第416話 ありがと! パパだいすき!
クリスマスの朝、藍大は起きてすぐに向かったリビングでぐったりしているリルと生き生きした表情のリュカを見つけた。
「リル、リュカ、おはよう」
『おはよ~』
「おはよう!」
「昨晩は仲良く過ごせたか?」
『うん』
「勿論!」
昨晩はリルが自分同様に頑張ったのだろうと悟り、藍大はリルを手招きした。
リルは藍大に呼ばれてスタスタと近寄る。
「頑張ったな」
『ありがとう、ご主人。ご主人も頑張ったんだよね?』
「そりゃまあ」
『お疲れ様』
「リルもな」
藍大とリルは今まで以上にわかり合えた気がした。
それから、舞達が徐々に起き始めて子供達を連れてリビングにやって来た。
優月達はみんなプレゼントを貰ってご機嫌らしい。
「パパ、ブロックだよ! サンタさんがくれたの!」
「パパ、サンタさん、リュックくれた!」
「よしよし。優月も蘭も良い子だったからサンタさんがプレゼントをくれたんだよ」
「「わ~い!」」
実際のところ、シャングリラの結界がある限り
枕元にプレゼントを置くクリスマスイベントも優月達がそれに気づいたら終わりだ。
サンタは絶対に不可侵な結界をどうやって通過できたのかと訊かれれば、いくら藍大とて最初は誤魔化せてもいずれ誤魔化せなくなるだろう。
その日が来るのはまだ先だろうと思いつつ、藍大は盛り上がっている優月と蘭の頭を撫でてから蘭に改めて声をかけた。
「蘭、1歳の誕生日おめでとう」
「おめでと!」
「ありがと!」
藍大が蘭を祝えば優月も兄として蘭を祝わなければとそれに続いた。
優月もちゃんとお兄ちゃんしているようだ。
「蘭にはサンタさんとは別にパパがプレゼントを用意したからな」
「やった~!」
藍大が蘭のために用意したのは蘭が視たテレビドラマで子役が着ていた可愛い洋服だった。
勿論、子役が着た本物ではなくレプリカである。
ただし、レプリカと言ってもシャングリラダンジョンにいるシルクモスの糸で作った服だから、本物よりもずっと質の良い物だ。
その服は”迷宮の狩り人”の裁縫士である梶詩織に素材を持ち込んで作成を依頼し、詩織もシルクモスの糸を使えるのならと喜んで作成した逸品である。
「蘭、朝ご飯食べたらお着換えしようね」
「うん!」
サクラに言われて蘭はニパッと笑った。
蘭の頭を撫でた後、藍大は日向達が昨日プレゼントしたベビー服を着ていることに触れた。
「日向と大地、零は朝からお洒落さんだな」
「「「あい!」」」
日向達は藍大に褒められたことがわかっており、とても得意気に応じた。
「愛い奴等め」
「藍大、お腹空いた~」
『ご主人、お腹空いたよ~』
「主君、そろそろ腹が空いたのである」
『パパ~、お腹空いたの~』
「はいはい。今作るからちょっと待っててくれ」
食いしん坊ズに急かされて藍大は急いで朝食を作った。
朝食を取ってから蘭の洋服のお披露目が行われた。
「蘭、よく似合ってるぞ」
「ありがと! パパだいすき!」
「おう。パパも蘭のことが大好きだ」
蘭が父親として言われて嬉しい一言を言うものだから、藍大も優しく微笑みながら蘭の頭を撫でた。
それを見て蘭を抱っこしているサクラが藍大の顔をじっと見る。
「パパ、私のことは?」
「サクラのことも大好きに決まってるだろ?」
「・・・今晩も寝かさない」
「今日は寝させて下さい」
藍大が思わず丁寧に頼むぐらいには昨晩は大変だったので、サクラがニコニコしながらどうしようかなと言うと藍大は今日は勘弁してほしいとお願いした。
そこにユノに付き添われた優月がやって来て、藍大の服を引っ張った。
「優月? どうした?」
「パパ、ブロックであそぼ!」
「よし。遊ぶか」
「うん!」
優月が貰ったブロックで遊びたいと言い出したため、藍大はそれに付き合うことにした。
クリスマスの今日はダンジョンに行くつもりはなく、家族サービスの日にするつもりだから緊急事態が発生して応援要請が出ない限り藍大が冒険者として働くことはない。
ちなみに、藍大が今日は1日ずっと家族と一緒に過ごすと宣言しているからサクラがこっそり<
藍大が座ると優月を膝に乗せ、ユノもその隣に座る。
優月がブロックで遊ぶのを見たいのかブラドも藍大の隣にやって来た。
藍大がお父サンタとして優月にあげたブロックは幼児がうっかり口に入れられない大きいサイズのものだ。
優月は賢く藍大の料理が好きだから、うっかりブロックを口の中に入れるなんてことはしないが念には念を入れて藍大が大きめのサイズの物をプレゼントした。
このブロックだが、土曜日のシャングリラダンジョン地下1階で現れるハニワンの土をDMUの職人班が特殊な処理をしてブロックにしたものだ。
職人班はレア素材を扱えるならば玩具だってノリノリで作る。
「優月、ブロックで何作りたい?」
「ユノ!」
「キュル?」
「ユノよ、今のはユノを呼んだのではないぞ。優月はブロックでユノを作りたいと言ったのだ」
「キュルン?」
ユノはブラドの説明を聞いてそんなことができるのかと言いたげに首を傾げた。
「任せろ。その辺は抜かりなしだ。事前にユノの設計図は準備してる」
「主君、そんな物まで用意してたのか」
「当然だろ。優月が最初に作りたいって言いそうなものをいくつか職人班に設計図も用意してもらった」
「準備万端であるな」
「子供との遊びも全力。それが俺のパパ
ブラドはパパ道ってなんだとツッコんだりしなかった。
むしろ、藍大が優月のためにそこまで準備したことに感心していた。
「パパ、ユノをつくろ?」
「そうだな。じゃあ、まずこれとこれをくっつけてごらん」
「うん!」
この後藍大は優月にどれとどれをくっつけるようにと指示を出した。
藍大が作って優月にそれをプレゼントするのも考えたけれど、優月のブロックを優月に遊ばせずに組み立ててしまうのは大人げないと思ったからである。
優月は藍大の指示通りにゆっくりとだが確実にブロックを組み立てていった。
組み立てていく内に徐々にどれがユノのどこを作っているのかわかって来たらしく、優月はブロックで遊ぶ楽しみを知った。
30分後、最後のブロックをカチッと押し込めばユノの完成である。
「優月、おめでとう! ブロックでユノができたぞ!」
「ユノだ~!」
「キュルン♪」
「見事なものだ」
藍大は優月がユノを完成させたことを祝って頭を撫でた。
優月は達成感から嬉しそうに笑い、ユノはお疲れ様と優月を労っている。
ブラドは優月が作ったブロックのユノの完成度が想像していたよりも高くて驚いた。
舞が抜き足差し足で藍大達の所に近づいて来た。
「舞、何やってんの?」
「私がうっかり壊さないように慎重に近付いてるんだよ~」
(確かに頑張って作ったユノを壊されたら優月が泣くよな)
舞の言い分を聞いて藍大は納得した。
舞は作るよりも壊す方が得意であり、舞には自分が
それを理解したから藍大は舞が抜き足差し足で近付くことにこれ以上ツッコむのを止めた。
「ママ、みて! これ、ユノ!」
「偉いね~。ユノちゃん上手にできてるよ~」
優月は舞に褒められて自信がついたようだ。
「ママもブロックしよ。ぼく、おしえてあげる」
「じゃあ教えてもらおうかな~」
「優月、完成したユノは壊さないように飾っとくぞ」
「うん」
作業中にうっかり壊してしまったなんてことは避けたいから、藍大は優月の許可を取ってからブロックのユノをテレビ台の空きスペースに飾った。
「これで良し」
「主君、この作品の警備は吾輩に任せて優月と遊んで来るのだ」
「ブラドは一緒に遊ばないのか?」
「吾輩ではブロックで遊べぬ。ならば、家族の誰かがうっかり優月の作った作品を壊すことのないように守るべきであろう」
ブラドがブロックで遊べない自分よりも藍大に優月と遊ぶべきと告げると、藍大は少し大袈裟ではないかと思ってもブラドの厚意に甘えることにした。
「パパ、つぎはリルをつくりたい」
「リルか。大丈夫だ。これも設計図を用意してあるから」
「ママ、いっしょにつくるよ」
「は~い」
それから30分後、優月と舞がブロックのリルを完成させた。
途中からその作業を見守っていたリルは大喜びだった。
『優月、舞もありがとう! 僕そっくりだね!』
その後、ゲンやフィアも作ってほしいとアピールするものだから優月は2体の分も喜んで作った。
藍大はクリスマスに家族との楽しいお家時間を満喫できた幸運に感謝した。
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