第39章 大家さん、合宿を開催する

第459話 備考欄にジト目? ってホントにジト目だ!

 藍大達が海底ダンジョンを踏破し、2代目ジェラーリが黒部ダンジョンの”ダンジョンマスター”になってから少し時間が経過して6月になった。


 5月中旬に藍大の不安が的中してしまい、黒部ダンジョンのモンスターと仲良くできたのは2代目ジェラーリだけだったせいで”リア充を目指し隊”は解散の危機に陥った。


 非リアの恨みは恐ろしく、他のクランメンバーの意見が一致して2代目ジェラーリは”リア充を目指し隊”から強制退会処分に決まった。


 2代目ジェラーリの二つ名がクダオに変わったが、これはンジョンマスターのっさんでクダオである。


 この二つ名は3代目ジェラーリと”リア充を目指し隊”が有名人について語るスレでゴリ押しした結果そうなった。


 今日は6月2日金曜日、赤星邸では誠也と真奈が応接室にスクリーンを出してWeb会議のアプリの画面を投影していた。


 真奈はガルフを召喚して傍に置いており、いつでも撫でられるようにしている。


 ガルフも会議の時は真奈が自分を撫でるとわかっていたため、下手に抵抗せずおとなしく隣で待機するのだ。


 画面上には”ブルースカイ”の青空瀬奈と理人、”グリーンバレー”の緑谷大輝と麗華が映っている。


 午前10時になったところで誠也が口を開いた。


「では、定刻となりましたので会議を始めます。皆さん、本日はお忙しい中ご参加いただきありがとうございます」


『今日は逢魔さんがいないんですね』


『僕達だけなのは久し振りですがどういった用件でしょう?』


 瀬奈も大輝もここ最近ではWeb会議だと藍大が参加し藍大が参加していないことを気にしていた。


「今日皆さんに集まってもらったのは三原色クランで強化合宿をしないかという提案があってのことです」


『『『『強化合宿?』』』』


 学生の部活動やスポーツ選手でもなければやらなそうなイベント名を聞いて瀬奈達はオウム返しをした。


「私が強化合宿を提案しようと思った訳をお話ししましょう。現在、日本ではスタンピードが起きることなく全国でダンジョン探索を進めていますよね。それ自体は順調ですが、他国から”大災厄”が来た時はどうでしょうか?」


 誠也が”大災厄”と口にした途端、画面上に映る4人の眉間に皺が寄った。


 ”ブルースカイ”も”グリーンバレー”も”大災厄”と戦ってその強さを理解しているからだ。


『”大災厄”に対抗できる力を私達が切磋琢磨して身に付けようと言うことですね。私は賛成です』


『僕も賛成。いつまでも逢魔さんやマルオ君がいなかったら倒せませんでしたってのは恥ずかしいよ』


 瀬奈と大輝が賛成してくれたことで誠也はホッとした。


 大輝はともかく瀬奈ならば必要ないとバッサリ断るかもしれないと思っていたからだ。


 しかし、それは誠也の杞憂に終わった。


 ガミジンと戦って瀬奈も大輝も自分達だけでは勝てなかったことに危機意識を持ったのだろう。


「説得する手間が省けて良かったです。実は、この強化合宿も私の発案じゃなくて真奈の発案だったんです」


 そこまで言ったところで誠也から真奈にバトンタッチした。


「皆さんこんにちは。私が強化合宿を開こうと考えたのは逢魔さんの呼びかけがきっかけでした」


『逢魔さんの呼びかけ? また何かあったんですか?』


『僕も聞いてないけどテイマー系冒険者のやり取りでってことかな?』


「大輝さんの言う通りです。逢魔さんから掲示板でテイマー系冒険者同士で集中して情報交換や模擬戦をやらないかって話を頂いたんです。協力し合えばダンジョン探索以外にも強くなる手段はあるので、知識を深めたり皆さんが育てた従魔同士で戦ったりしましょうという提案ですね。明日から2日間行います」


『なるほど。確かにそれは私達にも取り入れるべき考えですね。私達はダンジョン探索を指揮することが多く、いつの間にか強者と戦う機会が減ってます。情報のやり取りも指揮したクランから上がって来るものばかりですし、私達同士が模擬戦や情報交換を密にすれば、戦闘勘を鈍らせることも情報弱者になることも防げる訳ですか』


『”大災厄”との戦闘では決め手に欠けましたから、僕達としても強くなれそうな試みには是非とも参加したいですね』


 真奈の話を聞いて瀬奈も大輝も頷いた。


 理人と麗華も口を挟んだりしないが瀬奈と大輝と同様に頷いている。


「ご理解いただきありがとうございます。では、詳細は兄の方からお話しさせていただきます」


 話が拗れることなく進んだため、真奈は誠也に再びバトンタッチした。


 誠也はそれからてきぱきと強化合宿の日取りを決めてWeb会議を終わらせた。


 できる人達は会議を無駄に長引かせたりしないのだ。


 画面上から瀬奈達の顔が消えると、真奈のキリッとした表情が緩んでガルフに抱き着いた。


「ガルフ~、疲れた~」


「アォン」


 ガルフはお疲れという気持ちを込めて短く鳴いた。


 この後しばらくモフられることはわかっていたが、真奈が疲れていることを理解して従魔として労ってあげたのだ。


 なんともできた従魔である。


「まったく、普段からあれぐらい凛としてくれたら楽だというのに」


「ずっとあんな調子だったら疲れちゃいます。大体、モフモフを前に凛としてどうするんですか? モフモフは癒しです。モフモフの前でキリッとしてるよりもモフモフと戯れる時は何も考えずにただモフモフを堪能することこそ真のモフラーには必要なんです」


「よくわからないがガルフ達にストレス禿げができないように気を付けろよ。構い過ぎるとガルフ達が体調を崩すぞ」


「クゥ~ン」


 ガルフはもっと言ってやって下さい誠也さんと言いたげに鳴いた。


 誠也は自分のことを気遣ってくれるので、ガルフの中では主人を除いて頼りにしている相手ランキング第3位である。


 第1位はリルで第2位は藍大だ。


 リルはフェンリルの先輩であり、藍大はリルの主人だからこの主従を見て真奈にどう対処すれば良いのかガルフは会った時に学べるだけ学んでいる。


「兄さん、私はいつもガルフ達のことを考えてるので安心して下さい。少しでもその傾向が見えたらマッサージしてストレスケアもばっちりです」


「・・・そうか」


 誠也はこれ以上言うことが見つからなかったので、真奈とガルフを置いて応接室から出て行った。


「まったく、兄さんは私がどれだけガルフ達のことを考えてるのか本当にわかってるんでしょうか?」


「ワフ」


 ガルフはどうだろうかと首を傾げた。


「首を傾げるガルフも良いね。よ~しよしよしよしよし」


「ク、クゥ~ン・・・」


 やってしまったとガルフは後悔するがもう遅い。


「それに私にはビースト図鑑がありますからガルフのステータスチェックもばっちりだよ」


 真奈は片手でガルフの頭をわしわしと撫でつつ、もう片方の手でビースト図鑑のガルフのページを開いた。



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名前:ガルフ 種族:フェンリル

性別:雄 Lv:100

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HP:2,500/2,500

MP:3,500/3,500

STR:3,000

VIT:2,500

DEX:3,500(+875)

AGI:3,500(+875)

INT:3,000

LUK:2,500

-----------------------------------------

称号:真奈の従魔

   ダンジョンの天敵

   暗殺者

   到達者

二つ名:向付後狼さんの右腕

アビリティ:<刃竜巻エッジトルネード><守護咆哮ガードロア><突風爪ガストネイル

      <影支配シャドウイズマイン><隠者ハーミット><短距離転移ショートワープ

      <人従一体アズワン><全耐性レジストオール

装備:なし

備考:ジト目

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「備考欄にジト目? ってホントにジト目だ!」


 真奈は備考欄に気になる表記を見つけてガルフがどんな表情をしているか確かめるべく顔を上げた。


 それが備考欄通りにジト目を向けられていれば真奈も驚かないはずなかった。


「どうしたのガルフ? 私が何かやっちゃった?」


「アォン」


 その通りだと短くなくガルフの反応に真奈の手が止まった。


「マッサージをご所望?」


「・・・ワフ」


 そうじゃないけど疲れたからやってもらえるならやってもらおうと考え、ガルフはその場で寝そべる。


「ガルフもなんだかんだ言ってマッサージの虜だね。良いよ、やってあげる」


 この後、ガルフは真奈にしっかりマッサージしてもらった。

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