第418話 強靭! 無敵! 最強!

 余裕ぶったガミジンに対し、秀は髪をファサッとしてから言い返す。


「無理かどうかは僕達が決めることです」


「そうか。ならば、その減らず口が叩けないようにしてやろう」


 その瞬間、ガミジンを取り巻く死体全てが光になってガミジンへと吸収された。


 吸収された死体の中には日本のアウトロー達のものもあった。


 死体を吸収したガミジンの体が倍近く大きくなり、身長が3m近くまで膨れ上がった。


 体が大きくなるだけに留まらず、青白かったはずのガミジンの体は赤銅色に変化した。


「巨大化ですか。面倒ですね」


「瀬奈、厄介なのはガミジンだけじゃないです。どこかで見たことがあると思いましたが、やっと思い出せましたよ。あのスケルトン系モンスターはコピースパルトイという分裂するモンスターです。日本では見つかってませんがC国で発見された珍しいアンデッドですよ」


「そこの優男、よく知ってるではないか。こいつ等は俺様が今日までコツコツと鍛えて来た配下のコピースパルトイ軍団だ。パワーアップした俺様とこいつ等の力を思い知るが良い」


 ニヤニヤと余裕の笑みを浮かべるガミジンのおかげで10分が経過し、秀のブルーバスターのクールタイムが明けた。


「クラマス、3発目行けます!」


「撃ちなさい」


「Fire!」


「無駄だと言っておろうが!」


 ガミジンがそう言った直後、コピースパルトイ軍団がガミジンの前で密集して肉壁ならぬ骨壁になった。


 MPレーザーの威力にコピースパルトイ軍団の耐久力が勝ち、骨壁は半分以上消し飛んでもガミジンは無傷だった。


「ざぁぁぁぁぁんねぇぇぇぇぇん! 俺様は無傷だぁぁぁぁぁ!」


「煩い馬面ですね。知性の欠片も感じません」


「ああ゛ん!? 俺様をまた侮辱しただと!? 野郎共、やっちまえ!」


 ガミジンは瀬奈に口で勝てないと判断したのか倒されずに残ったコピースパルトイ軍団に指示を出した。


 それらは密集形態を解除して一斉に瀬奈達に向かって突撃する。


 しかし、理人が1人だけ前方に駆け出して剣舞を放ってコピースパルトイ軍団をバッサバッサと斬り捨てた。


「俺がいる限り瀬奈はやらせません」


「チッ、ひょろっちいくせに生意気だな。そんな剣で何故俺様の配下達を斬れた?」


 理人にコピースパルトイ軍団を一掃されてガミジンは不快感を表した。


 いかに優れた剣で攻撃されたとしても、コピースパルトイ軍団が斬られないように強化したつもりだったからだ。


「それはコピースパルトイ軍団が弱かっただけでしょう」


「ムカつく野郎だ! 女もムカつくが貴様も許せん! 風穴だらけにしてくれる!」


 ガミジンはターゲットを理人に変更して<深淵槍アビスランス>を連射する。


「やらせん」


 剛士が前に出て光のドームを展開してガミジンの攻撃を防ぐ。


 先程は破られてすぐに秀が反撃したからその後に続けなかったが、剛士は本来ドームが割れそうになったら新しいドームを展開して耐久するやり方を好む。


 そして、敵の攻撃が止んだ瞬間にドームを解除して味方が反撃するまでがワンセットである。


 舞なら雷光を付与したミョルニルで<深淵槍アビスランス>を打ち返すのだが、剛士はそこまで器用ではないのだ。


「俺は盾だ。盾は守りに徹する」


 剛士が時間稼ぎをしたことでガミジンのイライラはどんどん増していく。


「無策に引き籠って何がしたい!?」


「無策じゃないですよ」


「ん? なんぐわっ!?」


 瀬奈が反論した途端、ガミジンは接近する何かに気づいて振り向いた。


 その方角にはヘリコプターが来ており、<深淵槍アビスランス>で撃墜しようとした瞬間に下から火の球を受けてそれどころではなくなった。


 ガミジンがヘリコプターに気を取られた隙に剛士がドームを解除し、瀬奈が火の球をガミジンの顔に命中させたからだ。


 その隙にヘリコプターから”グリーンバレー”一軍4人が飛び降りる。


 もっとも、後衛の大輝と結衣は飛び降りるにはやや高かったのでそれぞれ麗華と楽に抱き締められながらの登場だが。


「ちょっと瀬奈! 今、私達のことを囮にしたでしょ!?」


「勝手にガミジンが気付いただけです。ヘリの音は煩いですから」


「完全に私達狙って攻撃しようとしてたじゃないの!」


「ですから私がヘイトを稼ぎました。礼を言われることはあっても抗議されることはないはずですが」


 麗華が大輝を地面に降ろしてから瀬奈に抗議すると、瀬奈は麗華達への攻撃を防いだんだから文句を言うなと告げた。


 これには彼女達の手綱を握る夫2人が慌てて止めに入る。


「麗華、落ち着いて! 戦闘中に喧嘩しちゃ駄目だ!」


「瀬奈もです! 助けに来てくれた相手と喧嘩してどうするんですか!」


「だってこの女が喧嘩売ってるんだもの」


「この人が礼儀知らずだからです」


 夫達の仲裁に麗華と瀬奈が言い訳するが、そんな4人に対して火の球のダメージから立ち直ったガミジンがキレた。


「おい、貴様等! 俺様を無視して喧嘩とは良い度胸だな!」


 ガミジンは両手を組んで瀬奈達がいる場所に叩きつけようとした。


「守り切る」


 そう言って剛士が光のドームを三重に重ね掛けしたが、全てあっさりと破壊されてしまった。


「力勝負じゃ負けないわ!」


 麗華が剛士の作ってくれた数秒の猶予で気の弾丸を放ち、ガミジンの攻撃を自分達から逸らそうとする。


「くっ」


「俺達もいるんすよね!」


「喰らえ!」


 麗華の攻撃でガミジンの振り下ろす両腕の威力が落ちると、楽と結衣がそれぞれ全力で斬撃と岩の刃を放ってガミジンの両腕を弾き返した。


 ガミジンは後ろに仰け反っても仰向けに転ぶようなことはなかった。


「巨大化って厄介ね。なんでこんなことになってんのよ」


「ガミジンが操ってた死体を吸収してパワーアップしました」


「どんだけ吸収したらああなるのよ」


「ざっと30人分ですね」


「俺様を無視して話をするんじゃない!」


 麗華と瀬奈が情報を共有しているのが気に入らなかったらしく、ガミジンはまた<深淵槍アビスランス>を連射し始めた。


「やらせはしない!」


 剛士が光のドームを三重に展開してガミジンの攻撃を防ぐ。


 その間に大輝は透明な液体の入った瓶をバッグから取り出して理人と楽に話しかける。


「楽と理人君、これを剣に振りかけて斬撃を放てるかい?」


「やっさん、その液体は何?」


「リル君にお清めしてもらった飲猿殺しだよ。”迷宮の狩り人”の山上君が前にアンデッド型モンスターに効いたって教えてくれたから逢魔さんに注文したんだ」


「やってやりましょう」


「勿体ないとか言ってる場合じゃないですしね」


 楽と理人は頷き合ってそれぞれの剣に飲猿殺しをかける。


 逆転の一手になり得るならば、本来は飲んで楽しむべき酒を剣にかけることだって厭わないのだ。


 その作業が終わった時、剛士のMPがドームを何度も展開したことで足りなくなったせいで不発に終わった。


「無念」


「諦めて命を差し出せ」


 楽と理人はドームがなくなって嗜虐的な笑みを浮かべたガミジンに斬撃を放つ。


「うらぁ!」


「せいっ!」


「無ぐぁぁぁぁぁ!」


 ガミジンは2人の斬撃なんて容易く防げると過信して手の甲でそれらを弾こうとしたが、リルがお清めした飲猿殺しの効果で斬撃に触れた手の甲が燃え上がった。


 その痛みはガミジンがとても我慢できないものであり、ガミジンは地面に倒れてじたばたした。


「流石はリル君だね。晃君の話を参考にして良かった」


「呑気なこと言ってる場合じゃないわよ! 総員攻撃!」


 大輝の作戦が上手くいき過ぎて口をポカンと開けそうになったけれど、麗華は自分も含めて気を引き締めるために大きな声を出して反撃に出た。


 大輝と剛士以外の6人の攻撃を集中して受けたガミジンは一方的にダメージを負った。


 ところが、大量の死体を吸収したことでパワーアップした恩恵が残っていたためHPはまだ尽きていない。


「おのれ、こうなったら手段は選ばんぞ」


 ガミジンは地面に転がってじたばたしたことにより、理人によって倒されたコピースパルトイ軍団の死体を破壊していた。


 それによって露出した位置にある魔石を拾って食べ始め、ガミジンは更なるパワーアップを始めた。


「やらせないわよ!」


「来た来た来たぁぁぁぁぁ!」


 麗華が拳から気の弾丸を飛ばすが、体の色が赤銅色から黒く変わったガミジンがあっさりと弾いてしまった。


「嘘でしょ!?」


「強靭! 無敵! 最強!」


「まだ強くなるとは恐ろしいですね」


「そうだ! もっと恐怖に歪む貴様等の顔を俺様に見せてくれ!」


 秀が顔を引き攣らせたのを見てガミジンが嬉しそうに言う。


「ちょ~っと待ったぁぁぁぁぁ!」


 いきなり聞こえて来た声にその場にいた全員が振り返る。


 その声の主はテトラを纏ったマルオであり、その周囲にはローラとドーラ、ポーラ、メジェラがいた。

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