第455話 見せてあげましょう、この私のパワーアップをね

 翌日の金曜日、朝から藍大は舞とサクラ、ゴルゴンを連れて101号室に来たが、既に司達の合同パーティーと奈美が101号室に集まっていた。


 その中心にいるのは奈美であり、彼女は興奮しているおかげで眠気にどうにか打ち勝っているようだった。


 昨日藍大達から覚醒の丸薬Ⅲ型を見せてもらってから、育児と並行して調合をずっと続けていたのだろう。


「やりました! 皆さんの分の覚醒の丸薬Ⅲ型を完成させました!」


「奈美ちゃんすごい! まだ24時間経ってないよ~!」


「奈美、お疲れ様。この後はゆっくり休んでね。今日は僕がオフだから香奈の面倒みとくよ」


「流石はゴッドハンド! 三原色クランとは格が違う!」


「日本一じゃ足りひん! 世界一や!」


「SSランクの開設はまだか!」


 三次覚醒組は奈美に駆け寄って感謝と称賛の言葉をかけた。


 素材が揃っていたとはいえ、現状では最も作るのが難しい覚醒の丸薬Ⅲ型を24時間以内に人数分の調合する集中力は凄まじい。


 三次覚醒してからも研鑽を積み、シャングリラダンジョン産の素材や”大災厄”の素材を使って薬品系アイテムを作り続けて来た実力があってこそだろう。


「奈美さん、お疲れ様。サクラ、ゴルゴン、頼んだ」


「任せて」


「アイアイサーなのよっ」


 サクラとゴルゴンがそれぞれ<超級回復エクストラヒール>と<超級治癒エクストラキュア>をかけたことにより、奈美の体から徹夜による不調は解消された。


「ありがとうございます。これで今日も調合できますね」


「いや、今日はゆっくり休もう?」


 奈美の生産ハイが抜けていないのを見て司がちょっと待てと注意する。


「奈美、ちゃんと休むなら司が今日はずっと甘やかしてくれるって」


「それは逃せません! 休みます!」


「よろしい」


「一体僕は何を求められるんだ・・・」


 サクラの発言によって生産したい欲求よりも司に甘えたい欲求の方が上回り、奈美はサクラの言うことを聞いた。


 その一方で勝手な口約束をされた司はゴクリと唾を飲み込んだ。


 奈美のために家事や香奈の世話を引き受けるつもりはあったが、サクラが絡んだ以上+αを求められている気がしてならないからである。


 それはさておき、藍大と従魔以外のメンバーは覚醒の丸薬Ⅲ型を手に取って飲み込んだ。


「フッフッフ~。藍大に追いついたよ~」


「ヴォルカニックスピアなしでゴースト系に攻撃できるなんて・・・」


「武術の達人になったみたいね」


「戦略が広がるで~」


「見せてあげましょう、この私のパワーアップをね」


「うぅ、やっぱり薬を作りたいです」


 舞達は四次覚醒で新たにできるようになったことを理解した。


「みんなどんな感じに強化された?」


「私から発表するね~。私は限界突破できるようになったよ。3分間だけHPとMP以外の能力値が倍になるの。クールタイムは30分」


「舞がもっと脳筋になる・・・」


「抱き着かれたら逃げられないわっ」


「酷~い。そんなこと言うなら2人共ハグしちゃうよ~?」


「遠慮する!」


「ぴぃっ!?」


 サクラとゴルゴンのコメントに舞が両手を広げて近付くと、2人は大慌てで藍大の後ろに隠れる。


 しょんぼりする舞がかわいそうだったので、藍大が代わりに舞を抱き締める。


「舞がデメリットなく強くなってくれて嬉しいぞ」


「エヘヘ~♪」


 藍大に抱き締められたことにより、舞は先程までのしょんぼりした表情から一転して嬉しそうに笑った。


「舞だけ優遇するのは良くない」


「アタシだっているんだからねっ」


 サクラとゴルゴンが藍大の後ろから抱き着いたのを見て健太がジト目を向ける。


「リア充禁止」


「健太もリア充でしょ?」


「ここにいる人はみんな既婚者だよ」


 健太の発言に司がツッコんで奈美は司を補足した。


 この場に非リアがいないのは幸いなことだろう。


 もしも混ざっていたのなら、リア充死すべし慈悲はないと荒ぶっていたに違いない。


 余談だが、この場にいない地下神域組の花梨はマルオと付き合い始めている。


 今のところローラ達とも上手くやれているため、花梨とマルオの関係は順調である。


 藍大は舞達が落ち着いてから司達に話しかけた。


「ごめん、脱線させちゃったな。みんなはどうだった?」


「僕は槍に風を付与できるようになった」


「私は見切りね。相手の行動予測ができるみたい」


「ウチはランダムデバフ矢を放てるようになったで。魔力矢にランダムでデバフ効果が付与するイメージや」


「私は氷の槍を放てるようになったのですよ」


「私は創薬です。今までに調合したことのある薬品をMP消費だけで素材がなくても創れるようになりました」


「みんなちゃんとパワーアップしてるじゃん。それで、なんで健太はそんな喋り方してんの?」


「氷の槍を扱えるようになったのとフ〇ーザをかけてみたんだよ。全く気づいてくれなかったけどな」


「お前にフ〇ーザは無理だ。キャラが違い過ぎる」


「なん・・・だと・・・」


 健太は藍大に指摘されて膝から崩れ落ちた。


 健太のどうしようもないボケは一旦置いておくとして、司達のパワーアップはどれも強力なものと言えよう。


 司の槍士は槍に風を付与できるようになったため、火属性のヴォルカニックスピアを使わずともゴーストやレイス等の実体を持たないモンスターを攻撃できるようになった。


 しかも、風を付与すれば切れ味だって上がるから攻撃の破壊力も上乗せされる。


 槍士としてできることが増えるパワーアップだった。


 麗奈の拳闘士は見切りができるようになったから、敵の攻撃を察知して躱すも活かすも自在である。


 麗奈は新しい能力が武術の達人になったみたいと言ったのはそのようなやり方を思いついたからだ。


 いくら攻撃してもダメージが与えられなくなったならば、敵対した相手の士気を下げることにも繋がるだろう。


 未亜の弓士は攻撃によって敵を弱体化させる力だった。


 能力値をランダムに低下させるため、攻撃を喰らえばその相手は自分の力のバランスが変わって戦いにくくなるであろう。


 健太の魔術士は新たな属性の魔法を使えるようになった。


 二次覚醒で火の球を使えるようになり、三次覚醒で岩の刃を使えるようになったことから残った四大元素のどちらかが使えると思いきや次は氷の槍である。


 健太は特に四大元素に拘っていなかったので、新たな属性の魔法が使えるとわかって喜んでいる。


 奈美の薬士はMPを消費して0から薬を創り出せるようになった。


 消費されるMPは創り出す薬品によって異なり、急いで1つだけ作りたいけど手持ちの素材がないという素材と時間に余裕がない時に重宝するだろう。


 シャングリラダンジョン産の素材を使って作り出した薬品の数は世界でもトップレベルだから、奈美にとって創薬能力はMPに余裕があれば重宝するはずだ。


 奈美が健太のやり取りに区切りがついたと判断して藍大に訊ねる。


「逢魔さん、覚醒の丸薬Ⅲ型の扱いはどうしましょう? 三原色クランに販売しますか?」


「素材の問題と価格設定の問題次第だね。素材の残りからしてあと何個作れそう?」


「今ある素材だとあと20個ですね。でも、四次覚醒で創薬能力を手に入れましたから、この力を使えば1日に1個は作れます」


「なるほど。ちなみに、覚醒の丸薬Ⅱ型だったら創薬能力で1日に何個創れる?」


「そっちは1日に4個です。ついでに言えば、覚醒の丸薬なら1日8個創れます」


「それだけ覚醒の丸薬Ⅲ型はレアってことか。茂に価格設定頼んだらすごいことになりそう」


「芹江さんが支払えない金額になるんじゃないですか?」


「うーん、そこはDMUが負担するんじゃないかな。茂の鑑定士としての力が上がることはDMUにとってプラスだし。前回も確かDMUが負担したって聞いた気がする」


「それもそうですね。逢魔さん、芹江さんの分をお渡ししますので後のことはお願いします」


「了解」


 奈美はポケットに入れていた覚醒の丸薬Ⅲ型を取り出して藍大に渡した。


 この丸薬を7つ作るまでで今日の仕事は終了だというアピールである。


 司に甘えたいオーラが滲み出ていたため、藍大は司に頑張れと心の中で念じて覚醒の丸薬Ⅲ型を受け取った。


「よし、準備をしたら海底ダンジョンに行こう」


「ちょい待ち! 芹江さんに電話せえへんのかい!」


「どうせなら海底ダンジョンを踏破した報告もセットでしようと思って」


「芹江さん泣くんとちゃうか?」


「嬉し泣き?」


「胃痛でやろ」


 未亜がジト目を向けるものの、藍大は今日の報告を一気に行うつもりだったので笑って誤魔化してその場から退散した。


 同時刻、DMU本部で茂が何かを察してブルッと震えたのだがそれは恐ろしい未来を予知したからかもしれない。

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