第444話 宝箱? 僕の得意分野だね!

 ブラドにDP獲得量が増えることを約束すると言われポーラは気合十分な様子で質問した。


「これからどう縛りを設ければ良いか教えてくれるんだよね?」


「その通りである。全国のダンジョンで間引きをしている以上、量より質を求めるのが今時の”ダンジョンマスター”というものだ」


「なるほど。万人受けを狙ってるようではDPを稼げないんだ」


「そういうことだ。縛りを上手く設定できれば同じ訪問者数でも稼ぎが2倍にも3倍にもなる」


「2倍、3倍・・・」


 ゴクリとポーラは唾を飲み込んだ。


 今の収入DPが2倍、3倍と聞いてもしも実現したらどんなモンスターが召喚できるだろうかと期待したら自然とそうなった。


「簡単な縛りは内装の統一だが、ポーラの話によれば1~3階は森で4~6階は地底湖、7~9階はそれぞれ同じテーマと聞いた。内装による縛りは1階ごとに違うダンジョンよりもキツくなっておるが、それでも道場ダンジョンや多摩センターダンジョンよりは緩い」


「統一した方が良い?」


「いや、ここは敢えて3階層ごとにテーマが変わるのを活かした縛りにする」


「と言うと?」


「それぞれに朝昼夜と時間帯を設けるのだ。1,4,7階は朝、2,5,8階は昼、3,6,9階は夜という風にな。1~9階で時間を1つの流れとみなせるであろう? これも立派な縛りである」


「おぉ、すごい」


 ブラドの説明を聞いてポーラは改めてブラドのすごさを思い知った。


 自分の正解とは呼べない改築をしたダンジョンを少しいじるだけでDP獲得量が変わる。


 縛りを無理な改変をせずに設けられるブラドの柔軟な思考と発想にはポーラも感動せずにはいられないだろう。


「それとだ、1,4,7階、2,5,8階、3,6,9階はそれぞれマップを内装以外統一せよ。時間帯と通路をリンクさせればより強固な縛りとなる」


「私のダンジョンでそんなことができるなんて」


「吾輩にかかればこれぐらいちょろいのだ」


 (ブラドさんマジかっけぇ)


 藍大はブラドがやり手の”アークダンジョンマスター”だと思っていたが、丁寧に解説されるとブラドがいかに頭を使っているのかよくわかった。


「内装で縛れるポイントはまだまだあるぞ。宝箱の配置でも縛れる」


『宝箱? 僕の得意分野だね!』


「ぐぬぅ・・・」


 リルが宝箱と聞いて反応したことでブラドが悔しそうに唸った。


 毎回設置場所を工夫してはあっさり見つかるので相当悔しいに違いない。


 それはそれとして、リルは宝箱探しのプロなので藍大に褒めてほしいと期待を込めた目で見上げる。


「リル、いつも頼りにしてるぞ」


「クゥ~ン♪」


 藍大に背中を撫でられてリルは嬉しそうに鳴いた。


 その様子を見てブラドは余計に悔しそうな表情になったけれど、今はポーラにレクチャーしている最中なので咳払いして気持ちを切り替えた。


「オホン。宝箱はDPを消費して設置するのだが、設置場所によってDP獲得量が変動するのは知っておるか?」


「知ってる。でも、コストパフォーマンスが悪いから今までは2階か3階に1つにしてた」


「ふむ。それは悪手なのだ。むしろ、宝箱を全ての階に配置することも縛りなのだ。縛ればDP獲得量に補正がかかるのですぐに元が取れるぞ」


「その発想はなかった」


 宝箱は設置に少なくないDPがかかる。


 見つかってしまえば損するだけなので、ポーラは2階か3階に1つ設置していた。


 損したくないなら宝箱を設置しなければ良いと思うかもしれないが、宝箱のような希望がなければ冒険者だってダンジョン探索に来ないだろう。


 モンスターの間引きだけを目的としてダンジョン探索をするとモチベーションの維持に困ることになる。


 倒したモンスターの素材が高値で売れるとか、モンスター食材が美味しいなら間引きと素材や食材集めで一石二鳥だから喜んで間引きするはずだ。


 ところが、現実は非情なものでアンデッド型モンスターのように素材としても食材としても価値がないモンスターもいる。


 そんなモンスターばかり出るダンジョンに冒険者を引き留めるならば、宝箱という餌が必要なのは間違いない。


「縛りということもあるが、そもそも2つの10階層のダンジョンがあったとして宝箱が全ての階層にあるダンジョンと1階飛ばしであるダンジョンのどちらが人気だ?」


「前者」


「そうだ。ここはDPのコストは気にしないようにして、今訪問してくれてる冒険者を逃がさないことも必要だと思え」


『僕もブラドがどのフロアにも宝箱を設置してくれてるから毎回楽しみにしてるよ』


「ぐぬぬ・・・。いずれリルが見つけられない場所に隠し通してみせるのだ」


『今のところこの勝負は僕が全勝してる。これからも僕が勝つ』


「ブラドとリル、競い合うことは大事だけど脱線してるぞ。ポーラが置いてけぼりになってる」


「すまぬ」


『ごめんね』


「大丈夫。宝物探しの頂点を知っておけば他の冒険者なんて大したことない」


 ポーラの考え方は実に前向きだった。


 リルという頂点を知っていれば他の冒険者の嗅覚なんて五十歩百歩だ。


 リルを唸らせるような隠し場所を思いつければそれが自信に繋がると思っているのだろう。


 その考え方は正しい。


 藍大は気になったことがあったのでブラドに訊ねた。


「ブラド、”掃除屋”がいる場所に宝箱を設置するのは縛りなのか?」


「縛りとは違うがDPを稼ぐためではあるぞ。”掃除屋”相手にMPをケチって戦える冒険者はほとんどおるまい。吾輩が宝箱を”掃除屋”やフロアボスのいる場所に設置することが多いのは安心して宝箱を探せるようそれらのモンスターを倒させるためだ。通路に配置してたらやり過ごされてMPを消費しないこともあり得るであろう?」


「あぁ、納得した」


「縛りが全てではないのね」


「当然なのだ。縛りはDP獲得量に補正をかけるためのものだが、ダンジョン内で消費されるMPはそのままDPになる。ガンガンMPを消費してもらわなければ補正値を上げても意味がなかろう?」


「うん。0に何をかけても0。0を1にしなきゃ駄目」


 ポーラはブラドの言葉にその通りだと頷いた。


「他にも隠し通路を用意してそこに宝箱を設置したり、床下に仕掛けたりなんてのも良いぞ。を除いて壁や床を壊すのに並々ならぬMPを使ってくれるのでな」


 (一部の冒険者って舞しか考えられないんだが)


 藍大はブラドが口にした一部の冒険者とは舞のことだと瞬時に察した。


 舞はミョルニルと騎士の効果を掛け合わせて雷光を付与した一撃を放ち、今までも数々の壁を壊して来た。


 ダンジョンの壁を壊すのだからかなりMPを消費しているのではと思うかもしれないが、付与だけならば大してMPを消耗していない。


 やろうと思えば全力で殴るだけでも壁を壊せるため、ブラドは舞がダンジョン探索することを考慮して壁の奥に宝箱を隠す回数を減らした。


 余談だが、リルに至っては隠されているものを<大賢者マーリン>のおかげで直感的に見つけているから、宝箱探しにMPを少しも消耗していない。


 以上のことを考えれば、ブラドが舞とリルをダンジョン探索において天敵と呼ぶのも頷ける。


 その後もブラドは縛れるところを指摘し、ポーラにとって今日の相談は大変有意義な時間になった。


「最後にまとめに入るのだ。ダンジョンは独自ルールで縛るべし。ダンジョン内で冒険者にできるだけMPを消耗させるべし。色々話したがこの2点に忠実であればきっとDPの獲得量が倍以上になるぞ」


「ありがとう。ダンジョン改築案で試算してみたけど確かに2倍は超えた。頑張って3倍以上を目指してみる」


「よろしい。またわからぬことがあれば相談しに来るが良い」


「そうする。いっぱい稼いで主様が私なしでは生きられないようにする」


「最初と若干変わってる!?」


「マルオ、ハウス」


 ポーラが貢ぐ系女子になるかと思いきや、自分を飼い慣らそうとしていることに気づいてマルオはツッコんだ。


 成美はどっちになってもあんまり結果は変わらないと思ってマルオを静かにさせた。


 とりあえず、川崎大師ダンジョンの改築の目途が付いたので相談会はお開きとなり、成美とマルオ、ポーラは”迷宮の狩り人”のクランハウスへと帰った。


 ずっと座りっぱなしだったので、藍大は立ち上がって大きく伸びをした。


「リルもブラドもお疲れ様」


『僕は平気だよ。ご主人に撫でてもらって気持ち良かったし』


「吾輩も問題ないぞ。後輩への指導も悪くなかったのだ」


「それは良かった」


 そんな話をしているところに伊邪那美が突然現れた。


「藍大、大変なのじゃ!」


 どうやら藍大にはまだ今日対応すべきことが残っているらしい。

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