第460話 大体わかった。伝えるのがめんどくさいんだな?

 翌日、藍大は朝からテイマー系冒険者の強化合宿のためにDMU本部にやって来た。


 藍大が1日目に連れて来たのはリルを筆頭とする四聖獣とゲンだ。


 もっとも、ゲンはいつも通り<超級鎧化エクストラアーマーアウト>を使っているため、連れ歩いているのは4体だけのように見えるだろうが。


「逢魔さん、おはようございます!」


「「魔王様、おはようございます!」」


「おはようございます。外で待ってなくても良かったんですが」


「師匠より先に中に入る弟子はいないですって」


「魔王様よりも前に進むのは露払いと護衛の時だけです」


「自分も同じ考えです」


 藍大達が到着した時にはマルオと睦美、泰造が待っていた。


 藍大は重役出勤する性格でもないので、5分前行動のつもりで集合時刻5分前にやって来た。


 そんな藍大よりも後に来るなんてもってのほかで、藍大の到着を待たねばと傘下のクランに所属するマルオ達はDMU本部の前で待っていた訳だ。


『ご主人、ゲテキングが来たみたいだよ』


「ん? あぁ」


「すげえ!」


 リルが示した方角を見て藍大は苦笑し、マルオは目を輝かせた。


 今日もゲテキングはアラクネのディアンヌに騎乗したまま絶妙なバランス感覚で香ばしいポーズを取りながらやって来た。


「みなさん、お待たせしました!」


「相変わらず主張の激しい登場ですね」


「これも”雑食道”のPR活動の一環ですので!」


「なるほど」


 ゲテキングの見た目は好青年だから、普通に歩いていても通行人の目に留まるだろう。


 それでも、彼は”雑食道”と雑食のPR活動のためにもっと人目を集めようと奇抜なポーズを決めながら移動するのだ。


 藍大もゲテキングが他人に迷惑をかけているのなら注意するだろうが、これぐらいならば認知度向上のためと言われて頷けなくもないので好きにしてもらうことにした。


 ゲテキングが到着した後、リルが小さくなって自分の肩に飛び乗ったから藍大は真奈が来たことを察した。


「リルくぅ~ん! おはようございま~す!」


『・・・おはよう』


 リルは礼儀正しい従魔なので、藍大の肩の上で警戒態勢を崩さず挨拶を返した。


「真奈さん、おはようございます。今日はガルフに乗って来たんですね」


「逢魔さん、皆さんもおはようございます。ガルフが走りたそうにしてたので走って来ました」


「アォン」


 ガルフは思いっきり走れて満足したように鳴いた。


 真奈はガルフから降りて頭を撫でた後、ミオに目を向けた。


「ミオちゃんじゃないですか! 会えたら肉球ぷにぷにしてからモフりたかったんです! しても良いですか!?」


「嫌ニャ!」


 ミオは即答して藍大の陰に隠れた。


 事前にリルから真奈に近づいたら危険だと聞いていたが、本人を見てその恐ろしさを理解したようである。


『ミオ、注意してって言ったでしょ? 余裕ぶってたら駄目だよ』


「マジだったニャ。リルの言う通りこの人ヤバいニャ」


 ミオはリルの言うことに間違いはないと思い知った。


「残念です・・・。それはそれとして、私が最後のようですね。お待たせしてしまいすみませんでした」


「いや、実はもう1人いるんです。先日転職したと連絡があったんです」


「「「え?」」」


 藍大がもう1人いると聞いてマルオと真奈、ゲテキングが首を傾げた。


 この場にいる者以外に日本国内にテイマー系冒険者がいるなんて事実は思っていなかったからだ。


 睦美と泰造は既にその情報を仕入れていたらしく、特に驚く様子はなかった。


「すみません、お待たせしました!」


「噂をすれば来たようですね。おはようございます、有馬さん」


「白雪姫キタァァァ!」


「マルオ、ハウス」


 新たなテイマー系冒険者が”ホワイトスノウ”の有馬白雪だと知ってマルオのテンションが上がった。


 しかし、藍大がすぐにはしゃぐマルオをおとなしくさせた。


 マルオがはしゃぐと煩いから当然の対応と言えよう。


「剣士改め鳥教士になりました有馬白雪です。どうぞよろしくお願いします」


「私と同じ調教士ですか?」


教士です。読みは同じですが鳥専門のテイマーですよ」


 真奈が聞いた音で白雪の職業技能ジョブスキルを勘違いしたが、白雪は自分が鳥を専門とするテイマーだとその誤解を解いた。


 すると、ゲテキングがディアンヌを抱き締めながら白雪を警戒した。


「有馬さん、貴女の従魔はディアンヌ達を食べようとしませんよね?」


「安心して下さい。私の従魔は虫型モンスターも食べますが、他人の従魔を食べるような困ったちゃんではありませんので」


「それなら安心しました」


 ゲテキングは虫型モンスターが鳥型モンスターに捕食されるケースを想定していたらしく、白雪の言い分を聞いてホッとした。


 そして、今更ながら藍大がフィアを連れていることを思い出してチラッと視線を向けた。


 ゲテキングの視線を受けてフィアはムッとする。


『フィアは虫なんて食べないもん。パパのご飯の方が好きだから』


「ゲテキング、フィアも虫型モンスターは食べたことがないので心配する必要はありません」


「そうでしたか。すみません、失礼しました」


 これで一安心という様子のゲテキングに対し、ディアンヌは主から心配されて抱き締められることがこんなに幸せなことだったのかと蕩けた表情になっていた。


「ディアンヌが雌の表情をしてるニャ」


「信じられますか? ディアンヌって食べられたくない思いでゲテキングに自分を売り込んだんですよ? それがどうしてゲテキングの女になったんですか!」


「持木さん、貴方にはアイボがいるでしょうに」


 ミオの発言で古巣リア充を目指し隊の思想から来た発言をする泰造に対し、睦美が冷静にツッコミを入れた。


 このタイミングで茂がDMU本部の入口にやって来て顔を引き攣らせた。


「藍大、これどういう状況?」


「かくかくしかじか」


「大体わかった。伝えるのがめんどくさいんだな?」


「すまん、説明が面倒だったんだ。有馬さんの従魔がゲテキングの従魔を食べようとしないかってところから始まって、最終的に持木さんがジェラった」


「・・・やっぱり深く訊くのは止めとく」


「それが正解」


「とりあえず、訓練室に案内する」


 茂はいつまでも藍大達にこの場に居られても悪目立ちするため、藍大達を訓練室へと案内した。


 訓練室に移動すると、マルオと睦美、泰造が自分の従魔を召喚した。


「【召喚サモン:ローラ】」


「【召喚サモン:ヴァーチェ】」


「【召喚サモン:アイボ】」


 (ローラとヴァーチェは良いとして、アイボが進化してるよな? なんでメイド服?)


 藍大は人型になったアイボからモンスター図鑑で調べることにした。



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名前:持木アイボ 種族:アームドノイド

性別:雌 Lv:75

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HP:1,800/1,800

MP:2,000/2,000

STR:1,800

VIT:1,800

DEX:2,000

AGI:1,200

INT:1,800

LUK:1,500

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称号:泰造の従魔

   ダンジョンの天敵

   見習いメイド

二つ名:男爵の剣

アビリティ:<体力吸収エナジードレイン><魔力吸収マナドレイン><創魔武器マジックウエポン

      <武装変形アームドチェンジ><闘気鎧オーラアーマー

      <自動再生オートリジェネ><全半減ディバインオール

装備:メイド服

備考:恥ずかしがり

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 (持木さんを武器として支える良い従魔だ)


 藍大がアイボを見ているのに気づいて泰造は胸を張った。


「魔王様、自分の嫁はどうですか? すごいでしょう?」


「そうですね。ここまで持木さんを支えるアビリティ構成なのは驚きました」


「アイボは本当に頼りになるんですよ。自慢の嫁です」


 アイボはゼル同様喋れないらしく、顔を真っ赤にしてポカポカと泰造を叩いた。


「持木さん、奥さんにメイド服を着させる趣味があったんですねー」


「メイド服は男のロマンです」


「あっ、はい」


 白雪はアイボがメイド服なのは泰造の趣味なのか気になって訊ねたが、泰造が想定していたよりもガチなトーンでリアクションしたのでおとなしく頷いた。


 微妙な空気になるのは避けたかったので、藍大は白雪に声をかけた。


「有馬さんは従魔を召喚しないんですか? 折角ですし、従魔同士交流させてあげたらどうでしょう?」


「そうですね。わかりました。【召喚サモン:ヨナ】」


 白雪は藍大が気遣ってくれたのだと察してその流れに乗った。


 藍大のおかげで訓練室内の空気は微妙にならずに済んだため、白雪は心の中で感謝した。

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