第439話 吾輩を誰だと思ってるのだ? ブラドさんだぞ?

 町田ダンジョン6階の中ボスがライカンスロープに決まった後、真奈は藍大達に7階について話し始めた。


「7階はモフモフオンリーにしたいと思います」


「モフラーなのにモフモフオンリーでも大丈夫なんですか? 倒すのに抵抗感ありません?」


「問題ありませんよ。従魔士や調教士でもない限り、モフモフをテイムできないので倒さないといけないのは他のモンスターと変わりませんから」


「おぉ、意外とドライな考え方なんですね」


「テイマー系の職業技能ジョブスキルもなくモフモフをテイムしようとした人達がどれだけ犠牲になったかご存じでしょう? モフモフスレには彼等の勇気ある行動が動画として掲載されてます。テイムできない以上倒さなくてはならないのです」


 (モフラー達にも現実は見えてたのか)


 藍大は真奈の発言からモフラー達が盲目的にモフモフと向かい合っている訳ではないのだと知った。


「そうでしたか。それで、真奈さんは7階にどんなモフモフを配置しようと考えてるんですか?」


雑魚モブモンスターはサンダーシープとカウンターボア、フロストグリズリーの3種で考えてます」


「サンダーシープだけ他2種類より弱くないですか?」


「やっぱりそう思います?」


「はい。カウンターボアとフロストグリズリーに並ぶ強さではないと思います」


 真奈はやはり藍大に指摘されたかと腕を組んで唸った。


 サンダーシープは常に帯電している黄色い羊でその素材は雷耐性の付加された装備に使われている。


 カウンターボアはVITが特に高くて物理攻撃も魔法系攻撃も一定の値までならば反射できる。


 倒し方は反射できないぐらいのオーバーキルでHPを削るのがセオリーだ。


 フロストグリズリーは体が霜で覆われた熊の見た目のモンスターだ。


 近づくだけで寒さによるデバフをかけられるため、遠距離から攻撃して仕留める方法がよく使われている。


 以上3種類のモンスターの格付けを式で表すならば、フロストグリズリー≧カウンターボア>サンダーシープである。


 サンダーシープの枠はもう少し強いモンスターにしないと釣り合わないというのが藍大の考えだ。


 真奈も概ね藍大と同じ考えらしく、代わりのモンスターをどうしたものかと悩んでいる。


「逢魔さんならサンダーシープの代わりに何を配置しますか?」


「コピーエイプとかどうです?」


「コピーエイプですか。6階のライカンスロープを倒せるのならそれぐらいが妥当ですかね。チェンジします」


 コピーエイプとは<模倣コピー>を会得したオールマイティーな猿型モンスターだ。


 近接戦闘も遠距離戦闘もできるから、戦う敵によって間合いを変えてしまうのがやりづらいと言える。


 サンダーシープはコピーエイプとチェンジすることが決定した。


雑魚モブモンスターは以上ですか?」


「その通りです。では、次は”掃除屋”についてお話しします。”掃除屋”はバーゲストを想定してますがどうでしょうか?」


「良いんじゃないでしょうか。先程の雑魚モブモンスター3種よりも強いですし」


 真奈が口にしたバーゲストとは熊みたいに大きな黒い犬のモンスターだ。


 強い個体だと昔のサクラのように<不幸招来バッドラック>等のLUKに関わるアビリティも使えるため、油断していると足元を掬われかねない相手である。


「良かったです。残るフロアボスはマフートにしようと思います」


「マフート? すみません、知らないモンスターですね。教えてもらえませんか?」


「勿論です。端的に言えば蛇のような首をした豹の見た目のモンスターですよ」


「蛇のような首ってクネクネしてるんですかね?」


「その通りです。アフリカでは発見された個体の討伐はかなり苦戦を強いられたそうですよ。まあ、二次覚醒者が数名だったから仕方ありませんけど」


 藍大はこれまででかなりモンスターに詳しくなったけれど、流石にアフリカでしか見かけられたことのないマフートまで把握していなかった。


「そうでしたか。ブラドはマフートってモンスターを知ってるか?」


「吾輩を誰だと思ってるのだ? ブラドさんだぞ?」


「・・・逢魔さん、やっぱりブラドさんモフっても良いですか? ドヤ顔可愛いです」


「断るのである! 主君からもなんとか言ってほしいのだ!」


「真奈さん、私の従魔が嫌がることは許しません」


「は~い。我慢します」


 得意気なブラドを見て真奈は再び彼をモフりたい衝動に駆られたが、下手なことをすればシャングリラを出禁にされてしまうのでおとなしくした。


「ブラド、マフートは町田ダンジョンの7階のフロアボスとしてどうだ?」


「それだけが正解ではないと思うが、吾輩としてはマフートでも悪くないと感じるぞ」


「そうか。真奈さん、そのチョイスでも良いらしいです」


「ありがとうございます」


 ”アークダンジョンマスター”のブラドからOKと言われて真奈はホッとしたようだった。


 出現させるモンスターの選定は道場ダンジョンと多摩センターダンジョンに被らないようにしていたが、もしも”掃除屋”とフロアボスを変えてくれと言われたら今以上に良い候補がパッと浮かばなかったからである。


 真奈はモンスターの配置に関する相談が済んだので、次に相談したい内容について口にし始めた。


「もう一つ相談したいのは宝箱についてです。数はフロアに何個が良いのか、どこに隠せば良いのか意見をいただけないでしょうか」


 藍大はこの質問が自分向けではなくブラド向けだと判断し、ブラドに視線を向けた。


「そんなもの吾輩が知りたいのである」


 ブラドはきっぱりとわからない旨を伝えた。


 ブラドがこのように答えるのも無理もない。


 何故なら、探し物のプロであるリルがどこに隠しても探し出すので宝箱の配置場所についてブラドはすっかり自信を無くしているからだ。


「シャングリラダンジョンではリルが全部見つけ出しちゃったもんな」


『ワッフン♪』


「よしよし。愛い奴め」


 リルが胸を張って褒めてほしそうに見上げるものだから、藍大はそのリクエストに応じてリルの顎の下を撫でた。


 真奈もリルを撫でてみたい気持ちはあったがグッと堪えてガルフをモフった。


 藍大は逆に真奈の意見を知りたくて訊ねてみた。


「真奈さんはどこにどれだけ配置すれば良いと思ってますか?」


「配置数はフロアの広さによって変わりますが、町田ダンジョンなら1フロア1つが適当だと考えてます。配置する場所は地中に埋めるか木の洞に入れるかですかね」


「ふむ。配置数はそれで構わんがリルならあっさり見つけそうな位置であるな」


『僕に探せない宝箱はないもんね』


「ぐぬぬ」


 リルがドヤ顔で言うとブラドは悔しそうにする。


 毎回考えに考えて仕掛けてはあっさりとリルに見つけられてしまうのだから、ブラドが悔しがるのは当然だろう。


 リルとブラドのやり取りを見て真奈は気になったことがあってリルに訊ねた。


「リル君が見つけた宝の中で一番嬉しかったのは何かな?」


『宝じゃないけど出会えて一番嬉しかったのはご主人だよ』


「・・・今日の夕食は期待しとけ」


「クゥ~ン♪」


 藍大はリルに嬉しいことを言われたから今日の夕食を豪華にすると宣言してリルを撫でた。


 リルはとても嬉しそうに鳴いて藍大に甘えている。


 藍大とリルの美しい主従関係を目の当たりにして真奈はガルフに訊ねた。


「ガルフ、私と出会えて良かった?」


「・・・アォン」


 表情だけではわかりにくいガルフの言葉をリルが通訳する。


『変な踊りでテイムされたり過度なスキンシップはあるけど、自分達のことを大切にしてくれてるのはわかるから悪くないってさ』


「ガルフってば素直じゃないんから」


「アォン!?」


 真奈に抱き着かれると、ガルフは余計なことを言うんじゃなかったと言いたげな表情でモフられた。


「宝箱に同志達のための転職の丸薬(調教士)だけを仕込めれば言うことなしなんですがね」


 (モフラー調教士が量産されたら確かにそれは聖地だわ)


 真奈のとんでもない希望を聞いて藍大は心の中で苦笑した。


 リル達はプルプルと震えて藍大に身を寄せている。


 藍大はリル達を順番に撫でて落ち着かせながら真奈の発言に応じる。


「宝箱の中身は開ける人のLUK依存ですから単一のアイテムだけ仕込むとかは流石にできませんよ」


 嘘である。


 サクラにかかれば1種類のアイテムをどの宝箱からも引き当てることができる。


 しかし、そんなことを言えばモフラー調教士量産計画の片棒を担がなければならなくなるので藍大が決して口にすることはない。


 今日の相談事項が消化されたため、町田をモフラーの聖地化させる話し合いはひとまずここまでとなった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る