第452話 吾輩は”アークダンジョンマスター”だから泣かぬ!

 翌日の木曜日、朝から藍大達は海底ダンジョンにやって来た。


 舞とサクラが留守番のためにパーティーから外れ、仲良しトリオがその代わりに加わっている。


 彼女達は海底ダンジョンに興味津々だったから、探索に行きたいと強く希望したのだ。


 ボス部屋から下の階に降りて地下2階に行くと、藍大達を待ち受けたのはリビングアーマーの軍隊だった。


 大群ではなく軍隊だ。


 通路にびっちりと並んだリビングアーマー達の後ろにはリビングジェネラルが控えている。


「地下帝国を守る騎士達なのよっ」


「ゴルゴン、帝国じゃなくてダンジョンです」


『(。・∀・。)ニコッ』


 そんなやり取りをしつつ、メロが<停怠円陣スタグサークル>で足止めしている間にゴルゴンとゼルがそれぞれ<爆轟眼デトネアイ>と<暗黒支配ダークネスイズマイン>のレーザーであっさりと掃討した。


「相変わらず3人は仲が良いな。あっという間に敵が片付いたぞ」


「仲良しなのよっ」


「仲良しです」


『…(((((ノ・ω・)人(*・´ω`・*)人(・ω・ヘ)))))…ポポポポ~ン~♪』


 仲良しトリオはドヤ顔で藍大に応じた。


 戦利品を全て回収した後、藍大達は地下2階の通路を進み始めた。


 昨日の通路は分かれ道らしい分かれ道なんてなかったのだが、今日は少し進んだ所でT字路を見つけた。


「リル、どっちに行けば良い?」


『このT字路は右に進むべきだよ。左には罠の気配がする』


「罠があるのねっ? 迷路なのよっ」


「ゴルゴン、落ち着くですよ。うっかり罠を作動させたら家に帰らされるです」


『(;n;)ナキソウニナッテキタ』


 藍大は日本にいる自分の従魔同士の位置を交換できるため、ゴルゴンが落ち着きなく動いて罠を作動させようものなら家で留守番中の他の従魔と交代させられてしまう。


 ゴルゴンは藍大にその力があるとわかっているので背筋をピンと伸ばした。


「大丈夫なのよっ。私は大人のレディーだからはしゃいで罠なんて作動させないんだからねっ」


「言うことを聞かずにはしゃぎまわって罠を作動させたなら別だけど、そうじゃなければゴルゴンを強制留守番の刑に処すことはないよ」


「きょ、強制留守番の刑って響きが怖いのよ・・・」


 ゴルゴンは藍大の口にした言葉の響きにビクッとしておとなしくなった。


 リルの言う通り右の通路を進めば罠は何もなかった。


 しかし、次の曲がり角でモンスターの群れが待ち構えていた。


 そのモンスターは額に雷マークが彫られたモノアイの人形だった。


 両手はU字型の磁石で武器や防具は何も所持していない。


「マグネマトンLv70。個体なら大したことないが群れると面倒」


 そう言っている時点で既に群れているため、接近戦をすれば面倒なことになるのは間違いない。


 勿論、藍大達がわざわざ接近して戦う訳がない。


「ブラド、一気にぶっ飛ばしてくれ」


「承知した」


 藍大からのリクエストを受けたブラドが<憤怒ラース>でマグネマトンをその群れごと滅ぼした。


 やり過ぎると素材が駄目になるため、派手にやったように見えたもののブラドは攻撃を抑えて行っていた。


 素材を駄目にしたらブラドも自分の食事がグレードダウンしてしまうのではと考えているらしい。


 藍大はわざとモンスター素材を駄目にしなければそんなことを言うはずないが、食いしん坊ズにとってご飯抜きの次に悲しいのはご飯に手を抜かれることだ。


 他の家族が美味しい料理を食べているのに自分だけ我慢する状況なんて耐えられないだろう。


 だからこそ、ブラドはマグネマトンの素材を駄目にしない程度に手加減して攻撃した訳だ。


「お疲れ様」


「吾輩にかかればこれぐらい容易いのである」


 藍大に労いの言葉をかけられたブラドはドヤ顔で応じた。


 リルは戦利品を回収し終えたところでピクッと反応した。


「リル、何かあったのか?」


『向こうから何か来るよ』


 曲がり角の先の方を見てリルがそう言ったため、藍大は何が来るのかと遠くを眺めた。


 その直後に通路の幅と同じ直径の鉄球が転がって来るのが見えた。


「テンプレな罠なのよっ」


『((((o゚▽゚)o))) ワクワク♪』


「言ってる場合じゃないです。マスター、止めたですよ」


「ありがとう、メロ」


「どういたしましてです」


 ゴルゴンとゼルのテンションが上がる一方でメロは冷静に<停怠円陣スタグサークル>で転がって来る鉄球を止めた。


 ピタッと止まった鉄球を見てリルは首を傾げた。


『ご主人、鉄球をどうするの?』


「どうしようかな。リル、あの鉄球を鑑定してくれる?」


『は~い。・・・魔鉄だって。MPを流しやすいから武器や防具にすると良いみたい』


「なるほど。それなら回収するか。ブラド、<解体デモリッション>でインゴットの形に解体できない?」


「やってみよう」


 藍大は魔鉄なら売れそうだと思ってブラドに解体を頼んだ。


 魔鉄は無機型モンスターの中でも鉄で構成されているモンスターの素材が高確率でそれに該当する。


 MPを流しやすくて魔石とも相性が良いのだ。


 ミスリルやアダマンタイト程珍しくはないが鉄よりもレアなのは間違いない。


 ブラドは試したことのない解体方法だったにもかかわらず、実にあっさりと魔鉄製の球をインゴットにしてみせた。


 その後も魔鉄製の球は一定間隔で藍大達に向かって転がって来たけれど、その度にメロが止めてブラドが解体するから素材として回収されていく。


 一般的な冒険者からすれば古典的で恐ろしい罠だとしても、藍大達からすればダンジョンからのプレゼントでしかなかった。


 しばらく先に進んで魔鉄製の球の発射するギミックの場所に到着したのだが、藍大達が着た瞬間に球が全く出て来なくなった。


『球が出て来なくなったね~』


「出すだけ素材として回収されるから中断したに違いないのだ」


「ただ罠に対処するだけだと損した気分になるだろ? 素材として使えそうな物を回収したって良いじゃん」


「主君は”ダンジョンマスター”泣かせなのだ」


『ブラドも泣かされてるの?』


「吾輩は”アークダンジョンマスター”だから泣かぬ!」


『そっかぁ』


「その温かい目は止めてほしいのだ。そもそも、吾輩からすればリルの方がよっぽど”アークダンジョンマスター”の天敵だぞ」


 ブラドはシャングリラダンジョンの改築をしてもリルに毎回宝箱を探し出されているし、罠や細工を見抜かれたりするのでダンジョンの二大天敵としてリルを警戒している。


 もう片方の天敵は舞だ。


 壁を素の力で壊せるし、隙があれば自分のことを抱っこしようとしているのでリル同様にブラドが天敵認定している。


 それはさておき、球が出るギミックの先には広間があってモンスターが待ち構えていた。


 待機していたモンスターは見た目がゴーレムなのだが、両手が大砲で体には木目状の模様が浮き出ている。


 藍大は目の前にいる敵を速やかにモンスター図鑑で調べてみた。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:ダマスカスゴーレム

性別:なし Lv:75

-----------------------------------------

HP:2,000/2,000

MP:1,800/1,800

STR:2,500

VIT:2,500

DEX:1,500

AGI:2,000

INT:2,500

LUK:2,000

-----------------------------------------

称号:掃除屋

アビリティ:<魔攻城砲マジックキャノン><魔鞭マジックウィップ><剛力正拳メガトンストレート

      <剛力抱擁メガトンハグ><雷付与サンダーエンチャント><闘気鎧オーラアーマー

      <球体変形ボールチェンジ><全半減ディバインオール

装備:なし

備考:なし

-----------------------------------------



 (お前も丸くなるのかよ)


 藍大が心の中でコメントした瞬間、ダマスカスゴーレムが<球体変形ボールチェンジ>を発動してゴーレムの外見から巨大な球へと変形した。


 それに加えて<雷付与サンダーエンチャント>と<闘気鎧オーラアーマー>を重ね掛けし始めた。


「突撃される前に倒すぞ。ゴルゴン、熔かしてしまえ」


「アタシにお任せなのよっ」


 ゴルゴンは<緋炎支配クリムゾンイズマイン>で緋色の炎を出現させて大蛇の姿に操作し、そのまま球形態のダマスカスゴーレムを包み込んだ。


 いくら<雷付与サンダーエンチャント>と<闘気鎧オーラアーマー>でコーティングしていたとしても、ダマスカスゴーレムでは格上のゴルゴンの攻撃に耐えられなかった。


 結果としてダマスカスゴーレムは魔石を残してドロッと溶けて力尽きた。


「アタシの大勝利なんだからねっ」


「よしよし、ゴルゴンはよくやったぞ」


「ドヤァなのよっ」


「次は私の番です!」


『いーなーo(´>ω<`)o』


 藍大に褒められてゴルゴンは渾身のドヤ顔を披露し、メロとゼルは次は自分が活躍するんだと闘志を燃やした。

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