり知りたいようであるな。これはダンジョン内でMPが消費されることでDPを得るという条件にダンジョンの縛りを設けて一気に稼いでおるぞ。主君のパーティーは高火力を供えたメンバーだらけなのですぐにドンと稼げるのだ」


「なるほど」


 白雪は藍大のパーティーと聞いて今日会議室に来ているメンバーに加え、舞や仲良しトリオのことを思い浮かべた。


 確かに全員高火力だったので頷くしかあるまい。


 サクラとリルは得意気な表情だから藍大はよしよしと頭を撫でてあげた。


 白雪の次に質問したのはゲテキングだった。


「ブラド師父、イチオシの縛りはなんですか?」


 (ブラド師父って何?)


 藍大は心の中でゲテキングにツッコんだがブラドは華麗にスルーした。


「ダンジョンにテーマを持たせることなのだ。ダンジョン全体が無理でもいくつかの階層ごとにテーマを持たせるのでも良いぞ。道場ダンジョンは内装がずっと道場であろう? あれも立派な縛りである」


「つまり、八ヶ岳ダンジョンも雑食素材しか手に入らないダンジョンにすれば、DP獲得量に補正がかかるんですね?」


「その通りなのだが、あまりキワモノだけしか出てこないダンジョンにすると来訪する冒険者がいなくてDPを稼げなくなるぞ。補正値が上がっても0に何を掛けても0であろう?」


「”雑食道”が存在する限り0にはならないので大丈夫です!」


「虫がうじゃうじゃなんてあり得ない。根絶やし待ったなし」


「サクラ、落ち着こうな」


 虫型モンスターが大嫌いなサクラはゲテキングの八ヶ岳ダンジョンだけには行きたくないと警戒している。


 藍大は放っておくとサクラが<運命支配フェイトイズマイン>でダンジョンをどうにかしてしまうのではと心配してサクラを抱き寄せた。


「主に抱き着いて落ち着く」


 藍大に抱き着いたおかげでサクラはすぐに落ち着きを取り戻せた。


 その後も質問がいくつか続いたが、ブラドによるダンジョンの特別講義はまだまだ続く。

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