第450話 コーヒー豆をミスリルで挽く時代がやって来たか

 ボス部屋の中は水で満ちているかと思わせておきながら陸地もあった。


 もっとも、陸地:水=2:8の割合で陸地は入口と反対側の壁際の陸地、室内に点在する足場だけなのだが。


「ボスはどこだ?」


『水中から何か来るよご主人』


 リルがそう言った直後にザッパーンと激しい音を立てながら水中から角笛を持った年齢不詳の人魚が飛び出した。


 藍大はすかさずモンスター図鑑でその人魚のステータスを確認した。



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名前:なし 種族:マザーハーロット

性別:雌 Lv:70

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HP:1,000/1,000

MP:1,500/1,500

STR:1,000

VIT:1,000

DEX:1,300

AGI:1,500

INT:1,300

LUK:1,000

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称号:地下1階フロアボス

アビリティ:<騎士召喚ナイトサモン><魅了霧チャームミスト><狂化旋律バーサクメロディー

      <体力吸収エナジードレイン><魔力吸収マナドレイン

      <渦潮ウィールプール><魚人切替フィッシュマンチェンジ

装備:サモナーズホーン

   淫魔のビキニ

備考:歓喜

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 (<騎士召喚ナイトサモン>って何? 気になる)


 藍大はマザーハーロットのステータスに記載されていた<騎士召喚ナイトサモン>が気になって詳細をそのまま調べてみた。


 その結果、このアビリティが使用者の剣となり盾となる騎士を召喚する者だとわかった。


 マザーハーロットは自身の戦力をひけらかしたくて仕方ないらしく、サモナーズホーンを吹いて<騎士召喚ナイトサモン>を発動した。


 召喚と同時に激しい光が室内を覆った。


 光が発生した瞬間には舞が光のドームを展開し、何が起きても自分達のみを守れるようにしていた。


 舞のお陰で藍大達は光が収まるまで攻撃されずに済んだ。


 光が収まった時にはケルピーに騎乗する全身甲冑の騎士が4体いた。


 ケルピーはそれぞれ白や赤、黒、青白い個体であり、騎乗する騎士が手にする武器も異なっている。


 白いケルピーに騎乗する騎士は弓を装備している。


 赤いケルピーに騎乗する騎士は大剣を装備している。


 黒いケルピーに騎乗する騎士は天秤を模した棍棒を装備している。


 青白いケルピーに騎乗する騎士は杖を装備している。


 (黙示録の四騎士じゃね?)


 直感的にそう思ってモンスター図鑑で調べてみたところ、藍大の予想通りそれぞれホワイトライダー、レッドライダー、ブラックライダー、ペイルライダーであることがわかった。


「可愛いしもべ達、待ちに待った若い男の精気を私に捧げなさい!」


 マザーハーロットが指示した直後に黙示録の四騎士が等間隔に広がって一斉に藍大達に向かって突撃を仕掛ける。


 しかし、それらが来るのをわざわざ待つ理由はないので藍大は指示を出し始めた。


「舞はドームを解除。ブラド、燃やして良いぞ」


「おう!」


「任せるのである!」


 舞が光のドームを解除した直後にブラドが<憤怒ラース>で黙示録の四騎士をまとめて攻撃した。


 水上にいれば大ダメージ待ったなしだったため、黙示録の四騎士はいずれも水中に潜った。


 (作戦通りだ)


 藍大はニヤリと笑って次の指示を出す。


「リル、今だ!」


『待ってたよ!』


 細かく指示を出されなくてもリルは藍大が言いたかったことを理解し、<蒼雷罰パニッシュメント>を発動した。


 水中にいたせいで感電してしまい、黙示録の四騎士はあっさりとHPを全損して力なく水面に浮かび上がって来た。


 マザーハーロットはリルが攻撃した時には既に<魚人切替フィッシュマンチェンジ>で人の姿になって足場の1つに立っていた。


「私の僕達をよくも! こうなったらそこの男を私のものにしてやる!」


 マザーハーロットが藍大を指差した瞬間に舞がキレた。


「ざけんじゃねえぞゴラァ!」


 舞がそう言った直後には雷光を纏わせたミョルニルがマザーハーロットの胴体に命中した。


 マザーハーロットは舞の全力の投擲を受けて水に落ちた。


 力尽きているせいでピクリとも反応しないまま水に浮いている。


「むぅ。あとちょっと遅かったら私が首を刎ねてたのに」


 サクラは舞に先を越されてムスッとしているものの、<透明千手サウザンドアームズ>で水面に浮かんでいる黙示録の四騎士とマザーハーロットを回収した。


「みんなお疲れ。よくやってくれた」


 藍大はパーティーメンバー全員が活躍してくれたことを嬉しく思ってしっかりと労った。


 特に舞とサクラはマザーハーロットが自分を下僕にしようとしていてキレていたため、リクエストに応じて順番にハグすることになった。


 家族サービスの時間が終わってから、藍大はリルと協力して戦利品の鑑定を行った。


「黙示録の四騎士の武器はDMUに売るとして、マザーハーロットのサモナーズホーンは面白いな」


『使用者の従える者を召喚する際に召喚したモンスターの全能力値を120%にするんだね』


「まさかテイマー系冒険者にも恩恵がある角笛だったとはなぁ」


『ご主人はこれを使うの?』


「「駄目、絶対!」」


 藍大とリルが話しているタイミングで舞とサクラが割って入った。


 2人が猛反対しているのはマザーハーロットが吹いた角笛を藍大に使わせたくないからだ。


 間接キスということもそうだけれど、藍大を誑かそうとしていたマザーハーロットの角笛を藍大が持つことを許せないのである。


 サクラに関して言えば、<浄化クリーン>でサモナーズホーンを新品同様の状態にしてなお抗議している。


「安心してくれ。俺は使わないから」


「約束だよ?」


「約束だからね?」


「約束だ。そもそも、俺は従魔を送還してないじゃん。使うんなら俺以外の人に売るか譲るさ」


「それなら納得~」


「確かに。安心した」


 舞とサクラは藍大の言い分を聞いて納得した。


 藍大は全ての従魔を召喚したままにしている。


 だからこそ、サモナーズホーンの効果を使うために一旦送還してから召喚し直すのが面倒に感じるのだ。


 どの従魔も送還という言葉を聞くとしょんぼりするので、そもそも藍大に送還する選択肢はない。


 以上の理由から藍大にはサモナーズホーンを自分で使うつもりはなかった。


 サモナーズホーンを含む全ての戦利品を収納リュックに回収した後、リルが水中の一点をじーっと見つめていた。


「リル、何か見つけた?」


『この部屋の底に宝箱があると思う。僕の視線の先だよ』


「わかった。探しやすくするよ」


 リルが探しやすくなるように藍大は<液体支配リキッドイズマイン>を発動して水を操作した。


 水を部屋の端に追いやった結果、リルの視線の先には確かに宝箱があった。


「サクラ、回収頼んだ」


「は~い」


 サクラは<透明千手サウザンドアームズ>で部屋の底にあった宝箱を持ち上げて自分達の前に置いた。


「サクラ先生、本日二度目の出番です。よろしくお願いします」


「出番が多いのは良いこと。任せてね」


 サクラが自信満々な様子で宝箱を開けると、そこにはいつもの輝きを放つコーヒーミルがあった。


「リル、鑑定頼む」


『うん! えっとね、ミスリルコーヒーミルだって』


「コーヒー豆もミスリルを求める時代がやって来たか」


『来ちゃったね・・・』


 藍大がしみじみとした感じで言うのに対し、リルは宝箱の中身がコーヒーミルだとわかって落ち込んでしまった。


「リル、急に元気なくなったけどどうしたんだ?」


『ご主人、コーヒー豆を挽くのに凝り出すとそれに夢中になっちゃうってテレビで見たんだ。僕はご主人との時間が減っちゃうのは悲しいよ』


 尻尾をペタンとさせるリルが愛くるし過ぎて藍大はリルに抱き着いた。


「愛い奴め。俺はコーヒーを飲むけど拘る程じゃないぞ。他の調理器具を手に入れた時と同様にミスリルコーヒーミルだけに時間を割くなんてないから安心してくれ」


「クゥ~ン♪」


「リル君狡~い! 私も~!」


「私も甘える」


「吾輩を仲間外れにするでないぞ」


 リルだけ藍大に甘えて狡いと舞がそこに加わり、その後からサクラとブラドも加わった。


 突発的に生じた家族サービスの時間の後、藍大達は部屋の反対側の壁側の陸地に地下2階へと進む階段があるのを見つけた。


 だが、時間がそろそろ正午になるので今日の探索はここまでにして帰宅した。


「お帰りなのよっ」


「お帰りなさいです!」


『o(*≧□≦)o』


「ただいま」


「海底ダンジョンはどうだったか教えてほしいのよっ」


「ミステリーに溢れてたですか?」


『ヽ(o♡o)/エッソーダッタノ』


 ゼルだけ反応が先取りしていたが、仲良しトリオは海底ダンジョンに興味津々なようだ。


 賑やかな出迎えを受けて藍大は家に帰って来たのだと強く感じた。

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