第443話 ブラドはなんでDPを稼ぐの?

 3月21日の火曜日の朝、シャングリラ102号室に成美とマルオがやって来た。


「逢魔さん、今日はお時間を取っていただいてありがとうございます」


「構わないよ。ところで、晃はどうしたの?」


「麗奈さんとお出かけしてます。先にそちらの約束が入ってましたから欠席です」


「麗奈と仲良くできてるならそれで良い。晃がいなくても大丈夫な案件?」


「私とマルオがいれば問題ありません」


「そっか。何か相談事があるのか?」


 マルオだけならば死霊術士がらみか花梨に関する相談だろうと予想できるが、成美も同席するとなれば”迷宮の狩り人”としての相談に違いない。


 藍大が把握している限りでは喫緊性の高い問題を抱えていないため、今日はどんな用件があって成美とマルオが自分を訊ねて来たのか気になって訊ねた。


「そうなんです。実は、川崎大師ダンジョンのリニューアルオープンの件で相談させていただきたくて」


「あー、そっか。”レッドスター”から完全に権利を委譲してもらったんだっけ」


 今年の1月1日付で川崎大師ダンジョンは”レッドスター”と”迷宮の狩り人”の共同管理から”迷宮の狩り人”単独の管理に体制が移行していた。


 そうなった理由は大きく分けて2つある。


 1つ目は真奈が町田ダンジョンの”ダンジョンマスター”を従えており、川崎大師ダンジョンよりも町田ダンジョンに力を入れているからだ。


 2つ目は川崎大師ダンジョンの”ダンジョンマスター”がポーラであり、”レッドスター”がこのダンジョンについて変更したい場合はマルオ経由でポーラに頼まねばならないことである。


 自分達の都合で自由に改変できないダンジョンよりも改変できるダンジョンの管理に注力するのは当然だろう。


 以上のことから”迷宮の狩り人”が川崎大師ダンジョンを管理するようになった。


 しかし、忘れてはいけないのが”迷宮の狩り人”が社会人2年目のメンバーだけで成り立つクランということだ。


 藍大のように家とダンジョンが一体化しており、ブラドのような”アークダンジョンマスター”がいれば管理できるかもしれない。


 だが、成美達の誰も川崎大師ダンジョンのすぐ近くに住んでいないし、ポーラは”ダンジョンマスター”としての経験が足りない。


 それでは集客も道場ダンジョンや多摩センターダンジョンのようには進行しないだろう。


「はい。元々、アンデッド型モンスターの配置された階層は不人気でしたから改築の際になくしました。その旨は”迷宮の狩り人”のホームページや掲示板でも告知したのですが、訪問者数が伸びずポーラからDPが上手く稼げないから現状を改善してほしいと言われたんです」


「なるほど。マルオ、ポーラからも話が聞きたい。召喚してくれ」


「了解です。【召喚サモン:ポーラ】」


 藍大に言われてマルオはポーラを召喚した。


『ご主人、ブラドを呼んで来たよ』


「吾輩の出番と聞いてやって来たぞ」


 ダンジョンに関わる話と分かったタイミングで、リルが藍大の膝の上から別室で優月とユノと遊んでいたブラドを呼びに行っていたのだ。


「流石はリルだ。ブラドもよく来てくれた」


「クゥ~ン♪」


 リルがぴょんと藍大の膝の上に飛び乗ると、藍大は先読みができるリルの頭を撫でた。


 ブラドは藍大の隣に座って今までの流れの説明を受けた後、ポーラに自分の訊きたいことを順番に訊ねることにした。


「ポーラ、今の川崎大師ダンジョンの全ての階層と配置したモンスターの種類について説明してほしいのだ」


「わかった」


 ポーラの説明を簡単にまとめると以下の通りである。


 1階~3階は森で植物型と鳥型、爬虫類型モンスターを配置している。


 4階~6階は地底湖で水棲型、昆虫型、無機型モンスターが出現する。


 7階~9階は闘技場で亜人型と獣型モンスターが現れる。


 10階はポーラの部屋なので”迷宮の狩り人”のメンバーか”楽園の守り人”のメンバーのみ入れる。


「アンデッド型モンスターを除いて満遍なくモンスターを配置しておるな」


「それはブラド的に引っかかる感じ?」


「うむ。ただ満遍なく配置しただけではDP獲得量に補正が入らぬのだ。縛りがなくてはDPを稼ぐのに訪問者数を伸ばさねばならん」


「言われてみれば、シャングリラダンジョンや道場ダンジョン、多摩センターダンジョンは全体もしくは階層ごとに縛りがあるもんな」


「その通りである。道場ダンジョンであれば、基本的に階層ごとにモンスターの種族に縛りを設けてるぞ。内装は全て一緒にするのも縛りである」


「確かにそうですね。スライム階やコボルド階とか階層ごとに決まってて、1階から10階まで同じデザインでした」


「ずっと道場なのも意味があったんですね。流石ブラドさんっす」


「勉強になる」


「そうであろう、そうであろう」


 成美達から尊敬の目を向けられてブラドはドヤ顔になった。


 ちなみに、縛りで言えばシャングリラダンジョンが最も厳しいのだが、このダンジョンを真似されたくないのでブラドは例に出さなかった。


 外にいくつダンジョンがあったとしても、ブラドのシャングリラダンジョンへの思い入れは他とは違うのだろう。


「ポーラ、俺からも質問良いか?」


「勿論」


「今日までで1日当たり何人の冒険者が川崎大師ダンジョンに入ってる? ざっくりとで良いから知りたい」


「1日平均だと大体100人」


 藍大が気になって質問した内容にポーラは慌てることなく答えた。


 ポーラはこの質問が来ることを想定していたようだ。


「ブラド、道場ダンジョンや多摩センターダンジョンは1日当たりどれぐらい訪問者がいる?」


「道場ダンジョンは200人、多摩センターダンジョンは150人である」


「訪問者数だけで考えれば大きくても差は2倍で済むのか」


「そういうことであるな。今は全国各地でダンジョンの間引きをしてるのだから、川崎大師ダンジョンに毎日100人来ることは決して悪い数ではないぞ」


「良かった」


 ブラドに訪問者数が少ないと言われなかったことでポーラは安堵した。


「それはそれとして根本的なことを訊きたい。ポーラは何故DPを稼ぎたいのだ?」


「主様に求められたらすぐに強いアンデッドを召喚できるようにするため」


 (ポーラさんや、マルオに貢ぐ女になってないかね?)


 そんなことを思いながら藍大はマルオにジト目を向けた。


 成美も同じくマルオにジト目を向けている。


「ち、違いますよ! 俺ってばポーラにそれを理由にしてDPを稼げなんて言ってないっす!」


「まあ落ち着くのだ。ポーラが死王に尽くしたいと思うのは従魔としての忠誠心が強いからであろう」


「それもあるけど、主様に尽くしたらいっぱい褒めてくれるから」


 ポーラがDPを稼ぎたい理由を聞き、リルはブラドの方を向いた。


『ブラドはなんでDPを稼ぐの?』


「吾輩が稼ぎたい理由は3つあるぞ。1つ目は美味しいモンスターを召喚できるようにするため。2つ目は主君が求めるモンスターを召喚できるようにするため。3つ目は優月にドラゴン型モンスターを召喚してあげるため。以上なのだ」


「食欲優先なのはブレないな。でも、俺と優月のことを考えてくれてるのは嬉しいぞ」


『僕はブラドがそこまでご飯のことを考えてくれたことも嬉しいよ』


「当然なのだ。吾輩、主君の従魔としての仕事もしつつ自分の食欲も両立できる男である」


「「おぉ」」


「すごい」


 成美とマルオ、ポーラはブラドがDPを稼ぐ理由を聞いて拍手した。


 成美とマルオはブラドが生き生きと働く社会人のように見えたからであり、ポーラは”ダンジョンマスター”の先輩に対する尊敬からである。


「死王よ、今いる従魔はいくつであるか?」


「5体です。ローラとテトラ、ドーラ、ポーラ、メジェラで5体」


「ふむ。ポーラがDPを稼いですぐに強力なアンデッド型モンスターを召喚したいのは死王の戦力を増強すべきと判断してのことだな?」


「うん。新しい女が増えることに思うところはあるけど、一番に考えてるのは主様の身の安全だから。主様は魔王様の1/3しか従魔がいないし、三次覚醒の力も全然使ってないからいざ戦力が必要な時に備えておく必要があると思った」


「マルオ、こんなに心配してくれる従魔がいて良かったわね」


「おう。俺には過ぎた従魔だ。俺もポーラ達に恥じない主人でいないとな」


 成美の言葉にマルオはまさしくその通りだと頷いた。


「では、DPを稼ぐために何が必要か具体的に話していくのだ。吾輩が相談に乗る以上、DP獲得量が増えることは約束しよう」


 そう言い切るブラドの姿はこの場にいる誰から見ても頼もしかった。

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