第429話 ここは駆け込み寺じゃないんだぞ?

 日本の報告の後、それ以外の国の報告も順番に行われた。


 9ヶ国の現状報告が終わった所で昼休憩の時間になった。


 司とパンドラは藍大からアドバイスを受けた通り、休憩になった途端に茂の仕事部屋へと駆け込んだ。


 自分達を通じて藍大に交渉しようとする各国の代表者を避けるためである。


「ここは駆け込み寺じゃないんだぞ?」


「藍大から芹江さんの部屋を避難所にして良いって言われました」


「くっ、千春が藍大の世話になってるから何も言い返せねえ」


 茂は国際会議が開かれる2日間だけ妊婦の千春をシャングリラに預けている。


 この措置は前回の国際会議でダンタリオンに乗っ取られたC国DMUが工作員を日本で暴れさせたことが原因だ。


 茂自体は国際会議に参加しないが、それでもビジネスコーディネーション部長として国際会議の運営に携わっているから今日は家に帰れない。


 その間に藍大と交友のある自分の妻である千春が狙われないとも限らないから、藍大に千春の身の安全を守ってほしいと頼んだのだ。


 だからこそ、司とパンドラが自分の仕事部屋に逃げ込んで来たのを追い払うことなんてできなかった。


「司、はいこれ。お弁当だよ」


「パンドラ、ありがとう」


 パンドラが<保管庫ストレージ>から奈美の手作り弁当を取り出したので、司は待ってましたと頬が緩んだ。


 茂も千春がシャングリラに行く前に作ってくれた弁当を取り出し、司と一緒に昼食を取ることにした。


「広瀬、今回の参加国で日本の次に順調な国は何処だった?」


「CN国が頑張ってると思いますよ。パンドラはどう思う?」


「同感だね。プリンスモッフルが獣型モンスター”ダンジョンマスター”をテイムしたのが大きいと思う」


「確かに。テイマー系冒険者がダンジョンを統治できる国はモンスター素材の調達が安定するもんね」


「うん。その代表例が日本だよ」


 CN国ではシンシアの弟であるリーアムがダンジョンを1つ支配していた。


 それもあってCN国の冒険者の装備等が充実し、A国にフルカスを押し返すことができたようだ。


「なるほど。事前に連携された資料を斜め読みしたけど、やっぱりCN国が日本の次に来たか。その次はどうだ?」


「CN国の次はA国とE国、I国が同じくらいですかね」


 A国はCN国に押し付けたフルカスが戻って来て少なくない被害が出ているものの、南北戦争で実戦経験を積んだ者達が活躍してフルカス以外のモンスターをダンジョンの中から出していない。


 E国は一時期大変なことになってCN国に力を借りていたが、今ではエルセデス兄妹が中心となってスタンピードを鎮圧したことで着々と復興している。


 I国ではソフィアが施療士として国民を癒しているため、彼女が希望としてあり続ける以上それ以外の冒険者がくじけることはなく、スタンピードで現れたモンスターの残党狩りもどうにか完了した。


 ”大災厄”となるモンスターの出現はギリギリ防げたようで、I国は先進国の中では被害がマシな部類だろう。


「A国がE国とI国と並ぶか。E国とI国がA国に並ぶレベルに頑張ってると言えば良いんだろうか」


「それで良いと思いますよ。A国が南北戦争で冒険者達の実戦経験を積んだ半面、国内のダンジョン探索や間引きが遅れてスタンピードが発生しました。もたついてるA国を尻目にE国とI国が国内のスタンピード解決とダンジョン探索に集中した印象を受けました」


「E国のDMU本部長は日本に媚びまくってたね。I国もだけど」


「志保さん媚びて来られても態度が全く変わらなかったよね。流石だよ」


「その様子が目に浮かぶなぁ。その他の国はどうだった?」


 茂は志保ならばそうするだろうと容易に想像できたらしく苦笑し、残る4か国についても司に訊ねた。


「マシな度合いで言うとC国>D国=F国>R国の順番だと思います」


「C国は非人道的な面があったし、R国は本当に無様だった」


 C国は国民の数が多い分、戦えない一般人が被害に遭ってガミジンを”大災厄”に至らしめた。


 あれこれ危ない薬を使っているC国のやり方が報告の中でも所々に見えており、質疑応答の時間がヒートアップしたのは言うまでもない。


 D国は”大災厄”のアムドゥスキアスと交戦中であり、優勢ではあるものの勝負を決めきれずにアムドゥスキアスが逃げながら暴れている。


 F国も”大災厄”のアガレスが出現して交戦中であり、D国と同様に優勢ではあるが決め手に欠けるようで戦いが長引いている。


 R国は大国なのに今日集まった9ヶ国の中では一番酷い状況にあった。


 何故なら、ラウムを日本に押し付けたことで政府とDMU本部に隕石が落下しただけでなく、ラウムに有用なアイテムを根こそぎ盗まれていたからだ。


 もっとも、R国の発表ではラウムに盗まれたとは言わずに隕石の落下による破壊と説明していたが、R国以外はラウムに盗まれたのだろうと察していた。


「C国の発表が荒れるのは納得した。R国は見栄を張ってるけど実情がわかってるから滑稽だな」


「そうですね。ラウムのアイテムは今藍大が持ってますし。芹江さんも藍大から聞いてるんでしたよね?」


「勿論だ。ビジネスコーディネーション部長としてじゃなくて、鑑定士としてとても興味のそそられるラインナップだった。ところで、広瀬の二つ名は変わりそうか?」


「うっ・・・」


「司はA国のミスタってチャラそうな金髪に今夜の懇親会で踊ろうってナンパされてた」


 茂が話題を変えたら司が返答に詰まったのでパンドラが代わりに答えた。


「ミスタ=マーティンか。パトリック本部長とは逆に後衛の魔術士だったな」


「こんなに可愛らしい見た目で男のはずがないって言ってA国のDMU本部長の肩に担がれてたよ」


「広瀬、なんというか、悪かった。話題ミスったわ」


 パンドラによる報告を受けて茂は司に頭を下げた。


 司がDMUの探索班に所属していた頃から女性と勘違いされることは多かったが、外国人から見ても女性と思われる司に同情したからである。


「芹江さん酷いです。こうなったら奈美経由で知った千春さんに甘える芹江さんについて話しましょう」


「それとこれは話が違うよな!? というか千春ぅ! 何やってくれちゃってんだよ!」


 千春が舞やサクラだけでなく奈美にまで惚気ていると知って茂は顔が真っ赤になった。


 予想していなかった二次被害精神攻撃と言っても良いだろう。


「どれが良いですか? 膝枕して耳かきする時の話とかアロママッサージする時の話とかいっぱいありますよ」


「司、もう止めてあげなよ。茂のライフはとっくに0だよ」


「パンドラ・・・」


 若干Sっ気が表に出て来た司に対し、茂はパンドラを天使のように思った。


「パンドラ、僕だって少しぐらいやり返しても良いと思うんだけど」


「やり返すにしても一撃の威力が強過ぎだよ。茂の胃がやられたら奈美の仕事が増えるよ?」


「それは良くないね。うん、もう止めるよ」


 茂の胃薬は奈美が作っているから、これ以上茂の胃を攻撃してしまうと奈美の仕事が増えることになる。


 奈美の仕事が増えれば司が奈美と一緒に過ごせる時間が減るため、司はこれ以上仕返しするのを止めた。


 流石はパンドラである。


 止め方がとてもスマートだ。


 そんな時、茂のスマホに通知が来た。


「ん? 千春から? おいおい、めっちゃ楽しそうじゃねえか」


「芹江さん、どうしたの?」


「これ見て見ろよ。俺達が国際会議で苦しんでるのに千春達は料理を楽しんでる」


 茂が見せたスマホの画面には千春が藍大達と料理を作って食べるまでの過程の写真が表示されていた。


「まあ、千春さんだって藍大の所にいれば料理したくなりますよ。逆にそれ以外何やるんですか?」


「そう言われればそうか。だが、悔しいな。俺も千春と藍大のコラボ料理を食べたかった」


 茂が本当に悔しそうに言うと司も確かにそうだと頷いた。


「そうですね。国際会議が無事に終わったら藍大に頼んでみましょう。僕達にはこの写真の料理をリクエストできるだけの働きはしてるはずです」


「間違いない。よし、今日の午後と明日も頑張るぞ。つっても俺は裏方で広瀬とパンドラが会議に出るんだが」


「頑張って強そうな二つ名を勝ち取りに行きます」


 司達は昼休憩を終えて大会議室へと戻った。


 大会議室に戻った司達に対し、志保が一緒にご飯を食べたかったとジト目を向けたりしたがそれは置いておこう。

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