第454話 今ならハンバーグを何個でも食べられそう

 帰宅した藍大はサクラに宝箱を渡した。


「サクラ先生、今日もお願いします」


「は~い。今日は何かリクエストある? 特になければ調理器具になると思うけど」


「最近は調理器具ばっかりだから偶には別のアイテムが良いな」


「わかった。主の役に立つアイテムを出してみせる」


 サクラは自信に満ちた態度で宝箱を開け、その中に会った物を取り出して藍大達に見せた。


 それはフラスコに入っていた銀色の丸薬だった。


「このパターン知ってる。見せたら奈美さんがおかしくなるんだ。リル、鑑定してみて」


『任せてね。・・・覚醒の丸薬Ⅲ型だって』


「奈美さんが狂喜乱舞するビジョンしか見えない」


「私も主と同じくそう思う」


『僕も~』


「見せないで使っちゃう?」


 藍大が困ってそんなことを言うと、今までおとなしく見守っていた舞が口を挟む。


「それは駄目だよ~。奈美ちゃんが作り方を把握すれば私達も四次覚醒できるもん」


「そうだった。俺だけが使えば良いもんじゃないもんな」


 舞から指摘されて藍大はその通りだと頷いた。


 この場で藍大が使ってしまったら、奈美は事後報告で覚醒の丸薬Ⅲ型の存在を知ることはできるがその素材が何かまで特定できない。


 狂喜乱舞する可能性があったとしても、一度この丸薬を奈美に見せる必要があるだろう。


 そうと決まれば藍大達は101号室で事務仕事をしている奈美を訪ねた。


「あれ、逢魔さん達は海底ダンジョンからもう帰って来たんですか?」


「まあね。次の階をクリアしようとすれば帰って来るのに確実に正午を過ぎちゃうから」


「なるほど。お腹を空かせた家族を放置できませんよね。それで、この部屋に来たってことは何かすごい物を見つけたんですか?」


「すごい物だな」


「奈美ちゃん、今から出すアイテムを見てもクールなままでいてね」


「な、なんでしょう? 私、とってもワクワクしてきました」


 (見せる前から手遅れな気がしてきた)


 それでも藍大は収納リュックから覚醒の丸薬Ⅲ型を取り出して奈美に見せた。


「はい、覚醒の丸薬Ⅲ型。奈美さんに見せれば作り方が閃くと思って」


「た、大変だよ藍大~!」


「どうした?」


「奈美ちゃんが目を開けたまま意識を失ってる」


「しまった。奈美さんには衝撃が強過ぎたか」


 覚醒の丸薬Ⅲ型を目にした奈美はテンションが急上昇し過ぎた結果、目を開けたまま気を失ってしまった。


「・・・はっ、一瞬意識が飛んでました。まさかこんな所に覚醒の丸薬Ⅲ型なんて本当にありました!」


「ノリツッコミだな」


「ノリツッコミだね~」


 奈美がノリツッコミする姿は見たことがなかったため、藍大も舞も静かに驚いていた。


「奈美さん、落ち着いて。落ち着かなきゃレシピも思いつかないでしょ?」


「そうだよ~。私の四次覚醒は奈美ちゃんにかかってるんだからね~」


「大丈夫です。レシピ自体はとっくに閃いてます。スフィンクスの爪とリャナンシーの血、能力値平均3,000以上のドラゴン型モンスターの鱗、”〇聖獣”の称号を持つモンスターに祝福された液体です」


 奈美がキリッとした表情で言うものだから藍大と舞は拍手した。


「マジで一瞬でレシピを閃いてるじゃん。これがゴッドハンドの実力か」


「奈美ちゃんすご~い。しかも、素材が全部揃ってるね~」


「恐縮です。でも、私のことは置いときましょう。今は覚醒の丸薬Ⅲ型の方が大事です。逢魔さん達が素材を全て揃えてくれてますから、時間さえもらえればクランメンバー全員の丸薬は作れそうです」


 覚醒の丸薬Ⅲ型の素材はいずれもシャングリラダンジョンとシャングリラで手に入るものだった。


 スフィンクスとリャナンシーはそれぞれシャングリラダンジョンの地下12階と地下13階にいる。


 能力値平均3,000以上のドラゴン型モンスターはラードーンでその条件をクリアしている。


 ”〇聖獣”の称号を持つモンスターに祝福された液体はリルが<神狼魂フェンリルソウル>で清めた飲猿殺しがある。


 奈美が言う通り素材は既に全部揃っている訳だ。


 奈美は早速覚醒の丸薬Ⅲ型を創るために準備を始めてしまったので、藍大達は102号室へと戻った。


 正午までまだ時間があったことから、藍大は先に覚醒の丸薬Ⅲ型を服用することにした。


 銀色の丸薬を口の中に放り込んだ直後、藍大の体に力が漲って来た。


 それからすぐに藍大の頭の中に新たな能力が浮かび上がった。


「こ、これは・・・」


「どんな能力を手に入れたの~?」


「簡単に言えば好感度バフだ」


「好感度バフ?」


「俺に対する従魔からの好感度がその従魔の能力値を上昇させる。俺への好感度が高ければ高い程能力値が上昇するらしい」


 そこまで聞いた瞬間、舞は藍大が四次覚醒した時から黙っていたサクラとリルの方を向いた。


「今なら世界を支配できそう」


『今ならハンバーグを何個でも食べられそう』


 (できることのベクトルが違う!?)


 サクラは無邪気な笑みを浮かべながらこれぞ黒幕と呼べる発言をした。


 その一方でリルは無邪気な笑みを浮かべながら無邪気なことを口にしていた。


 サクラとリルのコメントに遅れて藍大の耳に伊邪那美の声が届き始める。


『おめでとうございます。逢魔藍大が人類初の四次覚醒者になりました』


『”伊邪那美の神子”が四次覚醒した特典として伊邪那美の力が大幅に回復しました』


 その声が止んだ直後に伊邪那美が満面の笑みで藍大達の前に現れた。


「藍大、よくやったのじゃ! 妾の力が急激に戻ったのじゃ!」


「おめでとう! 完全復活できたの?」


「9割戻ったからあと1割じゃな! 神子たる藍大が四次覚醒して妾の力まで回復するとは過去の妾を褒めてやりたいのじゃ!」


 (神の自画自賛。案外人間と変わんないよな)


 伊邪那美が自画自賛するのを見て藍大はそんな風に思った。


 藍大の意識が伊邪那美に向いていると、サクラとリルが藍大に甘え始めた。


「主、私達のことを見て」


「クゥ~ン♪」


「よしよし、愛い奴等め」


 そこに仲良しトリオもやって来る。


「アタシ達もいるのよっ」


「忘れちゃ駄目です!」


『( *¯ ³¯*)♡メッチャスキヤネン』


「私も甘える~」


「撫でて」


 仲間外れは嫌だと舞もそこに加わり、一足遅れてゲンも自分の存在をアピールする。


 その後もブラドや優月達がやって来て家族の輪がリビングに完成した。


 藍大がたっぷりと家族サービスの時間を取ってから、舞は冷静になって藍大に訊ねた。


「ねえねえ、好感度バフってパッシブ? それともアクティブ?」


「アクティブだよ。四次覚醒してどの程度効果があるか気になって発動したんだ」


「そっかぁ。それなら良かった~」


「なんで?」


「サクラちゃん達が強くなり過ぎてドアノブ握ったら壊しちゃうと思った~」


「私は舞みたいに馬鹿力じゃないもん」


「私だって武器や防具は壊してたけどドアノブは壊さないよ~」


「ドアノブよりもそっちの方が駄目でしょ」


 舞とサクラが言い合いを始めたので藍大はそこに割って入る。


「はいはい、そこまでだ。そろそろ昼食にしよう」


『お昼! ご主人、今日はお祝いだよね!』


「そうだな。今日は昼からデザートも付けてあげよう。バナホーンタロスのバナナクレープはどうだ?」


「『バナナクレープさん!』」


 リルだけではなく舞まで反応した。


 先程までサクラと言い合っていたのにバナナクレープと聞いて意識が食事に移ったようだ。


「トロリサーモンのソテー、オニコーンの串カツ、シャングリラダンジョン産の野菜スープも作ろうかな」


「そうしよう! それが良いと思う!」


『ご主人、お腹空いた!』


「主君、吾輩もお腹が空いたのだ」


 今度はブラドも反応した。


 食いしん坊ズだけでなく、サクラ達もお腹が空いたと目で訴えていたため藍大は大急ぎで昼食を作った。


 早く食べたい舞達は率先して準備を手伝い、楽しみにしていた昼食の時間を迎えた。


 お祝いの対象に藍大が含まれることから挨拶は舞が行う。


「藍大の四次覚醒と伊邪那美様の力が一気に回復したことを祝して乾杯!」


「「「「『乾杯!』」」」」


 昼から酒は飲まないので飲むのは地下神域で育てられている黄金の林檎のジュースだ。


 乾杯と言った後は食いしん坊ズを中心に藍大が作った料理がとんでもないペースでなくなっていった。


 大量に作るのは大変なことだけれど、藍大は家族が美味しそうに自分の作った料理を食べてくれたので満ち足りた気分になった。

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