第417話 よく喋りますね。人参が欲しいのですか?

 12月27日の月曜日、京都府の舞鶴港に”ブルースカイ”のAチームが集まっていた。


 Aチームは4人で構成されており、クランマスターである青空瀬奈がパーティーリーダを兼任する。


 2人目はサブマスターの青空理人だ。


 ここまでは”ブルースカイ”でも特に露出度の高い2人だ。


 残る2人だが、3人目は岩尾剛士いわおたけしという無口で大柄な騎士である。


 口数が少なくとも盾役タンクとして絶妙なタイミングで防御する職人気質なタイプと言える。


 4人目は美食家こと速水秀だ。


 元々は調理士で冒険者のみ参加できる料理大会に出場したが、調理士ではない藍大に負けてリベンジを誓ったこの男は転職の丸薬(銃士)を手に入れてそれを飲んだ。


 調理士を辞めたのは藍大と同じ土俵に立つためだった。


 調理士であるというアドバンテージを自ら捨て、戦闘職の職業技能ジョブスキルを得てから藍大に勝負しようとするとは自分を追い込む時は徹底的である。


 木津芽衣の”ブルースカイ”強制脱退騒ぎでAチームからも1人欠員が出た際、調理士だった経験のおかげで手先が器用な秀は銃士としての実力をぐんぐん伸ばして空いた枠をもぎ取った。

 

 瀬奈が魔術士で理人が剣士、剛士が騎士、秀が銃士だからAチームは前衛2人後衛2人とバランスが良い。


 4人共覚醒の丸薬Ⅱ型を服用しており、三次覚醒で手に入れた力もしっかり扱えるので”ブルースカイ”ではBチームと大きく差を開けている。


「今回はこっちに来てしまいましたか。4人だけでどうにかなりますかね?」


「前回福岡に行ったからって今回もそうだとは限りませんよ。先程”グリーンバレー”に連絡を入れましたから、ヘリで来てくれればあと40分程度で到着するそうです」


「40分ですか。なんとか耐え凌ぎましょう」


「瀬奈にしては弱気じゃないですか。いつもなら麗華さんが来る前に倒すって言うと思うのですが」


「私もあれを見る前ならそう言ったでしょうね」


 瀬奈は理人がパーティー全員が絶望しないように敢えて軽口を叩いたことを理解している。


 だからこそ、理人の言葉に対して弱音を吐かずに現実的な目標を口にした。


 瀬奈があれと言ったのは舞鶴港から見える船のことだ。


 いや、正確には船に見えるゴーストシップというアンデッド型モンスターである。


 本体は負のエネルギー体だけれど、船に憑りついて自身の体にするアビリティを持っており、旧NK国で放置されていた船に憑依したようだ。


 ゴーストシップが旧NK国で船に憑依したと判断した理由だが、それはゴーストシップの甲板にガミジンの姿があるからだ。


 漁に出ていた漁師が青白い二足歩行の馬の姿を不気味な船に乗っているのを確認し、それをDMU解析班の鑑定士が鑑定した結果ガミジンとゴーストシップだった。


 さらに言えば、ガミジンの後ろにぼやけているが支配下にある死体やモンスターらしき姿も映っていたので大阪を本拠地とする”ブルースカイ”に最優先で連絡が入った。


 大急ぎで瀬奈達が舞鶴港に来る頃には、肉眼でゴーストシップとガミジン、その配下の者達が見えるぐらい近づいていた。


「瀬奈と秀で最初は攻撃ですか?」


「そうですね。その間、向こうからの攻撃は理人と剛士に任せます。私達を守って下さい」


「「了解」」


 瀬奈の指示に理人と剛士が頷いた。


「クラマス、敵が僕の射程圏に入りました。撃っても構いませんか?」


「撃ちなさい。どうにか完成を間に合わせたブルーバスターの力を見せる時です」


「お任せあれ。Fire!」


 秀は無駄に発音良く言いながら今日のような決戦用に準備したブルーバスターの引き金を引いた。


 ブルーバスターとはアダマンタイト製のバズーカのことだ。


 普通のバズーカとは違って”ダンジョンマスター”の魔石を搭載しているおかげでMPレーザーを発射できる。


 予め蓄えておいたMPを放出して装備者がMPチャージをせずとも強烈な一撃を撃てる特性を活かし、秀はゴーストシップの船体に穴を開けるつもりでMPレーザーを放った。


 その結果、MPレーザーが狙い通りにゴーストシップの船体を貫通した。


 ところが、ガミジンが両前脚を広げるように挙げた直後にガミジンの配下が光に包まれて消え、光がゴーストシップの穴の開いた部分を覆った。


 その光が次第にゴーストシップ全体を包み込み、光が収まるとゴーストシップが元通りの鉄甲船に戻った。


「あの攻撃を修復しますか。秀、次に撃つまでどれぐらいかかりますか?」


「クールタイムに10分は貰いたいです。敵の接近に備えてサブ武器も用意してますが、ブルーバスター程の威力は見込めません」


「わかりました。秀はクールタイムが明けるまで待機です」


「承知しました」


 秀に指示を出した後、瀬奈は三次覚醒で手に入れた力を新しい杖を使って発動した。


 瀬奈の新しい長杖はオファニムフレームと金の力に物を言わせて買ったドミニオンマトンの魔導書を素材にして作られている。


 オファニムロッドと名付けられたその長杖は、使用者のINTが1.25倍になって攻撃対象に一定確率でスタンが生じる逸品だ。


 瀬奈は岩の刃をガミジン達の上空に創り出し、それを全力で落下させてみせた。


 少なくないMPを込めて上空から落とせば、落下する力も上乗せされて小さな隕石のできあがりである。


 甲板に隕石と化した岩の刃を落としたところ、ガミジンが両前脚を広げることで配下だった光が落下する岩の刃を包み込んだ。


「配下を使えば原状回復だけでなく、こちらの攻撃の無効化までできますか。厄介ですね」


「敵がこっちに来ないと俺の攻撃が届きません。加勢したいのにできないとは困りました・・・」


「せめて私が甲板の上にいる配下の数を削りましょう」


 自身の攻撃を無効化されたショックから素早く立ち直り、瀬奈は次々に岩の刃をゴーストシップの上から落としていく。


 ガミジンは瀬奈の狙いに気づいてゴーストシップを港に向かって加速させつつ、配下を生贄にして瀬奈の攻撃をどんどん無効化した。


 その間に10分経過し、秀のブルーバスターのクールタイムが明けた。


「2発目行けます!」


「撃ちなさい」


「Fire!」


 瀬奈が岩の刃でガミジンの戦力を削った結果、ガミジンは秀の2発目のMPレーザーを無効化することもできなければ原状回復させることもできなかった。


 それでも、ゴーストシップが沈む前にガミジンは力強く甲板から瀬奈達のいる港へ向かって跳躍した。


「理人、着地を狙いなさい」


 瀬奈は手短に理人に対して指示を出すと、ガミジンを墜落させようと岩の刃を連射する。


「甘い」


 ガミジンがそう言った直後、ガミジンの前に沈没中のゴーストシップに乗っていたであろう死体が現れて肉壁となった。


「そこ!」


 理人が着地を狙って斬撃を飛ばすが、ガミジンは蜂の巣になった死体を前に蹴り出してその攻撃から自分を守って着地した。


 ガミジンは着地してすぐに鬱陶しそうに瀬奈達の方を向いた。


「人間風情がよくも俺様の邪魔をしてくれたな」


「よく喋りますね。人参が欲しいのですか?」


「貴様から殺して俺様の配下にしてやる!」


 ガミジンは瀬奈の口撃に我慢できなくなり、<深淵槍アビスランス>で瀬奈を攻撃する。


「通させん」


 今まで活躍の場がなかったが、ようやくここに来て活躍するチャンスになった剛士が光のドームを展開してガミジンの攻撃から瀬奈を守った。


 自身の攻撃が通らなかったことに苛立ち、ガミジンは額に血管を浮かべる。


「その不快なドームを消してくれる!」


 ガミジンが<深淵槍アビスランス>を連射した結果、剛士の展開した光のドームは罅がどんどん広がってやがて割れた。


「Fire!」


 ドームが割れてガミジンが油断した瞬間を狙い、秀がサブ武器の拳銃でガミジンを狙撃する。


「無駄だ」


 しかし、ガミジンの前に別の死体が現れて秀の狙撃からガミジンを守った。


「死体を使って攻撃の無効化と原状回復ができるだけでなく、死体を引き寄せることもできるのですね」


「それだけではないがな。俺様の本気を見せてやろう」


 ガミジンが不敵に笑った瞬間、大量の死体とスケルトン系統のモンスターがガミジンの周囲に現れた。


「戦力をまだ温存してたということですか」


「その通りだ。一体いつから甲板にいるだけが全てだと錯覚してた?」


「どうでしょうね。いずれにしても、汚物死体は消毒です」


 瀬奈はガミジンの手前にいる死体を燃やそうと火の球を放った。


「Fire!」


 秀もそれに続いて拳銃から弾丸を放つ。


「無駄だということがまだわからないのか?」


 ガミジンは近くにいる2体の死体を生贄にして瀬奈と秀の攻撃を無効化した。


 瀬奈は自分のMP残量が心配になって来たが、ガミジンは余裕そうに笑みを浮かべる。


 瀬奈達とガミジンとの戦闘はまだまだ続く。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る