第451話 ぼくのいちばんはユノだよ

 午後になって藍大が茂に海底ダンジョンの報告を済ませた後、シャングリラ102号室に”魔王様の助っ人”のクランマスターである神田睦美が訪ねて来た。


 元々は藍大が”魔王様の助っ人”のクランハウスに出向こうとしたのだが、藍大にご足労頂くなんてとんでもないと言って自らシャングリラに足を運んだのだ。


 いや、それだけが理由ではないだろう。


 睦美はシャングリラに行けばドライザーとエルにも会えるから足を運びたかったのである。


 それはさておき、藍大が睦美を呼び出したのは海底ダンジョンで手に入れたサモナーズホーンを渡すためだった。


「魔王様、本当に私が頂いてよろしいのですか? 死王に渡した方が良いのではないでしょうか?」


「マルオには以前ラウムがくすねたEXPボトルをあげたからスキップです。なんでもかんでもあげるとマルオの成長を阻害してしまいますから」


「そうでしたか。それではありがたく使わせていただきます」


「はい。上手く活用して下さい」


 藍大は睦美にサモナーズホーンを渡した。


 サモナーズホーンを受け取った瞬間、今までどうにか真剣な表情を維持していた睦美の頬が緩んだ。


「エヘヘ、魔王様からのプレゼントです・・・。家宝にしますね」


「家宝にしなくて良いので普通に使って下さい」


「わ、わかりました」


 睦美はわかったと言っているものの、放っておけば常に磨いたりしそうな気配がしたので藍大は別の話題を振った。


「先週末に報告してもらいましたが、ルシウスが進化したんでしたっけ?」


「そうなんです! ご覧になりますか!?」


 ほんの数秒前までサモナーズホーンのことで頭がいっぱいだったにもかかわらず、自身の従魔を直接披露できるチャンスが来たことで睦美はテンション高めに反応した。


 クランメンバーに従魔を披露したとしても、ロボ好きでなければ彼女が満足するリアクションをしてくれる者は少ない。


 藍大は睦美にとって信仰すべき対象であり、ロボ好きという点では同志でもある。


 そんな藍大にルシウスを披露できるならば、睦美のテンションが上がらないなんてことはあり得ない。


 そこにユノに連れられた優月が目を輝かせながらやって来た。


「ロボみれるの!?」


「そうだぞ。優月も見に行くか?」


「うん!」


「よしよし。それじゃ一緒に見に行こうか」


「キュル・・・」


 優月がルシウスのお披露目にテンションが上がる一方で、ユノは自分よりもルシウスの方が良いのだろうかと嫉妬半分落ち込み半分な声を漏らした。


 それに気づいた優月はユノの頭を撫でる。


「ぼくのいちばんはユノだよ」


「キュル~♪」


 表に出ていた暗い感情が嘘のように消えてなくなり、ユノは信じていたよと声を弾ませて優月に頬擦りした。


 (優月、恐ろしい子・・・)


 藍大は優月が絶妙なタイミングでユノをフォローするのを見て戦慄した。


 一足遅れて舞がリビングに来た。


「優月のこういうところって藍大にそっくり~」


「マジ?」


「うん。気遣いができるのは良いことだよ。悪いことじゃないから安心してね」


「それなら良いんだけど」


 藍大は気持ちを切り替えて舞と優月、ユノ、睦美と共にシャングリラの中庭に移動した。


「魔王様、早速召喚させていただきます」


「お願いします」


「【召喚サモン:ルシウス】」


 睦美が唱えた直後にルシウスが現れた。


 <分裂学習スプリットラーニング>による分体にも拘わらず、ルシウスの姿はブラドとは違ってデフォルメされていなかった。


 槍と盾を持った堕天使タイプの機動騎士とも呼ぶべき姿であり、紫色をベースに金色のラインが浮かび上がっていた。


 藍大がモンスター図鑑で調べてみたところ、ルシウスはフォールンマトンからフォルマトナイトになっていた。


「すごいよパパ! ロボだよ!」


「だな! どう見てもロボだ!」


「ですよね!? 進化してもっとロボっぽくなったんです!」


 進化したルシウスのお披露目にはしゃぐ3人を見てユノはジト目を向けた。


「キュルー」


「ユノちゃん、大丈夫だよ。優月はユノちゃんが一番って言ってたでしょ?」


「キュル!」


 優月が藍大に肩車してもらっている今、ユノは舞に抱っこされている。


 舞が自分の腕の中でジト目状態のユノの頭を撫でて元気づけると、ユノは自分こそが一番なんだと首をブンブン振るって気持ちを切り替えた。


 そんな舞とユノを知ってか知らずか、睦美はルシウスを送還してから燃料を追加投入する。


「実はお披露目したい従魔はもう1体いるんです」


「キュ・・・キュル・・・」


 ユノが「なん・・・だと・・・」と言わんばかりに驚いていた。


 ルシウスで終わりだと思っていたらまだ後ろに控えていたと知ればユノが驚くのも無理もない。


 藍大はどんな従魔が控えているのか気になったため、ユノのことを舞に任せて睦美に訊ねる。


「いつテイムしたんですか?」


「昨日の夕方です。ルシウスにお願いして狛江ダンジョンに呼び出してもらいました」


「この中庭で召喚できるサイズですか?」


「問題ありません。メロ様の家庭菜園を壊すようなことはありませんのでご安心下さい」


「わかりました。それでは見せて下さい」


「かしこまりました。【召喚サモン:サリバン】」


 サリバンと名付けられた従魔が睦美によって呼び出された。


 藍大はサリバンがヴァーチェやキュリー、ルシウスのように人型だと思っていたが、その予想は外れた。


 メカメカしいフォルムの銀色の三つ首ドラゴンがそこに現れたからである。


「どう見てもサ〇バーエンドドラゴンじゃないですか!」


「ドラゴン!」


「フッフッフ。私が常に人の姿をした無機型モンスターをテイムすると思ったら大間違いですよ」


 藍大と優月が目を丸くするのを見て睦美はこのリアクションを待っていたと笑みを浮かべた。


 その一方でユノは驚きの余り言葉を失っていた。


 優月の一番が自分であるという自負があったが、優月はロボットのドラゴンが現れたら自分よりもそちらの方が良いのではないかと思うとユノはプルプル震えながら優月の方を見る。


 優月はユノが不安がっているのを察してユノの方を振り向いた。


 藍大は優月がユノの方を向いたと察して肩車から抱っこに切り替え、優月とユノの目線の高さを合わせた。


「キュル・・・」


 ユノが不安そうに目をウルウルさせて泣くと、優月はユノに向かって両手を伸ばして抱き締めた。


「だいじょうぶ。ぼくのいちばんはユノだよ」


「キュル~ン♪」


「ユノちゃん、良かったね~」


 優月に不安を払拭してもらえたユノは嬉しくて優月の頬にキスした。


 舞は優月とユノが仲良しな様子を見てにっこりしている。


「うぅ、優月様とユノ様が仲睦まじいのは嬉しいですが、サリバンが噛ませ犬みたいでショックです・・・」


 (しまった。見たいって言ってて放置は良くないよな)


 睦美が嬉しさと悲しさの入り混じった様子であることに気づき、藍大は急いでサリバンのことをモンスター図鑑で調べた。


 サリバンについてこれ以上コメントするにはステータスを見ないと厳しかったからだ。



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名前:サリバン 種族:サイバートリドラン

性別:なし Lv:75

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HP:1,800/1,800

MP:1,800/1,800

STR:1,900

VIT:1,900

DEX:1,500

AGI:1,500

INT:2,000

LUK:1,500

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称号:睦美の従魔

   融合モンスター

アビリティ:<多重思考マルチタスク><雷吐息サンダーブレス><紫雷波サンダーウェーブ

      <剛力尾鞭メガトンテイル><恐怖霧テラーミスト

      <自動再生オートリジェネ><全耐性レジストオール

装備:なし

備考:なし

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 (近接戦闘もできる耐久性の高い移動砲台だな)


 藍大はサリバンのステータスをチェックし終えてそのように評価した。


「神田さん、バランスの取れた良い従魔ですね。神田さんが騎乗して戦うこともできますし、ルシウスと一緒に空中戦で挟撃することもできます」


「ありがとうございます。おっしゃる通りです。私の考えなんてあっさりと見抜かれてしまいましたね」


「いえいえ。サモナーズホーンを使えば神田さんの従魔をパワーアップした状態で戦わせることができますから、今後のダンジョン探索でも大いに活躍してくれそうです」


「今気づいたのですが、この角笛でサリバンを召喚したらド〇ゴンを呼ぶ笛です。ま、まさか、この展開を見越して譲って下さったのですか? さすまおです!」


「いえ、ただの偶然です」


 藍大はきっぱりと違う旨を主張したが、睦美の中で藍大が先を見通す千里眼の持ち主へと昇華された。


 今日も魔王様信者の妄想と信仰は留まることがない。

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