第453話 ニチアサからの刺客なのよっ

 ゴルゴンを労った後、藍大はリルの<仙術ウィザードリィ>で回収してもらった魔石をゼルに見せた。


「ゼル、この魔石なら欲しいか?」


『ε=ε=(ノ≧∇≦)ノ』


「よろしい。おあがり」


 ダマスカスゴーレムの魔石はゼルをパワーアップさせられる代物だったらしく、ゼルは藍大から魔石を食べさせてもらった。


 その途端にゼルの肌が魔石を飲み込む前よりもツヤツヤになった。


『ゼルのアビリティ:<創氷武器アイスウエポン>がアビリティ:<創氷武装アイスアームズ>に上書きされました』


「ゼルの肌がツヤツヤなのよっ」


「差を付けられたです!」


『(。+・`ω・´)ドヤァ』


「「マスター!」」


「ゼル、綺麗になったのはわかったけど煽るんじゃない。ゴルゴンもメロも落ち着け」


 ゴルゴンとメロが藍大に抱き着いて顔を埋めるものだから、藍大は2人の頭を撫でて宥めつつゼルにあまり2人を刺激するなと釘を刺した。


 藍大が仲良しトリオの相手をしている間、リルとブラドが協力してダマスカスゴーレムの体を冷やして固めてインゴットにしていた。


 リルはその作業中に見つけたものがあって藍大に話しかけた。


『ご主人、地面に宝箱が埋まってた。ダマスカスゴーレムが熔けた時に蓋が露出したみたいだから取り出しといたよ』


「ありがとう、リル。ブラドもありがとな」


「クゥ~ン♪」


「うむ」


 ダマスカス鋼のインゴットと一緒に宝箱を回収し、藍大達は広間から先に進み始めた。


 通路を進んで行くと曲がり角で藍大達の進行方向が暗闇に包まれ、天井や壁、床から半透明の幽霊が大量に現れた。


 その幽霊はいずれも大鎌を持っており、長い前髪のせいで目が隠れている。


「お化けなのよっ」


「違うです! モンスターです!」


『~~(m-_-)mウラメシヤァ』


 (ゼルだけ脅かす側になってないか?)


 ゴルゴンとメロが抱き合ってブルッと震えているのに対し、ゼルはニコニコしながら2人に向かってうらめしやと幽霊の真似をして近づいている。


 そんな仲良しトリオを見てモンスターの大群は一斉に笑い出した。


『『『・・・『『キシシシシ』』・・・』』』


「アォォォォォン!」


 リルが<神狼魂フェンリルソウル>を発動した瞬間、モンスターの大群は一瞬にして魔石だけ残して昇天した。


「リルはマジで頼りになるな」


『ワッフン。僕がいれば幽霊なんて怖くないよ♪』


「愛い奴め」


「でかしたわっ」


「流石はリルです!」


『あ(^о^*り(^∇^*が(^Ο^*とっ(^◇^*))))』


 藍大がリルのドヤ顔の可愛いらしさにやられてその頭を撫でていると、仲良しトリオも不気味な敵を倒してくれたことを感謝して藍大に続いて撫でるのに加わった。


 リルが一掃したモンスターはソウルリーパーであり、Lv73~Lv77までの範囲で強さがバラけていた。


 ソウルリーパーには純粋な物理攻撃が通用しないため、魔術士の職業技能ジョブスキルを持つ冒険者か魔法系アビリティを持つ従魔でしかダメージを与えることができない。


 だが、アンデッド型モンスターだったせいでリルの<神狼魂フェンリルソウル>にとにかく弱くて瞬殺されてしまったのだ。


 真っ暗だった前方の視界はソウルリーパーが全滅したことで元通りになり、その先にはボス部屋の扉があった。


「ボス部屋が見えたな。このまま行っても大丈夫か?」


『全然へっちゃらだよ』


「余裕なんだからねっ」


「問題ないです!」


『٩( 'ω' )وチョロイッスネー』


「吾輩は一向に構わん」


「よろしい。ならば突撃だ」


 リルに<仙術ウィザードリィ>を使って扉を開けてもらい、藍大達はボス部屋の中に足を踏み入れた。


 ボス部屋で藍大達を待ち受けていたのは、戦隊ものの○○ブラックと呼ぶべきデザインの人形だった。


 ゴルゴンは敵の姿を見て叫ばずにはいられなかった。


「ニチアサからの刺客なのよっ」


「ダンジョンのモンスターがニチアサを知ってる訳ないだろ」


「でも、見た目はニチアサに出て来てもおかしくないです」


『(((c=(゚ロ゚;q』


 ゴルゴンの叫びに藍大がツッコむが、メロとゼルもゴルゴンと同じ気持ちらしい。


 ここでダンジョンにニチアサを知るモンスターがいるかどうか言い争っても仕方ないので、藍大はモンスター図鑑で敵の正体を調べた。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:アダマントヒーロー

性別:なし Lv:80

-----------------------------------------

HP:2,200/2,200

MP:2,200/2,200

STR:2,600

VIT:2,600

DEX:1,800

AGI:1,800

INT:2,200

LUK:2,200

-----------------------------------------

称号:地下2階フロアボス

アビリティ:<格闘術マーシャルアーツ><創闇武器ダークウエポン><武器精通ウエポンマスタリー

      <大爆発メガブラスト><魔力半球マジックドーム><暗黒鎧ダークネスアーマー

      <自動再生オートリジェネ><全半減ディバインオール

装備:なし

備考:ずっとスタンバってました

-----------------------------------------



 (備考でアピールするのやめてくれる!?)


 藍大はアダマントヒーローの備考欄まで読んで心の中でツッコんだ。


 この備考欄のせいで表情がないはずのアダマントヒーローから哀愁を感じるようになってしまったからである。


「敵はアダマントヒーローLv80だ。おい、俺の言葉に合わせてポージングすんな」


 藍大は自分の言葉に合わせてポージングするアダマントヒーローにツッコミを入れた。


「主君よ、あんなふざけた奴はさっさと仕留めるに限るのだ。吾輩がやって良いか?」


「任せる」


「任されたのだ」


 ブラドは藍大にアダマントヒーローの相手を任されてすぐに<憤怒ラース>で攻撃した。


 しかし、アダマントヒーローはブラドの攻撃に対して<大爆発メガブラスト>を前方で放つと同時に後ろに飛んでダメージを可能な限り抑えた。


 (あんな見た目だけど馬鹿じゃないらしいな)


 ふざけた外見ではあるものの、アダマントヒーローは頭を使った回避ができている。


 それゆえ、藍大はアダマントヒーローに対する評価を上方修正した。


「少しはやるようであるな。ならばこれならどうだ?」


 ブラドはアダマントヒーローに急接近して<剛力尾鞭メガトンテイル>を放つ。


 アダマントヒーローは<暗黒鎧ダークネスアーマー>を発動して自身を暗黒で覆い、両腕を交差してブラドの攻撃に耐えた。


 その直後に攻めに転じて<創闇武器ダークウエポン>で闇の双剣を創り出し、<武器精通ウエポンマスタリー>で十全に使いこなしてブラドを攻撃する。


「甘いぞ!」


 ブラドは自分に斬りかかるアダマントヒーローに<緋炎刃クリムゾンエッジ>を放った。


 INTで勝るブラドに至近距離から<緋炎刃クリムゾンエッジ>を使われてしまえば、闇の双剣はあっさりと壊されてアダマントヒーローはダメージを負う。


 そのチャンスをブラドが逃すなんてことはなく、そのまま<憤怒ラース>で追撃してダメージを上乗せしていく。


 アダマントヒーローはどうにか<暗黒鎧ダークネスアーマー>と<自動再生オートリジェネ>、<全半減ディバインオール>で耐えた。


 それから時間稼ぎのために<魔力半球マジックドーム>を重ね掛けしてその中で<創闇武器ダークウエポン>を使い、反撃の準備を整える。


「反撃のチャンスなどやらぬ!」


 ブラドが声を大きくするのと同時に放った<憤怒ラース>がドームをあっさりと破壊し、それでも勢いが殺せずにアダマントヒーローは吹き飛ばされてダメージを負った。


「このまま終わらせてやるのだ!」


 ブラドの<緋炎刃クリムゾンエッジ>が倒れたアダマントヒーローの体を真っ二つに切断すると、その体がくっついて再び動き出すことはなかった。


「フッフッフ。吾輩に勝てると思ったら大間違いであるぞ」


「ブラドが悪者っぽいのよ・・・」


「悪者ではないのだ。主君からもなんとか言ってほしいぞ」


「そうだな。ブラドは別に悪者じゃないぞ。強者として敵を捻じ伏せただけだ。お疲れ様」


 ゴルゴンも本気でブラドが悪者だとは思っていないが、戦隊ヒーローの見た目だったアダマントヒーローを倒したからそのように思ってしまっただけだ。


 藍大に労われているブラドに一言詫びてその場は丸く収まった。


 その後、アダマントヒーローの素材を回収して魔石はブラドに与えられた。


 魔石を飲み込んだ結果、ブラドの鱗の輝きが増した。


『ブラドのアビリティ:<全半減ディバインオール>がアビリティ:<竜硬鱗ドラゴンスケイル>に上書きされました』


「ふむ。このままいけば吾輩に攻撃を通せる者はいなくなるのだ」


 ブラドが新たに会得した<竜硬鱗ドラゴンスケイル>はあらゆるダメージを75%カットするだけでなく、VITを底上げする効果があった。


 それを考えればブラドの発言も頷けなくない。


 自信に満ちた表情のブラドだが、リルの発言によってその表情は固まることになる。


『舞に抱っこされてもへっちゃらなの?』


「どうなんだブラド?」


「騎士の奥方は例外である! それと桜色の奥方の<運命支配フェイトイズマイン>とリルの<神裂狼爪ラグナロク>もである! こればっかりは吾輩でも無事ではいられないのだ!」


 リルに色々質問される前にブラドは自分が防げるか怪しいと思った攻撃全てを口にした。


 どんなに強くなっても絶対はないとブラドは気を引き締めた。


 地下3階はいきなりボス部屋だったため、万全の状態で”ダンジョンマスター”と戦えるように藍大達は今日の探索をここまでにして海底ダンジョンを脱出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る