第445話 強者よりも美味しいご飯を求めれば良いのにね

 伊邪那美の声が聞こえたらしく、部屋にいた舞とサクラがリビングに出て来た。


「どうしたの~?」


「伊邪那美様、何かあった?」


「東南アジア方面から”大災厄”が日本に来てるのじゃ!」


「また?」


 藍大がうんざりしたように言うのも仕方のないことだろう。


 ダンタリオンから始まってシトリー、ラウム、ガミジン、ウェパルと5体もの”大災厄”の襲来を受けた日本に新たな”大災厄”が向かっているのだから。


「桜色の奥方の報復の効果は発揮されておらぬのか? そもそも、東南アジアはR国やC国の前例から日本に追いやるリスクもわからぬ国の集まりなのか?」


「ブラドよ、今回は”大災厄”の意思で日本に向かっておるのじゃ。東南アジアで暴れ回った後、物足りなくて日本にやって来たようじゃぞ。強者を求めておると言っても良かろう」


『強者よりも美味しいご飯を求めれば良いのにね』


「それな」


 藍大は無邪気な発言をするリルの頭を撫でながら同意した。


「伊邪那美様、敵はどうやって来てるの? 空を飛んでる? 海を泳いでる?」


「空を飛んで来ておる。妾が感知した反応からしてガミジン第三形態よりも強いのじゃ」


「そのぐらいだと三原色クランに任せるのはちょっとキツいか。ていうか、その”大災厄”は日本のどこに向かってるんだ?」


「静岡県の清水港じゃな」


「今日は有名どころのクランが誰も静岡に行ってなかったはず。しょうがない、俺達で倒そう」


「は~い」


「わかった」


『勿論僕も行くよ!』


「吾輩は留守番して優月達の傍にいよう。主君達だけでも十分だろうからな」


 (空中戦ならゲンとエルも呼ばないと)


 今のメンバーだけで行くと、自分の護衛に誰か割かなければいけなくなると考えて藍大はゲンとエルに二重で<超級鎧化エクストラアーマーアウト>を使ってもらうつもりらしい。


 遠征メンバーが決まってすぐに藍大達はリルの<転移無封クロノスムーブ>で清水港に移動した。


 清水港に到着した藍大達はすぐに空へと飛翔した。


 転移前から藍大も人間大モ〇ルスーツの戦う魔王様モードになっており、舞は元のサイズに戻ったリルの背中に乗っているから元々自力で空を飛べるサクラも併せて空中戦の準備はばっちりだ。


 清水港で待ち構えていれば周囲に被害が出るかもしれないと考え、藍大達はこちらに向かって来る”大災厄”を迎撃するために海上に出た。


 それから間もなく藍大達の視界には猫と王冠を被った男、蛙の顔を持つ蜘蛛の姿が映った。


「気持ち悪い!」


 サクラがそう言って敵目掛けて真っ先に<深淵支配アビスイズマイン>で深淵のレーザーを放った。


 一瞬で勝負が決まるかと思いきや、敵の姿が一瞬で透明になって見えなくなった。


 サクラの攻撃が命中して倒したのなら、伊邪那美の声が藍大の耳に届いて来るはずだからまだ倒せていないのだろう。


 姿が見えない敵ならばリルの出番である。


『僕に任せて!』


 リルは何もない所に向かって<風精霊法シルフキャノン>を放つ。


 正確には自分以外には何もないように見える場所に向かってリルが攻撃を放った。


 衝突音がするのと同時に透明化が解除され、敵の姿が藍大達にも見えるようになった。


 そのチャンスを藍大が逃すはずない。


 すぐにモンスター図鑑を視界に展開して敵の正体を調べた。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:バエル

性別:雄 Lv:95

-----------------------------------------

HP:1,500/3,000

MP:3,200/4,000

STR:2,800

VIT:2,800

DEX:2,800

AGI:2,800

INT:3,200

LUK:2,800

-----------------------------------------

称号:大災厄

   外道

   大食漢

アビリティ:<多重思考マルチタスク><紫雷刃弩サンダーバリスタ><食事成長イートレベリング

      <闘気鎧オーラアーマー><形状変化シェイプシフト

      <透明化シースルー><全半減ディバインオール

装備:なし

備考:衝撃

-----------------------------------------



 (確かにガミジン第三形態より強いな)


 藍大はバエルのステータスを確認し終えて伊邪那美の言う通りだったと思った。


 能力値が高いのもそうだが、透明になれて姿も自在に変えられるという奇襲に適したアビリティがあるのに守りも決して疎かではない。


 食べれば食べる程強くなるし強力な一撃使えるから何かに特化している訳でもない。


 先程のリルの攻撃は<闘気鎧オーラアーマー>を<多重思考マルチタスク>で重ね掛けし、<全半減ディバインオール>の効果もあってどうにかバエルのHPは半分減るだけに留まったようだ。


「この俺様が見つかるだと?」


「信じられないニャ」


「予想外ゲロ」


『僕に見つけられないものはないよ』


「ならばこそここ逃げるのは止めだ」


「そうニャ」


「力こそパワーだゲロ」


 リルには<透明化シースルー>が通用しないと判断し、バエルの人間の頭が作戦を変えると宣言すると猫と蛙の頭が頷く。


 その直後にバエルの姿が光に包み込まれて一瞬で人型へと変わる。


 人型のバエルは猫と蛙の顔をした肩当のついた革ジャンを着た悪魔の姿になった。


 頭は元々中央にあった王冠の男のものになり、8本の蜘蛛の脚を模した4対の翼が背中から生えている。


「やっぱり気持ち悪い」


「貴様! 先程から俺様を気持ち悪いとは万死に値する!」


 バエルはサクラに向かって<紫雷刃弩サンダーバリスタ>を放った。


 自分にとって不快な存在を消し去ってやろうとしたのだ。


 だが、それが現実になることはあり得ない。


「リル!」


『うん!』


「雷は私の土俵だ!」


 舞がリルに呼び掛けてサクラの前に移動してもらうと、舞は雷光を纏ったミョルニルでバエルの<紫雷刃弩サンダーバリスタ>を打ち返した。


「ごふっ」


 一瞬でサクラを倒してやるつもりが次の瞬間には自分の腹に風穴が空いており、バエルは口から血を吐き出した。


「そのまま凍れ」


 藍大はエルの力を借りて<氷河時代アイスエイジ>を発動し、舞の反撃で怯んだバエルの体を氷漬けにした。


 バエルは氷の中に閉じ込められた時点で力尽きており、凍ったバエルの体は海に落ちていく。


 しかし、サクラの<透明千手サウザンドアームズ>でバエルは海に落ちることなく回収された。


「回収完了」


 サクラは藍大に向かってにっこりと笑った。


 その後すぐに藍大の耳に伊邪那美の声が届き始める。


『おめでとうございます。逢魔藍大のパーティーが”大災厄”と化したモンスターを5体倒しました』


『特典としてミスリルホットサンドメーカーが逢魔藍大の収納リュックに贈られました』


 (ホットサンドもミスリルを求めるようになったか)


 藍大は伊邪那美の声によって知らされた特典でホットサンドもミスリルで作る時代が来たのかと驚いていた。


 それはそれとして戦いが終わったから、藍大は舞達を労うのを忘れない。


「みんなお疲れ。今回もミスリル製の調理器具が手に入ったぞ」


「何かな~? 七輪とか~?」


「レンジに一票」


『フライ返しじゃない?』


「なんとミスリルホットサンドメーカーでした」


「ホットサンド! 食べた~い!」


『ハンバーガーも良いけどホットサンドも良いよね!』


「今朝のニュース番組で特集やってたもんね」


 藍大から答えを聞いた途端、舞とリルが嬉しそうに反応したことに対してサクラは今朝のニュース番組の特集でホットサンドメーカーが取り上げられたことを思い出した。


「そうだったな。夕食にホットサンドじゃ足りないだろうから明日の朝でも良いか?」


「勿論!」


「異議なし」


『明日の朝ご飯も楽しみだね!』


 舞達は夕食がホットサンドではないことに何も文句を言わなかった。


 何故なら、逢魔家が大家族だからである。


 ホットサンドメーカーでは1回に焼けるホットサンドの数に限りがある。


 それは舞達も承知しているので、夕食をホットサンドにすると何回ホットサンドを焼かねばならないか考えて藍大の意見に賛同したのだ。


 朝からがっつり食べる者は限られているため、朝食ならばホットサンドを焼く藍大の負担も少なくて済む。


 特に舞やリルは食欲に忠実だけれども、過度に藍大の負担を増やしてまで我儘を言うことはない。


 藍大達はいつまでも海上にいても仕方ないので、氷漬けにしたバエルを収納リュックにしまって帰宅した。


「お帰りなのじゃ」


「ただいま~! 伊邪那美様、藍大がミスリルホットサンドメーカーを手に入れたよ!」


「舞よ、嬉しいのはわかるんじゃがまずは”大災厄”を倒したかどうか教えてほしかったのじゃ」


『伊邪那美様だってご主人のご飯をいつも楽しみにしてるのに・・・』


「それは勿論じゃ。まあ、ホットサンドメーカーが手に入ったのなら”大災厄”を無事に倒せたということだろうし良しとするかの」


 ”大災厄”との戦いの結果を気にしていた割にはあっさりと舞とリルに乗せられる伊邪那美がいたのを見て、藍大とサクラがやれやれと首を振ったのは言うまでもない。 

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