第441話 リルは犬じゃない! フェンリルだ!

 3月15日の水曜日の午後、藍大はリルとゲン、仲良しトリオと一緒にシャングリラダンジョン地下13階に来た。


 地下13階は昨晩ブラドが増築完了の案内を出したため、藍大達が早速探索することにしたのだ。


 仲良しトリオがダンジョン探索に行きたいと手を挙げたので、舞とサクラが代わりに日向達の面倒を見るために留守番を引き受けている。


「黄色なのよっ」


「チーズの匂いがするです!」


『キタ──ヽ(≧▽≦)ノ─────!!!!』


 仲良しトリオは地下13階の黄色に溢れた階層でチーズの匂いを嗅ぎ取ってはしゃいでいた。


 だがちょっと待ってほしい。


 食いしん坊ズのリルが慎重になっているのだから落ち着かねばなるまい。


「リル、何かわかったのか?」


『ご主人、あっちの川からチーズの匂いがする』


「・・・チーズって川にあるものだっけ?」


『美味しければなんでもありだよ』


「それもそうだな」


 美味しいは正義であり、それに対する異論は認められない。


 リルの案内で藍大達は黄色い川の前に移動した。


「リル、これが全部チーズなのか?」


『違うよ。川の中に潜んでるモンスターからチーズの匂いがするんだよ。ちょっと待っててね』


 リルはそう言って川に向かって<蒼雷罰パニッシュメント>を放つ。


 蒼い雷が川に触れた直後、バチバチッと激しい音がしてすぐに川の水面のあちこちに大きくて黄色い魚が浮かび上がった。


「鮭じゃん! どこにチーズがあるんだ?」


『ご主人、回収するから収納の準備して』


「わかった」


 リルが<仙術ウィザードリィ>で浮かび上がった魚のモンスターを次々に収納リュックに突っ込んでいく。


 その間に藍大がモンスター図鑑で調べてみたところ、トロリサーモンという種類のモンスターだった。


 鱗と卵がチーズになっており、チーズを取り除かずにそのまま串焼きにするだけでも十分美味しそうだというのが藍大がトロリサーモンを知った感想である。


 このトロリサーモンだが、藍大がブラドにチーズになるモンスターをリクエストした結果なのだ。


 今日までなんだかんだでチーズだけはシャングリラダンジョンで手に入る食材ではなかったから、藍大はチーズが欲しいとお願いした。


 これには舞やリル達も一緒になってお願いしている。


 何故なら、藍大の作るチーズinハンバーグはチーズだけが市販のものだからだ。


 肉は超一流でもチーズが一般品では釣り合わないと訴えられれば、同じく食いしん坊ズの一員であるブラドも反対するはずがない。


 それゆえ、地下13階にはチーズが手に入るモンスターの中でも最高品質のトロリサーモンが配置された訳だ。


「早速リルが大活躍だな」


「クゥ~ン♪」


 トロリサーモンを効率的に狩ったリルを甘やかした後、藍大達は新たなモンスターを求めて先へと進んで行く。


 この階層では水も植物も石も全て黄色だから、それらを見分けるのが難しい。


 そうだとしても、リルがいれば道に迷うことはないから慎重に進んでいる。


『ご主人、前方から何か来る』


「私も熱源を感知したのよっ」


 リルとゴルゴンが敵の接近を察知して藍大に知らせる。


 藍大が敵の接近に警戒していると、確かに藍大達の前に敵が現れた。


 その敵は一見ユニコーンでも角の根本が玉葱になっている。


「オニコーンLv100。角の根本の玉葱が剥けた分だけ狂暴になるから要注意だ」


「動きを封じるです!」


 メロがオニコーンに動き出される前に<停怠円陣スタグサークル>でその動きを止めた。


『(=゚ω゚)ノ ---===≡≡≡ 卍 シュッ!』


 ゼルは<創氷武器アイスウエポン>で巨大な手裏剣を創り出して発射し、オニコーンの角を根元から落としてみせた。


「ドーンなのよっ」


 とどめはゴルゴンが<爆轟眼デトネアイ>できっちり決めてオニコーンはピクリとも動かなくなった。


「見事な連携だったぞ。流石だな」


「フフン。当然なんだからねっ」


「エヘヘです♪」


『(≧∇≦)』


 藍大は仲良しトリオを労ってからオニコーンを回収した。


 (角や骨、血や臓器は薬で玉葱と肉は食材ってオニコーンに捨てる所がないな)


 オニコーンが素材として美味しいモンスターだと理解した後、藍大達は探索を再開した。


 通路は時々落とし穴や見えない壁があったりと罠方面で厄介なところはあったものの、リルが進むべき道を示してくれたおかげで足踏みすることなく進んで行ける。


 途中でオニコーンが襲って来ても仲良しトリオが連係プレイで仕留め、藍大達は広間に辿り着いた。


 当然のことながら、この広間も藍大達を除いて黄色以外の何色も存在しない。


 そんな広間でネグリジェ姿の美女が宙に浮いていた。


 地下13階で舞以外の人間に出会うはずがないため、藍大はすぐにモンスター図鑑を視界に映し出してそのステータスを調べた。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:リャナンシー

性別:雌 Lv:100

-----------------------------------------

HP:3,000/3,000

MP:3,500/3,500

STR:3,000

VIT:3,000

DEX:4,500

AGI:2,500

INT:3,500

LUK:4,000

-----------------------------------------

称号:掃除屋

   到達者

アビリティ:<体力吸収エナジードレイン><魔力吸収マナドレイン><睡眠吐息スリープブレス

      <魅了半球チャームドーム><記憶透視メモリーサイト><形状変化シェイプシフト

      <契約コントラクト><全半減ディバインオール

装備:なし

備考:なし

-----------------------------------------



 (こいつが外に出たら”大災厄”になってもおかしくないな)


 藍大はリャナンシーのステータスを確認してそう思った。


 能力値が高いのは勿論のことだが、保有しているアビリティが搦め手に向いている。


 <魅了半球チャームドーム>はドーム内に閉じ込めて耐性がないものを魅了状態に陥らせる。


 <記憶透視メモリーサイト>は任意の対象が強く念じた記憶を読み取る効果がある。


 <契約コントラクト>は結んだ者が内容に違反するとペナルティが生じる。


 その他のアビリティについてもどれも強力なものだから、リャナンシーは決して侮れない相手と言えよう。


「あら、とても好みの殿方がいるわ。貴方の特別を私に教えて」


 そう言ったリャナンシーの目が光った瞬間、リルが藍大とリャナンシーの間に割って入る。


『ハンバーグ!』


 リャナンシーはミスを犯した。


 藍大の好きな相手を<記憶透視メモリーサイト>で読み取り、<形状変化シェイプシフト>でその姿に化けて隙を作る。


 そして、その瞬間に<魅了半球チャームドーム>に閉じ込めて自分の思うがままにしてやろうというのがリャナンシーの作戦だった。


 ところが、この場にはリャナンシーよりも素早く動けるリルがいた。


 しかも、リルは特別と言われて藍大の作ったハンバーグのことを思い浮かべていた。


 その結果、リャナンシーはリルの記憶を読み取ってすぐに<形状変化シェイプシフト>を発動し、ハンバーグの姿になってしまったのだ。


 (リルはマジで最高の従魔だ!)


 藍大はリルに感謝しつつ、このチャンスを逃さないように指示を出した。


「メロ、動きを止めろ! ゴルゴンとゼルは動きが止まった瞬間に攻撃!」


「任せるです!」


「はいなっ」


『(・ω・)ゞマカセロ☆』


 メロが<停怠円陣スタグサークル>を発動してリャナンシーの動きを止める。


 リャナンシーには<全半減ディバインオール>があるから対して効果時間は長くないため、ゴルゴンとゼルがそれぞれ<爆轟眼デトネアイ>と<暗黒支配ダークネスイズマイン>を発動する。


 ゼルはゴルゴンの攻撃の衝撃が拡散しないように暗黒のドームを創り出し、ドーム内に爆発を閉じ込めた。


 ドームを解除した時には黒焦げになったリャナンシーの姿があった。


 流石にすぐ反撃できないハンバーグの姿のままいるのは愚策だと気づいたのだろう。


「おのれぇぇぇぇぇ! 犬っころがぁぁぁぁぁ!」


 リャナンシーは自分に攻撃したゴルゴンよりもリルに対してキレていた。


 リルがハンバーグなんて思い浮かべてなければこんなことにはならなかったと思ったのだろう。


「リルは犬じゃない! フェンリルだ!」


 怒りに我を忘れて突撃するリャナンシーに対し、キレた藍大がゲンの力を借りて<強制眼フォースアイ>を発動した。


 リャナンシーは怒りによって視野が狭まっており、藍大の攻撃に反応するのが遅れて地面に全力で叩きつけられた。


 仲良しトリオの攻撃で残りHPもあと僅かだったらしく、地面に叩きつけられたリャナンシーは力尽きて動かなくなった。


 リャナンシーが動かなくなったのを確認すると、リルが藍大にダイブした。


『ご主人、ありがと~!』


「よしよし。リルは立派なフェンリルだぞ」


「クゥ~ン♪」


「狡いのよっ。アタシ達も頑張ったんだからねっ」


「そうです! 私達も甘える権利があるです!」


『ε=┏(*`>ω<)┛』


 この後、しばらく家族サービスの時間になったのは言うまでもない。

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