第449話 ゲテキングが好きそうな匂いがプンプンすっぞ

 ニヤリと笑った藍大を見て舞が話しかけた。


「何か良い物でも見つけた~?」


「宝箱見つけた」


「やったね!」


「主、私の出番だね」


「そうだな。先生、今日もよろしくお願いします」


「任されました」


 舞について来たサクラが宝箱を見てその道のプロのように胸を張った。


 サクラが宝箱を開けてみると、その中には擂鉢すりばち擂粉木すりこぎが入っていた。


「リル、鑑定よろしく」


『良いよ! ・・・ユグドラシルの擂鉢と擂粉木だって!』


「安定の調理器具だな。流石はサクラ。リルも鑑定ありがとう」


「ドヤァ」


『ワフン♪』


「よしよし。愛い奴等め」


 藍大はドヤ顔のサクラとリルの頭を撫でた。


「主君、他のバレルミミックはまとめて解体したぞ。ブラックバレルミミックも解体して良いか?」


「頼んだ」


「うむ」


 ブラドは<解体デモリッション>で戦利品の回収準備を着々と進めた。


 藍大は作業を終えたブラドを労った後に全ての素材を回収しながら呟く。


「ブラックバレルミミックは使えるかもな」


 そんな呟きを舞が拾う。


「何に使えるの?」


「人工収納袋。シトリーの胃袋を使って収納するだけの機能の収納袋はできたって茂が言ってたんだ。モンスター図鑑によれば、ブラックバレルミミックは体内に入れた物の時間を止めるからその素材を使えばオリジナルの収納袋が作れそうだと思ってな」


「そうなんだ~。職人班って収納袋も作れちゃうんだね~」


「ダンジョン探索の進む日本なら遠からず職人班か三原色クランのグループ企業が開発に成功すると思ってたんだ。今回は職人班の勝ちだろう」


「そんな職人班に素材を提供する主の勝ちでもある」


 サクラは職人班もすごいけど藍大もすごいのだと主張する。


 相変わらず藍大ファーストな筆頭従魔である。


 実際のところ、サクラの言っていることは間違っていない。


 職人班が三原色クランのグループ企業とやり合えているのは”楽園の守り人”がシャングリラダンジョンの素材を提供しているからだ。


 モンスターハウスと化した通路も完全に攻略したため、藍大達はリルの案内で先へと進んだ。


 今度の行き止まりにはワープトラップの前に守護者と呼べるモンスターが待機していた。


「主、あれってクロコバイツ?」


「クロコバイツだな。Lv50で”掃除屋”だってさ」


「水曜日のシャングリラダンジョン地下2階では雑魚モブなのだ。このダンジョンでは”掃除屋”とは良いご身分である」


「ぶっ飛べオラァ!」


 舞がミョルニルを投擲してクロコバイツに命中し、クロコバイツはそのままあっさりと力尽きた。


 クロコバイツ程度では舞にとって雑魚モブモンスターでも”掃除屋”でも大差ないのだろう。


 解体と回収を終えてからワープトラップの手前に移動し、リルがワープトラップを鑑定する。


『ご主人、このワープトラップはボス部屋に繋がってるみたいだよ。ランダムでワープしないって』


「ボス部屋を攻略しないと先に進めないよな。仕方ないからここはこのトラップを踏むか」


「藍大と離れ離れは嫌だから密着しないとね」


「舞が良いこと言った。密着密着♪」


『僕も密着する』


「わ、吾輩だけ仲間外れは良くないのだ」


 舞の発言をきっかけに藍大達は密着してからワープトラップを踏んだ。


 次の瞬間にはワープトラップの効果で藍大達は誰も欠けることなくボス部屋の中にいた。


 (これがワープトラップか。マジで一瞬だな)


 ワープトラップを踏んだと思ったらボス部屋の中にいたため、藍大はその効果に感心していた。


「キェェェェェ!」


 突然部屋にやって来た藍大達を警戒するように部屋の主であるモンスターが鳴いた。


 そのモンスターは蜥蜴の頭と胴体に昆虫の脚、蛇の尻尾を持った見た目をしていた。


 (ゲテキングが好きそうな匂いがプンプンすっぞ)


 藍大がフロアボスを見て感じた第一印象がこれだ。


 それからすぐにモンスター図鑑でフロアボスの正体を確かめた。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:ヨーウィー

性別:雄 Lv:60

-----------------------------------------

HP:1,200/1,200

MP:600/600

STR:700

VIT:600

DEX:700

AGI:800

INT:600

LUK:400

-----------------------------------------

称号:1階フロアボス

アビリティ:<騒音波ノイズウェーブ><酸槍アシッドランス><麻痺牙パラライズファング

      <尻尾鞭テイルウィップ><物理耐性レジストフィジカル><自動再生オートリジェネ

装備:なし

備考:警戒

-----------------------------------------



 (これでLv60か。弱いな)


 ヨーウィーのステータスを見て弱いと思っていたところで、藍大はサクラに話しかけられた。


「主、こいつは私が片付けても?」


「勿論」


「わかった。ドーン」


 藍大から許可を貰ったサクラが<深淵支配アビスイズマイン>で深淵の槍を創り出し、それを発射して胴体を貫いたら終わりである。


「サクラ、お疲れ様」


「ありがと。このモンスター弱過ぎて相手にならない」


「まだ1階だからって可能性はある。油断せずに行こう」


「は~い」


 ヨーウィーを回収した藍大達はボス部屋にあった階段を下りて地下1階へと進んだ。


 地下1階に降りてすぐに藍大達は立ち止まった。


「通路が水没してるじゃん」


「ふむ。ここの”ダンジョンマスター”はモンスターよりも罠に力を入れておるようだな」


「仕方ない。ゲンの力を借りて進もう」


 藍大は<液体支配リキッドイズマイン>で自分達が先に進めるように水をアーチのように操作した。


 道ができたらリルの背中に乗り、できるだけ早く通路を進んで行く。


 水の中には水棲型モンスターがあちこちで泳いでいるが、リルの<蒼雷罰パニッシュメント>で感電させれば一網打尽だ。


 1階とは異なってワープトラップが設置されていないことから、藍大達は流れ作業で戦利品を回収しながらスイスイと先に進む。


「ここの”ダンジョンマスター”が気の毒に思えて来たのだ」


「ブラドも気の毒要素だからな? そこんとこ理解してる?」


「そ、そんなこと・・・、あったのである」


 藍大に言われて反論しようと思ったブラドだったが、”アークダンジョンマスター”が”ダンジョンマスター”と対峙すれば”アークダンジョンマスター”の方が圧倒的に有利なことを思い出して自身の発言を改めた。


『ご主人、あっちから海月がいっぱい来るよ』


「色がコロコロ変わるからフロージェリーやエッチゼンとは別種みたいだね~」


「舞の言う通りだ。あれはゲーミングジェリー。Lv61~65の群れだな。食べられるってさ」


『ご主人、僕がやっつける!』


「わかった。リルに任せよう」


『まとめて倒しちゃうよ!』


 リルが<蒼雷罰パニッシュメント>を水中に放ったことにより、それに感電してゲーミングジェリーの群れはHPを全損した。


 HPがあった時はチカチカと光っていたものの、力尽きると最後に表面に出ていた色で固定されてしまった。


「リル、よくやったな」


「クゥ~ン♪」


 藍大に褒められてリルは嬉しそうに尻尾を振った。


 力尽きたゲーミングジェリーの群れを残さず回収したタイミングで、リルはピクッと反応した。


「どうしたんだリル?」


『向こうから何か来るみたい』


「なんだろうってあれグサダーツじゃん」


「シャングリラダンジョンの雑魚モブが2体も出て来るとは珍しいのだ」


 リルが察知した反応のする方角を見てみれば、藍大はグサダーツが自分達に向かって絶賛特攻中であることに気づいた。


 防御なんて考えずに突っ込んで来るグサダーツに対し、藍大はゲンの力を借りて<強制眼フォースアイ>を発動する。


 藍大達に向かって突撃していたはずだったにもかかわらず、グサダーツは通路の床に突き刺さって動けなくなってしまった。


「主、グサダーツって”掃除屋”だった?」


「その通り。L65で掃除屋だってさ」


「とりあえずとどめ刺す?」


「そうだな」


 グサダーツは藍大達のいる空気のある空間に引き込まれてしばらくしたら窒息死した。


 海底ダンジョンは藍大達以外の冒険者が挑めば間違いなく苦戦する構造なのだが、初めての訪問者が藍大達なので色々と不憫な目に遭っているのは否めない。


 グサダーツを回収した後はモンスターが現れることなく、ただ移動するだけでボス部屋まで辿り着いた。


 ダメージを負うことなく2つ目のボス部屋まで来れたので、藍大達は特に休まずリルの<仙術ウィザードリィ>で扉を開けてその中へと進んだ。

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