第456話 主への愛の強さを思い知らせてあげる

 藍大は舞達の四次覚醒を終えてメンバーチェンジをしてから海底ダンジョンにやって来た。


 連れて来たのは初日と同じく舞とサクラ、リル、ゲン、ブラドだ。


 地下3階が昨日と違う光景になっていたので藍大は首を傾げた。


「あれ? 地下3階ってボス部屋だったよな?」


『僕もそう記憶してたよ』


「ふむ。”ダンジョンマスター”が地下3階を急造したようだな。吾輩達に恐れをなしてDPの残りを考慮せずにやったに違いない」


「ということはこのフロアを踏破したら今度こそ”ダンジョンマスター”がいる?」


「その可能性が高いのである」


「じゃあこの闘技場の敵をサクサク片付けようか」


「うむ」


 ボス部屋だったはずの地下3階は階段から先が水没した闘技場になっていた。


 水面には何もいないことから考えれば、水中に雑魚モブモンスターがいるのだろう。


『ご主人、水中から来たよ』


「水面に顔を出させるよりも前に仕留めよう。リル、バフを使うから感電させちゃえ」


『任せて!』


 リルが元気に応じた直後、藍大は四次覚醒で会得した好感度バフを発動してリルの能力値を底上げする。


 リルは藍大に抱く好感度が天井知らずのため、<蒼雷罰パニッシュメント>が今までとは比べ物にならないぐらいの威力になっていた。


 雷が落ちたことで水中に潜んでいたモンスターが軒並み水面へと浮上した。


 先端がドリルになっている鮫が大半だったが、藍大にとって見覚えのあるモンスターが2体紛れていた。


雑魚モブモンスターがドリリアンペイルなのは置いとくとして、シーサーペントとあの巨大魚って”掃除屋”とフロアボスだよなぁ」


「リル君総取り~」


「出番ないの残念」


「恐ろしいバフなのだ」


『ワッフン♪』


 舞とサクラ、ブラドは自分達の出番がなかったので残念がった。


 その一方、リルは自分だけで地下3階のモンスターを全滅させられてドヤ顔を披露した。


「よしよし、流石はリルだな」


「クゥ~ン♪」


 藍大はリルの頭をわしわしと撫でながら初見のモンスターをチェックした。


 (バハムートLv90。デメムートじゃなくて伝承に出て来る奴か)


 茶色い巨大魚はバハムートで地下3階のフロアボスを任されたモンスターだった。


 海底ダンジョンの地下3階は雑魚モブモンスター、”掃除屋”、フロアボスが順番に出て来る設計なのだが、強化されたリルの一撃が強過ぎてバハムートがまったくボスらしい登場もできずに倒れている。


 ブラドが<解体デモリッション>で手早く解体した後、戦利品を回収してからシーサーペントとバハムートの魔石はそれぞれサクラとリルに与えられた。


 サクラは色気が増してリルは強者としての風格が増した。


『サクラのアビリティ:<超級回復エクストラヒール>がアビリティ:<生命支配ライフイズマイン>に上書きされました』


『リルのアビリティ:<蒼雷罰パニッシュメント>がアビリティ:<蒼雷審判ジャッジメント>に上書きされました』


「サクラは3つ目の支配系アビリティでリルは威力が純粋に上がったか」


「私がいれば医者要らず」


『僕ももっとご主人の役に立つよ!』


「頼りにしてるぞ」


 藍大はドヤ顔のサクラとリルを順番に抱き締めた。


 サクラの<生命支配ライフイズマイン>は回復系アビリティの中では最高レベルのものであり、HPや疲労の回復と再生だけでなく状態異常も回復させられる。


 <超級治癒エクストラキュア>を会得しているゴルゴンが知れば、自分の役割が減ってしまうとしょんぼりするだろう。


 リルの<蒼雷審判ジャッジメント>は<蒼雷罰パニッシュメント>の強化版とも呼べるアビリティで、範囲攻撃と一転集中攻撃を自由に選択できるだけでなく威力も増している。


 威力と使い勝手が良くなった分、これからの戦いで今まで以上にリルの役に立つだろう。


 サクラとリルのパワーアップが完了すると、地下3階の入口とは反対の壁側にある陸地に地下4階へと繋がる階段が出現したので藍大達は先へと進んだ。


「今度こそ”ダンジョンマスター”の部屋だな」


「開けて良い?」


「頼んだ」


「は~い」


 サクラが<透明千手サウザンドアームズ>で扉を開けると、そこは入口の小島以外が海になっていた。


 海面には目に黒い目隠しをした男の人魚がいた。


 下半身部分の特徴からして鮫がベースなのだろう。


「いい加減にしろ貴様等ぁぁぁぁぁ!」


「何がいい加減にしろなんだ?」


「貴様等が俺様のダンジョンを無茶苦茶にしたからだ! 床は壊すし罠だって回収できればする! 宝箱まで漏れなく回収して地下3階に至っては一撃で踏破だと!? ふざけるのも大概にしろ!」


「・・・不敬だが吾輩も賛同せざるを得ないのだ」


「ブラドはどっちの味方なのかな~?」


「わ、吾輩は主君の味方に決まっておろう! 騎士の奥方よ、広げた両腕を元に戻すのだ!」


 ”ダンジョンマスター”の怒りの声を聞いてブラドは頷くが、舞が両手を広げてワキワキした瞬間に自分は藍大の味方だと慌てて主張した。


 戦闘前に舞に抱き着かれては堪らないと思ったのだ。


 舞とブラドが戯れている間に藍大はモンスター図鑑で”ダンジョンマスター”のステータスを調べていた。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:フォルネウス

性別:雄 Lv:95

-----------------------------------------

HP:2,500/2,500

MP:2,500/2,500

STR:2,500

VIT:2,500

DEX:2,500

AGI:2,500

INT:2,500

LUK:2,500

-----------------------------------------

称号:ダンジョンマスター(海底ダンジョン)

   心眼

アビリティ:<吹雪ブリザード><螺旋水線スパイラルジェット><創水武器アクアウエポン

      <武器精通ウエポンマスタリー><水牢ウォータージェイル><格闘術マーシャルアーツ

      <闘気鎧オーラアーマー><全半減ディバインオール

装備:ブラインドギプス

備考:激昂/命中率向上

-----------------------------------------



 (視界を封じることで命中率が上がるとはいかに)


 藍大が首をかしげているとフォルネウスが大声を出した。


「俺様を無視して喋るとは良い度胸だ!」


 フォルネウスはそう言いながら<螺旋水線スパイラルジェット>を舞に向かって放った。


 これは悪手としか言いようがない。


「うっせえぞゴラァ!」


 舞が光を付与したミョルニルで放たれた水を殴り返し、それがフォルネウスの胴体に直撃して海中に沈んだ。


 それでも、自分の攻撃を跳ね返される前に<闘気鎧オーラアーマー>を発動で来ていたらしく、フォルネウスはすぐに海面に戻って来た。


「きぃぃぃさぁぁぁまぁぁぁらぁぁぁ!」


 フォルネウスが完全に冷静さを失い、<創水武器アクアウエポン>でいくつもの水の槍を創り出して射出する。


「主への愛の強さを思い知らせてあげる」


 サクラが<深淵支配アビスイズマイン>で同じ数だけ深淵の槍を創り出して射出すれば、フォルネウスの創った水の槍は全て威力負けしてしまう。


 <吹雪ブリザード>でサクラの深淵の槍をまとめて撃ち落とそうとしたが、威力負けして槍が次々にその体に刺さってフォルネウスは動かなくなった。


 当然のことながら、サクラは藍大の好感度バフの影響を受けているので最初からフォルネウスに勝ち目なんてなかったのだ。


「掌握完了である」


 サクラがフォルネウスを討ち取った直後にブラドが海底ダンジョンを支配した。


 これでブラドが海底ダンジョンを好きなように調整できる。


「みんなお疲れ! ナイスファイト!」


 藍大は舞とサクラ、ブラドを順番に労った。


 ブラドがフォルネウスを解体している間にゲンが<超級鎧化エクストラアーマーアウト>を解除して姿を現した。


「主さん」


「わかってるって。魔石だろ?」


「流石」


「主君、魔石なのだ」


「ブラド、ありがとう。ゲン、おあがり」


「いただきます」


 ブラドが魔石だけ持って来てくれたので、藍大はそれをそのままゲンに与えた。


 ゲンが魔石を飲み込んだ途端、甲羅と大砲の輝きが増した。


『ゲンのアビリティ:<剛力滑走メガトングライド>がアビリティ:<破壊滑走デストロイグライド>に上書きされました』


「ゲン、<破壊滑走デストロイグライド>使う気ある?」


「面倒」


「だよなぁ。まあ、しょうがないか」


「仕方ない」


 折角会得した<破壊滑走デストロイグライド>だが、ゲンが自ら戦う機会が希少なのに接近戦なんて最近では全くしていない。


 宝の持ち腐れになってしまうだろうことを藍大もゲンも否定しなかった。


「藍大~、お腹空いた~。バハムート食べた~い」


『ご主人、僕もお腹空いた~。シーサーペントも捨てがたいよ~』


「吾輩も空腹である。どっちも所望するぞ」


「そうだな。そろそろ12時だし撤収しようか」


 解体したフォルネウスの死体の回収が終われば他にやり残したことはなかったため、藍大達は海底ダンジョンを脱出した。

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