第448話 道は自分で切り拓くものなの

 茂からの連絡があった後、藍大は舞とサクラ、リル、ゲン、ブラドを連れて八丈島にやって来た。


「藍大、ここからどうやってダンジョンに向かうの? 海底にあるんだよね?」


「大丈夫。ちゃんと考えてあるから」


 舞の疑問に答えた藍大はゲンの力を借りて<液体操作リキッドイズマイン>を発動した。


 それにより、海が割れて海底ダンジョンへの道が開けた。


「すごい! 海底ダンジョンが見えた~!」


「遂に主は海すら割ってしまった」


『ご主人ならいつかやれると思ってたよ』


「優月に話したら喜びそうである」


 (俺じゃなくてゲンがすごいんだよなぁ)


 舞達に持ち上げられて藍大は心の中で苦笑した。


 海底ダンジョンへの入口が見えてしまえば、後はそこに向かって進むだけだから大きくなったリルに乗って藍大達は海底ダンジョンの中へと進んだ。


 海底ダンジョンの中は遺跡と呼ぶに相応しい内装だった。


 空気と地面があるということは水棲型モンスター以外がいる訳であり、伊邪那美の力でダンジョンの外に出られなかったので入口の時点で様々なモンスターで溢れていた。


「ヒャッハァァァァァッ! 狩り尽くしてやるぜぇぇぇぇぇ!」


「私も狩る」


『僕も!』


「吾輩が主君を守っておるから存分に暴れるが良い」


 舞とサクラ、リルが嬉々として集まっているモンスター達を倒していく。


 ブラドは自分も戦闘に混ざれば藍大の護衛がいなくなると気づいて藍大の隣で待機している。


 入口にいたモンスターの大群を掃討するのに数分しかかからず、早々に戦利品の回収を始めた。


「サファギンって近畿地方以外にもいたんだな」


「主君よ、モンスターの分布なんて”ダンジョンマスター”の匙加減で変わるのだ。シャングリラにもパールピアスやプラチナアイのような派生種がいたであろう?」


「なるほど。納得した。とは言ってもまさか入口でサファギンキングまでいるとは驚きだけどな。しかも”災厄”だったし」


「伊邪那美様に封じられてなければ八丈島を壊滅させた後、太平洋側のどこかしらに乗り込んでただろうことは間違いあるまい」


 舞達が倒したモンスターの中にはサファギンキング率いる各種サファギンもいた。


 ”災厄”のサファギンキングが外に出る際に呼び出した者達だったようだが、他の各種リザードマンやレッドキャップは泳げないのでダンジョン内で待ち伏せする役割だったのだろう。


 もっとも、どんな意図があったとしても倒してしまえば等しく死体なので関係ないのだが。


「弱かったね~」


「貧弱だった」


『ウォーミングアップにもならなかったね』


 舞達が競うように倒していったけれど、実際は舞だけで十分だった。


 何故なら、一番高いレベルがサファギンキングのLv50だったからだ。


 サクラとリルの加勢は明らかにオーバーキルだったに違いない。


「よしよし。みんなよくやってくれた」


 藍大は舞とサクラ、リルに労いの意味を込めてハグして回った。


 戦利品回収を終えた後、藍大達は入口から先の通路を進んだ。


 そして、すぐに行き止まりが藍大達の目に移った。


『みんな止まって!』


「どうしたんだリル?」


 リルに声をかけられて他のメンバーはピタリと止まる。


『行き止まりの下に罠があるよ。踏んだらどこかに飛ばされちゃう』


「むぅ、あれがワープトラップか」


「知ってるのかブラド?」


「うむ。設置に並々ならぬDPを使うので吾輩は使わぬトラップである。踏めばダンジョン内のどこかに飛ばされるのだが、ランダムで飛ばされるパターンと指定場所に飛ばされるパターンの2つあるぞ」


「何それ怖い」


 藍大はブラドの説明を聞いて怖いと思った。


 藍大は貧弱な後衛なのでゲンが<超級鎧化エクストラアーマーアウト>でローブに憑依していても舞達と離れ離れになれば心細く感じてしまうのだ。


『ご主人、今回のトラップはランダムで飛ばされるみたいだよ』


「よし、壊そう。サクラ、<運命支配フェイトイズマイン>のレーザーで罠を破壊してくれ」


「良いの? <運命支配フェイトイズマイン>で同じ場所に転移されるように運命を操作すれば良いと思うんだけど」


「それはそうかもしれないけど、ワープさせられる時点でこのダンジョンの”ダンジョンマスター”の思い通りなのが嫌だ」


「わかった。えいっ」


 可愛らしい掛け声とは裏腹にサクラがエネルギーが凝縮されたレーザーを放ち、行き止まりの所にあるワープトラップを床ごと破壊した。


 その結果、床下にも通路があるとわかった。


「サクラお疲れ。リル、このまま下に降りても問題なさそう?」


『大丈夫だよ』


「それなら下に降りよう」


「吾輩が床を破壊してダンジョンを探索する側になるとはなぁ」


「道は自分で切り拓くものなの」


「桜色の奥方よ、良い感じに言っておるがやってることはダンジョンの破壊である」


 サクラの攻撃で壊した床の下を進もうという藍大の考えを聞き、ブラドは”アークダンジョンマスター”として複雑な心境のようだ。


 サクラが悪びれもせずに言ってのけると、ブラドは冷静にツッコミを入れた。


 そんなやり取りの後、藍大達は床下の通路に降りて先へと進んだ。


 通路を進んで行く内に再び行き止まりがあり、リルがピタッと止まった。


『ご主人、またワープトラップがあるよ。今度は僕が壊して良い?』


「頼んだ」


『わかった!』


 リルは藍大の許可を得て<神裂狼爪ラグナロク>でワープトラップを破壊した。


 今回も当然トラップごと床を破壊して床下の通路が露出した。


 前回と違ったのは下の通路から4枚の翼を持つ蝙蝠のモンスターの大群が這い出て来たことだろう。


「エクスバットだ。パッと見た限りLv41~50」


「次は吾輩がやるのだ」


 ブラドはそう言って<憤怒ラース>でエクスバットの大群を一掃した。


「まるで歯ごたえがないが下の通路はモンスターハウスだったのだろう。質よりも量を重視するとは嘆かわしいぞ」


「ワープ先がモンスターハウスだったらぞっとするけど、外から壊せると楽に感じるな」


「主君、普通はモンスターハウスを外から壊すことなんてできないのである。吾輩達が異常なのだ」


 藍大に非常識な事態を常識だと認識してもらいたくなかったので、ブラドがそれは違うと首を横に振りながら訂正した。


 そこにリルが割って入った。


『ご主人、下の通路に樽がいっぱいあるよ~』


「樽? ごめん、舞とサクラは戦利品回収を頼む。ブラドは俺と下の様子を見に行く」


「は~い」


「任せて」


 舞とサクラに回収作業を任せてリルのいる場所まで移動し、藍大とブラドは下の通路を除く。


 リルがいっぱいと言った通りで樽が9×9で並んでいた。


 しかし、中心の1つだけ色違いの黒い樽があった。


『ご主人、樽だと思ったらほとんどバレルミミックだった』


「バレルミミック? ・・・確かにそうだな。中心の奴はブラックバレルミミックって派生種みたいだけど」


 藍大はリルが鑑定したようにモンスター図鑑で調べてみたところ、下の通路にきっちりと並んでいるのが樽に擬態したバレルミミックとブラックバレルミミックだとわかった。


 本来であれば、下の通路では樽の中に何か入っているかもと冒険者達に近寄らせてバレルミミック達が襲い掛かり、その頭上からエクスバットの大群が襲い掛かるに段構えである。


 バレルミミックとエクスバットが分断された時点でこの仕掛けの脅威度は半減しており、加えて言うならば藍大とリルによって樽がバレルミミックとブラックバレルミミックだとわかっている。


 これでは脅威にはなり得ない。


「藍大~、回収終わったよ~」


「主に頼まれてた作業は終わった」


「ありがとう。2人もあれを見てくれ」


「樽だね。ミミック派生種?」


「ただの樽がワープトラップの仕掛けられたダンジョンにあるとは思えない。私も舞の意見と同じ」


「ピンポーン。正解」


 舞もサクラも鋭かった。


 Sランクパーティーにこの状況下で樽を見てあれをただの樽と考える者はいないのだ。


「主君、じゃれるのはそこまでにするのである。あの見え見えの罠をどうするであるか?」


「下の通路を俺が水浸しにする。そうしたら」


『僕が感電させれば良いんだね?』


「その通りだ。流石はリル」


「クゥ~ン♪」


 藍大は自分の意図を理解してくれたリルの顎の下を撫でた。


 その後、<液体支配リキッドイズマイン>で下の通路を水浸しにした。


 床が水浸しになってバレルミミック達がガタッと体を揺らしたが、対処する暇を与えることなくリルが<蒼雷罰パニッシュメント>で一網打尽にした。


 邪魔者の掃討が終わったため、藍大達は下の通路へと降りた。


 藍大は真っ先にブラックバレルミミックの所に行ってその蓋を開けた。


 ブラックバレルミミックの中には宝箱が入っており、藍大はニヤリと笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る