第462話 世の中には私の想像もつかないことが起きてるんですねぇ

 模擬戦が終わるとローラはマルオに助け起こされた。


「うぅ、悔しい。主様の血までもらったのに・・・」


「ローラ、また一緒に頑張ろう。当面の目標はドライザーさんに一撃入れるってことで」


「頑張る」


「よしよし。休憩しながら皆さんの模擬戦を見ような」


「うん」


 マルオが優しく抱きしめて頭を撫でると、ローラは久し振りの敗北が悔しくてマルオに甘え始めた。


 その一方で藍大はドライザーを労っていた。


「ドライザー、お疲れ様。パーフェクトだ」


『Thank you ボス』


 ドライザーは藍大にサムズアップした。


 表情こそわからないが、ドライザーの声には自信が満ちていたから心の中ではドヤっているのかもしれない。


 藍大とドライザーが2階に上がるとリル達が駆け寄った。


『次は僕も戦いたい!』


「ミーも戦いたいのニャ!」


『フィアだって戦うよ!』


「よしよし、愛い奴等め。相手次第だけど次はドライザー以外に戦ってもらうからな」


 藍大は甘えるリル達を順番に撫でた。


 そんな藍大達に羨望の眼差しを向けるモフラーが1人いたが、藍大は当然スルーしている。


 藍大が取り込み中のため、茂が代わりに次に戦う意思のある者がいないか訊ねることにした。


「次はどなたが戦いますか? 希望者はいますか?」


「私が戦います。相手は持木さんを指名したいです」


「自分ですか?」


 ゲテキングが泰造を指名すると、まさか自分が指名されるとは思っていなかった泰造が訊き返した。


「そうです。私と持木さんは戦わなければならない理由があります」


「戦わなければならない理由? なんでしょう?」


「どちらの嫁が強いか白黒つける必要があると思いませんか?」


「嫁? ま、まさか?」


 ゲテキングが嫁と言った瞬間、泰造はその隣にいるディアンヌに視線を向けた。


 ディアンヌは泰造からの視線を受けて両手を手にやり、赤くなった顔を隠した。


 その左手の薬指には指輪が輝いていることからして間違いない。


 ゲテキングは不敵な笑みを浮かべて頷く。


「私もディアンヌと結婚してるんです。従魔嫁を持つ者同士、やるしかないでしょう?」


「上等です! 受けて立ちましょう!」


 泰造はゲテキングの誘いに乗った。


 そのやり取りを見て白雪が藍大に訊ねた。


「あの、ちょっと良いですか逢魔さん?」


「なんでしょうか?」


「ゲテキングさんって虫型モンスターを食べちゃう人ですよね?」


「そうですね」


「食べちゃう相手と結婚しちゃったんですか?」


「しちゃったみたいですね。無論、ゲテキングにディアンヌを食べるつもりはないと思いますが」


「世の中には私の想像もつかないことが起きてるんですねぇ」


 白雪は何か真理を悟ったような表情をしていた。


 (思えば俺も最初はサクラ達と結婚するとは思ってなかったからなぁ)


 最初から大人だった舞とは異なり、サクラとゴルゴン、メロ、ゼルは藍大がテイムした当初は子供の姿だったりそもそも人型ではない場合もあった。


 藍大にとっては自分の子供みたいな存在だったのだが、サクラ達は進化や魔石を取り込みで成長して人型かつ大人の姿になって藍大と結婚したいと気持ちを伝えた。


 真剣に育てて来た従魔から告白されれば、藍大だって真面目に考えない訳にはいかない。


 今でこそ夫婦生活が当たり前になっているものの、最初は全然違ったものだとしみじみ思った。


 余談だが、泰造とゲテキングもアイボとディアンヌから告白されている。


 アイボの場合は自分に愛情を注いでくれた泰造のため、無性のスライムから進化の過程で雌の人型の姿になって告白した。


 スライム系特有の喋れない状態での告白のため、アイボの告白は首から下げるホワイトボードでの筆談だった。


 恥ずかしがり屋のアイボが覚悟を決めて告白すれば、非リアの泰造はOK以外の選択肢なんて存在しなかったに違いない。


 その一方、ディアンヌの告白はアイボのような甘いものではない。


 自分の生存権を懸ける気持ち半分とゲテキングの虫型モンスターを食べたいぐらい好きな所に惹かれた気持ち半分から告白した。


 ゲテキングの妻になってしまえば、自分が食べられてしまうことはない。


 これはディアンヌがゲテキングにテイムしてもらってから人間の習性を調べて把握したことだ。


 自分を食べてほしくない一心でプレゼンしてテイムしてもらったディアンヌだから、最後までちゃんと大切にしてほしいと思ったのだろう。


 また、ゲテキングがふざけて虫食をしている訳でないこともちゃんと理解している。


 食べたいぐらい好きという感情が人というよりも自分達寄りだったこともあり、ディアンヌはゲテキングに告白したのだ。


 結婚した経緯はさておき、両ペアは1階に降りて模擬戦の準備を済ませていた。


 茂はそれを確認してから開始の合図を告げる。


「試合開始!」


「ディアンヌ、行きますよ!」


「アイボ、行くぞ!」


 ゲテキングはディアンヌに乗って移動し始め、泰造はアイボをハーフプレートの鎧に変えた。


 アイボは<創魔武器マジックウエポン>で泰造に槍を創って渡した。


 泰造は元槍士であり、その時に培った技術がまだ体に残っているから槍を持ってゲテキング&ディアンヌペアと戦うつもりなのだ。


「ディアンヌ、君の強さを見せてあげなさい」


「わかった」


 戦う前のデレデレした雰囲気はどこかに行ってしまい、真剣な表情のディアンヌが泰造に向かって糸を連続して射出する。


 ディアンヌは泰造の機動力を完全に失わせてから接近戦を仕掛けるつもりらしい。


「効きませんよ!」


 泰造は槍をグルグルと回してディアンヌの飛ばした糸を切り裂く。


「ディアンヌ、直接狙う数を減らして回りに仕掛けて追い詰めましょう」


「そうする」


 これまでは泰造を直接狙う形で糸を射出していたが、今度は泰造に当たらない方角に糸を射出していく。


 泰造も自分から離れた場所に放たれた糸までわざわざ手を出す必要がないので、慎重に自分に飛んで来る糸だけ処理した。


 それが何度も繰り返されて行く内に泰造は自分の足場がほとんどなくなっていることに気づいた。


「いつの間に・・・」


「ディアンヌがあちこちに吐いていたのは持木さんの足場をなくす網を仕掛けるためでした。この網に足を取られれば、持木さんは思うように動けなくなります。これで詰みですよ」


「詰んだかどうかは最後までわかりません」


「良いでしょう。幕引きにして差し上げます。ディアンヌ!」


「了解」


 ディアンヌが網の上を自由に素早く駆けるのに対し、泰造はアイボが次々に創り出した槍を投げて迎撃する。


 そして、泰造の手元に槍がなくなった瞬間を狙ってディアンヌが接近する。


「終わりです」


「そっちがです」


 ゲテキングに泰造がニヤリと笑って応じた直後、アイボが鎧の姿から人型に戻って手を伸ばしてディアンヌの脚を掴んだ。


 それと同時に<魔力吸収マナドレイン>で消耗気味だったディアンヌのMPを一気に吸い出した。


 MPが枯渇してしまえば、いくらHPがあったとしてもフラフラになって動くことはできない。


 ディアンヌがふらついた隙にアイボが<創魔武器マジックウエポン>で泰造に槍を渡せば形勢はあっさり逆転した。


「どうします? まだやりますか?」


「いえ、降参します。この勝負は貴方達の勝利です」


「そこまで! 勝者、持木&アイボペア!」


 ゲテキングの降参宣言を受けて茂が試合終了を告げた。


「頭脳戦って感じがしたっすね」


「面白い勝負でした」


「手に汗握る勝負でした」


「これが誘い受けですか」


「真奈さん、違いますから。真面目な模擬戦で何言ってんですか」


 マルオと睦美、白雪が真剣にコメントしている中で真奈がズレた発言をするものだから藍大が冷静にツッコんだ。


 模擬戦の形式だったので今回は泰造とアイボが勝ったが、実戦ならばディアンヌは毒やもっとえげつないアビリティを使用できた。


 それゆえ、モンスター図鑑でどちらのステータスもわかる藍大からすれば、ルール無用の場合に結果が違ったかもしれないと考えていた。


 泰造とゲテキングの模擬戦が終わると、あちこちに散った網の処分やMP切れで倒れたディアンヌを送還したゲテキングの回収をしなければならない。


 それを全てこなせるのは藍大だけだから茂が頼んだ。


「藍大、彼等の回収と床の処理を頼む」


「了解。リルはあの3人を回収。フィアは床が焦げないように網を燃やして。ミオは火事にならないように注意しといて」


『任せて!』


『は~い!』


「わかったニャ!」


 リルの<仙術ウィザードリィ>で泰造とアイボ、ゲテキングは2階に移動させた。


 フィアは<緋炎吐息クリムゾンブレス>で網を焼き、ミオが<創水武装アクアアームズ>で巨大な水の盾を創り出して床に押し当てて鎮火した。


「みんなお疲れ。良い働きだったぞ」


「クゥ~ン♪」


『エヘヘ♪』


「ドニャア」


 作業時間よりもリル達を労う時間の方が長いのは藍大達だから仕方ない。

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