第461話 ドライザー様素敵! 私はこれが見たかった!

 白雪が召喚したヨナと呼ばれた鳥型モンスターは白鳥だった。


「クワァ・・・」


 ヨナは召喚されてフィアを見た途端、フィアから目を離せなくなっていた。


「こ、これは・・・」


「知ってるんですか有馬さん?」


「私にはヨナがフィアちゃんに一目惚れしたように見えます」


「一目惚れ?」


 白雪の言い分を聞いてからヨナを見てみると、確かに藍大の目から見てヨナはフィアに熱い視線を送っているようだった。


『フィアは自分より弱くて美味しい物を作れない相手は認めないよ』


「ク、クワッ」


 フィアにきっぱりと付き合う条件を叩きつけられてヨナは崩れ落ちた。


 中に人でも入っているんじゃないかと思う動作のヨナに対し、フィアはリルが乗っているのとは反対側の肩の上で藍大に頬擦りしていた。


『パパのご飯を超えなきゃ認めないからね』


「クワァ」


 ヨナはフィアにピシャリと言われてそんなぁと落ち込んだ。


 フィアとヨナのやり取りの間、藍大はモンスター図鑑を視界に映し出してヨナのステータスを確認していた。



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名前:ヨナ 種族:ハンサ

性別:雄 Lv:65

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HP:1,200/1,200

MP:1,500/1,500

STR:1,000

VIT:1,000

DEX:1,000

AGI:1,500

INT:1,500

LUK:1,000

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称号:白雪の従魔

   希少種

アビリティ:<羽根竜巻フェザートルネード><螺旋突撃スパイラルブリッツ><氷結風フリーズウィンド

      <騒音砲弾ノイジーシェル><騒音半球ノイジードーム

      <睡眠霧スリープミスト><全耐性レジストオール

装備:なし

備考:落胆

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 (フィアにばっさり言われて落ち込んでるじゃん)


 ヨナのステータスを見て藍大は苦笑した。


 ヨナの能力値は道場ダンジョンの中ボスであるワイバーンと同程度だった。


 Lv65にしては比較的高い能力値だったけれど、フィアと比べるとかなり弱い。


 これではフィアが見向きもしないのも頷ける実力と言えよう。


「ヨナ、元気出して。貴方にはまだ伸びしろがあるわ」


「クワァ」


 白雪に励まされてヨナは彼女に抱き着いた。


 ヨナが白雪から元気を分け与えられていると、フィアから追撃しそうな気配がしたので藍大はフィアの口を塞いだ。


「それ以上はいけない。良いね?」


『は~い』


 フィアは藍大に駄目と言われたことはやらないので素直に頷いた。


 全員の代表的な従魔が召喚されたところで茂が藍大に耳打ちした。


「模擬戦の前に情報共有をするんだよな? 模擬戦したらそれどころじゃなくなるかもしれないし」


「そうだった。サンキュー」


 藍大は強化合宿の趣旨を確認する上で話した後、1日目は模擬戦の前に各自が仕入れた情報を簡単に共有し合う時間にすると伝えた。


 情報共有の時間ではどこのダンジョンのどのモンスターが誰にぴったりという話が多い。


「群馬の富岡ダンジョンでシルバーモスが発見されたそうです」


「お蚕様ですか。丁度食べ方が見つかったので今度行ってみます」


「テイムじゃなくて食べるんですか!?」


 白雪はゲテキングが自分の情報をテイムのためでなく食欲を満たすために使うと気づいて驚いた。


「あぁ、俺達も最初はあんな感じでしたよね」


「そうですね。もう慣れましたが」


「ですね」


 白雪の反応を見てマルオと睦美、泰造は懐かしそうにしていた。


 慣れとは怖いものである。


「新たなモフモフに関する情報はありませんか? 合成獣っぽいのだと嬉しいです」


 (こっちもブレねえな)


 真奈が貪欲にモフモフな獣型モンスターの情報を欲するのを見て藍大は苦笑した。


「獣型に括れるか怪しいですが、この前応援で行った桂浜ダンジョンで噂のカプリコーン見たっす。すぐに水面に潜っちゃったんで逃げられましたが」


「マルオ君、良い情報ありがとうございます。私からもお返しです。萩ダンジョンにタキシムがいたそうです」


「マジっすか? タキシムはまだ遭遇したことないんで合宿終わったら行ってみます」


「私も神明ダンジョンでクランメンバーから鵺に遭遇したって聞きました」


「その探索、自分も参加してました。あれは相当素早かったです」


「鵺と言えば日本妖怪ですね。妖怪モフモフです。ありがとうございます。神田さん、代々木ダンジョンにガーゴイルが現れたそうです。持木さん、浦安ダンジョンでジュエルスライムの目撃証言があります」


「「ありがとうございます!」」


 (妖怪モフモフって何?)


 誰もツッコまなかったが藍大はしっかりと心の中でツッコんだ。


 テイマー系冒険者は”ダンジョンマスター”をテイムすると自分のダンジョン以外に行かないと思いがちだが、ダンジョンに配置するモンスターを充実させるため常に他所のダンジョンの調査をしている。


 藍大の場合、ブラドが優秀なのでダンジョンの管理はブラド任せになっているがこれは例外である。


 モンスターの所在地に関する情報共有が終わると、いよいよ強化合宿のメインとなる模擬戦に移った。


 ルール説明は主催者の藍大から行う。


「模擬戦のルールは主人と従魔のタッグ戦です。ポーションは2級の物まで用意してありますが、それで治らないような致命傷を与えることのないように気を付けましょう。相手を行動不能にするか、降参させたらそこで試合終了です。質問等なければこのまま組み分けしますが、よろしいですか?」


 藍大の問いかけに全員が頷いた。


「では、最初はデモンストレーションということで私とマルオの試合を行います。審判は茂、頼めるか?」


「了解した」


「マルオ、どの従魔と戦いたい? 選んで良いぞ?」


「マジっすか? じゃあドライザーさんでお願いします!」


「わかった。リルとミオ、フィアは皆さんと一緒に2階で見学しててくれ」


『は~い』


「わかったニャ」


『うん』


 藍大とドライザー、マルオとローラを残して全員が2階の観客席へと移動した。


 両方のペアの準備が整ったことを確認して茂が開始の合図を告げる。


「試合開始!」


「ローラ、先手必勝だ!」


「任せて」


「ドライザー、ローラに怪我させないようにな」


『OK、ボス』


 ドライザーは藍大から難しそうな要求をされたが、特に気負うことなく応じる。


 ローラは素早く動いてドライザーを翻弄しようとする。


 しかし、ドライザーは冷静にローラを目で追っていて隙が全く見つからない。


 いつまでもちょこまかと動いていたって仕方ないと判断し、ローラはドライザーに接近して<貫通乱撃ピアースガトリング>を放った。


『良い突きだ』


「当たらなければ意味がない」


 ドライザーは特にアビリティを使わずにローラの<貫通乱撃ピアースガトリング>を全て避けた。


 これにはローラも悔しそうである。


 だが、その一方でローラは嬉しく思っていた。


 Lv100に到達してからは格下の相手ばかりと戦っていたため、自身の腕が鈍っていたのを感じていたのだ。


 鈍っていく一方だった状態から脱出できるチャンスを得てローラは笑みを浮かべていた。


「本気で行かせてもらう」


『かかって来い』


 ローラはドライザーから距離を取るべく<血雨ブラッディーレイン>を放ちながら後ろに退く。


 ドライザーはドラゴバヨネットを巧みに操って<血雨ブラッディーレイン>を全て弾いてみせた。


 その隙を突こうとローラはドライザーの死角から<剛力斬撃メガトンスラッシュ>を放った。


『甘い』


 ドライザーは見向きもせずに<黒剛尾鞭アダマントテイル>でローラの斬撃を弾いた。


「ドライザーさんヤバいっす。”大災厄”よりも強いっすわ」


「俺のドライザーを倒したいならこんなもんじゃ足りないぞ」


「そうみたいですね。ローラ、俺の血を吸ってくれ」


「わかった」


 マルオは今のままだとドライザーに一撃も入れられないと判断してローラに血を吸わせる。


 これが実戦ならその隙を逃す藍大ではないが、模擬戦でこの隙を潰せばローラがパワーアップできないので待つことにした。


 血を吸ったローラは妖しく笑みを浮かべる。


「お待たせ」


 ローラの動きは血を吸う前よりも速くキレのあるものになった。


『面白くなって来た』


 ドライザーに表情があればきっと笑っていたに違いない。


 ローラが素早く両手のレッドエクスキューショナーを振るうのに対し、ドライザーはドラゴバヨネットだけで全て防いでみせる。


「次の攻撃に全てを懸ける」


『受けて立とう』


 ローラが<血薔薇舞ブラッディーローズ>を発動すると、ドライザーはドラゴバヨネットをしまって<創岩武装ロックアームズ>で両腕に盾を創り出してローラの攻撃を全て捌いた。


 最後の一撃の際にドライザーが踏み込んで盾で弾けば、STRで負けたローラは後ろに吹き飛ばされた。


 地面に背中を付けたローラに再びドラゴバヨネットを取り出してその切っ先を向け、ドライザーはマルオの方を向く。


「参りました。降参です」


「そこまで! 勝者、藍大&ドライザーペア!」


「ドライザー様素敵! 私はこれが見たかった!」


「クラマス、落ち着きましょう」


 茂が試合終了の合図を告げた直後、テンションが振り切れた睦美を落ち着かせる泰造の姿があったのはこれもまた予定調和と言えよう。

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